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第7章 文化祭編

第279話「防衛団とアンチ、それぞれの動き」

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翌日


防衛団本部



景信: さぁ、改めて、守里から聞いた情報を報告してもらおうか。


森田: はい。



団長と各部のトップだけが集まる会議室で、少し緊張しながらも、森田は一連の出来事について報告する。



森田: まず、先週の金曜日、アンチが伊衛能高校の文化祭において、同時多発的なトラブルを発生させました。その際に、能高が捕まえた構成員からして、参加した構成員は下位が大半を占め、一部に中位がいた、という状態だったと考えられます。しかし、これは捕縛された構成員の比率から予測したものですので、逃走した構成員の中には、中位が多くいたり、もしかしたら上位もいたかもしれません。


日村: ほぉ、アンチを捕縛するとは。


河野: 風紀委員が優秀とも聞きますし、何より異名を持っている生徒もいますから。


日村: ん?異名?


かおり: あれ、日村さん知らないの?能高にはね、七月櫻だったり、双鬼だったり、あとは、うちの子達とも仲が良い、梅刺奴欺っていう子もいるのよ。


日村: へぇ~~?(梅刺奴欺…どこかで聞いたような…)


かおり: あと他に腕が立ちそうなのは、その梅刺奴欺ちゃんの舎弟って言われてる今1年生の2人組かな。


河野: それは私も初耳です。さすが、情報部ですね。


かおり: いやいや笑


景信: 笑、続けろ。


森田: はい。そのアンチが能高を襲撃した目的は、能高の文化祭で、ざっと言えば、お金の管理をしていたコンピュータを破壊することであり、生徒会や風紀委員などの、目的遂行の障害となるような人物達の注意を分散させるために、同時多発的にトラブルを起こしていたと考えられ、実際に、その最中に、コンピュータを狙って1人の構成員が動いていました。


日村: それを、守里君が止めたんだよね?


森田: そうです。いち早くアンチの目的に気がついた坊ちゃんが、その構成員…本人曰く上位構成員の黒峰龍水、年齢は29歳。外見としては、身長は190cm近くで、手足が長く、黒髪。この男をおよそ40分間に渡り、コンピュータがある部屋に行かせまいと、戦い続けていました。防御に徹した戦い方で、何とか黒峰が撤退するまで持ちこたえ、我々が到着した時に、意識を失いました。


河野: その黒峰龍水についての情報は、他にないのか?


森田: 情報というか、坊ちゃんが黒峰の発言から考察したこと、ならあるんですが…


河野: それでも良い。


森田: 分かりました。坊ちゃんは、黒峰が東京を担当していると言っていたり、ボスや幹部のことを知っていたりすることから、黒峰は、幹部に次ぐ地位におり、東京にいるアンチの中でも、トップクラスに偉く強い奴じゃないか、と言っています。


河野: なるほど…


日村: 今の守里君が、意識を失うほどにダメージを負うとなると、確実に普通の上位構成員ではなく、戦闘専門の上位構成員だね。


景信: あと、紫雲和麒と同格のプレッシャーを感じたとも言っていました。


日村: 紫雲か……


景信: で、黒峰はなんで撤退したんだ?


森田: 明確な理由は分かりませんが、撤退する前に誰かと電話をして、作戦は失敗だと言っていたそうで、おそらく想定以上の数の構成員が捕まったことで、これ以上時間がかかれば、自分が逃げ切れないと思い、撤退したのではないか、と考えられます。


景信: ま、そうだろうな。


河野: もう少し留まってくれれば、包囲網が形成できたんだが…


森田: 我々が、もっと早くに気づいていれば…申し訳ございません。


景信: あぁ。でも、過ぎたことはしょうがない。だから、次のためにも報告の続きを頼む。


森田: はい。黒峰は撤退する前に、坊ちゃんへ翌日の19時に町外れの工場跡地…以前、白城美月さんが誘拐された場所の隣に、1人で来るように言っていたそうで、坊ちゃんが意識を失って、伊衛能病院に入院した翌日、坊ちゃんは病院を抜け出して、指定された場所に向かいました。


