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三十六話 再会
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「アリス様、こんな時です。ご無理はなさらないで下さい」
じっと真剣な眼差しで盤面に広げられた地図を睨むアリス。その背後に立つ歴戦の戦士といったような雰囲気を漂わせる壮年の男性はアリスにそう声をかけた。
「気にしないで、フランクリン。お兄様やお姉様にやらせる訳にはいかないから」
アリスは振り向くこともせず、そう答えてからこう続けた。
「それに、私も彼もある程度の覚悟は出来て居たのだから大丈夫。そう、大丈夫よ」
「アリス様……申し訳ございません」
その時、ドアの外からアリスを呼ぶ声が聞こえた。
「アリス様!」
アリスは自身を呼ぶ声に対して、入室するように促す。
「いいわ、入りなさい」
「失礼致します」
そしてアリスは入ってきた兵士に対して、盤面から視線を移すことなくこう尋ねた。
「どうしたのかしら? また悪い知らせ?」
「いえ……そういう訳では無いのですが」
「どうした? 言ってみろ」
フランクリンが兵士に内容を告げるように促すと、兵士はこう言葉を返す。
「はい! 傭兵希望の冒険者が二人参りました」
「へぇ、こんな時に珍しいわね。で、それがどうかしたのかしら」
「アリス様のおっしゃる通り、報告する必要など無かろう? 何処かの隊に参加させとけばいいのだから」
アリスもフランクリンもさほど興味を示す様子はない。たった二人の冒険者が参加したところで殆ど意味などないと思っていたから、それは当然のことであった。
しかし、兵士は少し困った様子で言葉を続ける。
「それが……その内の一人がアリス様のお知り合いで、お目通りをしたいと」
「私の知り合い? こんな時に来る知り合いの冒険者なんて居たかしら」
「名はゲイルと名乗っては居るのですが……眼鏡をかけた、気弱な冒険者としてはとても頼りなさそうな青年なのですが……」
その兵士の言葉にアリスは初めて盤面から視線を外してしまうほどの動揺を見せた。
「う、うそ! ゲイル兄! っていや、帰って貰って!」
落ち着かない様子のアリスにフランクリンは低い声で、だが優しく声をかけた。
「アリス様、お言葉ですがここはお会いしておいた方がいいのでは? 時折呟いていた、あのゲイルですよね?」
「…………」
「おい、入ってもらえ!」
「は……」
黙り込んでしまったアリスに代わり、フランクリンは兵士に入室させるように促した。
兵士が立ち去り暫くすると、ゲイルとミューが部屋へ姿を現す。
「アリス! 大きくなったね。それにやっぱり王女様なんだなぁ」
「ゲイル兄……ゲイル兄は全然変わらない……」
澄んだ眼差しでアリスはじっとゲイルを見つめた。ふとゲイルの背後に居た女性に気がついたフランクリンが、こう尋ねる。
「そちらの美女は?」
「俺はミュー。ゲイルの幼なじみって感じかな? まー色々あって一緒に旅してるんだよ」
「そっか。あれから三年。ゲイル兄にも色々あるよね」
「ま、まあね……」
自身は三年経ったなどと微塵も思ってないゲイルは苦笑いを浮かべてしまった。
「アリスもおっきくなったし、ファーガソンとか皆も大きくなったんだろうなぁ……」
「……!! 今はその名は!」
フランクリンがゲイルを止める。がそのフランクリンをアリスが制してからゲイルにこう告げた。
「大丈夫よ。フランクリン。ゲイル兄。ファーガソンは先日処刑されました」
「……は? な、なんだって?」
思っても見なかった言葉にゲイルは激しく動揺してしまう。
「ファーガソン殿は我が部隊の一つを率いておってな。先月のこと、先陣を切ってグーブンドルデの一部隊と一戦交えたのだが、部隊は全滅し、ファーガソン殿は捕虜として捕らえられたんだ」
「ど、どうして! どうしてそんなことに!」
「それは……」
口篭るフランクリン。すると、またもアリスが片手で制してから口を開いた。
「私が話すわ。ファーガソンと私は婚約したの。だから私の国がグーブンドルデと戦争することになった時、私の国に来てくれたし、先陣を切って戦ってくれた。そして、王女の婚約者として捕虜になり、降伏しなかった見せしめに処刑された。以上が経緯よ」
「う、うそだ……」
「嘘なんか吐いてもしょうがないじゃない。先日、グーブンドルデから通達があったわ。ファーガソンを処刑したってね」
そう言ってアリスは一枚の紙を盤面に広げた。ミューはその紙を見てゲイルにこう告げる。
「ゲイルには悪いけど、確かにそう書いてあるね。ファーガソンを最上級の犯罪者として処刑したって書いてある」
「ぼ、僕がもっと早く来てれば……」
落ち込んでそう呟くゲイルに対して、アリスは自身へも語りかけるかのように、こう答えた。
「ゲイル兄は悪くないわ。そう、悪くなんかない……」
そして天を仰ぎ、じっと一点を見つめながらフランクリンにこう告げる。
「フランクリン。ちょっと外して貰えるかしら」
