【完結】刺客の私が、生き別れた姉姫の替え玉として王宮に入る

７ 王太子、無気力になる

大蛇とカラスと狼と山猫があの男の文を三十通くわえてやって来た。
……こんなに書けとは言っていないが？
 
まあ、これだけあれば、王太子に多少燃やされようと安心だ。
急いで解読するのだ。
 
この忙しい時に、王の寵姫と名乗る女が訪ねて来た。
刺客の文にさっと目を通したあと、あの役立たずめが、と吐き捨てた。
 
もしかして、解読したのか？
 
この文に何と書いてある、とその女に問うと、せいぜい身辺に気を付けることね、と答えた。
 
やはり解読したのか！
あなどれない女だ。
 
 
 
 
姫があの男からの大量の文を熱心に読んでいる。
 
私は負けたのだ、あの男に。
望めば何でも手に入るはずの、王太子のこの私が。
 
私は無気力に床に寝転び、落ちている一枚の文に筆で落書きを始めた。
 
【ちょう】のような
【き】み
【は】なのような
きみ
ことりのような
きみ
【て】をにぎり
【き】りあいたい
 
【】の落書きに目を留めたとたん、姫が私に覆いかぶさって来た。
暗号を解いたのか、見直したぞ、と姫が私にささやく。
 
何が起こっている！
私は一体何をしたのだ！？
 
姫の頬は触れられるほどすぐそばにある。
 
……このままでは心臓が爆発する。
 
 
 
 
王の寵姫が、二人の王太子暗殺と現王太子暗殺未遂の首謀者として逮捕された。
 
もう王太子を暗殺する必要がなくなった。
 
しかしあの寵姫はどこでしっぽをつかまれたんだ？
狡猾で人一倍慎重な女だと思っていたが。
 
暇だな。
 
また今夜、姫に会いに行くか。