51 / 71
49 リセット
しおりを挟む
ガネシュの体から莫大な魔力が放出される。背後にいた残党兵は魔力の勢いに吹き飛ばされた。術の重圧を受け「うぐあ」とガネシュがうめき倒れ込む。
「!!!」
「うわあ!!」
皆一斉に光の洪水に襲われる。まぶしくて目が開けられない。
どどど……と皆の頭の中で覆われていた壁が崩れ落ちていく。壁の向こうから鮮明な映像が押し寄せてくる。
次々と書き直される記憶の数々──
穏やかな気候と緑豊かなマハ王国。
礼節を忘れず、心優しいマハ王国の民衆。
荘厳なマハの王宮。
前方の玉座に座っている威風堂々たるマハ王。
その周囲に集う凛々しき王子たちや美しい翡翠の姿。
王弟一族の列に並ぶルシウスがこちらを見ている。
目まぐるしくすり替わっていく記憶。
カチン、と記憶のピースが全てはまる音がした。
その場にいた誰もが驚愕していた。自分達が蛮族だと蔑んでいた相手は、実は自分達の主人であったこと。その主人であるマハ王国に攻め込み蹂躙したこと。神聖な王女を貢ぎ物として連行し虐げたこと。
自分たちは何ということをしでかしたのかと、重い罪の意識がルヒカンドの者たちを荊のようにしめつけていた。
「嘘……ですわよね?」
ブランカが力なく呟いた。真逆の事実が受け入れられなかった。自分はマハ王家の一族に謁見したことはなかったが、アンダルケが自分に見せたマハ王家の肖像画を思い出していた。絵の中に翡翠がいた。神々しい王女として。
「腐肉まで食べさせ殺しかけたあの娘が、私では到底およばないほど尊い存在だったというの??」
「何たる、ことだ」
ルヒカンド王がうろたえ膝をついた。隣のアンダルケも口をぱくぱくしたまま呆然とし、よろよろと床に座り込む。ブランカは父の様子を見て思い知る。いつも堂々としている王や父アンダルケの狼狽ぶり……これは事実だ。まごうことなき事実なのだ。あの娘が、神聖なマハ王国の王女であることが。
「わたくしの……負けですの……?」
王太子が知らずにあの娘に惹かれたのも当然のことだったのか? 最初から自分に勝ち目などなかったというのか?
「嫌! 認めたくない!!」
ブランカは顔を左右に激しく振り、「夢なら覚めて!」と心の中で懇願した。
ルシウスはマール家父娘の錯乱ぶりを見て愉快になった。いい気味だ。自分達のしでかした罪におののくがいい。翡翠をあれほど痛めつけた罰だ。
「私はマハ王弟の第一王子、”黒曜・産土神・魔破”である」
ルシウスが堂々とそう宣言すると、ダメ押しのようにブランカもついに地に崩れ落ちた。周囲の兵士たちもバラバラと両膝をつき、ルシウスに恭順の意を示し始める。
王太子の拳は悔しさで震えていたが、ぐっと気持ちを抑え込み両膝を着いた。ルシウスは王太子を見てほくそ笑む。
まだこれからだ。お前のプライドは木っ端微塵に砕け散るだろう。
ガネシュは鉄檻の中で倒れたまま、焦点の合わない目でルシウスの方を見ていた。術を解いた際の消耗が激しく体がしびれ動けない。
アプリを強制起動したせいで魔力がとうとう枯渇したかもしれないな。しかし、あの男、マハ王族だったのか。王太子をあざむいていたんだな。腹黒い奴。これから一波乱ありそうだ。
そう考えていた時、じん……と、ガネシュの指先が熱くなり、魔力が戻り始める感覚が訪れた。
「!」
もしかして大きな魔力を使った反動でワープホールが反応し再び開いたのか? そうだとすれば、チャンスを見計らって一気に行動に移そう。それまで力を温存するんだ──
「王女に会いたいな……」
ふと翡翠に「ガネシュ」と名を呼ばれた時のことを懐かしく思い出していた。記憶が戻ったということは、翡翠はマハ王族として崇められる遠い存在になる。
やっぱり諦められない。何とかして祖国に連れて行きたい。ノスカ王国はマハのように緑は多くないけれど、便利なアプリ魔術で周辺国への旅行も簡単に行けるんだよ。
ガネシュは疲労でよく回らない頭で翡翠と旅行をする幸せな空想に浸り、横たわったまま謁見の間をぼんやりと眺めていた。
「!!!」
「うわあ!!」
皆一斉に光の洪水に襲われる。まぶしくて目が開けられない。
どどど……と皆の頭の中で覆われていた壁が崩れ落ちていく。壁の向こうから鮮明な映像が押し寄せてくる。
次々と書き直される記憶の数々──
穏やかな気候と緑豊かなマハ王国。
礼節を忘れず、心優しいマハ王国の民衆。
荘厳なマハの王宮。
前方の玉座に座っている威風堂々たるマハ王。
その周囲に集う凛々しき王子たちや美しい翡翠の姿。
王弟一族の列に並ぶルシウスがこちらを見ている。
目まぐるしくすり替わっていく記憶。
カチン、と記憶のピースが全てはまる音がした。
その場にいた誰もが驚愕していた。自分達が蛮族だと蔑んでいた相手は、実は自分達の主人であったこと。その主人であるマハ王国に攻め込み蹂躙したこと。神聖な王女を貢ぎ物として連行し虐げたこと。
