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27 伝わらない

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すっかり回復した私は、ルシウスを共に連れ、銀木犀のある庭園に暇を見ては散策に出かけた。

ふと見ると、銀木犀の根元にいるリスが愛らしい目でこちらをじっと見ている。

「おいで」

膝を折り手を差し出すと、リスは人懐こくそばまで寄って来た。両手で抱きあげると、リスは私の腕をつたって肩に乗る。リスが動きまわるたびに、しっぽが私の頬に何度も触れた。

「くすぐったいぞ」

私がリスと戯れていると、王太子がやって来た。最近、よく私の居室を訪れてはたわいのない話をする王太子に今日も会えて、つい嬉しくなった私はいたずら心から王太子の肩にリスを乗せ替えた。

「わわ! くすぐったい!!」

幼子のように無邪気に笑う王太子に、私は一瞬、目を奪われた。王太子が私に目を向けてくると、急に気恥ずかしくなり私は目を逸らした。

「このリスに名をつけよう」

王太子がリスを指差して「名」と言っている。きっと、リスに名前をつけようと言っているのだろう。私はとっさに思いつかなかったので、「名付けしてくれ」という意味合いで王太子を指差した。

王太子は私の意図を感じ取ったのか、少し考えた後、自身の胸に手を当てポンポンと叩いた。

”心”と言っているのか? そう思った私は、マハ語で”心”を意味する言葉を微笑で告げた。

「ウセロ」

王太子の顔が凍りついた。私はなぜ王太子がそんな顔をするのか分からなかった。
私はリスを指差し、もう一度「ウ・セ・ロ」とはっきりとした口調で念押しした。

王太子からリスが滑り降り、逃げていった。
王太子は呆然としたまま涙目になり、私から走り去った。
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