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主婦の殺し屋と海猿と暗号通貨
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敵は海からやってくる。
敵は不審船、テロリスト、海賊だけではない。大型船の暴動の鎮圧から邦人の救出、テロ制圧、怪物兵の退治と多岐にわたる。相手にするテロリストや海賊も人間や普通のミュータントではなく怪物化していたり、そのテロリストが変身して怪物に変身したりする。普通の海上保安官では対処できないから自分達特殊部隊SSTがやるのだ。任務の中には時空の亀裂を発見して塞ぐのもあるからだ。
「内海隊長」
隣りにいる女性が呼んだ。
「何?」
内海は顔を上げた。
「呼びかけに反応しない不審船にもうすぐ上陸します」
女性の隊員は揺れるヘリの窓からのぞく。
「そうか」
うなづく内海と呼ばれる女。
でも自分は女でも男でもない。両性具有で男だが男性的な体格で白色サイバネティックスーツに覆われている。胸当ては青色。戦う時はこれが鋼鉄化して鎧のようになる。
本来なら重武装だが「マシンナイト」には必要ない。自分達自身が武器庫だからだ。怪物化したテロリストや民兵、海賊を鎮圧するには人間では対処できずミュータントでも苦戦するからである。怪物は「時空の亀裂」からやってくる。それと戦うには人間やミュータントである事をやめなければいけない。技術提供は「マシンヘッド」という異世界から来たエイリアンである。彼ら自身も金属生命体で怪物と戦う力を人類に提供した。それは自分達も人間やミュータントをやめて金属生命体になるという事なのだ。
自衛隊の特殊部隊や駆けつけ警護、中東に派遣される部隊、海賊対処部隊の隊員は「マシンナイト」がほとんどである。自衛隊だけじゃなく他国の軍隊も沿岸警備隊の隊員の特殊部隊はそうなっている。
「マシンナイト」になると心臓は光輝くコアに変わり、生身の部分がなくなりほぼ機械になる。自分達は戦う力を与えられて怪物共と戦っていた。
さっき話しかけてきたのは氷見御世。炎でなんでも焼き尽くす。不老ではないが不死身でどんな傷を負っても死ぬ事がなく起き上がる。そしてミュータントだった時から幽霊が見えて話しかけたりできる。
三人目は飛鳥道宏。同じ「マシンナイト」でも乗り物や兵器と融合するタイプで彼は巡視船と融合。変身もできて地上ではその武器で攻撃する。
四人目は落合雪次。同じ乗り物でも海保の航空機と融合。陸でも空でも攻撃できる。
窓からのぞく内海。
大型タンカーが見えた。石油をどこかで降ろしたのかスピードが速い。
海保のヘリコプターは低空で接近。内海達は身を乗り出し、上空で飛び降りた。
四人は大型タンカーの甲板に着地した。
船橋から飛び出す四足歩行の生物。動物ではない。頭は体のわりに大きく目はギョロっとしていて顔がカッパに似ている。体色は黄土色で口には牙が生えている。全長は4メートル。見た目からあだ名は「カッパもどき」である。カッパと違うのは甲羅がないだけでカッパのような顔からである。
ギィィィ!!
