上 下
90 / 131
パルメティの街

そして夜が明けました

しおりを挟む
「……もうどうなっても知りませんよ!」
「夢の中の君は私に何をしてくれるんだろう?」
「もちろんエミリアさんの初めてを」
「流石にそれは夢でも駄目だよ」

 優しい言葉をかけて慰めてあげたい気持ちが溢れ出そうになったが、ここで言葉をかければ説得が無駄になる。
 ここは心を鬼にして、彼女が諦めるのを待つしかない。

「ふふふ……まるで本物の彼にフラれたみたいだ」
「はい?」
「夢でよかったぁ」
「ヤダー! 全然分かってない!」

 チュッチュッチュッ。
 エミリアからのキスの嵐に、懸命に我慢していたホイムもとうとう堪忍袋の緒が切れた。
「……もうどうなっても知りませんよ」
「えへ。夢のホイムは何をしてくれるのかな?」
「それはもちろんエミリアさんの初めてをいただくつもりで」
「それはダメだなぁ……」
「なんで!?」

 やる気満々になったのにまさかの拒否で出鼻を挫かれた格好になった。

「やはり操は守らねばならないし……」

 もじもじとする仕草に尚更興奮しそうになるホイムだが、拒否されたことでどうしていいか分からずにただひたすらに悶々とした想いが募っていく。

「じゃあどうすればいいんです!」

 思わず声を荒げてしまったところ、エミリアはホイムの欲求をどう打開するのかをきちんと教えてくれた。

「フォト様が言っていた。ホイムを気持ちよくさせるのならばまぐわうだけが手段ではないと」
「……まさか。その手段とは」

 生唾を呑み込むホイム。震える視線のその先に、エミリアが上着に手をかける姿。血眼になって凝視するのはその瞬間を見逃さぬため。
 やがてぺろんと捲れた服の下かr「なまちち!!」。
 これまで彼が目にしたことのな「んんんんんんんッ!」。
 とうとう自分から彼女の胸に「――――――」。
 暴力的なおっぱいの魔力に魅入られた彼は、その日おっぱいの素晴らしさを心ゆくまで堪能した。
 



 体が重い。
 戦場での朝を思い出させる……目覚めながらエミリアは考えていた。
 騎士団長の救出を成し遂げた代償でもあるし、変な夢を見た報いでもあるとすぐに自分を恥じた。

「…………なんて夢だ」

 エミリアは昨夜自分が見た夢と思い込んでいる行為を思い出し、頭を抱えると同時に顔を真っ赤に染めた。
 自分の中にそれほどの欲求があったのか。
 大仕事をこなして彼に慰められ気が緩んでしまったからか。
 女神様が夢枕に立ちホイムとのことに助言をくれたせいか。
 色んな要因が重なってあのような夢を見てしまったのか。
 考えれば考える程ドツボに嵌まるエミリアの思考を遮ったのは、体のあちこちが告げる得体の知れない感触と痛みであった。

「……?」

 上体を起こしはらりと落ちた毛布の下から曝け出された自分の裸体を見下ろすと、胸元の白い付着物を指先で掬った。
 粘っとした感触に今まで嗅いだことのない独特な臭いに思わず顔をしかめてしまう。
 しかもその粘性の物体は胸元だけとはいわず、胸と胸の間に尋常ではない量がべっとりと付いている。
 それに顎も妙に疲れている。ずっと何かを噛んで酷使したかのように疲弊していた。
 更に身動ぎした時、ズキズキとお尻が痛んだ。
 何かを突き刺されたかと思い、下半身に残った毛布をバッと剥ぎ取ると……そこには武器のたぐいは何もなかった。攻撃を受けたわけではない。
 ただし、手を伸ばしてそっと下半身を触るとやはりお尻は痛かったし、胸に付いていたのと同じ粘性のものがそこにも付着……いや、注がれているようであった。
 次第に自分の状況に混乱をきたすエミリア。
 この身に何が起きたのか。
 何故あちこち痛いのか。
 そもそも何故裸なのか。
 一体何者が……と、そこでようやくテントの中にいるはずのもうひとりの存在に思い至った。

「ホイ……!」

 名前を呼ぶまでもなく、少年は彼女の隣で毛布に包まり背を向けて眠っていた。
 彼なら何か知っているはずだと思ったエミリアは、すやすやと気持ちよさそうに眠るホイムを起こそうと伸ばしかけた手を止めていた。
 急に彼に触れるのが恥ずかしくなったのだ。
 赤い顔を更に赤くするエミリアの頭の中には、昨夜の淫夢が押し寄せて再放送されていた。

「…………!」

 細かいところまで覚えているわけではないが、とにかく普段からは考えられない言動でこれまで見聞きしたことも体験したこともない行為に耽っていたのは間違いなく、もう何も言葉にできないといった様子で毛布を胸に抱え、消えてしまいたいと言わんばかりに体を丸めて小さくなろうとしていた。

「はしたない……はしたない……」

 ぶつぶつと呪文のように繰り返していると、それを耳にしたホイムがもぞもぞと起き上がった。

「わわ、わあわあ!」

 何と声をかけていいか分からぬエミリアはとりあえず叫んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

あーあーあー
ファンタジー
 名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。  妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。  貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。  しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。  小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

辺境で魔物から国を守っていたが、大丈夫になったので新婚旅行へ出掛けます!

naturalsoft
ファンタジー
王国の西の端にある魔物の森に隣接する領地で、日々魔物から国を守っているグリーンウッド辺境伯爵は、今日も魔物を狩っていた。王国が隣接する国から戦争になっても、王国が内乱になっても魔物を狩っていた。 うん?力を貸せ?無理だ! ここの兵力を他に貸し出せば、あっという間に国中が魔物に蹂躙されるが良いのか? いつもの常套句で、のらりくらりと相手の要求を避けるが、とある転機が訪れた。 えっ、ここを守らなくても大丈夫になった?よし、遅くなった新婚旅行でも行くか?はい♪あなた♪ ようやく、魔物退治以外にやる気になったグリーンウッド辺境伯の『家族』の下には、実は『英雄』と呼ばれる傑物達がゴロゴロと居たのだった。 この小説は、新婚旅行と称してあっちこっちを旅しながら、トラブルを解決して行き、大陸中で英雄と呼ばれる事になる一家のお話である! (けっこうゆるゆる設定です)

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

あ、出ていって差し上げましょうか?許可してくださるなら喜んで出ていきますわ!

リーゼロッタ
ファンタジー
生まれてすぐ、国からの命令で神殿へ取られ十二年間。 聖女として真面目に働いてきたけれど、ある日婚約者でありこの国の王子は爆弾発言をする。 「お前は本当の聖女ではなかった!笑わないお前など、聖女足り得ない!本来の聖女は、このマルセリナだ。」 裏方の聖女としてそこから三年間働いたけれど、また王子はこう言う。 「この度の大火、それから天変地異は、お前がマルセリナの祈りを邪魔したせいだ!出ていけ!二度と帰ってくるな!」 あ、そうですか?許可が降りましたわ!やった! 、、、ただし責任は取っていただきますわよ? ◆◇◆◇◆◇ 誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。 100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。 更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。 また、更新は亀ではなくカタツムリレベルのトロさですので、ご承知おきください。 更新停止なども長期の期間に渡ってあることもありますが、お許しください。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...