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獣狼族の森

一服しました

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 ザーインの北の大森林。獣魔の棲家とも呼ばれるそこは、ザーイン西方にある森と比べてもモンスターのレベルは高かった。
 森の周辺に位置する町々に寄る冒険者の平均的なレベルでは到底太刀打ちできない恐ろしい場所である。
 はるか西方セミアの街のギルドにならば、存分に渡り合える冒険者は大勢いるだろう。
 しかしわざわざ辺境と呼ばれる地方の森に出向く好き者は多くはなかった。
 だからこの森の危険度は増す一方である。

「ホイム様。昼食の用意ができました」

 そんな中で呑気に昼食の準備をし、芳醇な香りを撒き散らす二人だけのパーティがいた。

「うん。歩き疲れちゃったよ」

 木陰で休んでいた少年がテクテクと少し年上の少女のもとに歩いていく。
 だぼだぼのローブの裾を踏んでコテンと転んだりしながら、二つある切り株の一つに腰をかける。
 忍装束の少女が火にかけた鍋の料理をお椀に移して食器と共に手渡した。

「どうぞ。我が国に伝わる伝統の調味料を用いた山菜のスープです」

 お椀を受け取ったホイムはスープの匂いをいっぱいに吸い込んだ。

「うん……お味噌汁なんて久しぶり」
「味噌をご存知だったのですか?」
「あ! うん、何度か異国の料理を口にする機会があって……」
「その歳で古今東西の料理に精通しているとは……さすがホイム様……」

 大層感嘆するアカネに、ホイムは笑うしかなかったようだ。
 それからアカネはホイムの様子をじっと窺う。まるで彼がお腹を満たすまで動かないといったように。

「アカネさんも一緒に食べましょうよ」
「そんな! 主が食べ終えるのを待つのも私の務め……」
「……」

 ホイムは不貞腐れた膨れっ面でアカネを見やり、やがて根負けしたアカネが申し訳なさそうにお椀を手にした。

「では……お言葉に甘えて」
「うん!」

 するとアカネは二つある切り株のうちの一つ……ホイムが座る切り株へと腰を下ろした。

「まさかのこっち!?」
「あ……ず、図々しすぎた……でしょうか?」
「う、うぅん僕は全然構わないから……」

 幸せそうにイチャイチャする二人の間合いには、森に棲息する獣たちも踏み込めずにいた。
 あれほど隙きだらけでお気楽な雰囲気を醸しているにも関わらず、彼らの力量はおよそこの森を我が物顔で闊歩する獣たちの数段上であることを、本能で察していたのだ。

「いただきます」

 二人は声を揃えてから山菜の味噌汁をいただく。しかしアカネはどうしてもホイムの様子が気になってしまい、やはり彼が先に口にするのを待っていた。
 ホイムはお箸を器用に使い具を口に運び、静かにお汁を流し込む。

「……」

 どうですか。と心の中で訊ねるアカネ。

「うん。お味噌の味がしっかりとして美味しいよ」

 その瞬間、覆面で隠していても分かるくらいにアカネの表情がパアッと明るくなった。
 いそいそと覆面を下げて素顔を晒すと彼女は上機嫌で味噌汁を口にした。

「アカネさんは料理得意なんですね」
「得意、と言うほどでは……。人並みです」
「僕なんてからっきしですから。人並みでも尊敬です。きっといいお嫁さんになりますよ」
「ああそんな! まだ早いです……せめてホイム様が成人するあと二年はお待ち下さい……」
「あわわ! そ、そんなつもりで言ったわけじゃないですから!」
「……そんなつもりはなかったのですね」

 しゅんとしてしまうアカネに対し、ホイムは狼狽して困ってしまった。

「ふふ、冗談です」
「あ……ああ冗談でしたか」
「半分」
「はんぶん……」

 後の半分は。と訊ねる勇気はまだまだホイムにはなかったのだった。

「ささ。そろそろホイム様が買ってくださった飯盒とやらで、お米が炊けた頃でしょう」

 お鍋以外にも二つ、異世界スーパーで買った飯盒も火にかけていた。
 魔力で動く炊飯器なども売ってあるが、野営ならこの方が雰囲気が出ると思いそちらにしていたのだった。

「わあ……!」

 またも二人揃って声を上げる。飯盒の蓋を開けるとツヤツヤに光った白米がまるで宝石のように煌めいていた。
 流石に最新式の炊飯器で炊くお米と比べられるものではないが、こういうのはやはり雰囲気で何倍にも美味に感じられる。

「……」

 それがこうして想い人と共になら尚更であると、ホイムはご飯を噛みしめるのだった。

「ごちそうさまでした」

 あっという間に昼食を平らげ、ホイムは満足げにお腹をさする。このまま横になってしまいたい。

「さあ。ではお召し物を脱いでください」
「ええ!? お昼食べたばっかりで……ナニを……?」
「勘違いなさらないでください! 私ずっと気になっておりました……その服、全然大きさが合っていないではないですか」

 確かにずっと袖や裾を折って無理やり着ているせいか、先程のようにうっかり転んでしまうことが多々あった。

「万が一にも戦闘中に転んでしまったら、私のフォローが間に合わないこともあるかもしれません。これは安全のためにも必要なことなのです」
「……分かりました。アカネさんにお任せします」

 ホイムはローブと上着、そしてズボンを脱いでアカネに差し出した。
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