カッパもどきが吼えた。金属がこすれすような耳障りな吼え声だ。それがあと二体やってくる。
内海、氷見、落合は片腕を機関砲に変え、もう片方を長剣に変える。
飛鳥はそこにあった鉄骨をつかむ。ビル建設に使うような太い鉄骨だ。
一匹目のカッパもどきが飛びかかる。
飛鳥は鉄骨でぶん殴った。
コンテナに激突するカッパもどき。
二匹目のカッパもどきは鉤爪を振り下ろし、三匹目は飛びかかる。
内海達はその間隙を縫うようにかわすと足元を駆け抜けた。
内海と氷見はカッパもどきの背中に飛び乗り、駆け上がると頭部を機関砲弾で撃ち抜く。青い光線が貫き、倒れた。
飛鳥は鉄骨を突き入れる。カッパもどきは再びコンテナに激突。
落合は鉄骨に飛び乗りジャンプして機関砲を連射。カッパもどきの頭部を撃ち抜いた。
飛鳥は鉄骨を捨てた。
四人は船橋から船内に入った。するとそこに船員がいた。しかし歩き方は機械的で皮膚は土気色で生気がない。
船員は四人を見るなり飛びかかる。
内海の回し蹴り。
船員は壁にたたきつけられたがそれでも起き上がって走ってくる。
片腕を火炎放射器に変形させる氷見。激しい炎が噴き出し船員は焼かれ、黒こげになる。
船内には船員達がいたが、内海達を見るなり壁や天井を這い回りながら走ってくる。
内海、氷見、落合、飛鳥は片腕を長剣に変えて、背中から二対の金属の連接式の触手を出してその先端を槍に変えて駆け出す。
氷見はスライディングしながら片腕の機関砲を連射。
両腕の長剣で内海は船員を袈裟懸けに斬り、なぎ払いなら駆け抜ける。
落合は体操選手が舞うように二対の長剣と二対の斧でなぎ払っていく。
飛鳥は斧でなぎ払い、片腕の機関砲で連射。
しばらくすると銃声と吼え声はやみ四人の足元には百人位の船員の死体が転がっていた。
落合は手首からケーブルを出してプラグを接続した。タンカーのコンピュータに接続してエンジンシステムに侵入してスクリューを逆回転させる。しばらくするとスピードが落ちて舵が動いて右旋回した。
「船倉やタンクは空っぽね。人為的に何も積まないで日本に入港するようにセットさせている」
氷見はデータベースにアクセスして航路を分析する。
「おもしろい事をやる連中だ」
飛鳥はつぶやく。
「タンクと船倉を見に行くぞ」
内海は船橋を出て行く。
ブリッジから船内に入る四人。
普通なら石油なり水なり入れて帰ってくるが空っぽである。通路にもいないし、機関室もエンジンルームもいない。
その時である空になったタンクから急に気配が生まれたのは。
這い回っていたのはムカデである。鎧のような外骨格に覆われ、全長二十メートルの大ムカデである。ムカデは四人を見ると襲ってきた。
内海達は片腕を機関砲に変えて撃つが青い光線はすべて弾かれた。
ムカデの体当たり。
内海とムカデはいくつもの部屋を壊しながら壁にたたきつけられる。自分の体内の金属骨格が潰れる音が聞こえたがすぐに骨が復元していく。
体が受けたダメージや損傷はすべて痛みや苦しみとなって電子脳を刺激する。
内海は口から青い潤滑油を吐き捨てると拳で何度も殴った。
ムカデの牙が折れて、兜のような頭部の外殻にヒビが入った。よろけるムカデ。
ムカデのしっぽを大きく振りかぶった。
すんでのところでかわす内海。すぐ上をしっぽが空を切った。
ムカデは口を開けて飛びかかる。
内海は片腕をバズーカー砲に変えて撃った。青い太い光線がムカデの口の中を貫いた。
駆けつけてくる三人。
ムカデの死骸が転がっている。
胸を押さえている内海がいた。
「もうすぐ回復する」
顔を歪ませる内海。
体内から金属が軋む音が聞こえて傷口がふさがりコアと周辺部の損傷が治っていく。
「こちら第三チーム。不審船は制圧した」
氷見は小型無線ごしに報告した。
都内の公園。
エプロン姿の女はスーパーの袋を持ったまま噴水に近づいた。
公園の噴水には家族連れや観光客がおり、噴水の前にあるベンチに初老の男が座り、新聞を読んでいた。
「太田明弘さん?」
「え?」
顔を上げる初老の男。
「太田明弘さんですか?」
エプロン姿の女は近づく。
「なんでしょうか?」
太田明弘と呼ばれた初老の男が立ち上がった。せつな拳銃で女は躊躇する事なく引き金を引いた。
銃声とともにもんどりうって倒れる太田。
