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第一部

第10話「新人魔現師の戦い 1」

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バーニアタム大演習場



「お、間に合ったかな。」


「ふぅ……まだ模擬戦は始まってませんか?」


「みたいだね。」



バーニアタムのキャプテンである紫明玲夢と、メンバーの槻谷碧依をキャプテン室に置いて、勇輝、未良、刀花の3人は、急いで大演習場に走って来た。

なぜなら、これから始まるであろう、新人魔現師達の模擬戦を見るためである。




「じゃ、あそこに座ろう。」



そう言って、未良は勇輝の手を引っ張り、大演習場の外周を囲む観客席の最前列に座った。

すると…



「あれ、未良と刀花じゃん。どうしたの?!」



演習場の石のタイルが敷き詰められた舞台の上に並んでいる新人魔現師達の目の前に立つ2人の女性のうちの1人が、そう尋ねた。



「別に気にしなくて良いよ!今はまだ、一緒に何かすることもないだろうし!」


「ん?どういうことだろ。」


「まぁ、未良がああ言ってるんだし、気にせずやろう。」


「それもそうだね。さ、みんな。さっきも言った通り、これから実力を見るための模擬戦をやるから…」



と、話し出す2人と、それを前に少し緊張した面持ちで立つ新人魔現師達を眺めながら、未良と刀花が勇輝に話を始める。



「ねぇ、勇輝。」


「何ですか?」


「もう、早速気になってると思うんだけど、私が今さっき話してた、あそこの2人。それぞれの種族は何か分かる?」


「種族ですか?…」



勇輝は、新人魔現師達に指示を出している2人を見ながら未良の質問に答える。



「あの、長い棒を背負っている女の人は、頭に1本の角が生えているから鬼人族で、大きな盾を背負っている女の人は……う~ん…人族…いや、若干小さいから……話に出てた小人族?」


「お、正解!よく分かったね。勇輝が言った通り、今、舞台上で背中の棒を手に取ったショートカットの人が、鬼人族の"千躰連火せんだ れんか"。そして、新人さん達を連れて、反対側の観客席に座った、大盾を背負った人が、小人族の"楯野優愛たての ゆうあ"。」


「千躰さんと楯野さん……あの、鬼人族はものすごく力が強いって聞いてるんですけど、小人族はそういう種族特性的なものはあるんですか?」


「種族特性か。まず、鬼人族は、怪力でタフで自然治癒力が異常に高い。小人族は、森人族と同じく外魔素との親和性が高い……かな。あ、小人族も長命種だからね。」


「へぇ~…外魔素との親和性が高い、というのは…」



と、更なる質問を勇輝がぶつけようとしたところで…



「勇輝。ごめんだけど、その質問は、答えるのに先に説明しないといけないことが多いから、後からね。今は目の前の模擬戦をしっかりと見よう。」


「はい!お願いします!」


「うん笑」


「良い返事だ笑」



初めての魔現師同士の戦いに、目を輝かせている勇輝と、それを微笑ましく見つつ、新人魔現師達の実力も気になっている未良、刀花が見ている中、模擬戦が始まる。



「本当は、一人一人と戦いたいんだけど、時間もないから、2人か3人で同時に私と戦ってもらうよ。まずは、"羅刹莉理香らせつ りりか"、"白雲真綾しらくも まあや"、"陰野雅かげの みやび"。」


「「はい!」」


「…」



千躰に名前を呼ばれて、観客席から3人が出てくる。



「装備は大丈夫?」


「はい、大丈夫です!」



黒髪ツインテールで、頭に2本の角が生えている鬼人族の羅刹莉理香が、右手に持つ剣と左手に持つ盾を確認しながら、元気よく返事をする。
それに続いて…



「はい。」


「問題なし?です。」



黒いコートを着てフードを被っている陰野雅も、自身の左手にある短剣を見ながら言い、頭に犬の耳がある獣人族、犬人族の白雲真綾も、右手の棒を上にあげながら答えた。



「よし、なら始めようか。好きにかかってきてもらって構わないけど……全力でお願いね。それと、私も反撃するから、そのつもりで。」


「はい!」


「…」


「は~い。」


「優愛、合図よろしく!」


「うん。じゃあ……始め!!」



優愛の声で、最初の模擬戦が始まった。



「いきます!!」



するとすぐに、千躰と対面する3人の中央にいた莉理香が、声を上げて、高速で突っ込んだ。
莉理香は、盾を前に構えながら走り、千躰が間合いに入ったところで、剣を薙ぎ払う。



「はぁぁ!!」


「笑、さすが。」



と、余裕の笑みを浮かべる千躰は、その剣を棒で受ける。



ガキンッ!!



