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王都フラシュ
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「やれやれ。少しくらい親睦を深めてくれてもいいだろうによぉ」
拗ねた口調で文句を言うノーデックは一行が去ったのを見届けると、諸手を打って甲板にいる仲間たちに檄を飛ばした。
「さあ! 少ししたら国中が騒がしくなるぞ! お前らも気を引き締めておけよ!」
周囲から一斉に返事が返ってくる。
全員の士気が充分であることを確かめたノーデックはその足を甲板の一画へと進めた。
そこには他の船員と同じく日の下に引き締まった体と肌を晒して作業に励む二人がいたが、男たちの屈強な肉体とは違い細く靭やかな体をした女たちであった。
「行っちまったぜ。あんたらの筆頭騎士殿は」
その言葉に二人は作業の手を止め腕で額の汗を拭いながら、エミリアの去った甲板の向こうに視線を送った。
「……見ていました」
「あれで正体を隠したつもりですか」
フードで顔を隠していても、あの長身は目立ちすぎると二人は顔を見合わせて笑みを漏らす。かく言う二人も頭に巻いたバンダナに美しい長髪を押し込めて正体を隠しているのであったが。
「いいのかい、このまま行かせて。あっちは気を遣って会おうとしなかったが、あんた達は会っておきたいだろう」
二人の内心を汲み取ってのノーデックの発言であったが、船乗り姿の美女は互いに顔を見合わせた。
「いや……彼女なりの考えがあってのこと。今更会うなど」
「それに私たちが加わったところで力になれるとは……」
一見エミリアと同じく気を遣って遠慮しているかに思えるが、その実彼女たちは負い目を感じているに過ぎない。フラシュの近くにいながら何もできずにいた自分たちに。
あるいはエミリアと直接会い言葉を交わしていればその想いは拭えたのかもしれないが、会わないと決めてしまった以上、彼女たちの胸のシコリを払うことはできなかった。
「そうかい」
心の機微を察したノーデックはそれ以上勧めることはしなく天を仰いだ。
話をしていた聖華騎士団の二人の瞳には彼が落胆し嘆いている風に映ったであろう。
「……いい天気だ。暗雲の覆う王都とは違って南方まで雲一つない快晴。鳥さんもさぞ気持ちよく飛んでるこったろ」
ノーデックが青空に向け手を掲げると、羽ばたいていた一羽の鳥が彼の指を止まり木にして舞い降りた。
騎士団にいた二人はその鳥をよく知っていた。魔法による情報交換の漏洩を警戒する場合に直接、確実にやりとりをするための古い方法である。
鳥の足に着けられた小さな筒から取り出した丸められた紙を広げたノーデックは、そこに書かれた小さな文面を目で追った。
「……まあな。馬の世話くらいなら何頭でもしてやるが」
訝しげな視線を送る二人に対し、彼は不敵に微笑むのだった。
後顧の憂いを絶ち、最早王都フラシュに乗り込むだけとなった四人は目的地の都の前に辿り着いていた。
「近くで見るとでっかい城壁ですね」
ホイムは天を衝かんとばかりに聳える城壁の天辺を見上げて言葉を漏らす。これが観光ならばじっくりと眺めて感嘆の想いに耽るのだが、今はそれどころではない。
「城下町へはこの正門をくぐる以外ないのですよね?」
アカネの問いにエミリアは頷く。
「ああ。予定通りこの南門から突入するのだが……」
「黒いし閉じてる」
ルカの呟く通り、四人の眼前にある巨大な正門は邪悪な瘴気に覆われ堅く口を閉ざしている。常なら入都をチェックする番兵がいるのだが、今は誰の姿もない。
「パッと見た感じ、強力な魔力で封ぜられてるようですけど」
可視化された強力で不気味な魔力が門の強固さを更に増している。
「来る者拒み、去る者出さず……といった佇まいですね」
呟くアカネの声にはいささか緊張の色が滲んでいた。周囲に漂う空気がエイーリオとは全く違う重苦しいものであるので無理からぬことであった。
「とはいえ、兵士がエイーリオに来ることもあるので開く時は開くのだろう」
「しかしそれを待つつもりもないのでしょう?」
「無論だ」
エミリアの相槌を聞いたところでホイムは手首を振りながら一行の輪から前へと歩みだした。
「だったらチャチャッと突破しちゃいましょう」
ホイムは後ろを振り返り、三人へと確認する。
「ド派手に空けちゃって大丈夫ですよ……ね?」
「開戦の狼煙というわけですね」
「此処まで来ていることに魔人が気付いてないわけもなかろう」
「門が開かないと行けない……ルカにはそれが分かる」
三人とも異論はないようだ。
ホイムは両手に魔力を集中させながら、最後にエミリアに一つだけ確認した。
「……門の修理代を請求されたりしませんよね?」
「……」
くだらない質問に彼女は頭を抱えたが、すぐに顔を上げ、
「魔人を倒し国を解放すれば国王にかけあって褒美の一つや二つ取らせることもできるだろう……だからそんなつまらぬ心配をするな」