悲鳴を上げて逃げ出す観光客や家族連れ。
エプロン姿の女は倒れた太田の頭に向かって銃を撃つとそそくさと立ち去る。女は公園から出ると近づいてきた黒のバンに飛び乗り去っていく。
「杉浦志乃。合格だ」
覆面の男は口を開いた。
「それはよかった」
震える手をなんとか押さえながら杉浦は深呼吸をする。
私は杉浦志乃。普通の主婦をやりながら殺し屋を始めた。勧めたのは自分の夫の仁志。夫が勤めるのは水野警備という名前の民間軍事会社である。そこで欠員が出て急きょ、女性のホステス役で出る必要があったので自分が出勤したのだ。初めはホステスとして男性客と同行出勤でターゲットを連れてくる事から始まり、満員電車や満員バスに乗り込んで標的に近づき、目的のものをバックに入れる事までやった。それが出来たら、次は標的を殺害する事。初仕事が標的にとって不利な証言をして証人の暗殺であった。それは成功した。
「マシンヘッドは気まぐれだ。自衛隊や兵士、特殊部隊を喜んで改造する。民間軍事会社にも来たんだ」
覆面を取る男。
「仁志。あなたはこれからどうするの?」
杉浦は聞いた。
「僕は会社から指示で中国人をやる。人間やミュータントは殺害できるがマシンナイトだとコアをえぐらないといけない」
仁志は運転しながら答える。
「怪物とも戦わないといけないのね。私もマシンナイトになってもいいけど」
杉浦が誘うように言う。
「君と結婚して二年だが君は変わっている」
仁志はあきれる。
「普通の主婦でもこのご時勢じゃあ料理じゃなくて銃を持つかマシンナイトになるしか給料が出ないからね」
冷静に答える杉浦。
「わかった。何かあったら内海という海上保安庁SST隊員に会え。そうすればマシンヘッドと会える。マシンナイトになるかならないかは君次第だ」
名刺を渡す仁志。
杉浦は仁志にキスすると名刺を受け取った。
その頃。横浜保安署。
ここには第三管区横浜保安署がある。十年前までは赤レンガパーク公園や大桟橋、山下公園は観光客や家族連れでにぎわっていたが時空の亀裂がナミブ砂漠に現われてから怪物が現われるようになり港湾施設、海岸沿いは十五メートルの壁で覆われている。怪物が現われ、それを追ってきたエイリアンが現われ国連組織「ナイツ」を創設した。直訳すると騎士団になる。それにより特殊部隊SSTは再編されチームメンバーはマシンナイトになり普通の保安官はいない。特殊救難隊もあったが要救助者が怪物化したりテロリストが偽装している事が多く、逆にやられてしまう事が多くなり解散。代わりに特警隊を置いて輸送船やタンカー以外は入れなくなった。SSTも数ヶ所に置かれていたが今や十五チームまである。それは自衛隊も同じで専門部隊が二〇チームまである。日々、駆けつけ警護や離島防衛についている。怪物は中国大陸方面からやってくる事がわかっている。自分達はその方面からやってくる海賊や不審船、民兵を排除するのが仕事だ。
ミーティングルームに入る内海達。
部屋に入ってくる幹部保安官。
「出た。鉄仮面」
氷見がささやく。
無表情な顔で近づくくだんの幹部保安官。
「仕事だ。大型コンテナ船が東シナ海でテロリストに乗っ取られて日本に向かっている」
幹部保安官は資料を渡した。
「西小路。あそこの担当は第十一管区だろう。俺達になぜ回す?」
内海は顔を上げた。
「離島防衛で手が回らないからうちに回ってきた。日本にとっても重要な物があってね」
西小路は抑揚のない声で切り出す。
「重要な物?」
氷見が聞いた。
「暗号通貨プログラムとそのプログラマーがその船に乗り込んでいる。政府が肝いりの政策で日本円を暗号通貨にするそうだ」
西小路はジュラルミンケースの写真とプログラマーの写真を出した。
「邦人救出に行けばいいのだろう」
声を低める内海。
「私の話は以上だ。オスプレイを自衛隊から借りてきた。それに乗ってもらう。行け」
西小路は冷たく言い放つ。
内海達は不満そうな顔で出て行った。
ヘリポートからオスプレイが飛び立つ。
「暗号通貨って池上彰がしゃべっていた仮想通貨の事か?」
内海が口を開いた。
「そうだね。仮想通貨は世界中が自国の通貨をそれに切り替えようとしている。日本もいよいよ乗り出したと言える」
