上 下
3 / 39

3

しおりを挟む
  白い人物に静かにしてほしいと言われ、ザワザワとした声が小さくなっていく。
  完全に静かになったわけでは無いが、白い人物は説明を始めた。


「君達の中でも気付いている者が多くいるようだが、ここは君達の住んでいた世界ではなく、ドラゴンや様々な魔物が住む異世界だ。君達の世界にはあの様なドラゴンはいなかっただろう?」


  白い人物がそう発言した後、再び周りが喧騒に包まれるが、少しして一切の会話と動きが止まった。俺の身体も動かない。どうなってる?


「すまないが、我の話が終わるまで声と動きを封じさせてもらおう。我々が干渉できる時間は、君達の魂がこちらの世界に馴染むまでの僅かな時間だけで、それ以降は一切の手助けができなくなる。質問は後で受け付けるので少しの間我慢してほしい」


  声や動きを封じる?些か乱暴には思えるが、話す態度からは誠実さが感じられる。
  何よりこのような事をやってのける存在だ。恐らくは神、またはそれに準じる何かなのだろう。とりあえず話を聞く事に集中しようか。


「今回君達に起こったこの現象は、君達の住む世界と、我々の住むこの世界が接触した為に起こった、とても稀な現象だ。何故稀なのかと言うと、本来なら世界同士は近付くと自然と反発して離れるものなのだ。分かりやすく言えば、磁石のS極とS極同士を近付けたようなものだな」


  なるほど…なら何故その稀な現象が起こったんだろう?
  磁石で想像したからだろうか、近付けるとそれなりに強い力で離れそうなものだが。


「なら何故こんな事が起こったのか?我も今まで聞いたことも無いが、どうもこの世界と、君達の世界を挟んだ反対側からも、二つの世界が近付いていたみたいなのだ。
  そして反対側から二つの世界に君達の世界が押し出され、その二つ分の世界から押された力が、この世界と君達の世界の反発する力を上回っていたため、この世界と君達の世界がほんの少し接触してしまった、という事のようだ。
  そしてそのほんの少し接触した部分というのが、とても運の悪い事に、偶々君達のいた場所だったみたいだな」


  なんと言うか…俺達はかなり運が悪いみたいだな。どんな確率だよ!?この話が真実なら、だが。


「そして君達はこちらの世界へとやってきた。我々もすぐに気付いたのだが、何せこんな事は初めてなのでな、対応の初動が遅れてしまったのは謝ろう。まさかこちらにきてすぐにあの様なドラゴンに襲われるとは思わなかったのだ」


  いやいや、話を聞く限りではこの人物に非はないよな? それどころかあの糞ドラゴンから救ってもらったみたいだし。まぁ重ねて言うがこの話が真実なら、だが。


「それと自己紹介しておこう。我はこの世界の主神だ、決まった名はない。只主神として人の想像力で産み出された存在だ。言っておくが我を敬ったりはしなくてよいぞ。先も言ったが、神とは人の想像力で産み出された存在だ。人が我々を力強い存在であるように願った為に、今君達の声や動きを封じるような力を持ち合わせてはいるが、同じ世界に住む仲間なのだ。我々自身は敬われる存在だとは思っていない。君達の世界の神々も同じ事を言うだろう」


  おいおい…神が言っちゃっていいのかそれ?


「それと、君達皆が気になっているだろうから先に言っておこう、君達をもとの世界に送還することは、我々神々にも不可能だ」


  あ~…まぁ何となくわかってはいたよ。出来るならとっくにやってるだろうしな。


「我々神も万能ではない。今ここに他の神々がいないのは、君達に干渉するためのこの空間を造り出す為に、こちらの世界の我以外の全ての神々が力を出し尽くし、暫しの眠りについているからだ。我々の力などはその程度なのだ。
  そして君達を送還できない理由だが。肉体などの物質だけならば、向こうの世界の神々と協力すれば何とかなるかもしれん。ただし魂は物質と違い内包する力が桁違いに多く、我々の手に負えるモノではない。肉体だけ向こうに送り、魂をここに残すなど、それは死体を送り付けるのと変わりはない。魂に干渉できるのは世界そのものだけなのだ」


  他の神々を見ないと思ったら俺達を助ける為に力を使い果たしたからか…。暫しの眠りという事はその内に回復するのだろう。よかった。


「そろそろ君達に掛けている封印を解くが、どうか冷静に、そして前向きに、君達の世界に帰れない以上はこの世界で生きていくしかないのだ。その上で何か聞きたい事があれば質問してほしい」


  パチンッと神が指を鳴らすと、動かなかった身体が動いた。おそらく声も出すことが出来るのだろうが、誰も声を発する事はない。

  周囲を見回すが、誰もが悲壮感を漂わせ、酷い顔をしている。
  俺みたいに肉親全員が亡くなっている人なんて、数人いるかどうかだろう。皆、家族や親戚、友人や恋人と引き離されたのだ。理屈ではないのだろう。



  そんな中浮いている存在が数人見受けられた。一部の学生達なのだが、嬉しそうな顔をして、仲間内で興奮しながら話し合っているようだ。
  まぁ大体何を考えているのかはわかる。俺もネット小説を読んでいた時期があったんだから。
  だがまぁ、さっきの神の話を聞いた限り、彼らの考えている様な展開にはならないだろうな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

魔力があるならゴーレムに注げばいいじゃないか。

エノキスルメ
ファンタジー
魔力だけは大量にある。それなのに魔法を使うことが一切できない。 そんな歪な能力を授けられて異世界へと転移したリオは、魔力を注ぐことで起動する鉄の人形「ゴーレム」に自身の力を活かす道を見出す。 行き着いたのはとある王国の端の貧乏貴族領。 臨むのは辺境の開拓。 リオはゴーレムの軍団を従えて、異世界の片隅を少しずつ変えていく。 ※6話目くらいから大きくお話が動きます ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています 【HOTランキングで19位を記録しました!】

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...