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21 必死の看病

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王太子は「無茶をしすぎだ」と私を叱るだろうか。でも、興味本位でいろんな仕打ちを受ける事態がこの先も続くのかと思うと、正直どうでもよくなったのだ。

それに……あの日、王太子とブランカという娘が笑い合っている光景を思い出してしまって、私は胸が苦しくてたまらなくなった。ついあの娘に負けたくないと思ってしまった。そんな私は愚かだったろうか……?

母上、あれから父上の容体はいかがですか? 私は王位継承者失格です。申し訳ありません……

混沌とした意識の中、翡翠の頭の中にマハやルヒカンドで起きた色々なことがよぎっていった。

そばにいたい。

王太子の顔が最後に浮かんだ後、翡翠は意識を失った。


∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵


「なんということだ……!!」

王太子は侍女から事情を聞き、ブランカに怒りながらもまずは王女の回復が先だと、翡翠の看病に徹していた。

翡翠の手を握り、心配そうに見つめている。うるわしかった肌艶がかげり、体は冷たく固くなり、生きているのかどうかも分からないほどだった。医師の話によれば、口にした腐肉の悪い菌が体内をめぐっており、魔術師の治癒魔法でかろうじて命を保っているということだった。

このままでは王女は助からない気がする。

翡翠の衰弱ぶりに王太子は悪い予感がしていた。「王女が少しでも元気になれるものはないか。王女が好きなものは──」はっと思いついたように王太子は急に立ち上がり部屋を飛び出した。



翡翠の枕元の近くにミニテーブルが置かれ、銀木犀の枝が花瓶に飾られた。王太子は毎日看病を続け自ら花瓶の水替えをした。

「王女が好きな銀木犀だ。早く元気になってくれ。そしてまた一緒に庭園に行こう」

一向に目を覚さない翡翠の手を握ったまま夜になり、王太子はそのままベッド脇で眠ってしまった。


夜半。最低限の明かりだけが灯されている。
花瓶に生けられた銀木犀から淡い銀色の光が放たれ翡翠の体を包んでいく。
翌日も、その翌日も。夜半になるとその現象が起こった。



そして一週間後の朝。

翡翠がまぶしそうに目を覚ました。王太子が自分の手を握ったまま、ベッド脇で眠っている。すぐそばに銀木犀が飾られていることに気づく。

「お前たちのおかげか……」と、王太子と銀木犀に向かって翡翠が呟いた。

「王女……?」

王太子は翡翠が目覚めたことに気づくと、目に涙をいっぱいに溜め、翡翠の頬にそっと触れた。翡翠が微笑むと、王太子はそのまま翡翠を強く強く抱きすくめた。


∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵


ブランカがとんでもないことをしでかした。王女に腐肉を食べさせたという。幸い回復したが、一時は意識不明の重体にまでなったというではないか。

魔術アプリのヒールを使うには、王女のそばに行かねば発動できないし、厳重な警備が敷かれた中、マール家おかかえの魔術師である僕が部屋に入るのは難しかった。異空間を通じて繋がっているアプリは時折、通信不良を起こし特定の機能が作動しないことがあった。ここ2、3日はそれが続いていて、ヒールや睡眠魔術が使えない状況になっていた。

僕は王女が心配で涙は出てくるし何も出来ない自分にやきもきして、ブランカを呪いのアプリで再起不能にしてやろうかと何度も怒れる指で魔術を発動しそうになった。

王女に甘い僕にしびれを切らしてブランカが暴走したのだろうけど、やりすぎだよ。愛憎に狂った令嬢というのは本当に恐ろしい。

王太子が付きっきりで看病したというが、今のルヒカンドでは二人の結婚は難しいだろうに、どうするつもりだろう?

僕はルヒカンドの王太子がこの先どうするのか、大いに興味が湧いた。
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