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パルメティの街
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「突然の乱入、非礼として改めてお詫び申し上げる」
日も暮れた森の傍、展開されたホイムたちのキャンプの竈の火を囲む三つの影があった。
ホイム達の前に現れたマント姿の冒険者はエミリアと名乗った。
自己紹介をしたところでホイムの提案で食事をしながら事情を訊くことにした。
「いえ……助けに入ってくれたことに、改めて感謝します」
そう言うホイムが少し話しにくそうなのは、彼の身をアカネがしっかりと抱きしめて座っているからだ。
それはまるで蛇から雛を守る親鳥のようである。過保護!
ルカは客人に熊肉を焼いた塊を差し出し、自分はより大きな肉塊をもぐもぐと頬張っている。
そして客人であるエミリアは、熊肉に手を付けずに真剣な面持ちで彼らの輪に加わっていた。
「それで、エミリアさんはどうして僕の加勢に?」
一つ息をつき、エミリアは話をしてくる。
「……ギルドで貴方がたを見かけ、討伐クエストをこなしにいくと耳にした」
「ほう。その時からホイム様に目を付けていたと」
「ああ」
むむむー!
自分で問いかけておきながらあっさりと肯定されたことで、ホイムを抱くアカネの手が一層力を増した。
「アカネさんギブギブ……それで目を付けたっていうのは、その……どういう意味です?」
「私は腕に覚えのある者を探していた。討伐依頼を進んでこなそうとするような腕利きをだ。私もあの街に滞在して日は浅いが、その間このクエストを受けて街を立ったものは貴方がただけだった」
「ずっとギルドで人を観察してたんですか? 強い人を見つけるために……」
「はい。それも身軽で、できれば数名のパーティを」
「その条件に僕らはぴったりだった、と」
エミリアは頷いた。
身軽な者が条件になっているのは、彼女の装備が重装なことと関係しているのかもしれない。
くたびれたマントの下には薄汚れたプレートメイルと皮のスカートと布のズボンにメタルグリーブ。頑強なシールドとセットのブレード。
一見するとあまり綺麗な装備とは言い難いが、じっくりと見ればその一つ一つに上等な装飾が施されており、磨き上げれば相応の輝きと価値のあるものであると見る者が見れば気付くはずである。
それは装備だけでなく、エミリア自身もであった。
重装備を纏うだけの屈強な肉体が鎧の下に収められており、肌を晒している部位となれば顔くらいのものである。
その顔も左頬には古傷が刻まれており、歴戦の女冒険者を思わせる風貌であるが、短い青髪は柔らかくさらりとしており、強い光を宿す黒い瞳は美しく輝いている。
手入れをすればその長身もあり相応に人目を惹く女性であることは間違いない。
それを見抜いているからこそ、突然ホイムに膝をついたエミリアをアカネは警戒していたが、彼女が気付いていたのはその美しさだけではなかった。
「貴方がたには依頼をしたい。私の……私の目的を手助けしてもらいたい。その強さを貸していただきたい」
「解せませんね」
口を挟んだのはホイムを抱くアカネである。
「貴女ほどの手練がわざわざ見ず知らずの冒険者に協力を仰ぐなど不自然極まりない。ほとんどの問題事など、一人で解決できように」
「ああ。否定はしない」
アカネがまたムッとする。その度にホイムの体はギリギリと。
「ギブギブ……」
どうにか腕を緩めてもらいながら、ホイムもその点は些か疑問ではあった。
ヘビーダノスを倒した力量を見ただけでも、彼女の実力はかなりのものであることは明白である。
そんな彼女がわざわざ依頼してくる理由とは一体何かと思いながら耳を傾けた。
「問題は場所だ」
「場所ですか?」
「はい。私が貴方がたに協力していただきたいのは、遺跡にある洞窟に潜む標的の討伐と、おそらく囚えられているであろう仲間の救出なのです」
どうやらその洞窟という場所こそ、エミリアが一人で出向けぬ理由のようであった。
「ご覧いただいた通り、私の技や装備は洞窟という狭い空間での戦闘にはおおよそ向いてはおりません。標的の潜む洞窟の規模や深さも分からぬこともあり、おそらく私は実力の三割も出せないと考えております」
「なるほど。だからできるだけ身軽そうで戦いに慣れた人たちを探していたと」
ホイムにもエミリアの考えが大体理解できてきた。
確かにホイム、アカネ、ルカはエミリアのように大きな装備を必要としない。加えてアカネとルカは探索に向いた技術も身につけており、未知の洞窟を進むならば大いにプラスになるだろう。
しかし、話を訊いてからホイムにも解せない疑問が湧いてきた。
「でも、そういうのは直接依頼せずにギルドにクエスト登録すれば良かったのではないですか?」
エミリアも冒険者ならば、そうして協力者を募った方が楽なことは知っているはずである。細かい条件もつけられるので、このように街を立つ冒険者を追って力量を見定める必要もない。
日も暮れた森の傍、展開されたホイムたちのキャンプの竈の火を囲む三つの影があった。
ホイム達の前に現れたマント姿の冒険者はエミリアと名乗った。
自己紹介をしたところでホイムの提案で食事をしながら事情を訊くことにした。
「いえ……助けに入ってくれたことに、改めて感謝します」
そう言うホイムが少し話しにくそうなのは、彼の身をアカネがしっかりと抱きしめて座っているからだ。
それはまるで蛇から雛を守る親鳥のようである。過保護!
