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8 王太子が追いかけてくる

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今日は宴だ。
王太子の誕生日らしい。
王太子の機嫌をとるようにと侍女が何度もせっついてくる。
気に入られた側室が正室へと昇格するしきたりだそうだ。
 
気に入られるなどとんでもない。
私はあくまで姉姫の身代わりなのだ。
目立つわけにはいかぬ。
 
私は人目につかぬよう技の限りを尽くし気配を消していたのに、なぜか王太子に見つかってしまう。
刺客として腕が鈍ってしまったのだろうか?
 
侍従の一人が柱に身を潜めていた私の手の甲に口を付けてきた。
いや王宮の侍従ではない、変装した例の刺客だとすぐにわかった。
 
一瞬切り捨てようとしたが思いとどまった。
宴の場だ。
王族がわんさか近くにいるのだ。
ここで斬り合いをして注目されては面倒だ。
 
私の手は食べ物ではないぞ、そんなに空腹なら何か食べ物を包んできてやると刺客に伝えると、やつはこう答えた。
 
──お前が欲しい。
 
だから私は食べ物ではないと言っているではないか!
 
刺客とのやり取りを見た王太子は、もう大変な騒ぎだ。
逃げた刺客を縛り首にすると息巻いている。
 
これ以上目立ちたくなかったので、王太子に静かにするよう忠告すると、一言も喋らなくなった。
 
やはり私は怖いのだろうか……?
 
 
 
 
姫から良い匂いがする。
私には姫の姿が見えずとも、どこにいるかが分かる。
愛の力だ。
刺客の文の暗号を解いたことで、私たちの愛は深まったはずだ。
 
なのに……
私が近づく度になぜ姫は姿をくらますのだ??
恥じらっているのか??
他の側室たちが私の行く手を阻みさえしなければ、姫を捕まえられたのに。
 
ところがだ、侍従に変装したあの男が姫の手に接吻をしていたではないか!
しかも、姫を欲するなどと汚らわしい言葉を吐いている。
 
私はあの男を捕まえ極刑にするつもりであったのに、姫が……
姫が私の肩に両手をまわし、耳元で囁いた。
 
──静かに……隣の部屋で二人だけでお祝いしましょう。
 
私は舞い上がり朦朧とし言葉を失った。
その後、隣の部屋でのことはよく覚えていないが、全てがまぶしくきらめいていたことは、おぼろげに覚えている。
 
 
 
 
姫に会いに行くと宴の最中だったので、侍従に変装して紛れ込んでみた。
 
相変わらず姫は美しい。
王太子とかくれんぼをしていたようだ。
まだまだ少女のようだな。
 
俺はたまらず、姫の手に口づけをした。
再び告白もした。
姫がいつもより大人しかったのは、突然の訪問が嬉しかったからか?
 
俺は一旦その場から退いたが、姫と別れがたくて窓の外から部屋を覗きに行ってみた。
するとどうだろう。
宴会場の隣の部屋で、姫が王太子と二人きりでいるではないか。
 
姫は両手に刀を持ち、見事な舞を披露している。
松明の灯りを反射して刀が何度もきらめいていた。
 
実は王太子暗殺の依頼を先日受けたばかりだった。
今度は王の第二の寵姫が依頼主だ。
 
今王太子を殺そうにも、姫の舞には隙がない。
今夜のところは身をひくか。
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