それを言ったのは落合である。
「そんなにすごいのか?」
飛鳥が聞いた。
「暗号通貨の肝はプログラムにあると言っていい」
落合が自信ありげに言う。
「そうなの」
感心する氷見。
「かつてビル・ゲイツは一九九四年に言った。今ある銀行機能はなくなると。さすがマイクロソフトを作っただけの事はある。どの銀行も土日祝は休みで二十四時間営業じゃない。それに土日祝は手数料が取られる。政府や企業、日銀に左右されない通貨。それが電子通貨だ」
落合はタブレットPCに暗号通貨の画面を出して説明した。
「よく知ってではないか」
感心する飛鳥。
「僕のいとこが証券会社に勤めていて暗号通貨を扱っているからよく聞いている」
落合は画面を切り替えた。
「ビットコインだ」
内海や飛鳥、氷見が声をそろえる。
「暗号通貨の原形となる論文を書いたのは日本人が二十年前に書いたとなっているけどよくわかっていない。その論文を見たビットコインを作ったプログラマーはその論文を元に作った。SF映画みたいな話だったけど結局ビットコインは有名になった」
落合はタブレットPCに中年の日本人の写真を出して説明した。
「確かビットコインを扱ったマウントゴックスの代表者は横領で逮捕されて刑務所よね。マウントゴックスは破産申請中で破産した」
氷見があっと思い出す。
「よくニュースを見ているな」
しれっと言う飛鳥。
「そういえば池上彰がTVで仮想通貨の事をしゃべっていた」
内海はあっと思い出す。
一〇年前だからたまたま見た番組で池上彰氏が説明していた。その時は興味なくて途中まで見てバラエティ番組を見ていた。
「私もその番組を見たよ。近い将来、従来の貨幣に変わる暗号通貨で近いうちに革命が起きるかもって」
氷見が携帯の画像を切り替え、ビットコインやアマゾンコインの画像を見せる。
「そんなに進んでいるの?」
飛鳥と内海が聞き返す。
「金融庁や国会で法整備を進めているし近いうちに巣鴨や商店街でも気軽に暗号通貨で買い物ができるようになる」
当然のように言う落合。
「暗号通貨は千五百~二千種類あると言われている。仮想通貨と暗号通貨はちがうの。仮想通貨はコピーや改ざんも可能。暗号通貨はプログラムが複雑すぎてコピーもハッキングも不可能。セキリュティは万全。だから金融庁や政府も法整備をしている」
落合が図面を書いて説明した。
「でもそれをハッキングできるハッカーが現われた。だから紙幣は紙くず寸前になり世界経済は混乱した。混乱を収めるために自国の通貨を暗号通貨に切り替えたの。造っている最中に研究所が襲われのかもな。新聞でもその関連研究所が襲われたとあるから本当かもな」
落合は新聞記事を出した。
「暗号通貨を盗むって不可能では?」
内海は首を振った。
タブレットPCからホログラム映像が飛び出す。そこにはビットコインの映像が飛び出し、幾何学的な模様のプログラムが展開する。それが三重の螺旋のように連なる。
「なくなったのは三三三枚目のコインでそこの情報がごっそりなくなってる。普通なら取引ができないはずだ」
内海が指をさす。
「迂回経路的なプログラムが組み込まれていてそれでかろうじて動いているみたい。普通なら暗号通貨を盗むなんて不可能よ」
氷見は指摘する。
「なんで?」
飛鳥が聞いた。
「ブロックチェーンプログラムによって鎖状につながっているからなんだ。ビットコインはあらかじめ二一〇〇万枚と決まっている。それらは取引する事によって情報が蓄積される。途中のコインを取り出すには前後の情報が必要でね」
落合がタブレットPCを渡した。
飛鳥と内海、氷見は接続プラグを手首から出して自分のタブレットPCに差込んで資料を読んだ。
「すべての暗号を解かないと読めないし、解くには広大なスペースとマシンと電気代が必要なんだ」
落合はタブレットPCを操作する。
「まず経済を安定させたい政府は自国の通貨を暗号通貨にするために研究所のプログラマーを呼んだ。しかしそれをよく思わない勢力が邪魔してきた」
落合は映像を切り替えて他の暗号通貨のプログラムを出した。
「どれも途中のコイン情報がない。盗まれた暗号通貨は迂回回路でつなげてある」
氷見は推測しながらプログラムをのぞく。
