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56 ガネシュを抑える
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翡翠はマハ王亡き後、王太后となった母と一緒に自室の窓から魔物の姿を捉えていた。
「魔物の出現とは……! おお、何てこと……またもや厄災が」
王太后は翡翠を抱きしめ苦悩の顔をしている。
「なぜ何度となくあなたに試練が訪れるのでしょう……」
翡翠は、うううと泣き崩れた王太后を抱きとめ諭すように言う。
「泣かないでください、母上。王位を継承した時から覚悟しております。マハを守るのが王位に就いた者の役目ですから」
「だからとて、あんまりだわ。翡翠はまだ18だというのに。厄災を受けた歴代の王がどうなってきたかを考えると──」
翡翠は悲嘆にくれる王太后をソファに座らせた。
「母上、これまでの深い慈しみとご愛情に心より感謝申し上げます」
そう言って翡翠が深々と礼をする。これは翡翠の別れの言葉だと悟った王太后は口を覆い、嗚咽する。
「行ってまいります」と告げ、涙が止まらない王太后を残し、翡翠は部屋を去った。
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵
夜明けとともに、魔物がマハ王宮へと到着した。
<殿下、殿下はどこ……!>
魔物の中のジェーンの意識が王宮を破壊しながらガネシュを探し回っている。
ガラガラと天井から瓦礫が降ってくる。アンダルケがその中を逃げ惑っていた。
「ブランカ、無事か!?」
「お父様あ!」
瓦礫を危機一髪よけ、床に倒れていたブランカをアンダルケが抱き起こした。
「陛下と王太子殿下はご無事でしょうか!?」
「陛下は先に外にお連れしたから大丈夫だ。だが殿下は部屋にいなかったのだ。護衛がいるだろうからご無事を祈ろう。さあ、行くぞ!」
マール家父娘は護衛のルヒカンド兵と共に外へと走り出した。
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵
「ぐぐぐ……」
謁見の間。
ガネシュが檻の中で体を丸めてガタガタと震えている。檻を囲んだ魔術師たちが一心不乱に魔封じの呪文を唱え続けている。檻に貼られている護符は燃えそうなほど発光している。
「殿下、お願いですからお逃げください!!」
兵に必死に懇願されても王太子はガネシュの檻の前から離れようとしない。
「殿下!! ここもいずれ壊されます! その前に早く──」
遠くから建物が崩壊する音が聞こえてくる。王太子はガネシュに鋭い視線を向け兵に言う。
「この場を離れるわけにはいかない。魔術師たちの呪文がなければ、ガネシュはおそらく魔物になる」
兵がごくりと唾を飲みガネシュを見る。両手両足、首筋から頬にまで黒い痣に侵食され、黒い煙をあげ始めている。
「私も残ります」
「親衛隊だからと私に従わなくてもよいのだぞ」
「私も!」
「私も最後までお供します!」
残りの兵士たちが全員、王太子に視線を向けた。王太子は兵士たちの忠誠心と勇気にじんとする。
「……感謝する」
そう言うと、王太子は兵の一人を呼び寄せた。
「ミラン、お前は足が早い。女王陛下のご無事を確かめて来てくれるか」
「承知いたしました」
そう応じるとミランは風のように走り去った。
「魔物の出現とは……! おお、何てこと……またもや厄災が」
王太后は翡翠を抱きしめ苦悩の顔をしている。
「なぜ何度となくあなたに試練が訪れるのでしょう……」
翡翠は、うううと泣き崩れた王太后を抱きとめ諭すように言う。
「泣かないでください、母上。王位を継承した時から覚悟しております。マハを守るのが王位に就いた者の役目ですから」
「だからとて、あんまりだわ。翡翠はまだ18だというのに。厄災を受けた歴代の王がどうなってきたかを考えると──」
翡翠は悲嘆にくれる王太后をソファに座らせた。
「母上、これまでの深い慈しみとご愛情に心より感謝申し上げます」
そう言って翡翠が深々と礼をする。これは翡翠の別れの言葉だと悟った王太后は口を覆い、嗚咽する。
「行ってまいります」と告げ、涙が止まらない王太后を残し、翡翠は部屋を去った。
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夜明けとともに、魔物がマハ王宮へと到着した。
<殿下、殿下はどこ……!>
魔物の中のジェーンの意識が王宮を破壊しながらガネシュを探し回っている。
ガラガラと天井から瓦礫が降ってくる。アンダルケがその中を逃げ惑っていた。
「ブランカ、無事か!?」
「お父様あ!」
瓦礫を危機一髪よけ、床に倒れていたブランカをアンダルケが抱き起こした。
「陛下と王太子殿下はご無事でしょうか!?」
「陛下は先に外にお連れしたから大丈夫だ。だが殿下は部屋にいなかったのだ。護衛がいるだろうからご無事を祈ろう。さあ、行くぞ!」
マール家父娘は護衛のルヒカンド兵と共に外へと走り出した。
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「ぐぐぐ……」
謁見の間。
ガネシュが檻の中で体を丸めてガタガタと震えている。檻を囲んだ魔術師たちが一心不乱に魔封じの呪文を唱え続けている。檻に貼られている護符は燃えそうなほど発光している。
「殿下、お願いですからお逃げください!!」
兵に必死に懇願されても王太子はガネシュの檻の前から離れようとしない。
「殿下!! ここもいずれ壊されます! その前に早く──」
遠くから建物が崩壊する音が聞こえてくる。王太子はガネシュに鋭い視線を向け兵に言う。
「この場を離れるわけにはいかない。魔術師たちの呪文がなければ、ガネシュはおそらく魔物になる」
兵がごくりと唾を飲みガネシュを見る。両手両足、首筋から頬にまで黒い痣に侵食され、黒い煙をあげ始めている。
「私も残ります」
「親衛隊だからと私に従わなくてもよいのだぞ」
「私も!」
「私も最後までお供します!」
残りの兵士たちが全員、王太子に視線を向けた。王太子は兵士たちの忠誠心と勇気にじんとする。
「……感謝する」
そう言うと、王太子は兵の一人を呼び寄せた。
「ミラン、お前は足が早い。女王陛下のご無事を確かめて来てくれるか」
「承知いたしました」
そう応じるとミランは風のように走り去った。
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