61 / 131
パルメティの街
過去を聞きました
しおりを挟む
「それこそ噂だ。私や騎士団の下にそのような打診がきたことはない」
「そう噂でしかない。だがそれだけ世間に認められていたにも関わらず、己の主を手に掛けようとした凶悪な騎士団に所属していた者を、ホイム様に近付けるわけにはいかぬ!」
(まただ……)
またエミリアが苦しげに表情を歪める。そしてホイムの首も苦しげに締まっていく。
ギブギブ。
「エミリア」
警戒を続けるアカネとは裏腹に、食事を終えたルカは何の警戒もせずに俯くエミリアの顔を覗き込む。
「お前悪い奴か?」
屈託のない表情と言葉。真っ直ぐな問いかけが苦悶に苛まれる彼女の心に突き刺さる。
「悪い奴?」
「…………違う」
小さな声で絞り出したエミリアの頭を、ルカはお姉さんのように撫でてあげた。
「エミリア良い子。心配ない」
「……ですって、アカネさん」
ルカの言葉にホイムも乗っかり、アカネを見上げる。
「……」
一人だけずっとエミリアを警戒していたアカネであったが、二人の視線を受けて折れることとなった。
「はあ……分かりました。これ以上続けていては私だけ悪者になってしまいます」
「僕たちの身を案じてのことじゃないですか」
アカネの腕からようやく解放されたホイムは、今にも泣き出しそうな顔をしているエミリアに歩み寄って腰を下ろした。
「エミリアさん。話を訊かせてくれますか?」
「……はい」
ホイムの言葉に、エミリアは心から感謝の言葉を述べるのだった。
「素性を隠していたことは謝罪します。ですが嘘は申していません。私は、遺跡の洞窟に潜む我らを陥れた黒幕の成敗と……元聖華騎士団団長の救出をお願いしたいのです」
改めて、ホイムたち四人は竈の火を囲んで話を始めた。
今度はホイムがアカネに抱かれることなく、しっかり四人で火を囲んでいた。
「黒幕……というのは、半年前の事件の?」
炎越しに向かい合うホイムの問いに、エミリアは頷いた。
「その正体は一体……?」
その問いかけに対しては明確な返答はなかった。というよりも彼女自身知らないことであったのだ。
「分かりません」
「分からないということはないだろう。怪しい者がいたから、お前はそいつのいる洞窟へいくのではないか?」
エミリアはアカネの言葉には頷いた。
「その通りだ。黒幕は間違いなくいるはずだ」
はず、という語尾に一抹の不安を覚えるアカネであったが、エミリアは尚も力説した。
「そうでなければ! アリアスが……団長が姫を襲うなどありえん……」
アリアスというのが、エミリアの依頼にあった救助対象の騎士団長の女性の名であるようだ。
「その時のこと、知っているなら教えてください」
ホイムが訊くと、エミリアはぽつりぽつりと当時の状況を語り始めた。
岬の国、フラシュ王国。
南部大陸の北東端に位置する強国には聖華騎士団と呼ばれる女性のみで構成された見目麗しく勇壮な騎士団が存在していた。
特に騎士団長以外の団員から選ばれた今代の筆頭騎士においては南方の大国、ガミニアから近々魔王討伐に乗り出すと噂される勇者一行にすら引けを取らぬ実力であると噂されていた。
彼女たちが代々守護しているのは国だけでなく、歴代の王女――姫君であった。
そして彼女らには姫の護衛だけでなく、勉学の面倒や遊戯の相手も任されていた。そして今エミリアがしているように、寝かしつけも仕事の内であった。
「……そして最初の王様は、悪い人たちをいっしょに倒した最初の騎士と手を取り合い、この国を作ったのでした……めでたしめでたし」
欠伸混じりのエミリアが王女の私室にある豪奢なベッドに腰を掛け、同じベッドに寝転がる齢十ほどの王女リアラに読み聞かせていたのは、フラシュ王国の成り立ちを分かりやすく描いた絵本であった。
王女の寝かしつけを担当するのは聖華騎士団の中でも筆頭騎士をはじめ、真に信頼と実力と美貌を伴う者だけであった。
「エミリア! もう一回! もう一回読んで!」
レースの寝巻きで小さな体を包むリアラが、エミリアの腕に抱きつきながらせがんでくる。
「姫様……もう三回目ですよ? いい加減私も眠くなって参りました」
呆れて物を言うエミリアの格好もシルクでできた光沢のある寝間着である。
エミリア自身はあまりこのような麗しい格好は好んでいない。聖歌騎士団の入団条件に美貌が優れていることが挙げられるが、自分は剣の腕のみで騎士団に入れたものだと信じていた。
男よりも大柄で体中には戦場で刻んだ古傷も多く、およそ女性らしさと無縁だと本人が自覚していた。
そんなエミリアをこのようにリアラが慕うのも、そのような自分が聖歌騎士団に所属する見目麗しい女性たちの中でも異質で目立ち、珍しいからであるからだと考えていた。
「そう噂でしかない。だがそれだけ世間に認められていたにも関わらず、己の主を手に掛けようとした凶悪な騎士団に所属していた者を、ホイム様に近付けるわけにはいかぬ!」
(まただ……)
またエミリアが苦しげに表情を歪める。そしてホイムの首も苦しげに締まっていく。
ギブギブ。
「エミリア」
警戒を続けるアカネとは裏腹に、食事を終えたルカは何の警戒もせずに俯くエミリアの顔を覗き込む。
「お前悪い奴か?」
屈託のない表情と言葉。真っ直ぐな問いかけが苦悶に苛まれる彼女の心に突き刺さる。
「悪い奴?」
「…………違う」
小さな声で絞り出したエミリアの頭を、ルカはお姉さんのように撫でてあげた。
「エミリア良い子。心配ない」
「……ですって、アカネさん」
ルカの言葉にホイムも乗っかり、アカネを見上げる。
「……」
一人だけずっとエミリアを警戒していたアカネであったが、二人の視線を受けて折れることとなった。
「はあ……分かりました。これ以上続けていては私だけ悪者になってしまいます」
「僕たちの身を案じてのことじゃないですか」
アカネの腕からようやく解放されたホイムは、今にも泣き出しそうな顔をしているエミリアに歩み寄って腰を下ろした。
「エミリアさん。話を訊かせてくれますか?」
「……はい」
ホイムの言葉に、エミリアは心から感謝の言葉を述べるのだった。
「素性を隠していたことは謝罪します。ですが嘘は申していません。私は、遺跡の洞窟に潜む我らを陥れた黒幕の成敗と……元聖華騎士団団長の救出をお願いしたいのです」
