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パルメティの街
話をしました
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「ルカ。次からは大丈夫だよね?」
「うん……もう触らない。とっても気を付ける」
「……だそうですから」
アカネとルカに目配せすると、二人もしぶしぶ従ってみせた。
「リーダーはホイム様ですから……」
「次からは私ももっと見張っておこう」
罠を一つ越えるのに少し騒動したが、隊列は変わることなく再び進行していった。
「ホイム様は何かお考えがあってルカを?」
進む最中にアカネが小声で訊ねてきたので、ホイムはうんと頷いて答えた。
「ルカはこれから獣王を目指そうとしてるでしょう? だから、少し苦手そうなことも色々と経験させておいた方が良いかと思って」
ホイムもルカに一番槍を任せることに不安がなかったわけではないが、然様な考えがあったと知ればアカネも得心した。
「……でも危ないと思ったら代わりますよ?」
「あはは……はい」
二人の会話が耳に届いていたエミリアは、先を行くルカが次期獣王の座を目指しているということに疑問を抱いた。
それは現獣王が息災であるのに次期を決めることを見据えるのは尚早であると思ったからであり、決してルカの実力を侮っていたわけではない。
先程の罠を発動させてしまった時、エミリアは躱し防ぐのが精一杯であったが、ルカは拳と足で真っ向から危険を退けている。
元聖華騎士団筆頭騎士の目から見ても、ルカの力量は一目置かざるを得ない程のものであった。
またルカを先頭にしばらく進めば、暗い遺跡に棲み着いた蝙蝠の魔物、ジャイアントバットが襲いかかってくることもあった。
ルカがほとんど爪で裂き倒し、エミリアは剣を振るわずに盾で押し潰し、撃ち漏らした魔物がホイムに迫る前にアカネがクナイで突き殺す。
「楽勝!」
喜ぶルカの肩に手を置きエミリアが労いながら、気を引き締めるよう促す。彼女にルカの後ろを任せたのは良かったとホイムは思っていた。
「君たちが手を貸してくれて本当に助かる。私だけではあの程度のモンスターを相手にするのも、この場では一苦労だ」
確かに大柄なエミリアが剣を振り回せるほど遺跡の通路は広くない。盾を使って迎撃したのもそのためだ。
小回りの利くルカとアカネがいて助かっているのは本当のことだ。
(……あれ? 僕は?)
何もしてないんだけど。
今やっていることと言えば光の玉を出して行き先を照らしているだけ。こと戦闘に関しては、未だ何もしていなかった。四人の中で自分だけ守られているような、戦えていないような……戦力になっていない気がする奇妙な感覚が少しだけ不安であった。
「それにしてもこの遺跡は一体何のために建てられたのでしょうか」
後ろにいるアカネがぽつりと漏らした。この遺跡の建てられた目的とは何なのか、ホイムに知る由もなかった。
「エミリアさん」
ホイムが質問のバトンをエミリアに回すと、彼女は記憶を辿りながら語り始めた。
「私も詳しくは知らない。ただ、この場を探る時に集めた話によると……どうやら遥か古に存在していた邪悪なる神を祀った祭壇、のような場所らしい」
「女神フォトのことですか?」
「そんな訳はなかろう。フォト様は今現在このフォトナームを見守ってくださっている慈悲深き神なのだから」
「そうですよ。いくらホイム様が女神から加護を授かる間柄とはいえ、不敬が過ぎますよ」
エミリアとアカネは知らないのだ。女神様がホイムの体を邪な思いで弄んでいることを。彼にとっては、まさに邪神そのものであった。
「ほう? 女神様から加護を授かるとは普通の冒険者とは違うようだな」
「あはは……。それより邪悪な神……邪神がいたんですね」
愛想笑いの後、話を逸らすように古の神についてエミリアに訊ねた。
「ああ。今より数百年以上昔の古い話に出てくる神だ。君ぐらいの歳だと、まだ歴史に興味はなかったかな?」
「いえ……少し興味深いです」
フォトナームの歴史について全く触れる機会のなかったホイムにとって、その話は新鮮に聞こえた。
「古い話で文献もそう残ってはいないが、かつてこの世界は様々な種族が手を取り合い、身近な存在として暮らしていたらしい。今とは大違いだな……しかしある時、原因は分からぬが世界を見守っていた創造神と破壊神が激しく争い、地上にも災厄が降り注ぎ大きな爪痕を残していったそうだ。それを機に土地と種族は分かたれ、今の世界の基礎ができた……というのがフォトナームに伝わる伝承だな」
「ああ……その話なら私も小耳に挟んだことがあります」
流石は知恵袋のアカネ。エッチな話以外にも造詣が深いのであった。
「しかし私は千年以上昔の話だと伺いましたが……」
「時期がズレるなど昔話にはよくある話だ」
数百年も千年も誤差のようなものということである。
「その、創造神と破壊神の戦いの後に女神フォトがこの世界の神になったんですか?」
「ああ。おかげでフォトナームは神が不在の無神世界にならずに済んだというわけだ」
