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53 異変

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【並行世界】ノスカ王国、離宮の地下室。

暗い部屋でフードを被ったひとりの男が熱心にPCに向かって作業をしている。

空中に表示された複数のアプリが鈍く光っている。アプリから抽出したデータが文字列として空に次々と映し出される。データを解析した男が驚きの表情になる。

「やはりワープホールが閉じたのはマハの大地の怒りのせいか! しかも……」

続けてデータを読み進めた男が深刻な声を漏らす。

「魔物化──」

絶句した男の頬に汗が流れる。

「早くふたりを連れ戻さないと手遅れになる!!」

そう叫ぶと男は小さなクリアケースを手に取る。その中には一本の美しい金の巻き髪。

「ジェーン……」

呟きのあと、男は左側に視線をうつす。

「ガネシュラル……」

ガネシュにそっくりな少年が簡易ベッドに目を閉じ横たわっている。

「準備を急ごう」

男は決意の目で空を睨んだ。


∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵


夜半。闇に包まれたマハの大地。

ギイイイイ────ン……

大地が止まない不穏な音を立てている。


∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵


王太子は眠れず、マハ王宮の貴賓室の窓から夜の王都をぼんやりと眺めていた。

翡翠とルシウスの口づけが何度も頭の中で繰り返されていた。頭を振って忘れようとするもできなかった。

「私だって、一度、翡翠に口づけしてもらっているではなか! ……昏睡状態だったので記憶はないが……」

負け惜しみのように言って、王太子は白いレースのハンカチを取り出した。魔獣に頬を切られた時、翡翠が手渡してくれたものだ。女物なのだが、翡翠のいたわりの心が宿っている気がして手放し難く肌身離さず持っていた。

ハンカチを眺める王太子の両目からぼろぼろと涙がとめどなく溢れ始めた。

「情けないな。私は泣くことしかできないのか」

王太子はハンカチを握ったまま、窓枠に顔を沈めた。

「……ちょっと待て」

顔を上げハンカチを再度見つめた王太子がある重大な事実を思い出した。

「魔獣……魔物──”特に近年の厄災の原因となっているノスカ王国からの来訪者には注意せよ”」

そうだ、ノスカ王国から来たガネシュに記憶改竄術を解かせて終わりではないはずだ。記録書にあったように”魔物出現”という厄災がこれから起こるのではないのか??

「誰かいるか!」

王太子は立ち上がり、部下を呼んだ。

「護衛に連れてきた魔術師をガネシュの檻に集めよ」
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