「本当のプログラムは人質のプログラマーにあり、そいつが盗んだ暗号通貨の情報を持っている。それを組み込んで世界経済を安定させる暗号通貨を始動させる」
落合は西小路からもらった資料を出す
「天才だ」
内海と飛鳥が感心する。
「天才だけどビットコインは最高のプログラマーが何人も携わって造られている」
落合はビットコインの記念コインを出す。
「ビットコインをプログラムしたプログラマーは何人かいてビットコインが有名になる前から携わっている者もいる」
落合は口を開いた。
「ビットコインを扱っていたマウントゴックスの代表が横領で逮捕されたのが有名だけどそれ以前のビットコインは売れてなかった。
ビットコインの論文を書いたのは勅使河原稔という日本人と言われているけど彼は論文を書いただけにすぎない。ビットコインを造った当初は世間から相手にされなかった。初めは0・二円だった」
内海は映像を切り替えて説明する。
「それを有名にしたのは営業マン達の涙ぐましい努力のおかげ。二〇一〇年にある男が一万ビットコインを買った。それは数年後八億円で売れた。1コイン0・二円だったのが最高十四万円まで跳ね上がった。その理由が中国人が外貨対策に爆買いしたからもあるし彼らのコイン好きもあるから有名になった」
落合が部屋内を歩きながら説明した。
「プログラマーが持っているあのケースにあんな膨大な情報量を詰め込むのは無理ね。マシンヘッドの技術が入っているわね」
気づいたことを言う氷見。
「たぶんあのケースはメモリーになっていて、実際に取引されている十二種類の暗号通貨が入っていた。仮想通貨と暗号通貨の違いは仮想通貨は楽天やアマゾンといった通販サイトや企業がそこで使えるコインを作ったりしているけどハッキングされたり、改ざんされたり、消失もありうる。暗号通貨は複雑なブロックチェーンプログラムにより管理され枚数も決まっていて、取引されるとみんなに情報がシェアされる。それが鎖のように繋がっていて十分ごとに情報が更新される」
落合は映像を切り替えて暗号通貨の取引サイトを出した。
「すごいな・・・」
どよめく内海達。
どんどん古い情報が更新されていく。
「各ブロックの前にさっき取引した情報が圧縮されて管理される。元要約した短いデータを「ハッシュ取引」という。だから過去のブロックを改ざんは大変なの。そこには計算を早く解いた人がいてつなげる「マイニング」作業する人がいる。それは中国人がやっている。そこは体育館よりも広い場所でマシンが山積みでマシンコストや電気代も安く、人件費も安く済むからね」
落合は説明した。
「それに今では金融庁も国会でも法整備を進めている。今では東京三菱銀行やスイスでも導入しているし、証券会社も金融商品として扱っている」
レイモンドが映像を切り替え、新聞記事を出した。
「時代は変わったな」
感心する内海達。
「その中でビットコインは商品を交換できて現金化もできる」
たたみかけるアンナ。
「ビットコインのプログラマー達はその中でも最高レベルの腕を持っている。例えばスパイ映画のジェームズ・ボンドやM16やモサドのスパイが侵入しようとしても不可能なのはその膨大な情報量のせいだしセキュリティは万全だったけどハッキングされて破られた。だからマシンヘッドの力を借りていると思うね。うわさでは第二の通貨の計画が国連総会ではあってそれは出口戦略も考えて設計されている」
落合ははっきり指摘した。
「間もなく本機は当該域に到達します」
機内アナウンスが入り、席を立つ四人。
オスプレイは低空で侵入し、後部ハッチが開いた。
身を乗り出す内海達。彼らは飛び降り甲板に着地した。
五人の黒マスクをしている男達が振り向いた。せつな、内海と落合の背中の触手の刃と両腕の剣が心臓を貫いた。
コンテナから降りてくる氷見と飛鳥。
「右舷にいたテロリストは始末した」
報告する氷見。
船橋に入る内海達。
船内に暗褐色の物体がいた。その人型の物体には顔がなく信号ランプが一つついているだけだ。その手にはライフル銃を持っている。
内海達は左腕を機関砲。右腕を長剣に変えて銃弾をかわし、壁や天井を蹴り走りながら撃ち、舞いながら袈裟懸けに斬っていく。
走りながら船橋から上甲板に入る四人。
