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四十七話 旧い知り合い

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「ま、まさか……そんな、まさか……」

「アッハッハッハッハッ! おい、亀! まさかもクソもねぇだろ! 俺の手にかかれば人もエルフも一瞬であの世行きだ! こうなることも当然だろうがよ!」

 ジャガールはジュデッカに腕を突き刺した体勢のまま、首だけ振り返ってそう笑っていた。

「まさか……」

「だから……ん? なんかおかしいな……」

 ジャガールは何か不審に思い、視線を戻した。すると、そこには貫かれたはずのジュデッカの姿は無かった。その光景にジャガールは驚いてしまう。

「な、なに? 俺は確かに小娘を殺したはず……あ、あれは!」

 ジャガールの視線のさき。そこに人影が見えた。見覚えのあるその姿にジャガールは激しく動揺してしまう。

「久しぶりだねぇ。ジャガール?」

「お、お前は! なんで生きてる!」

「フェ、フェイレイ! フェイレイじゃないか!」

「おうよ。メイザース。久しぶりだねぇ」

 喋る亀の名を呼び、ジュデッカを抱えていない方の手を挙げてフェイレイは軽く挨拶をしたのであった。

「久しぶり過ぎじゃよ。しっかし、変わらないのは驚きじゃわい」

「アハハハ! メイザースも変わってないよ。お互い様だよ」

 懐かしく冗談を言い合うフェイレイとメイザース。メイザースの近くにいたジャガールは驚いてメイザースにこう尋ねる。

「お、おい! なんでアイツがここに居るんだ!」

「それはワシが聞きたいわい。フェイレイがまさか生きてるとは……」

 感慨深げにメイザースは語り、今度はフェイレイに抱えられているジュデッカに対してこう声をかけた。

「ジュデッカよ。お主を助けてくれたそのドワーフはフェイレイ。ワシの古い二人の友人。そのうちの一人じゃよ」

「え、でも、お亡くなりになってたのでは? 兄弟子たちからもそう聞いて……」

「ワシが会っていた限りでは死んでなどおらん。この世を去っただけじゃ」

「だから、お亡くなりに……」

「この世を去って魔界に旅立っただけじゃよ」

 ジュデッカはメイザースの言葉に対して、理解が追いつかない様子を示した。

「…………は?」

「この世に居ても強さに限界がある、と魔界へ旅立っていったのじゃ。気が遠くなるほどの遠い昔の話じゃ」

 メイザースの言葉にジャガールはフェイレイとメイザースへ交互に視線を送った。

「マジかよ……正気の沙汰じゃねぇ」

「うむ。ワシもそう思う。それにドワーフの寿命を超越しておる」

「確かに……あの時ですらババァだったぞ?」

「そ、そこ……なに敵同士で仲良く話してるんですか……」

 ジュデッカはフェイレイに抱えられたままの体勢で、仲良く話している二人に呆れてしまった様子を見せる。

「は! そうじゃ! そもそもジャガールは敵じゃった! 喜べジャガール! お前が先程欲した相手があそこにおるぞ! お前に勝てる相手がな!」

「ハン! 冗談はよせ! アイツは俺にやられてるんだぞ!」

「試してみるかい?」

「いいのか? お前が俺に迫ってくる間に、俺はこの亀を殺せるぜ?」

 ジャガールがそう言ってメイザースをひょいと拾い上げた。すると、フェイレイは肩を竦めてこう答える。

「やっぱやめとくわ。オイラはお前とは戦えない」

「懸命だな。そもそもお前が俺に勝てるわけが無い」

「フェイレイ様! お師匠様を見捨てないでください!」

「はぁ……何勘違いしてるんだ二人とも」

 ジャガールとジュデッカの言葉を、フェイレイはため息混じりに否定してからこう続けた。

「人の飼い猫……じゃなかった飼い亀に手を上げたんだ。もう終わってるって話なだけだ」

「な、何を言って……」

 ジャガールがそ言いかけると同時に、ドサリ……と何かが落ちる音がした。不思議に思ったジャガールが音のした場所に視線を送ると、そこには自身の身体から離れた腕とメイザースが落ちていた。

「は? お、俺の腕が?」

 混乱するジャガールの背後よりしゃがれた声が聞こえてきた。

「久しぶりじゃな、メイザースよ」

「お、おお! 我が師、クロウリー様! お、おひさしぶりでございます!」

「お嬢ちゃん、オイラの後ろに下がってな。ちゃんと捕まってなよ?」

 クロウリーとメイザースの様子を見ていたフェイレイは、ジュデッカにそう告げて自分の背後に下ろした。

「は? は、はい!」

 ジュデッカがフェイレイにぎゅっと捕まるとほぼ同時だった。クロウリーがジャガールにそう告げたのは。

「さてと、儂のペットに手を上げようとした罪、きちんと償って貰おうか?」

「な、何を言ってぇ……ぇぇええっぇぇえっっぇっぇぇぇぇっぇぇ!」

 一瞬後、メイザースの姿がゆらりと掻き消える。そして風が吹き荒れ、その風はジャガールを中心に巨大な竜巻へと姿を変える。天まで届くほどの巨大な竜巻は天を覆った暗雲を、軽々と吸いこんで行ってしまっていた。
 その間、数十秒といったところであろうか。全ての暗雲が消え去り、晴々とした空が広がったると同時に、竜巻はまるでその役目を終えたかのように、すぅっと姿を消してしまった。その場に居たはずのジャガールと共に。

「な、なにこれ……」

「お、お師匠様……相変わらずやりすぎです……」

 呆然とするジュデッカとメイザース。そのメイザースの言葉に対してクロウリーは下をペロリと出してこう答えた。

「ス、スマン。かなり手加減したつもりだったのじゃが、久々の地上では、これでも強すぎたみたいじゃわい」
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