自分たちは何ということをしでかしたのかと、重い罪の意識がルヒカンドの者たちを荊のようにしめつけていた。
「嘘……ですわよね?」
ブランカが力なく呟いた。真逆の事実が受け入れられなかった。自分はマハ王家の一族に謁見したことはなかったが、アンダルケが自分に見せたマハ王家の肖像画を思い出していた。絵の中に翡翠がいた。神々しい王女として。
「腐肉まで食べさせ殺しかけたあの娘が、私では到底およばないほど尊い存在だったというの??」
「何たる、ことだ」
ルヒカンド王がうろたえ膝をついた。隣のアンダルケも口をぱくぱくしたまま呆然とし、よろよろと床に座り込む。ブランカは父の様子を見て思い知る。いつも堂々としている王や父アンダルケの狼狽ぶり……これは事実だ。まごうことなき事実なのだ。あの娘が、神聖なマハ王国の王女であることが。
「わたくしの……負けですの……?」
王太子が知らずにあの娘に惹かれたのも当然のことだったのか? 最初から自分に勝ち目などなかったというのか?
「嫌! 認めたくない!!」
ブランカは顔を左右に激しく振り、「夢なら覚めて!」と心の中で懇願した。
ルシウスはマール家父娘の錯乱ぶりを見て愉快になった。いい気味だ。自分達のしでかした罪におののくがいい。翡翠をあれほど痛めつけた罰だ。
「私はマハ王弟の第一王子、”黒曜・産土神・魔破”である」
ルシウスが堂々とそう宣言すると、ダメ押しのようにブランカもついに地に崩れ落ちた。周囲の兵士たちもバラバラと両膝をつき、ルシウスに恭順の意を示し始める。
王太子の拳は悔しさで震えていたが、ぐっと気持ちを抑え込み両膝を着いた。ルシウスは王太子を見てほくそ笑む。
まだこれからだ。お前のプライドは木っ端微塵に砕け散るだろう。
ガネシュは鉄檻の中で倒れたまま、焦点の合わない目でルシウスの方を見ていた。術を解いた際の消耗が激しく体がしびれ動けない。
アプリを強制起動したせいで魔力がとうとう枯渇したかもしれないな。しかし、あの男、マハ王族だったのか。王太子をあざむいていたんだな。腹黒い奴。これから一波乱ありそうだ。
そう考えていた時、じん……と、ガネシュの指先が熱くなり、魔力が戻り始める感覚が訪れた。
「!」
もしかして大きな魔力を使った反動でワープホールが反応し再び開いたのか? そうだとすれば、チャンスを見計らって一気に行動に移そう。それまで力を温存するんだ──
「王女に会いたいな……」
ふと翡翠に「ガネシュ」と名を呼ばれた時のことを懐かしく思い出していた。記憶が戻ったということは、翡翠はマハ王族として崇められる遠い存在になる。
やっぱり諦められない。何とかして祖国に連れて行きたい。ノスカ王国はマハのように緑は多くないけれど、便利なアプリ魔術で周辺国への旅行も簡単に行けるんだよ。
ガネシュは疲労でよく回らない頭で翡翠と旅行をする幸せな空想に浸り、横たわったまま謁見の間をぼんやりと眺めていた。
1
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する
鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】
余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。
いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。
一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。
しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。
俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
姉の身代わりで冷酷な若公爵様に嫁ぐことになりましたが、初夜にも来ない彼なのに「このままでは妻に嫌われる……」と私に語りかけてきます。
夏
恋愛
姉の身代わりとして冷酷な獣と蔑称される公爵に嫁いだラシェル。
初夜には顔を出さず、干渉は必要ないと公爵に言われてしまうが、ある晩の日「姿を変えた」ラシェルはばったり酔った彼に遭遇する。
「このままでは、妻に嫌われる……」
本人、目の前にいますけど!?
王太子になる兄から断罪される予定の悪役姫様、弟を王太子に挿げ替えちゃえばいいじゃないとはっちゃける
下菊みこと
恋愛
悪役姫様、未来を変える。
主人公は処刑されたはずだった。しかし、気付けば幼い日まで戻ってきていた。自分を断罪した兄を王太子にさせず、自分に都合のいい弟を王太子にしてしまおうと彼女は考える。果たして彼女の運命は?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる