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四十六話 帰還

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 次の瞬間だった。アリスの視界に予想だにしない光景が広がったのは。

「え……どういうこと?」

 アリスはその光景に混乱してしまった。フランクリンに振り下ろされるはずの手刀はピタリと止まっていた。
 しかしそうではないことをアリスはすぐに気がついた。手刀が止まっていたのではない。振り下ろしていた男が凍りついて固まっていた。
 倒れ伏しているフランクリンは死んでる訳ではなく、ただ気を失っているだけのようだった。

「良かった。間に合ったね」

 その時、アリスの背後から聞こえるはずが無かった声が聞こえてきた。聞き覚えのある声に、アリスの頬に一筋の涙が垂れる。

「う、嘘……そんなはずは……」

 そしてゆっくりとアリスは振り向くと、そこには凍りついた女とファーガソンが立っていた。

「ファーガソン? な、なんで? どうしてここに居るの? なんで生きてるの? 本物なの?」

 地に倒れ伏したまま、アリスは疑問の言葉を述べる。それに対して、ファーガソンは少し冗談っぽく答えた。

「とりあえず足はあるから死んではいないよ。それに本物だよ。その証拠に……」

 そしてアリスの耳元でファーガソンは何かを囁いた。と、同時にアリスの顔が真っ赤に染る。

「ファーガソン!」

 勢いよく放たれたアリスの張り手がファーガソンの頬を叩いた。

「痛いよ。アリス」

 ファーガソンは苦笑いを浮かべながらそう言った。アリスはハッとした表情になって謝罪の言葉を述べる。

「ご、ごめん」

「ん……大丈夫。気にしないで」

「でも、処刑されたんじゃ無かったの?」

「うん。処刑されたよ。僕は、間違いなくね」

 自身の述べた疑問に答えたファーガソンの言葉に、よりアリスは混乱してしまった。

「ど、どういうこと? 処刑されたのになんで生きてるの?」

 ファーガソンは首をかしげて、何から話そうか考えている素振りを見せた。

「えっと……処刑って色々あるでしょ? グーブンドルデにおいて、一番重い処刑って知ってる?」

「ええ……それは勿論。他の国じゃそこまで重い処刑はやってない程重い処刑……」

「そうだね」

 アリスの言葉にファーガソンは同意を示した。

「魔界送りの刑よね? 二度と転生出来ないって書いてあったし……でも、魔界送りまでされて、どうしてここに居るの?」

「それは勿論、帰ってきたからだよ」

「嘘……だって魔界の魔物は地上と比べ物にならないくらい強さだって聞いてるけど? そんな中、生きて帰れるはずないじゃない?」

「うん。実際に僕の魔法は微塵も効かなかったよ。それにそもそも魔界だと魔法は弱くなってしまってね」

「じゃあ余計に……」

 アリスは全く理解できないといった様子で首を傾げてしまう。

「簡単なことだよ。危ないところを、とある人たちに助けて貰ったんだ」

「人たち?」

「ま、二人とも人間ではないけどね。エルフとドワーフだったよ」

「へぇ……」

「ちなみに、詳しいことは省くけど、魔法の使い方はそのエルフに習ったんだ」

 そのファーガソンの言葉に、アリスは何かを思い出したかのように驚いた。

「あ! そうだ! 宝具が使えないのにさっき魔法を使ってた!」

「うん。そのエルフにマナの扱い方を教えて貰ったんだ。少しだけ、だけどね」

「マナ……? 最近どこかで聞いた気が……」

 と、アリスは少し顔を伏せて考える。次の瞬間、顔を上げて何か思い出したような表情になってこう言った。

「あ! ゲイル兄だ! ゲイル兄がマナって言ってた!」

「え? 最近ゲイル兄に会ったの?」

「え、ええ……傭兵になって手伝ってくれるって」

「ホント!」

「うん。でも、それがどうかしたの?」

「実はそのエルフとドワーフがゲイル兄を探してるんだ。ゲイル兄はその二人から色々と教えて貰ってたらしいよ」

「どういうこと? だって魔界の話じゃないの? それって」

「そう。だからゲイル兄は魔界でずっと生活してたってことだよ」

「あはは……何それ……」

 アリスは信じられない、と言った表情でそう呟く。
 その時、遥か彼方に巨大な竜巻が巻き起こり、黒く空を覆い尽くした雲を一つ残らず吸いこんでいく。

「今度は何! 巨大な竜巻まで! もう世界は終わっちゃうの?」

「あれは、まさか……」

 ファーガソンは遥か彼方に現れた竜巻を見つめて、ぼそっと呟いた。
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