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パルメティの街
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パルメティ滞在二日目の朝、ルカを迎えに行くアカネを見送ったホイムはその足で街の中心部にある神殿へと向かっていた。
旅の途中で巡礼に寄ったとでも言えば、祈りの間にでも通されるだろう。そこで祈りを捧げれば、彼の言葉が女神に届くはずである。
小さな教会辺りでも構わないのだが、少し気合を入れて大きな神殿で再会してやろうとホイムは考えていた。
「再会……するとして半年ぶりになるのか」
道すがらにホイムが思い返しているのは、こちらに喚ばれた時のことであった。
『……タケル、タケル。私の声が聞こえますね』
突然頭の中に響く女声に目覚めた保井武は周りを見回した。
「どこだここ……」
自分が立っている場所に見覚えはない。見えるものすらない。
足元も地平線も空も、全てが白で塗りつぶされた空間であった。
『聞こえているのなら返事をなさい』
「あっはい。聞こえてます」
『よろしい』
一方的に脳内に話しかけてきてこの言い草であることに、武は不信感を抱いていた。
しかしながら全く状況の飲み込めない事態に遭遇している今、妙な口答えはしない方が安全ではと考えなるべく沈黙を貫いた。
『今、あなたはとても混乱していることでしょう』
武は無言で頷いた。
『あなたは元いた世界で事故にあい、まさに死ぬ寸前であったのです』
朧気ながら記憶が蘇ってくる。
武は自分が朝の駅ホームにいたことを思い出す。
通勤ラッシュの人波に揉まれるいつもの朝であったはず。
なのに今日は不意に誰かに背中を押されたような感触を受け、目の前には快速電車の先頭が迫るシーンがここに来る寸前に見た光景であった。
「僕は死んだんですか?」
『チッ。しっかりと話を聞きなさい。死ぬ寸前であったのです』
今めっちゃ舌打ちされた気がするんですけど。
『そこを私が助けて差し上げたのです。感謝なさい』
「……ありがとうございます」
釈然としない武であったが、ここは素直に感謝の言葉を述べておくことにした。声しか聞こえぬ姿の見えない女であるが、少し気分を良くしたのが続く言葉に垣間見えた。
『あなたの命を救った私はあなたの世界でいうところの異世界、フォトナームの女神フォトです。覚えておきなさい』
「女神フォト様。ありがとうございます」
『もうよい。あなたの感謝の気持ちは十分に伝わりました』
「そうですか。では僕はこれで……元の世界に帰ろうと思います」
『それは無理です』
そう言われる気はしていたが、そこは何故かと武は一応問い返した。
『今地球に戻ってしまえばその瞬間あなたは鉄の箱にその身を砕かれるでしょう』
元いた場所にしか戻せないと言っているのだ。それを都合よくしてくれるのが神様じゃないのですかと訴えたい武であったが、口答えして機嫌を損ねてしまえば舌打ちで済まなくなるかもしれないという恐れがあり、不用意な発言は未だできないでいた。
『そこであなたを私の権限でフォトナームに転移させてやろうというのです』
次第に口調が雑になってきているのもスルーしておく大人の対応で臨む武である。
「ありがとうございます。ところで転移させていただくからには、フォトナームで何かしなくてはならないのでしょうか」
『あなたには転移者としてフォトナームの人族の勇者に力を貸してほしいのです』
思ったよりも面倒臭そうな条件を突きつけられたと武は感じた。しかし拒否などできようもない。すれば電車に轢き殺される可能性大である。
「分かりました。しかし僕は特別な力なんて持ってません。その、フォトナームでは何か力を授かるんでしょうか」
『要望があれば融通しましょう。希望の職や能力はありますか?』
以外に話せる女神様じゃん。
少しだけ彼女のことを見直しながら、武は思いついた要求をいくつか口にしていく。
「勇者様を助けるのが目的ならサポートに向いた職業がいいです」
前線で体を張りたくないだけである。
『では回復術士がよさそうですね』
「それと……そうですね、ネット通販的なやつと無限に使えるアイテムボックス的なやつとそれから……」
その当時流行していた異世界モノのあれこれを軽い調子で口にしていったところで、武はハッとして口を結んだ。
『あーはいはい分かりましたじゃあ今言った中からいくつかテケトーに見繕っとく感じで』
完全に投げやりモードな返事が返ってくる。何なのこの女神ヤル気あんのと訴えたかったが、それもできない。
『ほいほいちょちょいのちょい』
呪文ですらない言葉をかけられると、武の体が光に包まれた。
『では武よ。フォトナームを救う勇者の力となるのです。困った時は祈りを捧げなさい』
さっさと送り出してしまおうという腹づもりか、女神フォトの言葉と同時に武の足元に魔法陣のようなモノが描かれていく。
飛ばされると直感した武は、すかさず挙手した。
「最後に質問です!」
『あ?』
臆すものか。
「どうして僕がこの役目に選ばれたのですか?」
死に直面していた自分を助けたのには何か特殊な理由があるに違いない。勇者に匹敵する特別な才能や運命が自分にあるはずなのだと。
『…………ノリ?』
「お前ちょっとふざけんなマジ――」