普通のタンカーならタンクが並ぶがかなり改造されているのか吹き抜けになっている。何かの機器類が並んでいた。
バルコニーから飛び降り内海は背中の触手の銃身と片腕の機関砲を交互に撃つ。
そこにいたテロリスト達は頭を穿たれ次々倒れていく。
天井を這い回るオオトカゲを撃ち落とす落合と飛鳥。
タンクから飛び出すカッパもどき。大きさは小ぶりだがそれでも二メートルある。
片腕の放射器で焼く氷見。
通路に土気色の顔の少女がいる。
笑みを浮かべる氷見。
彼女は死んでいる。俗に言う幽霊であるが自分にしか見えない。
少女は通路の奥を指さした。
「内海隊長。私は人質を探しに行きます」
氷見は名乗り出る。
「頼んだ」
内海は手榴弾を出した。
「そこの格納庫にテロリストのボスがいるのね」
納得する氷見。彼女はバルコニーにジャンプして船室に入った。
内海はシャッターに手榴弾を貼り付け、スイッチを入れた。倉庫と倉庫を仕切るシャッターが吹き飛び格納庫が現われる。
部屋に複数の男がいた。髪は銀髪の白い肌の男がいた。白人ではなくアルビノだろう。
銀髪の男以外は黒髪だった。日本人ではなく中国人だ。
「やあ内海君。ひさしぶりだね」
流暢な日本語で声をかける銀髪の男。
「劉炒燐。船と融合したんだ」
冷静に言う内海。
感覚的にマシンナイト同士は相手が何と融合しているのかわかる。
「本当は駆逐艦と融合したかったんだが余り物の海警船になった。残念だな」
龍炒燐はおどけながら言う。
「探しても見つからない所に放り込んだ」
龍炒燐はニヤリと笑う。
「おい、行くぞ」
龍炒燐は二人の部下に指示を出す。
部下達が動いた。
落合と飛鳥は二人のパンチや蹴りを受け払った。
龍炒燐は片方の腕を機関砲に変えると連射した。銃弾ではなく赤い光線である。
内海は彼の周囲を駆け回りながらかわすと片腕の長剣でなぎ払った。龍炒燐の機関砲に変形している腕を切り落とす。
龍炒燐は内海の首をつかみ上げ、片腕の長剣で胸を突き刺した。
「ぐあぁぁ・・・」
内海はのけぞり彼の腕をつかむ。
龍炒燐は剣をえぐる。
内海の傷口から青い潤滑油が機械油と一緒に噴き出し、部品やケーブルが飛び出る。
「苦しいだろ。痛いだろ。俺たちはコアをえぐられない限り死なないんだ」
怒りをぶつける龍炒燐。
内海はのけぞり身をよじり目を剥いた。
意識は遠のいていかない。機械になってしまったらコアを取られない限り死ぬ事はない。
内海は背中から一〇対の触手で龍炒燐の体を貫いた。
「ぐわあぁ!!」
龍炒燐は声を上げのけぞり内海を放した。
内海に蹴り飛ばされる龍炒燐。
龍炒燐の二人の部下は胸に穴が開き倒れていた。
落合と飛鳥の体は傷だらけ。深い傷口からプラグやケーブル、部品が飛び出ているがそれも体内に引っ込んでいく。
「人質を探すぞ」
三人は格納庫を飛び出した。
氷見は船首側の通路を進む氷見。
土系色の顔の少女が機械室を指さした。
氷見は機械室に入ると男二人が足や腕に噛みつき、その肉を食べていた。手足の持ち主はドラム缶に入れられている。すでに生気がなく身動きしない。絶命しているようだ。
二人の男の両目は赤色で皮膚は生気がない。
氷見は両腕を放射器に変形させた。
部屋に隠れていた河童もどきや怪物兵が飛びかかった。
ゴオオォ!!
激しい炎が両腕から噴き出し、それは青い炎に変わり、塵と化した。
氷見はタンクを開けた。そこに溺れている男がいた。彼女は手を伸ばし、男の腕をつかみ上げタンクから出した。
「助かった・・・」
若い男は座り込んだ。
氷見は男の腕や首や足の襟や袖をめくって傷がないか確認する。
「僕は噛まれてません」
戸惑う若い男。
「暗号通貨プログラマーはあんた?」
氷見が聞いた。
「はい。僕です。白瀬勉です」
名前を名乗る若い男。
「プログラムは?」
氷見は聞いた。
白瀬は奥歯に引っ掛けていた袋を出すと鍵を出し、金庫のタッチパネルを操作して鍵穴に差し込む。金庫の扉が開いてジュラルミンケースを出した。
部屋に飛び込んでくる内海達。
「人質は溺れる寸前で助け出した。怪物に噛まれていない」
氷見はハンドモニターを見せた。
どこかで爆発音が聞こえた。
「あいつらがやってくる」
舌打ちする内海。
「脱出口ならあそこにある」
白瀬は天井を指さした。
甲板に出てくる内海達。