かおり: …あの工場跡地、もう一度洗い直すわ。


景信: その方が良さそうだな。


森田: そこで、坊ちゃんは黒峰と2度目の戦闘を行い、その最中に、第三者が乱入したことで、黒峰が拳銃を取り出し、発砲。坊ちゃんが突然の出来事に動けなくなっていたところを、同級生の伊藤陽芽叶さんが身を呈して助け、その伊藤陽芽叶さんが血を流して倒れているのを見た坊ちゃんは意識を失いました。この後のことは、坊ちゃんも人から聞いた話だそうですが、坊ちゃんは、意識がないまま黒峰を倒し、その後乱入してきた男との戦いで自分も倒れ、黒峰はその男に殺され、その男は去り、伊藤陽芽叶さんの親戚によって、伊衛能病院に運ばれた、とのことです。


景信: …報告は以上か?


森田: 一連の出来事に関する情報は以上ですが、坊ちゃんが黒峰から聞き出した重要な情報があります。


景信: 重要な情報?なんだ。


森田: それは、アンチの目的で、アンチは我々が守っている地域の治安を下げると同時に、坊ちゃんのことを探しているそうです。


景信: っ!!……やっぱりか…分かった。報告は以上か?


森田: はい。


景信: 報告感謝する。では、仕事に戻れ。


森田: 失礼します。



ガチャ


こうして、報告を終えた森田が会議室を出て、部屋の中には4人だけが残る。



かおり: やっぱり、守里君は狙われてたんだ。


景信: 可能性はあると思っていたが、まさか…


河野: 守里君を保護しますか?


景信: …いや、まだ様子を見る。アンチ全体としては、守里が、目的の森崎守里であると分かってないみたいだからな。分かった黒峰も殺されたし。


河野: 状況によっては、完全に保護すると?


景信: あぁ。


河野: 了解です。


景信: じゃあ次は、かおり。護衛衆から聞いた情報を。


かおり: はい。護衛衆の1人が見た、意識を失った状態の守里君は、もはや人間ではないレベルの速度と力で、黒峰を圧倒していたそうです。しかし、まずは左腕が動かなくなり、次に右足と、段々と体が言うことを聞かなくなっていったように見えたと。


景信: それは、第3段階の暴走状態だな。


日村: え?ってことはつまり、そこまで守里君は使用できたってこと?


景信: いや、陽芽叶ちゃんが撃たれたことで、無意識下で昔のアレをフラッシュバックして、縛りが強制的に解除されたんだろう。


河野: 昔と同じように、一気に第3段階まで開いてしまったということですね。


景信: ほぼ確実にな。


かおり: それで、さっき森田が言っていたように、途中で男が乱入。その男は小柄で童顔。髪は前髪がパッツン。数回の攻防の末、守里君は倒され、完全に体を動かせなくなったそうです。


日村: 左腕と右足が動かない状態といっても、第3段階を使ってる守里君を倒すって……相当ヤバくない?


かおり: ちなみに、黒峰を呼び捨てにし、風磨という名前を言っていたと…


景信: 風磨…大阪にいる幹部の竹川風磨か。なら、同じ幹部の可能性が高いな。


河野: 愛知にいる幹部とは別…


景信: それはまだ分からない。まず、幹部が何人いるのかも分かってないし。


河野: ですね。


かおり: その後、その男は、瀕死状態の黒峰の胸にナイフを突き立て殺し、外にいた護衛衆に重傷を負わせて、逃走しました。


河野: 捜索は…難しいでしょう。


景信: ま、探させはするけど、期待薄だな。


かおり: そして、その男が去った後、意識を完全に失い倒れている守里君に、陽芽叶ちゃんが暗示をかけ直して、陽芽叶ちゃんも意識を失い、応援に来た護衛衆が倒れた2人と、外にいる重傷を負った護衛衆を、伊衛能病院に運んだ。ここまでが、護衛衆から聞いた情報となります。


景信: ありがとう……すぐにかけ直したから、元の状態に戻ったとは思うんだが…


日村: 守里君が完全に意識を失ってたら、大丈夫なんじゃないの?ほとんど、前の時と同じ状況だし。


景信: まぁ、そうなんだが…


河野: それに関しては、今後の守里君の様子を見ないと、どうか分かりませんから。今は置いておきましょう。


景信: …だな。


かおり: あと、あの子からの報告で、黒峰と繋がっていた白谷直也とその父親を保護。その2人から得られた情報としては、黒峰は金山コーポレーションに、社員として突然やってきた人物で、もう1人社員に親しい人物がいるみたいだが、その社員は会社で一度も見た事がない。白谷父は、上から黒峰の下につくよう命じられ、奥さんが誘拐、そして人質にされたことで、直也君も含めて、黒峰の言いなりとなっていた、だそうです。