「おぉ、パワーがあるね。」


「ぐぬぬ…」


「さて、こちらの扱いは?」



ブン!



剣を弾き、空中に円を描いたその棒の先端が、莉理香の胸目掛けて伸びる。



「なっ!……はっ!!」



カンッ!!



その突きを、莉理香は後退しつつ盾を前に出して受け止めるが…



「まだまだ笑。怪我しても治せるから問題はないけど……ちゃんと全部防いでよ。」



ボッ!



莉理香の盾に接触している棒の先端から、火が吹き出した。

そして、華麗なステップを踏みながら、千躰は莉理香の盾に連撃を与え、辺りに轟音を鳴り響かせる。



ゴンッ!!

ゴンッ!!

ゴンッ!!



「すごい音……」



その音に、観客席にいた勇輝も驚く。



「でしょ?笑。あれが、連火の天能の力の一部だから。」


「あの火を出してるのがですか?」


「そうそう……あ、まだ属性の話をしてなかったっけ?」


「属性…はい、まだ聞いてないです。」


「なら説明するね。魔素は属性っていう、性質の違いで種類が分けられてて、その属性は全部で9種類。基本属性の火、水、風、土と、派生属性の光、氷、雷、闇。そして、どの属性にも分類されない無属性があるの。」


「なるほど……じゃあ、千躰さんは火の属性の魔素を使ってる、ということですか?」


「そうだよ。でも、正確に言えば、連火は内魔素も外魔素も火属性のものしか使えない。」


「え、なんでですか?」


「まず、生物は天能を授かると同時に、その天能に適した属性の内魔素のみが、体の内側に存在するようになるの。で、前も言った通り、基本的には、魔物以外の生物がそれぞれに持つ内魔素の量はずっと変わらなくて、それはその内魔素の属性も同じなんだ。」


「へぇ~」


「それに対して、外魔素はどこであっても必ず全ての属性の魔素が存在している。まぁ、場所によって、それぞれの属性の魔素の存在比は変わるんだけどね。海なら水属性魔素が多くて、火山地帯なら火属性魔素が多いって感じで。」


「じゃあ、場所によって魔力を扱いやすい、扱いにくいとかが、出てくるんですか?」


「う~ん、魔力の扱いやすさはどこでも変わらないんだけど、"発現規模"が若干変わるかな。例えば、天能が『着火』で火属性の内魔素を持つ魔現師は、火属性の外魔素しか扱えなくて、その外魔素から生成した外魔力を消費して発現…手から火を出す。もし、その場所が火山地帯なら、同じだけの外魔力を消費した時に、別の場所と比べて、手から出る火は少し大きくなるんだ。」


「そういう言い方をするということは、場所による有利不利はそこまで大きくない…と。」


「だね。」


「あの、僕の『解錠』の属性って…」


「おそらくというか、ほぼ確実に、勇輝は無属性かな。ちなみに、生物が持つ天能の属性の比率で言ったら、無属性が1番多いと思う。」


「そうなんですね。じゃあ、未良さんは…」



と、未良が持つ魔素の属性を、勇輝が聞こうとしたところで…



「おぉ……受け止め切ったね。」



その刀花の呟きと同時に、辺りに鳴り響いていた轟音が止んだ。



「あの子、盾の扱い上手だよ。優愛もニコニコだもん笑」


「ほんとだ笑。でも、剣の扱いは?」


「鬼人族ってこともあってか、力任せで効率が悪いね。あれじゃあ、体力も持たないし、剣もすぐに壊れそう。」


「刀花が教えてあげたら?」


「いや、あの子は私じゃなくて、それこそ優愛か、同じく盾と剣を扱う、大善に教えてもらった方が良い。」


「そっか笑」





「はぁ…はぁ…」


「ちゃんと受け切ったね。まぁ、棒が盾に引き寄せられた感じがあったし、天能も使ってたみたいだけど、それを含めても盾は上手い。でも、もう限界みたいだし、おつかれ。」



そう言って、千躰は火を纏った棒の先を、盾を構える莉理香の足元に振り下ろし、地面を爆発させた。



ドゴン!!



「きゃぁ!!」



破壊された石のタイルの破片と、舞い上がった土煙と共に、莉理香は後方に吹き飛ばされ…



「よいしょっと。」



瞬時に背後に移動していた優愛によって、その体を受け止められた。



「莉理香ちゃん、リタイアね。」


「…は…はい…」




to be continued
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