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29 ブランカの企み2

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「一体、何が起きているのかしら?」

ブランカはほくそ笑む。お見舞いに来たあの王女との面会を王太子が頑なに拒んでいるというではないか。

きっと粗相をしたのよ、やはり野蛮人はダメね。王太子殿下の扱いを心得ていないものだから。

ブランカがガネシュを自室に呼びつけ、ハッパをかける。

「今が好機なのではないかしら? 王太子殿下が興味を失っている今のうちに、魔道の力であの娘の息の根を止めて頂戴」

相手が不利な時を狙って止めを刺す、冷酷な女だ、とガネシュは内心軽蔑する。こんな女を妃になど、絶対にしたくないな。王太子がこの女に見向きもしないのも理解できる。

「そう焦らないでもよろしいのでは? ブランカ様に一体どの女が勝てるというのです?」

その言葉に気をよくしたブランカは、少し語気を和らげて言う。

「その通りだけど、あの王女、何だか得体が知れないのよ。お前にあげるとは言ったけれど、始末した方がこの国のためになるのではなくて?」

それはお前の安心のためになるのだろう、とガネシュは心の中で反論する。ブランカの生まれたマール家は長年の筆頭貴族ではあるが、現在の王が即位した当時、王からの評価は必ずしも高くなかった。

王族や貴族への賄賂、買収、恐喝、罪の捏造、暗殺など、数えればきりがないほどの悪行をマール家当主アンダルケは実行してきた。愛娘ブランカを将来の王妃にするという野望の元、手段を選ばず生きてきたのだ。

僕の魔術のおかげで、見せかけの高評価をお前たちはもらえているのだ。魔術の効力が切れれば清廉を好む王は、マール家を筆頭から降格させるだろう。

「何を黙っているのよ? 誰のおかげで身寄りもないお前がこの国で生きていけてると思っているの!?」

ああ、ストレスを溜めたブランカの癇癪が始まった。ガネシュはこの状況に飽き飽きしてきた。「失礼しました。妙案が浮かびましたので実行してまいります」と言うと、早々にガネシュはその場から消えた。

「さっさとそうすればいいのよ。あの娘を消して早くせいせいしたいわ。素性の知れないどこぞの令嬢も現れたし、ライバルをどんどん減らして殿下を私のものにするのよ」

先日の腐肉事件でマール家令嬢としての好感度をかなり下げてしまったが、王太子へのときめきをブランカは今も忘れられなかった。何かにつけて王太子の顔を見に向かうが、王女を訪問中で不在のことが多く、しかも今は体調不良で面会も許されない。

王太子の黄金の瞳が自分に常に向く日がきっとくる。「そのためには」ブランカは王女の顔を思い浮かべながら机上のレターナイフを手に持ち、憎しみを込め思い切り机に突き立てた。
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