9 / 71
9 謝罪
しおりを挟む
私の部屋は先ほどから大変な騒ぎだ。
不審者が私に危害を加えに来たと報告が入るや否や、王太子自ら指揮をとり、警護兵の補充と不審者の探索が大掛かりに行われた。
この騒ぎにより、私はより厳重に警備ができる”星の館”へと移されることになった。
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵
王女が警護兵と侍女を伴い王宮の廊下を移動している間、貴族たちが遠巻きに王女を見ていた。
「なんとおぞましい! 蛮族をよりにもよって”星の館”に!?」
「王太子殿下はどうかされてしまったのではないか? あそこは将来の王妃・側妃候補が入る部屋だぞ!」
誰かが王女に向かってネズミの死体を投げつけた。即座にそれを剣で弾き飛ばしたのは、王太子直属の親衛部隊長、ルシウスだった。
端正だが静かな迫力を秘めたルシウスがちらと睨んだだけで、群衆はしんと静まり返った。
そんな中、群衆の中で最も屈辱を感じていたのはブランカだった。ガネシュの攻撃が王女に有利に働いてしまっただけでなく、自分がまず最初に入るべき星の館に王女が先に入室することになったからだ。
しかも王太子殿下が最も信頼しているルシウスに、あの者を護衛させるとは──! 王妃気取りか?
ぎりぎりと歯噛みしながら、ブランカは悠然と目の前を歩いていく王女を睨みつける。
「ケダモノめ」
聞こえよがしに王女に言葉をぶつける。だが王女は全く表情も変えず、恐れもせず、ブランカの前を通り過ぎた。
平静を装っているのね。本当は恐怖で震えているはずよ。あの仮面をいつか剥ぎ取ってくれる。
ブランカは王女への恨みを募らせていった。
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵
私が星の館に到着すると、先に入室していた王太子が駆け寄ってきた。警備が何とか、王女に何とかと、私がまだよく理解できない言語で語っている。
私はふいに、先日の非礼を詫びようと思いついた。
マハ王国での【謝る、すまない】といった意味の言葉を私は目の前の王太子に投げかけた。
「ソバニ」
王太子は私を凝視し固まったまま返答しない。まあ、わからないのだろうな、マハ語は。
私は、一向に反応がない王太子に、知っている王族の呼び方で声をかけてみた。
「殿下?」
突然、王太子が私を抱きしめた。
「!!??」
身動きができないほど強く。
周りにいた兵や侍女たちが、私たちから身を隠すようにさっと隣の部屋に下がった。
私は王太子を振り解こうとしたが諦めた。何だかわからないが、謝罪を受け入れてくれたのだろう。これはきっと、王太子の国では和解のジェスチャーなのだ。
しかし、長すぎる……。
いつまで経っても王太子は私から離れない。さすがにもういいだろうと私はそっと王太子を引き離そうとした。
王太子は腕を解いた。そして、おもむろに私の顎をくいと上げ、唇を近づけてきた。
私の頭は真っ白になった。
気づくと私は、王太子を遠くへ跳ね飛ばしていた。
不審者が私に危害を加えに来たと報告が入るや否や、王太子自ら指揮をとり、警護兵の補充と不審者の探索が大掛かりに行われた。
この騒ぎにより、私はより厳重に警備ができる”星の館”へと移されることになった。
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵
王女が警護兵と侍女を伴い王宮の廊下を移動している間、貴族たちが遠巻きに王女を見ていた。
「なんとおぞましい! 蛮族をよりにもよって”星の館”に!?」
「王太子殿下はどうかされてしまったのではないか? あそこは将来の王妃・側妃候補が入る部屋だぞ!」
誰かが王女に向かってネズミの死体を投げつけた。即座にそれを剣で弾き飛ばしたのは、王太子直属の親衛部隊長、ルシウスだった。
端正だが静かな迫力を秘めたルシウスがちらと睨んだだけで、群衆はしんと静まり返った。
そんな中、群衆の中で最も屈辱を感じていたのはブランカだった。ガネシュの攻撃が王女に有利に働いてしまっただけでなく、自分がまず最初に入るべき星の館に王女が先に入室することになったからだ。
しかも王太子殿下が最も信頼しているルシウスに、あの者を護衛させるとは──! 王妃気取りか?
ぎりぎりと歯噛みしながら、ブランカは悠然と目の前を歩いていく王女を睨みつける。
「ケダモノめ」
聞こえよがしに王女に言葉をぶつける。だが王女は全く表情も変えず、恐れもせず、ブランカの前を通り過ぎた。
平静を装っているのね。本当は恐怖で震えているはずよ。あの仮面をいつか剥ぎ取ってくれる。
ブランカは王女への恨みを募らせていった。
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵
私が星の館に到着すると、先に入室していた王太子が駆け寄ってきた。警備が何とか、王女に何とかと、私がまだよく理解できない言語で語っている。
私はふいに、先日の非礼を詫びようと思いついた。
マハ王国での【謝る、すまない】といった意味の言葉を私は目の前の王太子に投げかけた。
「ソバニ」
王太子は私を凝視し固まったまま返答しない。まあ、わからないのだろうな、マハ語は。
私は、一向に反応がない王太子に、知っている王族の呼び方で声をかけてみた。
「殿下?」
突然、王太子が私を抱きしめた。
「!!??」
身動きができないほど強く。
周りにいた兵や侍女たちが、私たちから身を隠すようにさっと隣の部屋に下がった。
私は王太子を振り解こうとしたが諦めた。何だかわからないが、謝罪を受け入れてくれたのだろう。これはきっと、王太子の国では和解のジェスチャーなのだ。
しかし、長すぎる……。
いつまで経っても王太子は私から離れない。さすがにもういいだろうと私はそっと王太子を引き離そうとした。
王太子は腕を解いた。そして、おもむろに私の顎をくいと上げ、唇を近づけてきた。
私の頭は真っ白になった。
気づくと私は、王太子を遠くへ跳ね飛ばしていた。
2
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
きさらぎ
恋愛
テンネル侯爵家の嫡男エドガーに真実の愛を見つけたと言われ、ブルーバーグ侯爵家の令嬢フローラは婚約破棄された。フローラにはとても良い結婚条件だったのだが……しかし、これを機に結婚よりも大好きな研究に打ち込もうと思っていたら、ガーデンパーティーで新たな出会いが待っていた。一方、テンネル侯爵家はエドガー達のやらかしが重なり、気づいた時には―。
※『婚約破棄された地味令嬢は、あっという間に王子様に捕獲されました。』(現在は非公開です)をタイトルを変更して改稿をしています。
お気に入り登録・しおり等読んで頂いている皆様申し訳ございません。こちらの方を読んで頂ければと思います。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。
父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。
彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。
子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる