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パルメティの街

戻れませんでした

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 時刻は昼過ぎ。順調なら既にアカネとルカが宿に戻っているはずである。
 宿に戻ったホイムが食堂のカウンターに居る店主に訊ねてみると、案の定アカネが戻っているとのことだった。
 早速部屋に入ると、ベッドに腰を下ろすアカネが声をかけてきた。

「お帰りなさいませ」
「ただいま……ルカどうしたの?」

 室内に人の姿は外出用の普段着姿のアカネしかない。ルカはといえば、彼女の太ももの上で狼の姿をして丸くなっている。

「一晩軟禁されたことが堪えたようで……迎えに行ってからずっとこの調子なんです」
「……」

 ルカらしい元気が感じられない。よほど寂しかったのだろう。

「そっか。ほったらかしになっちゃってごめんね」

 仕方なかった事とはいえ、一晩独りで過ごさせてしまったことを詫びるホイムはアカネの隣に座りルカの銀毛をさわさわと撫でた。
 ルカは一瞬だけ気持ちよさそうに目を細め、そのまますぅすぅと寝入ってしまったようだった。

「……この様子じゃあ」
「今日は他の予定は無理そうですね」

 午後は冒険者ギルドでルカの登録をするつもりであったが、今日はルカの調子を鑑みてのんびりとすごすのもいいだろう。
 一週間分の宿泊費は支払っているので、あと六日はパルメティに滞在できる。支払いが済んでいるので気は楽だ。
 その瞬間、ホイムはとてつもない事実に気が付いた。

「あわわわわわわわ……」
「どうしました?」

 顔面蒼白で呼吸も止まりそうな異常な様子のホイムにアカネは心配して声をかけた。

「…………」

 これを言ってしまったら彼女は怒るだろうか。
 しかし隠し通せる事柄ではないことは明白。
 ホイムは腹を決めて彼女に事実を告げた。

「お金全部なくなっちゃいました」

 てへぺろ。
 女神のもとで覚えた愛らしい仕草をすぐに取り入れ、アカネに許してもらおうと試みた。



「――そうですか事情は分かりました」

 アカネに両のほっぺが赤くなるくらい抓られたホイムは半べそになりながらも自分が神殿で女神に預かっていた全財産を没収されたことを告げた。
 金を没収されたというのは副次的なことである。異世界スーパーを使うことはすでにできなくなっている。それに付随して、チャージしていた資金も全て水泡と帰した。
 話の流れで、実は自分が転移者としてこのフォトナームに喚ばれた異世界人である事と、勇者のパーティにいた事もアカネと(起きて聞いているかはイマイチはっきりしない)ルカに説明しておいた。
 もう隠し事をするのも面倒になってきたのである。それに二人とならいっそのことこのまま運命共同体を築くのも吝かではないと思っていたのだった。

「そして最後にもう一つお伝えしなくてはならないことが」
「何でも仰ってください。もう全て吐きだしてください」

 アカネの言葉に背中を押され、とうとうホイムは自分の真の姿を曝け出すことにしたのだ。
 自分の顔に手を当ててキュアを唱える。

「これが僕の本当の姿です」

 冴えないおっさんに戻った自分がどう思われるのか怖くもあったが、彼女たちなら受け入れてくれると信じたかったのだった。

「……」

 隣に座るアカネをいつものように見上げながら、彼女が何と言ってくるのか緊張の面持ちで待っていた、

「……」

 しばらく見つめ合っていると、彼女が不思議そうに首を傾げた。

「いつもと変わらぬ愛らしいお姿です」
「…………」

 ホイムは体を見下ろした。そこにあるのはもう馴染んでいる縮んだ子どもの体であった。

「あれ? あれ? あれ?」

 どうして戻ってないんだろう。呪文を間違えたのだろうか。
 混乱の渦に陥るホイムは、

「ちょ、ちょっと今日はもう解散しましょう!」

 訝しげな表情のままルカを抱えるアカネの背中を押し、ひとまず部屋に一人になった。
 そのままベッドに飛び込むと、手を合わせて必死に祈りを届ける。

「女神様女神様大変なことになりました一体どういうことでしょう声が聞こえておいでなら今すぐこの場で僕をさっきの場所に連れていきやがれ!」

 本来なら神聖な場所でなければ女神への祈りなど届こうはずもないのだが、それを忘れてしまうほどテンパっているホイムは今この場で女神を罵るように祈りを込めた。
 その時不思議なことが起こった。
 本来届くはずのない祈りが、ホイムの必死さに応えて届いたのだった。



「戻ってきたぜ!」

 真っ白い世界にログハウス一つという先ほどの空間に舞い戻ったホイムは、着くやいなや女神がいるはずの建物の扉をガンガンノックする。
 すると待ちかねていたように勢いよく扉が開いた。

「ハイハーイ……なんで?」

 どう見ても待ち人来たるという顔ではない困惑の表情を浮かべるジャージ姿のギャル女神とホイムの目が合った。
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