接近してくるオスプレイ。
「おかしい。パイロットがいない」
落合が気づいた。オスプレイの操縦席の窓に赤い光が二つ灯った。機体から四対の鎖が飛び出し着地してバルカン砲が火を噴く。
白瀬を抱えて甲板を走る氷見。
内海と飛鳥は片腕をバズーカーに変形させて発射。青色の光線がオスプレイの機体を貫通。爆発して海へ落ちた。
氷見が振り向いた。
スライディングする龍炒燐。彼はジュラルミンケースをつかんで海に飛び込む。
低空で侵入してきたジェットエンジンタイプのオスプレイのハシゴをつかみ飛び去った。
「方向はこのまま行くと東京だ」
落合が飛び去った方向を見上げる。
タンカーに接近する漁船軍団。
漁船には漁師や乗員がいない。
落合は緑色の蛍光に包まれてDHC-8型双発の輸送機に変身した。四対の鎖でつかんで内海達は飛び去る。
「こちら西小路」
機内無線が入る。
「こちら内海」
「沖ノ鳥島沖で水野警備の警備船が襲われている。救助要請だ」
「了解」
日本近海。沖ノ鳥島沖
大型船に体当たりするクジラ。それはただのクジラではない。全長一〇〇メートル。体全体を鎧のような殻に覆われているという怪物だった。
大型船の76ミリ砲が火を噴く。
しかしクジラはものともせずに吼えた。
水面に上がってくる大蛇やサメの群れ。
船体側面と船尾の二〇ミリ機関砲や四〇ミリ機関砲が火を噴く。
サメの体を次々穿った。
船首砲で鎌首をもたげて出てきた大蛇の頭部を撃ち抜く。
船内の警備兵は忙しく行き交う。
無線室で若い男は無線や電波を傍受している。若い男はタッチパネルを操作して電波がどこから出ているのか探る。電波をたどればこの怪物達を操る奴がいる。
ドオーン!!
船内が大きく揺れた。
「捕まえた」
若い男は近い海域から出ている電波をたどりコンピュータウイルスを送信した。
ドドーン!!ヴァン!!
船内が再び大きく揺れて床にたたきつけられる若い男。ドアが開いて廊下に転がる。
ドドド!!ドドーン!!
爆風に吹き飛ばされ壁にたたきつけられる若い男。
何がなんだかわからないが化物の群れが去っていくのが見えたが一緒に乗り込んでいた乗員達は海に浮かんで身じろぎしない。自分も鋭い痛みを感じて身を起こすと下半身がなくなり片腕がなくなっていた。
どうやら自分はここで死ぬようだ。
若い男は大きく裂けた腹部を見てぐったりとなる。でもどこかで航空機の飛翔音が聞こえた。
甲板に着地する四人の男女。
「警備船の救助要請があったが怪物は去った後か」
周囲を見回す男。
「電波が出ていて電波を出していた主は怪物の群れに電波が遅れなくてミサイル攻撃して帰ったようね」
女は海を見下ろす。
二人の男も船室に入り、生きている者がいないか確認している。
「内海・・・?」
気が遠くなりそうな意識で若い男は声をかけた。
「忌野京介(いまわのきょうすけ)じゃないか。海保のSST部隊から外れて潜入捜査官として情報部隊に入っているというのを聞いたんだ」
内海は破顔して近づきしゃがんだ。
「民間軍事会社との調査で怪物を操る連中を追っていた」
忌野は笑みを浮かべる。
「俺達はマシンナイトになって怪物共を退治している。怪物を送り込む連中やどこかに現われる移動性の「時空の亀裂」を追っている。しかしハッキングや情報収集する隊員がなかなかいなくてね」
内海は真剣な顔になる。
「内海、氷見、落合、飛鳥と一緒ならやろう。だが民間軍事会社にいるから共同作戦も取るし時には意見がちがって対立もありうるだろう」
笑みを消える忌野。
「落合は人質だった人物を基地に送るために基地に戻った」
内海は周囲を見回す。
内海に近づく黒色のサイバネティックスーツの男。白肌でスキンヘッド。満州人の辮髪のようにケーブル束をポニーテールのように束ねているからマシンヘッドである。彼ら自身も金属生命体でここへは怪物の群れと時空の亀裂を追ってやってきている。怪物や時空の亀裂の対処法を教えるのと同時にマシンナイトにして戦い方を教えている。彼らも戦い方を教えて技術力を提供しては他の異世界へ渡り歩くという生活をしているという。だから悪い連中でもないが、彼らは同時に心臓や動物の肉をつまみ喰いして帰る。