改めて、ホイムたち四人は竈の火を囲んで話を始めた。
今度はホイムがアカネに抱かれることなく、しっかり四人で火を囲んでいた。
「黒幕……というのは、半年前の事件の?」
炎越しに向かい合うホイムの問いに、エミリアは頷いた。
「その正体は一体……?」
その問いかけに対しては明確な返答はなかった。というよりも彼女自身知らないことであったのだ。
「分かりません」
「分からないということはないだろう。怪しい者がいたから、お前はそいつのいる洞窟へいくのではないか?」
エミリアはアカネの言葉には頷いた。
「その通りだ。黒幕は間違いなくいるはずだ」
はず、という語尾に一抹の不安を覚えるアカネであったが、エミリアは尚も力説した。
「そうでなければ! アリアスが……団長が姫を襲うなどありえん……」
アリアスというのが、エミリアの依頼にあった救助対象の騎士団長の女性の名であるようだ。
「その時のこと、知っているなら教えてください」
ホイムが訊くと、エミリアはぽつりぽつりと当時の状況を語り始めた。
岬の国、フラシュ王国。
南部大陸の北東端に位置する強国には聖華騎士団と呼ばれる女性のみで構成された見目麗しく勇壮な騎士団が存在していた。
特に騎士団長以外の団員から選ばれた今代の筆頭騎士においては南方の大国、ガミニアから近々魔王討伐に乗り出すと噂される勇者一行にすら引けを取らぬ実力であると噂されていた。
彼女たちが代々守護しているのは国だけでなく、歴代の王女――姫君であった。
そして彼女らには姫の護衛だけでなく、勉学の面倒や遊戯の相手も任されていた。そして今エミリアがしているように、寝かしつけも仕事の内であった。
「……そして最初の王様は、悪い人たちをいっしょに倒した最初の騎士と手を取り合い、この国を作ったのでした……めでたしめでたし」
欠伸混じりのエミリアが王女の私室にある豪奢なベッドに腰を掛け、同じベッドに寝転がる齢十ほどの王女リアラに読み聞かせていたのは、フラシュ王国の成り立ちを分かりやすく描いた絵本であった。
王女の寝かしつけを担当するのは聖華騎士団の中でも筆頭騎士をはじめ、真に信頼と実力と美貌を伴う者だけであった。
「エミリア! もう一回! もう一回読んで!」
レースの寝巻きで小さな体を包むリアラが、エミリアの腕に抱きつきながらせがんでくる。
「姫様……もう三回目ですよ? いい加減私も眠くなって参りました」
呆れて物を言うエミリアの格好もシルクでできた光沢のある寝間着である。
エミリア自身はあまりこのような麗しい格好は好んでいない。聖歌騎士団の入団条件に美貌が優れていることが挙げられるが、自分は剣の腕のみで騎士団に入れたものだと信じていた。
男よりも大柄で体中には戦場で刻んだ古傷も多く、およそ女性らしさと無縁だと本人が自覚していた。
そんなエミリアをこのようにリアラが慕うのも、そのような自分が聖歌騎士団に所属する見目麗しい女性たちの中でも異質で目立ち、珍しいからであるからだと考えていた。
1
お気に入りに追加
2,315
あなたにおすすめの小説
異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
あ、出ていって差し上げましょうか?許可してくださるなら喜んで出ていきますわ!
リーゼロッタ
ファンタジー
生まれてすぐ、国からの命令で神殿へ取られ十二年間。
聖女として真面目に働いてきたけれど、ある日婚約者でありこの国の王子は爆弾発言をする。
「お前は本当の聖女ではなかった!笑わないお前など、聖女足り得ない!本来の聖女は、このマルセリナだ。」
裏方の聖女としてそこから三年間働いたけれど、また王子はこう言う。
「この度の大火、それから天変地異は、お前がマルセリナの祈りを邪魔したせいだ!出ていけ!二度と帰ってくるな!」
あ、そうですか?許可が降りましたわ!やった!
、、、ただし責任は取っていただきますわよ?
◆◇◆◇◆◇
誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。
100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。
更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。
また、更新は亀ではなくカタツムリレベルのトロさですので、ご承知おきください。
更新停止なども長期の期間に渡ってあることもありますが、お許しください。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。
女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。
※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。
修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。
雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。
更新も不定期になります。
※小説家になろうと同じ内容を公開してます。
週末にまとめて更新致します。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
騎士志望のご令息は暗躍がお得意
月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。
剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作?
だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。
典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。
従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる