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ガネシュの体から莫大な魔力が放出される。背後にいた残党兵は魔力の勢いに吹き飛ばされた。術の重圧を受け「うぐあ」とガネシュがうめき倒れ込む。

「!!!」
「うわあ!!」

皆一斉に光の洪水に襲われる。まぶしくて目が開けられない。

どどど……と皆の頭の中で覆われていた壁が崩れ落ちていく。壁の向こうから鮮明な映像が押し寄せてくる。

次々と書き直される記憶の数々──

穏やかな気候と緑豊かなマハ王国。
礼節を忘れず、心優しいマハ王国の民衆。
荘厳なマハの王宮。
前方の玉座に座っている威風堂々たるマハ王。
その周囲に集う凛々しき王子たちや美しい翡翠の姿。
王弟一族の列に並ぶルシウスがこちらを見ている。

目まぐるしくすり替わっていく記憶。

カチン、と記憶のピースが全てはまる音がした。

その場にいた誰もが驚愕していた。自分達が蛮族だと蔑んでいた相手は、実は自分達の主人であったこと。その主人であるマハ王国に攻め込み蹂躙したこと。神聖な王女を貢ぎ物として連行し虐げたこと。

自分たちは何ということをしでかしたのかと、重い罪の意識がルヒカンドの者たちをいばらのようにしめつけていた。

「嘘……ですわよね?」

ブランカが力なく呟いた。真逆の事実が受け入れられなかった。自分はマハ王家の一族に謁見したことはなかったが、アンダルケが自分に見せたマハ王家の肖像画を思い出していた。絵の中に翡翠がいた。神々しい王女として。

「腐肉まで食べさせ殺しかけたあの娘が、私では到底およばないほど尊い存在だったというの??」

「何たる、ことだ」

ルヒカンド王がうろたえ膝をついた。隣のアンダルケも口をぱくぱくしたまま呆然とし、よろよろと床に座り込む。ブランカは父の様子を見て思い知る。いつも堂々としている王や父アンダルケの狼狽ぶり……これは事実だ。まごうことなき事実なのだ。あの娘が、神聖なマハ王国の王女であることが。

「わたくしの……負けですの……?」

王太子が知らずにあの娘に惹かれたのも当然のことだったのか? 最初から自分に勝ち目などなかったというのか?

「嫌! 認めたくない!!」

ブランカは顔を左右に激しく振り、「夢なら覚めて!」と心の中で懇願した。

ルシウスはマール家父娘の錯乱ぶりを見て愉快になった。いい気味だ。自分達のしでかした罪におののくがいい。翡翠をあれほど痛めつけた罰だ。

「私はマハ王弟の第一王子、”黒曜・産土神・魔破”である」

ルシウスが堂々とそう宣言すると、ダメ押しのようにブランカもついに地に崩れ落ちた。周囲の兵士たちもバラバラと両膝をつき、ルシウスに恭順の意を示し始める。

王太子の拳は悔しさで震えていたが、ぐっと気持ちを抑え込み両膝を着いた。ルシウスは王太子を見てほくそ笑む。

まだこれからだ。お前のプライドは木っ端微塵に砕け散るだろう。



ガネシュは鉄檻の中で倒れたまま、焦点の合わない目でルシウスの方を見ていた。術を解いた際の消耗が激しく体がしびれ動けない。

アプリを強制起動したせいで魔力がとうとう枯渇したかもしれないな。しかし、あの男、マハ王族だったのか。王太子をあざむいていたんだな。腹黒い奴。これから一波乱ありそうだ。

そう考えていた時、じん……と、ガネシュの指先が熱くなり、魔力が戻り始める感覚が訪れた。

「!」

もしかして大きな魔力を使った反動でワープホールが反応し再び開いたのか? そうだとすれば、チャンスを見計らって一気に行動に移そう。それまで力を温存するんだ──

「王女に会いたいな……」

ふと翡翠に「ガネシュ」と名を呼ばれた時のことを懐かしく思い出していた。記憶が戻ったということは、翡翠はマハ王族として崇められる遠い存在になる。

やっぱり諦められない。何とかして祖国に連れて行きたい。ノスカ王国はマハのように緑は多くないけれど、便利なアプリ魔術で周辺国への旅行も簡単に行けるんだよ。

ガネシュは疲労でよく回らない頭で翡翠と旅行をする幸せな空想に浸り、横たわったまま謁見の間をぼんやりと眺めていた。
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