景信: 金山コーポレーションか…最近、どんどん伸びてきてるって噂の。


河野: こちらも探りを入れなければ。


日村: その奥さんも早く救出しないとね。


景信: あぁ。


かおり: じゃあ、今、確実に今回の進展として言えることは、アンチの構成員を捕まえたことと、アンチの目的が判明したこと。幹部らしき男の情報を入手できたこと。アンチの被害を受けた人物を保護できたこと。そして、金山コーポレーションとアンチに関わりがあることが分かったということ…ぐらい?


河野: ですね。かなりの進展です。


景信: 進展でいえば、紫音によると、陽芽叶ちゃんの予知の自由度が上がったってよ。


日村: おぉ!すごいじゃん!


景信: 笑、その連絡をしてきた時の、紫音の喜び様は凄かったぞ。


日村: だろうね笑


景信: よし、この報告とまとめた情報を元に、これからの行動を話し合っていくぞ。



「はい!」


◇◇◇


アンチ東京担当の本拠地



炎司 T: だから、ごめんって~風磨。


竹川 T: 全く…ボスにはこちらから説明しとくから、そっちは……確か、阿墨ってやつがいるでしょ?


炎司 T: 阿墨?



ソファに座りながら電話している炎司は、部屋の扉の近くに立っている、右腕に三角巾をつけた上位構成員を見る。



上位: す、すぐ呼びます!



すると、慌ててそう返事をし、部屋の外に出て電話をかけ始めた。



炎司 T: で、ソイツが何?


竹川 T: その阿墨に、黒峰の代わりをしろって言っといて。


炎司 T: そんだけで良いのね?


竹川 T: あと、分からないことがあれば、私に聞くように、とも。


炎司 T: りょ~


竹川 T: どうせお前は、長い伝言は適当に端折るからなw


炎司 T: だって、めんどくさいんだもん。


竹川 T: はいはいw。で、いつあっちに戻るつもり?赤池が悲しんでたよ。


炎司 T: 明日には戻る。


竹川 T: え、どうした?炎司らしくない。


炎司 T: それがさ、こっちで強いの見つけちゃって。万全の状態のソイツと戦うっていう目的ができちゃったから、良い時期が来るまで、仕事がてら遊んで待とうかな~って思って。


竹川 T: 東京で、炎司がそう言うぐらいに強いヤツ……防衛団の団員とか?


炎司 T: 分からん。でも、近くに黒服がいた。


竹川 T: なら、防衛団の可能性が高いな。うちに来たのも黒服だったし。


炎司 T: あっそ。まぁ、どうでも良いけど。


竹川 T: ww炎司からしたらそうだろうな。よし、私も仕事があるから、もう切るぞ。


炎司 T: うん。またね。



ピ


ガチャ!!



炎司: おっと…



電話を切ったと同時に、勢いよく部屋の扉が開かれる。



阿墨: す、すみません。遅くなりました。


炎司: あ、君が阿墨?


阿墨: はい。上位の阿墨誠吾といいます。


炎司: ふ~ん、じゃあ早速、風磨からの伝言。黒峰の代わりをしろ、だって。あと、分からないことがあったら、風磨に聞くように、だって。


阿墨: 分かりました…


炎司: じゃ、帰っていいよ~



まるで興味がないように、最初に顔を一瞥して以降、全く阿墨の方を見ず、携帯をいじったまま、そう言う。



阿墨: あ、あの!



しかし、阿墨は部屋を去ることなく、炎司に話しかける。



炎司: なに?


阿墨: 黒峰は殺されたんですか?


炎司: ん?いや、俺が殺した~


阿墨: そう…ですか…


炎司: なに?嫌だった?w


阿墨: いえ、そういうわけでは。


炎司: あっそ。聞きたいことないなら、邪魔だからさっさと出て行って。


阿墨: はい。失礼します。



ガチャ



阿墨: 黒峰君…いや、黒峰が死んだか…



と、薄暗い廊下に出た阿墨は、そう呟いた。




to be continued



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