「それを聞いて安心しました!」
拗ねた口調で文句を言うノーデックは一行が去ったのを見届けると、諸手を打って甲板にいる仲間たちに檄を飛ばした。
「さあ! 少ししたら国中が騒がしくなるぞ! お前らも気を引き締めておけよ!」
周囲から一斉に返事が返ってくる。
全員の士気が充分であることを確かめたノーデックはその足を甲板の一画へと進めた。
そこには他の船員と同じく日の下に引き締まった体と肌を晒して作業に励む二人がいたが、男たちの屈強な肉体とは違い細く靭やかな体をした女たちであった。
「行っちまったぜ。あんたらの筆頭騎士殿は」
その言葉に二人は作業の手を止め腕で額の汗を拭いながら、エミリアの去った甲板の向こうに視線を送った。
「……見ていました」
「あれで正体を隠したつもりですか」
フードで顔を隠していても、あの長身は目立ちすぎると二人は顔を見合わせて笑みを漏らす。かく言う二人も頭に巻いたバンダナに美しい長髪を押し込めて正体を隠しているのであったが。
「いいのかい、このまま行かせて。あっちは気を遣って会おうとしなかったが、あんた達は会っておきたいだろう」
二人の内心を汲み取ってのノーデックの発言であったが、船乗り姿の美女は互いに顔を見合わせた。
「いや……彼女なりの考えがあってのこと。今更会うなど」
「それに私たちが加わったところで力になれるとは……」
一見エミリアと同じく気を遣って遠慮しているかに思えるが、その実彼女たちは負い目を感じているに過ぎない。フラシュの近くにいながら何もできずにいた自分たちに。
あるいはエミリアと直接会い言葉を交わしていればその想いは拭えたのかもしれないが、会わないと決めてしまった以上、彼女たちの胸のシコリを払うことはできなかった。
「そうかい」
心の機微を察したノーデックはそれ以上勧めることはしなく天を仰いだ。
話をしていた聖華騎士団の二人の瞳には彼が落胆し嘆いている風に映ったであろう。
「……いい天気だ。暗雲の覆う王都とは違って南方まで雲一つない快晴。鳥さんもさぞ気持ちよく飛んでるこったろ」
ノーデックが青空に向け手を掲げると、羽ばたいていた一羽の鳥が彼の指を止まり木にして舞い降りた。
騎士団にいた二人はその鳥をよく知っていた。魔法による情報交換の漏洩を警戒する場合に直接、確実にやりとりをするための古い方法である。
鳥の足に着けられた小さな筒から取り出した丸められた紙を広げたノーデックは、そこに書かれた小さな文面を目で追った。
「……まあな。馬の世話くらいなら何頭でもしてやるが」
訝しげな視線を送る二人に対し、彼は不敵に微笑むのだった。
後顧の憂いを絶ち、最早王都フラシュに乗り込むだけとなった四人は目的地の都の前に辿り着いていた。
「近くで見るとでっかい城壁ですね」
ホイムは天を衝かんとばかりに聳える城壁の天辺を見上げて言葉を漏らす。これが観光ならばじっくりと眺めて感嘆の想いに耽るのだが、今はそれどころではない。
「城下町へはこの正門をくぐる以外ないのですよね?」
アカネの問いにエミリアは頷く。
「ああ。予定通りこの南門から突入するのだが……」
「黒いし閉じてる」
ルカの呟く通り、四人の眼前にある巨大な正門は邪悪な瘴気に覆われ堅く口を閉ざしている。常なら入都をチェックする番兵がいるのだが、今は誰の姿もない。
「パッと見た感じ、強力な魔力で封ぜられてるようですけど」
可視化された強力で不気味な魔力が門の強固さを更に増している。
「来る者拒み、去る者出さず……といった佇まいですね」
呟くアカネの声にはいささか緊張の色が滲んでいた。周囲に漂う空気がエイーリオとは全く違う重苦しいものであるので無理からぬことであった。
「とはいえ、兵士がエイーリオに来ることもあるので開く時は開くのだろう」
「しかしそれを待つつもりもないのでしょう?」
「無論だ」
エミリアの相槌を聞いたところでホイムは手首を振りながら一行の輪から前へと歩みだした。
「だったらチャチャッと突破しちゃいましょう」
ホイムは後ろを振り返り、三人へと確認する。
「ド派手に空けちゃって大丈夫ですよ……ね?」
「開戦の狼煙というわけですね」
「此処まで来ていることに魔人が気付いてないわけもなかろう」
「門が開かないと行けない……ルカにはそれが分かる」
三人とも異論はないようだ。
ホイムは両手に魔力を集中させながら、最後にエミリアに一つだけ確認した。
「……門の修理代を請求されたりしませんよね?」
「……」
くだらない質問に彼女は頭を抱えたが、すぐに顔を上げ、
「魔人を倒し国を解放すれば国王にかけあって褒美の一つや二つ取らせることもできるだろう……だからそんなつまらぬ心配をするな」
「それを聞いて安心しました!」
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