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25 貴公子の罠

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「この部屋を提供するわ。あの女を手ごめにして」

「もう少し他の言い方はないのか?」


テレーゼの不躾な言い様にタリオンはため息をつく。


「どう言おうが同じよ。あなた程の美貌の貴公子をこばめた女なんていないでしょう?あの女を早く破滅させて頂戴」


タリオンは一度引き受けたした手前、しぶしぶ従うことにした。


∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵


リアナが部屋にやってきた。菓子を乗せたワゴンを持参したようだった。


「ご一緒に如何かと」

「まあ、お気遣い嬉しいですわ。さっそくアフタヌーンティの準備をしましょう」


テレーゼは仰々しく言うと、リアナの侍女たち全員を連れて部屋の外へ出ていった。


ガチャリ


部屋の鍵が外から閉められたことにリアナは気づいた。


「やっぱり…ゲーム以外で何もないはずなかったわね…」


リアナは何が起こるのか緊張して身構えていた。

リアナの背後に誰かが立った。


「!?」


驚いて振り返ると、タリオンがリアナの唇に指を押し当てて「しっ…」と合図した。


『こちらに』


あえて声は出さず、タリオンはリアナを連れて隣の小部屋へそっと移動した。




「あなたは確か、タリオン様…どうしてここに?」

「まあ、色々とありまして」

「テレーゼ様は私を一人閉じ込めて怖がらせるつもりだったのかしら」

「まあ、そんなところ、かな」



タリオンは大きなカーテンの陰でリアナと二人きりでいる状況に妙に胸がどきどきしてきた。


どうしたんだよ、俺。女なら今までいくらでも落としてきただろう?


「よくわからないけれど、助けてくださったんですね…?」


敵だらけだった王宮で自分を進んで助けてくれた貴族は他にいなかった。リアナは感動して潤んだ目でタリオンを見上げた。

タリオンの心臓が決定打のようにずくっと鳴った。


テレーゼの過酷ないびりにもめげず、こんなに可憐な令嬢が立ち向かい続けていたとは。


タリオンは強烈な引力に抗えず、思わずリアナの唇を奪いに顔を近づけていた。


「何を──!?」


リアナが驚いて背けようとした顔をタリオンは手で追った。


「おたわむれはそれまでに。タリオン様」


背後からばあやの声がタリオンを制した。ぎょっとしてタリオンはリアナから手を離した。


「遅くなって申し訳ございません。ワゴンから抜け出るのに少々手間取りまして」

「ばあや…」


リアナはばあやに駆け寄る。


この侍女、菓子のワゴンの中に身を潜めていたのか!?


「失礼…した」

「罠は…あなただったのですか?」


リアナが背中を向けたまま放った言葉に、タリオンはなぜか否定したい気持ちになった。


ちがう、俺は、本気で──


そう喉元まで出かかった。リアナはタリオンの方も見ず、ばあやと去っていった。





「あーあ、ばばあを仕込んでいたとはね、あの女狐が!」


テレーゼが怒りに任せて壁をガンと蹴り飛ばす。侍女たちがびくりとする。


「タリオン次の手を考えるわよ…ちょっとタリオン!聞いてるの!?」


タリオンはテレーゼの声など耳に入っていなかった。自分を見上げたリアナの潤んだ目がいつまでも忘れられなかった。



∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵



「リアナ!」


リアナとばあやが貴族館の廊下を歩いていると、ランスロットが慌てて走り寄ってきた。


「また私のいない間に…すまなかった」

「ご心配をおかけして申し訳ありません」


顔を伏せたリアナをランスロットがじっと見つめたまま問うた。


「リアナ…タリオンが部屋にいたそうだな…」

「はい、驚きました」

「あの男は私よりも美男子だし武勇にも優れていて令嬢たちにたいそうモテるのだ…何かされたか…?」


ランスロットが少年のようにうろたえながらリアナに聞いてくるので、リアナは思わず吹き出してしまった。


「まさか!ばあやも連れていきましたし何もありませんわ」

「よかった…君が他の男と一緒にいるだけでも気が狂いそうになるんだ」

「私は殿下以外、考えられませんのに…」


長い安堵の息を吐き、ランスロットはリアナを引き寄せその髪にキスをした。





「つらいな、ランスロット。王太子のお前はリアナのそばにいてやれる時間があまりにも少ない」


遠くから二人の様子を嫉妬まじりに眺めていたタリオンだったが、王代理という重責を若き身で背負わなければならないランスロットに同情の目を向けた。




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