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パルメティの街

落ちちゃいました

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「そんな邪神を崇め奉っていた遺跡……きな臭いものがありますね」

 アカネの言葉の通り、この場所を隠れ家に選んだ相手は何か裏があるのだろうか。
 ホイムにもエミリアにもその意図は分からない。隠れている者の口を割らせれば知れるだろうが、目的はそれではない。
 黒幕の退治と、元聖華騎士団長アリアスの救出である。
 改めてエミリアは拳を握りしめた。それと同時にルカが口を開いた。

「ルカ伝えておく」
「ん、何を?」

 ホイムが訊ねた時、彼とエミリアの足元から音がした。

「三つと八つ後ろの床石はダメ」

 ガガコンッ。

「え?」
「え?」

 足元の石畳の一部が下がってできた窪みに足を取られた二人が右の壁に手をついた。

「そこと同じ位置の壁も少し変」

 カパッ。

「あ」
「あ」

 そこから先は一瞬であった。
 突然口を開けた壁がホイムとエミリアを奈落へと誘う。

 バタンッ。

「みんな気を付ける! …………あれ?」

 後ろを向いて危険を元気いっぱいに伝えてくるルカが見たのは、青ざめた顔で消え去った二人のいた場所を見るアカネだけだった。

「……ほあぁ! ほほほホイム様!」

 取り乱したアカネはベチベチ石壁を叩くが、一度罠の起動した壁は最早何の反応も示さなくなっていた。

「ホイムとエミリアは? トイレ?」
「ちがああう! ルカが……ルカが早く教えないから二人して罠に落ちたのだ!! ああぁそんな……」
「…………大変!」

 ようやく事態を呑み込んだルカの首を締めるようにアカネが詰め寄った。

「そうだ大変なのだ! それをおま、お前……お前!」

 なんで早く言わないの!
 とアカネは烈火の如く怒っている。

「三人とも話夢中。ルカ空気読んだ」
「いらぬ! いらぬ気遣い! 何故そんな時だけ読む!」

 アカネに怒られて耳と尻尾を畳むルカだが、アカネを安心させるよう明るい顔と声をする。

「大丈夫。ホイムもエミリアも強い。二人なら心配ない」
「二人だから心配なのだぁ!」

 ぽこぽこぽこ。
 アカネはルカの頭を叩きながら、二人だけで危機に陥った彼らの身と間違いが起こらないかという事を案じるのであった。




「――ぅゎわああああああッ!?」

 突如として壁に開いた穴に呑み込まれてどこかへ滑り落ちていく感覚に、ホイムは取り乱していた。
 光球もない暗黒の中で味わう滑落は恐怖しかない。

(どうにかしないと……!)

 だがどうすればいいかの判断を下せない。冷静さを欠いた頭は上手い手段を思いつけずにいた。
 と、落下するホイムの体が温もりのあるものに強く包まれた。
 暗闇の中で一緒に落下していたエミリアがホイムを手探りで見つけ、抱きしめていたのだ。
 そのすぐ後に二人の体はしゅぽんと空中に投げ出された。
 しばしの自由落下を経て、ホイムを抱えたエミリアは背中から叩きつけられた。
 乾いたものをひしゃいだ音もし、直接地面にぶつかったわけではなさそうだが相応の衝撃がホイムにも伝わっており、しばし頭が揺れるような感覚に苛まれていた。
 彼を庇ったエミリアなら尚更であろう。

「エ……ミリアさん!」

 体を起こしたホイムが最初にしたことは、闇が支配する奈落の底に明かりを灯すことであった。

「キュア【光球】」

 急いで淡い光を作り出し、ようやく現状を把握する。
 かなり広い空間の中で、ホイムはエミリアの上に馬乗りになっていた。落下の衝撃で彼女は依然気を失ったままのようである。

「エミリアさん! しっかりしてください!」

 肩を揺すろうとしてみるがホイムの体格ではあまり効果的とはいえなかったので、頬をぺちぺちと叩く方法に切り替えた。
 それでもすぐには目覚めてくれず、打ち所が悪かったのかと不安になりながら両手で彼女の頬をうにうにと弄くり回す。

(……やわらかい)

 大きな古傷の刻まれた頬は戦士らしさを前面に押し出していたが、いざ触れてみるとやはりうら若い女性の肌……思わず撫で回していたくなる。
 エミリアのお腹の上に乗っかって顔を触っていたところ、ようやく彼女もお目覚めのようだ。

「うん……」

 小さく呻いた彼女が薄っすら目を開くと、間近にホイムの顔。

「…………うわっ!」

 驚いた彼女が上体を起こすと、弾みでホイムの体がこてんと後ろに倒れて頭を打ってしまった。

「痛たた……良かった、元気そうで」
「あ、ああ。すまない、そちらも平気か?」

 互いに互いの無事を確認し合ったところで、エミリアとホイムは光球が照らす周囲を見回した。

「ここは……?」

 まだ無闇に動けぬ状況。自然とホイムは胡座をかくエミリアの上に座る格好になっていた。

「もう少し光量を上げれるか?」

 離れるのは得策ではないと判断しているエミリアも、ホイムが足の上にいることは気にしていなかった。

「はい」

 淡かった光が輝きを増し、二人の頭上で太陽のように明るくなる。そこでようやく二人のいる場所の全容が詳らかとなった。
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