別れ際の女神の返答にあらん限りの罵詈雑言をぶつけたくなった武であったが、それを言い切る前に異世界フォトナームへと落とされてしまったのだった。
旅の途中で巡礼に寄ったとでも言えば、祈りの間にでも通されるだろう。そこで祈りを捧げれば、彼の言葉が女神に届くはずである。
小さな教会辺りでも構わないのだが、少し気合を入れて大きな神殿で再会してやろうとホイムは考えていた。
「再会……するとして半年ぶりになるのか」
道すがらにホイムが思い返しているのは、こちらに喚ばれた時のことであった。
『……タケル、タケル。私の声が聞こえますね』
突然頭の中に響く女声に目覚めた保井武は周りを見回した。
「どこだここ……」
自分が立っている場所に見覚えはない。見えるものすらない。
足元も地平線も空も、全てが白で塗りつぶされた空間であった。
『聞こえているのなら返事をなさい』
「あっはい。聞こえてます」
『よろしい』
一方的に脳内に話しかけてきてこの言い草であることに、武は不信感を抱いていた。
しかしながら全く状況の飲み込めない事態に遭遇している今、妙な口答えはしない方が安全ではと考えなるべく沈黙を貫いた。
『今、あなたはとても混乱していることでしょう』
武は無言で頷いた。
『あなたは元いた世界で事故にあい、まさに死ぬ寸前であったのです』
朧気ながら記憶が蘇ってくる。
武は自分が朝の駅ホームにいたことを思い出す。
通勤ラッシュの人波に揉まれるいつもの朝であったはず。
なのに今日は不意に誰かに背中を押されたような感触を受け、目の前には快速電車の先頭が迫るシーンがここに来る寸前に見た光景であった。
「僕は死んだんですか?」
『チッ。しっかりと話を聞きなさい。死ぬ寸前であったのです』
今めっちゃ舌打ちされた気がするんですけど。
『そこを私が助けて差し上げたのです。感謝なさい』
「……ありがとうございます」
釈然としない武であったが、ここは素直に感謝の言葉を述べておくことにした。声しか聞こえぬ姿の見えない女であるが、少し気分を良くしたのが続く言葉に垣間見えた。
『あなたの命を救った私はあなたの世界でいうところの異世界、フォトナームの女神フォトです。覚えておきなさい』
「女神フォト様。ありがとうございます」
『もうよい。あなたの感謝の気持ちは十分に伝わりました』
「そうですか。では僕はこれで……元の世界に帰ろうと思います」
『それは無理です』
そう言われる気はしていたが、そこは何故かと武は一応問い返した。
『今地球に戻ってしまえばその瞬間あなたは鉄の箱にその身を砕かれるでしょう』
元いた場所にしか戻せないと言っているのだ。それを都合よくしてくれるのが神様じゃないのですかと訴えたい武であったが、口答えして機嫌を損ねてしまえば舌打ちで済まなくなるかもしれないという恐れがあり、不用意な発言は未だできないでいた。
『そこであなたを私の権限でフォトナームに転移させてやろうというのです』
次第に口調が雑になってきているのもスルーしておく大人の対応で臨む武である。
「ありがとうございます。ところで転移させていただくからには、フォトナームで何かしなくてはならないのでしょうか」
『あなたには転移者としてフォトナームの人族の勇者に力を貸してほしいのです』
思ったよりも面倒臭そうな条件を突きつけられたと武は感じた。しかし拒否などできようもない。すれば電車に轢き殺される可能性大である。
「分かりました。しかし僕は特別な力なんて持ってません。その、フォトナームでは何か力を授かるんでしょうか」
『要望があれば融通しましょう。希望の職や能力はありますか?』
以外に話せる女神様じゃん。
少しだけ彼女のことを見直しながら、武は思いついた要求をいくつか口にしていく。
「勇者様を助けるのが目的ならサポートに向いた職業がいいです」
前線で体を張りたくないだけである。
『では回復術士がよさそうですね』
「それと……そうですね、ネット通販的なやつと無限に使えるアイテムボックス的なやつとそれから……」
その当時流行していた異世界モノのあれこれを軽い調子で口にしていったところで、武はハッとして口を結んだ。
『あーはいはい分かりましたじゃあ今言った中からいくつかテケトーに見繕っとく感じで』
完全に投げやりモードな返事が返ってくる。何なのこの女神ヤル気あんのと訴えたかったが、それもできない。
『ほいほいちょちょいのちょい』
呪文ですらない言葉をかけられると、武の体が光に包まれた。
『では武よ。フォトナームを救う勇者の力となるのです。困った時は祈りを捧げなさい』
さっさと送り出してしまおうという腹づもりか、女神フォトの言葉と同時に武の足元に魔法陣のようなモノが描かれていく。
飛ばされると直感した武は、すかさず挙手した。
「最後に質問です!」
『あ?』
臆すものか。
「どうして僕がこの役目に選ばれたのですか?」
死に直面していた自分を助けたのには何か特殊な理由があるに違いない。勇者に匹敵する特別な才能や運命が自分にあるはずなのだと。
『…………ノリ?』
「お前ちょっとふざけんなマジ――」
別れ際の女神の返答にあらん限りの罵詈雑言をぶつけたくなった武であったが、それを言い切る前に異世界フォトナームへと落とされてしまったのだった。
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