ルカは客人に熊肉を焼いた塊を差し出し、自分はより大きな肉塊をもぐもぐと頬張っている。
そして客人であるエミリアは、熊肉に手を付けずに真剣な面持ちで彼らの輪に加わっていた。
「それで、エミリアさんはどうして僕の加勢に?」
一つ息をつき、エミリアは話をしてくる。
「……ギルドで貴方がたを見かけ、討伐クエストをこなしにいくと耳にした」
「ほう。その時からホイム様に目を付けていたと」
「ああ」
むむむー!
自分で問いかけておきながらあっさりと肯定されたことで、ホイムを抱くアカネの手が一層力を増した。
「アカネさんギブギブ……それで目を付けたっていうのは、その……どういう意味です?」
「私は腕に覚えのある者を探していた。討伐依頼を進んでこなそうとするような腕利きをだ。私もあの街に滞在して日は浅いが、その間このクエストを受けて街を立ったものは貴方がただけだった」
「ずっとギルドで人を観察してたんですか? 強い人を見つけるために……」
「はい。それも身軽で、できれば数名のパーティを」
「その条件に僕らはぴったりだった、と」
エミリアは頷いた。
身軽な者が条件になっているのは、彼女の装備が重装なことと関係しているのかもしれない。
くたびれたマントの下には薄汚れたプレートメイルと皮のスカートと布のズボンにメタルグリーブ。頑強なシールドとセットのブレード。
一見するとあまり綺麗な装備とは言い難いが、じっくりと見ればその一つ一つに上等な装飾が施されており、磨き上げれば相応の輝きと価値のあるものであると見る者が見れば気付くはずである。
それは装備だけでなく、エミリア自身もであった。
重装備を纏うだけの屈強な肉体が鎧の下に収められており、肌を晒している部位となれば顔くらいのものである。
その顔も左頬には古傷が刻まれており、歴戦の女冒険者を思わせる風貌であるが、短い青髪は柔らかくさらりとしており、強い光を宿す黒い瞳は美しく輝いている。
手入れをすればその長身もあり相応に人目を惹く女性であることは間違いない。
それを見抜いているからこそ、突然ホイムに膝をついたエミリアをアカネは警戒していたが、彼女が気付いていたのはその美しさだけではなかった。
「貴方がたには依頼をしたい。私の……私の目的を手助けしてもらいたい。その強さを貸していただきたい」
「解せませんね」
口を挟んだのはホイムを抱くアカネである。
「貴女ほどの手練がわざわざ見ず知らずの冒険者に協力を仰ぐなど不自然極まりない。ほとんどの問題事など、一人で解決できように」
「ああ。否定はしない」
アカネがまたムッとする。その度にホイムの体はギリギリと。
「ギブギブ……」
どうにか腕を緩めてもらいながら、ホイムもその点は些か疑問ではあった。
ヘビーダノスを倒した力量を見ただけでも、彼女の実力はかなりのものであることは明白である。
そんな彼女がわざわざ依頼してくる理由とは一体何かと思いながら耳を傾けた。
「問題は場所だ」
「場所ですか?」
「はい。私が貴方がたに協力していただきたいのは、遺跡にある洞窟に潜む標的の討伐と、おそらく囚えられているであろう仲間の救出なのです」
どうやらその洞窟という場所こそ、エミリアが一人で出向けぬ理由のようであった。
「ご覧いただいた通り、私の技や装備は洞窟という狭い空間での戦闘にはおおよそ向いてはおりません。標的の潜む洞窟の規模や深さも分からぬこともあり、おそらく私は実力の三割も出せないと考えております」
「なるほど。だからできるだけ身軽そうで戦いに慣れた人たちを探していたと」
ホイムにもエミリアの考えが大体理解できてきた。
確かにホイム、アカネ、ルカはエミリアのように大きな装備を必要としない。加えてアカネとルカは探索に向いた技術も身につけており、未知の洞窟を進むならば大いにプラスになるだろう。
しかし、話を訊いてからホイムにも解せない疑問が湧いてきた。
「でも、そういうのは直接依頼せずにギルドにクエスト登録すれば良かったのではないですか?」
エミリアも冒険者ならば、そうして協力者を募った方が楽なことは知っているはずである。細かい条件もつけられるので、このように街を立つ冒険者を追って力量を見定める必要もない。
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