「かしこまりました」
フランクリンが扉を閉めると、部屋にはアリスが泣き喚く声が響き渡ったのだった。
じっと真剣な眼差しで盤面に広げられた地図を睨むアリス。その背後に立つ歴戦の戦士といったような雰囲気を漂わせる壮年の男性はアリスにそう声をかけた。
「気にしないで、フランクリン。お兄様やお姉様にやらせる訳にはいかないから」
アリスは振り向くこともせず、そう答えてからこう続けた。
「それに、私も彼もある程度の覚悟は出来て居たのだから大丈夫。そう、大丈夫よ」
「アリス様……申し訳ございません」
その時、ドアの外からアリスを呼ぶ声が聞こえた。
「アリス様!」
アリスは自身を呼ぶ声に対して、入室するように促す。
「いいわ、入りなさい」
「失礼致します」
そしてアリスは入ってきた兵士に対して、盤面から視線を移すことなくこう尋ねた。
「どうしたのかしら? また悪い知らせ?」
「いえ……そういう訳では無いのですが」
「どうした? 言ってみろ」
フランクリンが兵士に内容を告げるように促すと、兵士はこう言葉を返す。
「はい! 傭兵希望の冒険者が二人参りました」
「へぇ、こんな時に珍しいわね。で、それがどうかしたのかしら」
「アリス様のおっしゃる通り、報告する必要など無かろう? 何処かの隊に参加させとけばいいのだから」
アリスもフランクリンもさほど興味を示す様子はない。たった二人の冒険者が参加したところで殆ど意味などないと思っていたから、それは当然のことであった。
しかし、兵士は少し困った様子で言葉を続ける。
「それが……その内の一人がアリス様のお知り合いで、お目通りをしたいと」
「私の知り合い? こんな時に来る知り合いの冒険者なんて居たかしら」
「名はゲイルと名乗っては居るのですが……眼鏡をかけた、気弱な冒険者としてはとても頼りなさそうな青年なのですが……」
その兵士の言葉にアリスは初めて盤面から視線を外してしまうほどの動揺を見せた。
「う、うそ! ゲイル兄! っていや、帰って貰って!」
落ち着かない様子のアリスにフランクリンは低い声で、だが優しく声をかけた。
「アリス様、お言葉ですがここはお会いしておいた方がいいのでは? 時折呟いていた、あのゲイルですよね?」
「…………」
「おい、入ってもらえ!」
「は……」
黙り込んでしまったアリスに代わり、フランクリンは兵士に入室させるように促した。
兵士が立ち去り暫くすると、ゲイルとミューが部屋へ姿を現す。
「アリス! 大きくなったね。それにやっぱり王女様なんだなぁ」
「ゲイル兄……ゲイル兄は全然変わらない……」
澄んだ眼差しでアリスはじっとゲイルを見つめた。ふとゲイルの背後に居た女性に気がついたフランクリンが、こう尋ねる。
「そちらの美女は?」
「俺はミュー。ゲイルの幼なじみって感じかな? まー色々あって一緒に旅してるんだよ」
「そっか。あれから三年。ゲイル兄にも色々あるよね」
「ま、まあね……」
自身は三年経ったなどと微塵も思ってないゲイルは苦笑いを浮かべてしまった。
「アリスもおっきくなったし、ファーガソンとか皆も大きくなったんだろうなぁ……」
「……!! 今はその名は!」
フランクリンがゲイルを止める。がそのフランクリンをアリスが制してからゲイルにこう告げた。
「大丈夫よ。フランクリン。ゲイル兄。ファーガソンは先日処刑されました」
「……は? な、なんだって?」
思っても見なかった言葉にゲイルは激しく動揺してしまう。
「ファーガソン殿は我が部隊の一つを率いておってな。先月のこと、先陣を切ってグーブンドルデの一部隊と一戦交えたのだが、部隊は全滅し、ファーガソン殿は捕虜として捕らえられたんだ」
「ど、どうして! どうしてそんなことに!」
「それは……」
口篭るフランクリン。すると、またもアリスが片手で制してから口を開いた。
「私が話すわ。ファーガソンと私は婚約したの。だから私の国がグーブンドルデと戦争することになった時、私の国に来てくれたし、先陣を切って戦ってくれた。そして、王女の婚約者として捕虜になり、降伏しなかった見せしめに処刑された。以上が経緯よ」
「う、うそだ……」
「嘘なんか吐いてもしょうがないじゃない。先日、グーブンドルデから通達があったわ。ファーガソンを処刑したってね」
そう言ってアリスは一枚の紙を盤面に広げた。ミューはその紙を見てゲイルにこう告げる。
「ゲイルには悪いけど、確かにそう書いてあるね。ファーガソンを最上級の犯罪者として処刑したって書いてある」
「ぼ、僕がもっと早く来てれば……」
落ち込んでそう呟くゲイルに対して、アリスは自身へも語りかけるかのように、こう答えた。
「ゲイル兄は悪くないわ。そう、悪くなんかない……」
そして天を仰ぎ、じっと一点を見つめながらフランクリンにこう告げる。
「フランクリン。ちょっと外して貰えるかしら」
「かしこまりました」
フランクリンが扉を閉めると、部屋にはアリスが泣き喚く声が響き渡ったのだった。
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