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61 ガネシュ襲来

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王太子がはっと起き上がると、翡翠が涙目で抱きついてきた。

「え、え、え?」

顔を赤らめ混乱していた王太子は自分がまた翡翠に命を救われたことを理解した。翡翠をおずぞずと抱きしめた王太子は、しかし、翡翠の体が半透明になっていることに気づいた。

「翡翠!?」

蘇生に近い大きな霊力を使った翡翠は、実体を保持できず霊体になりかかっていた。

「残りの力で魔獣を封印する」

おぼろげな体で翡翠は立ち上がる。

「そんな体で無茶だ! 一旦逃げよう」

王太子がそう提案した時、神殿の間の入口にミランが立っていた。

「殿、下」

「どうした、ミランではないか!」

ミランのただならぬ様子に王太子は悪い予感がした。

「お逃げ……ガネシュが、魔物に──」

そう言い終わらないうちにミランは床に倒れた。背中が切られ、黒い煙が立ち上っていた。

「逃がさない、よ?」

ミランの背後から、ぬっと黒いガネシュが現れた。

「ガネシュ!? 檻から脱出したのか! ミランに何をした!!」

黒い悪魔のように変わり果てたガネシュの姿に驚きながらも、王太子は翡翠を逃す方法を探っていた。

「何って、邪魔だったから背中押しただけ」

にたりと口の端を上げる姿はもはや15歳の少年ではなかった。

「子どもといえど、度を過ぎたな。お前も同時に封印させてもらう」

王太子の後ろにいる翡翠がガネシュに告げた。

<翡翠だ!!>

翡翠を見た途端ガネシュの素の意識が駆け上ってきた。

<今だ!! 温存した魔力を使え!!>

ガネシュは力を込め、アプリを宙に呼び出す。

「ワープホールよ、並行世界ノスカ王国にその扉を開け!!」

アプリが眩いばかりに発光し、バリバリ……! と雷のような音を立て、楕円形のホールが床に現れる。

「王太子、僕の勝ちだ。バイバイ」

そう言うと黒いガネシュの体から青い目のガネシュが飛び出し、翡翠の腰を掴み飛び去った。

「離せ!」

翡翠がもがくもガネシュは離さない。

「大人しくしててね」

ギリリリリ……!!

暴れていた魔物ジェーンが雄叫びを上げた。

<殿下……ガネシュラル殿下……怖い……助けて>

醜悪な魔物の中でジェーンの意識は少女のままだった。膝を抱え、制御できない力がただ恐ろしくジェーンは暗闇の中でひとりしくしくと泣いていた。

「ジェーン……!」

ガネシュはジェーンの意識を感じ取った。ごめん、ジェーン、ひとりで怖かったね。君も連れていくよ。

空中に浮遊していたガネシュは片手に力を込める。魔物ジェーンの黒い胸がぱかりと割れ、可憐な令嬢ジェーンがふわりと現れた。ガネシュはジェーンの手を取った。

「離せ! 嫌だ、離れたくない!!」

最後に驚いている王太子の姿が目に入り、思わず翡翠は心の底から叫んだ。だがガネシュはジェーンと翡翠を連れ、矢のような速さでワープホールに飛び込んだ。

一瞬の出来事に王太子は反応できなかった。ガネシュを追いワープホールに入ろうとした王太子の目の前でホールはノイズとともに消滅してしまった。

「ひ、翡翠……翡翠!!」

王太子は慌てて周囲を見回すも、やはり翡翠の姿はどこにも見当たらなかった。

「さらわれた……翡翠が……」

呆然となった王太子は、ふと後ろに気配を感じた。ゆっくりと振り向くと、目を見開いた。
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