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32 王太子の病
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王太子が倒れたという一報が城内を駆け巡った。
魔獣の牙に触れた頬の傷から、魔獣毒が体内に入ってしまったのだ。この毒は厄介だった。死亡する確率は80パーセントを超えていた。
「幸い王宮に魔獣毒の抗毒血清がございます。これで何とかなると思われます」
寝台にぐったりと横たわった王太子に主治医が血清を注射した。魔獣に襲われた時の万が一の備えが王宮にはあった。周囲の者たちはこれで助かると胸を撫で下ろした。
ところが熱は一向に下がらなかった。国中の名医が集められたが、誰も王太子を治せる者はいなかった。ルヒカンド王国の魔術師が祈祷しても治癒魔法を駆使してもほとんど効果はなかった。
ガネシュはこの話を聞いて思い当たることがあった。
魔獣はノスカ王国から召喚したものだ。同じ魔獣に見えても、この国の魔獣とは毒の種類が微妙に違うのかもしれない。それでルヒカンドの医師では手に負えないのだ。
それに、自分がルヒカンドの魔術師たちに教えてあげたアプリ魔術は簡易ヴァージョンなので、詠唱法より効力がかなり下がっているはずだ。今更、そのアプリは廉価版ですよ、などと言えないし……。
どうしたものか、とガネシュは思慮する。僕のアプリ魔術のヒールで助けるか、それとも……。王女を手に入れるためには王太子は邪魔な存在であることは確かだった。
「ガネシュ! ガネシュ!! 王太子を助けなさい!!!」
ブランカがノックもなく、ガネシュの部屋に入って来た。
どこが令嬢だ。無礼な奴め。ガネシュは腹立たしかったが、何食わぬ顔でブランカを迎えた。
「ご心配なく。私は救う手立てを持っております。ただ、もう少し時間がかかりますゆえ」
「何よ、役立たずめ!! 今すぐ何とかしなさいよ! そうすれば当家の手柄にもなるでしょう?」
王太子を心配している素振りを見せているが、内心は家門の好感度アップを狙っているのだな。つくづく呆れる。
僕はブランカを適当にあしらって退室させた。王太子はもってあと2、3日だろう。同じ王太子でもお前は僕よりずっと自由だ。そんなお前が憎らしいよ。
それまで苦しめばいい。
もうしばらく様子を見ることに決めたガネシュは、自分が欲望のためにはこんなにも残酷になれることに今更ながら驚いていた。
魔獣の牙に触れた頬の傷から、魔獣毒が体内に入ってしまったのだ。この毒は厄介だった。死亡する確率は80パーセントを超えていた。
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寝台にぐったりと横たわった王太子に主治医が血清を注射した。魔獣に襲われた時の万が一の備えが王宮にはあった。周囲の者たちはこれで助かると胸を撫で下ろした。
ところが熱は一向に下がらなかった。国中の名医が集められたが、誰も王太子を治せる者はいなかった。ルヒカンド王国の魔術師が祈祷しても治癒魔法を駆使してもほとんど効果はなかった。
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それに、自分がルヒカンドの魔術師たちに教えてあげたアプリ魔術は簡易ヴァージョンなので、詠唱法より効力がかなり下がっているはずだ。今更、そのアプリは廉価版ですよ、などと言えないし……。
どうしたものか、とガネシュは思慮する。僕のアプリ魔術のヒールで助けるか、それとも……。王女を手に入れるためには王太子は邪魔な存在であることは確かだった。
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それまで苦しめばいい。
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