上 下
20 / 36

旦那様の恋人。

しおりを挟む
黒い髪に黒い瞳をした見目麗しい少女と青年が手を繋ぎ仲睦まじく、街の中を歩く姿は、行き交うものの視線を留める。

「アラン、デートなんだから手は恋人繋ぎがいいの!」

やり直しと言わんばかりにアランと一度手を離すと、少女はアランに自分の掌を向けた。

アランに手を出す少女は、アランの幼馴染のローゼである。

王女が街の中を歩いているのも結婚している男性と手を繋いでいるのも、バレて仕舞えば騒ぎの元になる為、今は周りからは二人を見ても誰か分からないように魔法をかけているのだが、見目麗しい二人が街を歩けば、余計注目のまとになってしまう事に二人は気づいていない。

魔法をかけている本人にはローゼが普段と変わらず見えているが、ローゼにはアランが黒髪黒目の全く違う見た目に見えていても、アランはアランだから変わらず好きなのであった。

「ほら、アラン。は!や!く!恋人繋ぎをするの!」

ローゼが催促すれば、アランは「うーん。」と何やら迷ったあと、ローゼの手をギュッと恋人繋ぎで握ってくれる。

アランの自分より大きな手がローゼの手に重なれば、ローゼは堪らなく幸せな気持ちになり、アランが好きなのは自分だと、確信ができる。
だって、この一ヶ月。アランは足し気なくローゼの元へと通ってくれているのだ。

ローゼが家で寛ぎたいと言えば、横で本を読んでくれ。ローゼが一緒に寝て欲しいと言えば、添い寝だってしてくれた。
勝手に腕を使って腕枕をしてもらったりもしたが、怒らずに許してくれた。
なんなら、腕枕で眠ったフリをすれば、頭だって撫でてくれたのだ。

ローゼが街に行きたいと言えば連れて行ってくれるし、手も繋いでくれる。

アランはローゼの頼み事なら何でも聞いてくれるのだ。

プラチナブロンドの髪を持つエレナの事を思い出しながら、ローゼはほくそ笑む。
愛されてるって言ってたのに、全然愛されてないではないか。

彼女の言葉はきっと嘘を寄せ集めた言葉だったのだと思えば、あれだけ嫌いだったエレナなんて、最早どうでも良かった。

「ねね、アラン??」

大きな目でアランを見上げれば、「うん??どうした?」と聞き返される。

「エレナとは、どうなの?私アランに会ってていいのかな??怒られないかな??」

目に涙を溜め、俯くローゼの頭を大きな手が優しく撫でた。
ローゼを見るアランの瞳は優しく細められており、エレナの事を思い出しているのかも、、と思えば少し腹が立つ。

「大丈夫。エレナは怒んないよ。」

「嘘!だって前怖かったもん!」

「仲良くするように言ったから、、大丈夫。」

仲良くするようにって何?何で別れるって選択肢が無いの?かローゼはアランの考えている事が理解できない。

「私を捨ててエレナの所に行くんだ。」

アランの手を強く握り締め、歩くのをやめその場で俯いた。

「ローゼ。。。」

「だって、そうでしょう?別れてくれないもの。」

ぷぅっと頬を膨らませ拗ねて見せるが
「エレナは妻だ。」とローゼの求める返事をアランがくれる事はない。

なら、私は何?

「やっぱり、私を捨てるんだ。」

目にたっぷりの涙を溜め、うぅっ、、と泣いて見せれば、アランに抱きしめられる。

アランはとても優しい人。
だから、エレナと別れられない可哀想な人。

大丈夫。私、アランの為なら!!何だって出来るから!!

可愛らしい少女が今とんでもなく恐ろしい事を考えている事に気づきもしないアランは、街中の中心だと言う事も忘れ、力一杯少女を抱きしめてやる。

誰が見てるか何て、考えもせず。
この小さな少女は自分が守ってやらないと。そう考えるのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

処理中です...