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旦那様の秘密。

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アラン・リルテッドは執務室の机の上に並べられたいくつもの書類を一枚取っては、怒りをぶつける様に筆にインクを取り、文字を書き殴っていた。

何枚か筆圧が強すぎて、破れてしまったがアランは気にも止める事なく、ひたすらに目の前の書類に目を通しては、書き殴る行為を続ける。

「アランアラン、お前もっと丁寧に扱えよ。紙なんて女の子と同じくらい繊細なんだから。」

ケタケタと何が面白いのか笑う男の言葉にアランは耳を傾ける事などない。

何と言っても、アランの横で真っ赤な燃える様な髪を揺らしながら、何が楽しいのかご機嫌に鼻歌を歌っている男こそ、アランの怒りの原因であるのだから。

「レオン、お前何故エレナとキスした。」

「何でって。体熱いしあのまま放置してたら死んじゃうかなあって思ったから。あっ、大丈夫、ベロ入れてないしさ!」

「だから、そんな怒んなって!」と続けて軽く言えば「レオン!」と叫ぶアランの怒り声と共に、ビリリリと一枚の書類が音を立てて破れてしまう。

「あーあ、破れたぞ。これで何枚目?まじ仕事おわんねーよ、これじゃぁ。」

レオンは「はぁ。」とため息をつくと、アランの机に置かれた書類に目を通し、文字を書こうとするが、アランに持っていた筆ペン取り上げられてしまう。

「なになにアラン。」

「いい、触るな。お前とやっていた事業は全て取りやめる。」

膨れっ面でレオンを見ているアランをまるで子供みたいだとレオンは思った。
今、アランとレオンが手を掛けている事業はたった二人だけですすめていることではない。

膨大な金も動いていれば、他にも関わっている人物も沢山いる。
それを知っていてたった一人の少女とレオンがキスをしただけで、それを辞めると言い出したのだ。

「はっ、、何?アランお前、あの子の事結構まじなわけ?」

「、、、。」

無言は肯定。そう言うわけだろう。

「あー、お前まじかよ。一緒にあの子を選んだ理由忘れたのかよ。」

「黙れ。もう、お前とは暫く顔も合わせたくない。」と言い、プイッと顔を逸らすアランを見て、嫌、乙女かよ。とツッコミそうになるが、レオンは言うのを堪え、代わりに真っ赤な髪をガシガシとかき揚げながら、「まじかぁ、あー、どーしよっかなぁ。」と何やら悩んだ後、「あー、うん。仕方ないよなぁ。」と何かを諦めた様に言うのだ。

そうして、部屋を出て行こうとするのだが、
「レオン。」とアランに名前を呼ばれ足を止めた。

「なに?一緒にやる事業もうやらないんだろ。だったら、俺はあの子に真実だけ伝えてこようかなあって思って。」

口笛を拭きながら、上機嫌で部屋を出て行こうとするレオンをまた「レオン!」と先程より強い声で叱責すれば「なになに?何怒ってんの?」とアランを少し小馬鹿にして言うので、余計にアランの眉間にはシワがより、レオンに対して怒りを見せる。

だが、「エレナには、、言うなよ。彼女はローゼの事もこの事も何も知らないんだ。」
エレナに言われる事にアランは相当怯えている様で、悔しげに顔を歪めたアランは眉を下げ「お願いだ、、。」と続けてレオンに頼むのだ。

ジッとアランを見た後暫しの沈黙が流れたが、レオンは「はいはーい。」と適当に返事をし、そのまま廊下へと足を踏み出した。
瞬間、べチャリと足元が音を立てたので、首を傾げ
足下を見れば濡れており、水でちょっとした水溜りが出来ている。

なんだ?とその水溜まりを目で追えば、水の跡は何処までも何処まで続いており、レオンは笑みを顔に浮かべ「もう、バレてるじゃん。」と水跡の先へと鼻歌を歌いながら向かっていくのだ。

途中であった侍女に、「床、濡れてるから拭いといて?」と指示したので、侍女達により直ぐに水は全て拭き取られてピカピカに磨き上げられて仕舞えば、もう執務室にエレナ本人が来た事なんて、アランは知るよしもなかったのであった。
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