創造神と破壊神と女神。どういう経緯があったのか、今度フォトに会った時に訊ねてみたいネタが増えたホイムであった。
「うん……もう触らない。とっても気を付ける」
「……だそうですから」
アカネとルカに目配せすると、二人もしぶしぶ従ってみせた。
「リーダーはホイム様ですから……」
「次からは私ももっと見張っておこう」
罠を一つ越えるのに少し騒動したが、隊列は変わることなく再び進行していった。
「ホイム様は何かお考えがあってルカを?」
進む最中にアカネが小声で訊ねてきたので、ホイムはうんと頷いて答えた。
「ルカはこれから獣王を目指そうとしてるでしょう? だから、少し苦手そうなことも色々と経験させておいた方が良いかと思って」
ホイムもルカに一番槍を任せることに不安がなかったわけではないが、然様な考えがあったと知ればアカネも得心した。
「……でも危ないと思ったら代わりますよ?」
「あはは……はい」
二人の会話が耳に届いていたエミリアは、先を行くルカが次期獣王の座を目指しているということに疑問を抱いた。
それは現獣王が息災であるのに次期を決めることを見据えるのは尚早であると思ったからであり、決してルカの実力を侮っていたわけではない。
先程の罠を発動させてしまった時、エミリアは躱し防ぐのが精一杯であったが、ルカは拳と足で真っ向から危険を退けている。
元聖華騎士団筆頭騎士の目から見ても、ルカの力量は一目置かざるを得ない程のものであった。
またルカを先頭にしばらく進めば、暗い遺跡に棲み着いた蝙蝠の魔物、ジャイアントバットが襲いかかってくることもあった。
ルカがほとんど爪で裂き倒し、エミリアは剣を振るわずに盾で押し潰し、撃ち漏らした魔物がホイムに迫る前にアカネがクナイで突き殺す。
「楽勝!」
喜ぶルカの肩に手を置きエミリアが労いながら、気を引き締めるよう促す。彼女にルカの後ろを任せたのは良かったとホイムは思っていた。
「君たちが手を貸してくれて本当に助かる。私だけではあの程度のモンスターを相手にするのも、この場では一苦労だ」
確かに大柄なエミリアが剣を振り回せるほど遺跡の通路は広くない。盾を使って迎撃したのもそのためだ。
小回りの利くルカとアカネがいて助かっているのは本当のことだ。
(……あれ? 僕は?)
何もしてないんだけど。
今やっていることと言えば光の玉を出して行き先を照らしているだけ。こと戦闘に関しては、未だ何もしていなかった。四人の中で自分だけ守られているような、戦えていないような……戦力になっていない気がする奇妙な感覚が少しだけ不安であった。
「それにしてもこの遺跡は一体何のために建てられたのでしょうか」
後ろにいるアカネがぽつりと漏らした。この遺跡の建てられた目的とは何なのか、ホイムに知る由もなかった。
「エミリアさん」
ホイムが質問のバトンをエミリアに回すと、彼女は記憶を辿りながら語り始めた。
「私も詳しくは知らない。ただ、この場を探る時に集めた話によると……どうやら遥か古に存在していた邪悪なる神を祀った祭壇、のような場所らしい」
「女神フォトのことですか?」
「そんな訳はなかろう。フォト様は今現在このフォトナームを見守ってくださっている慈悲深き神なのだから」
「そうですよ。いくらホイム様が女神から加護を授かる間柄とはいえ、不敬が過ぎますよ」
エミリアとアカネは知らないのだ。女神様がホイムの体を邪な思いで弄んでいることを。彼にとっては、まさに邪神そのものであった。
「ほう? 女神様から加護を授かるとは普通の冒険者とは違うようだな」
「あはは……。それより邪悪な神……邪神がいたんですね」
愛想笑いの後、話を逸らすように古の神についてエミリアに訊ねた。
「ああ。今より数百年以上昔の古い話に出てくる神だ。君ぐらいの歳だと、まだ歴史に興味はなかったかな?」
「いえ……少し興味深いです」
フォトナームの歴史について全く触れる機会のなかったホイムにとって、その話は新鮮に聞こえた。
「古い話で文献もそう残ってはいないが、かつてこの世界は様々な種族が手を取り合い、身近な存在として暮らしていたらしい。今とは大違いだな……しかしある時、原因は分からぬが世界を見守っていた創造神と破壊神が激しく争い、地上にも災厄が降り注ぎ大きな爪痕を残していったそうだ。それを機に土地と種族は分かたれ、今の世界の基礎ができた……というのがフォトナームに伝わる伝承だな」
「ああ……その話なら私も小耳に挟んだことがあります」
流石は知恵袋のアカネ。エッチな話以外にも造詣が深いのであった。
「しかし私は千年以上昔の話だと伺いましたが……」
「時期がズレるなど昔話にはよくある話だ」
数百年も千年も誤差のようなものということである。
「その、創造神と破壊神の戦いの後に女神フォトがこの世界の神になったんですか?」
「ああ。おかげでフォトナームは神が不在の無神世界にならずに済んだというわけだ」
創造神と破壊神と女神。どういう経緯があったのか、今度フォトに会った時に訊ねてみたいネタが増えたホイムであった。
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