「忌野。おまえはこのままにすれば死ぬだろうし、病院につれて行ってもいいが死ぬ。内臓もなくなっているし、下半身や片腕はどこかに吹き飛んで見当たらない」
内海は真剣な顔になる。
「どっちにしても地獄か。やれ」
腹を決める忌野。
どのみちこのままだと自分は死ぬのはわかっている。ならマシンナイトになって怪物を送り込む奴らを追う。そいつらだけでなく中国民兵を送りこむ連中も追い返したい。自分のハッカーとしての経験やコンピュータウイルスの製造、量子コンピュータだって論理的に操作可能にできる。
「では遠慮なく」
マシンヘッドはケースから光輝くコアと周辺装置を出すと、片腕で心臓をもぎとり、胸にコアを入れた。せつな恐ろしい笑い声や無数の声が脳裏に入ってきて体内組織があっという間に機械に変わっていく。なんとも言えない違和感だった。
「ぐああぁぁ!!」
焼きゴテで押し付けられるような痛みやナイフでえぐられるような激痛が襲ってきて、ケーブルが生え、青白い光が自分を包む。
光の中で激痛が走り、体から金属のウロコが生え、胴体がひどく軋み音をたてて歪み、防弾アーマーに変わり、ショルダーパットや腹部やわき腹も金属プレートが生えた。足は金属のプレートに覆われ、片腕が金属の連接式の触手に変わり手は鉤爪に。耳は無線内臓の金属の耳宛に背中から一〇対の金属の触手が生えた。でも下半身や片腕はない。金属の鎧は再び分解してウロコとなって体内に引き込まれ、白色のサイバネティックスーツの胴体と腕に変わっていた。
「下半身と内臓も造ってくれるそうよ」
氷見がのぞきこむ。
「それはよかった。また仕事ができる」
忌野は笑みを浮かべた。
オスプレイが五人を回収して船から離れる。
「どこに向かっている?」
忌野が聞いた。
「おまえがいる民間軍事会社。そこにも仲間のマシンヘッドがいて情報収集やハッカーとして役に立つ体をくれるそうだ」
飛鳥は声を低める。
「情報収集して指揮する者は必要だ」
落合が視線をうつす。
「わかった」
忌野はうなづいた。
オスプレイは水野警備のヘリポートに着地する。内海によって忌野を医務室に運ぶ。
忌野は周囲を見回した。そこには工具や部品がならび医務室とは呼べない部屋だ。
構わないさ。怪物の送った奴や時空の亀裂がどこに現われて、敵を探れれば。以前からマシンナイトには興味があったのだから。
「消化装置や重要な臓器はあるな。ならこの小型の量子集積装置を入れよう」
中年の博士は小型のドラム缶のような装置を見せた。それは円柱型で高さ五十センチ。直径四十センチありケーブルやパイプ、配線が出ている。その隣りが臀部から下の両足だろう。両足は金属プロテクターに覆われている。その隣りに胸まで覆うコルセットや胸当てがある。胸当ては厚さが十センチあり、何やら配線やケーブルが見え、片腕もある。
どうやら自分は人間ではなくなったようだ。
忌野はため息をついた。
量子集積装置が腹部に接続され両足や片腕、コルセットや胸当て、首にもコルセットがはめられ、頭部にはヘアバンドがはめられた。
せつな頭をハンマーでたたかれたような痛みが走り、のけぞった。呼吸が荒くなり胸が激しく上下した。
「ぐああああ!!」
バキバキ!!メキメキ!!
腹部から胸まで深く断ち割れ、ケーブルや配管がその傷口の下で激しくのたくるのが見えた。傷口は軋み音をたてて歪み、胸当てが硬質化する。でもそれは体をよじりのけぞる度にシワシワになった。
新しい腕は膨らみ連接式の金属の触手に変わり手は鉤爪に変わる。
この体・・・嫌だ・・よけいに・・
忌野は身をよじりのけぞる。
電子脳の脳裏にレーダーや赤外線センサーや亜空間センサーがくわわり、装備している武器にビーム銃、銃剣、バリア発生装置がプログラムされている。
どんどん自分の体が変わっていく。
耳障りな軋み音とともに胸や腹部、わき腹、背中、ひざ、掌底が断ち割れ、割れ目から金属ドリルが飛び出した。
「ぐうぅぅ!!」
ズン!と突き上げるような音や何かが引っかき回すように体が激しく盛り上がりへこむ。
目を剥く忌野。
ギギギギ!!ビシビシィ!
金属の背骨から連接式の金属の触手が一〇対飛び出し先端は掃除機の先端のように変形して周囲をまさぐるように這い回る。
金属の背骨が激しく軋み歪むのが嫌でもわかる。心臓音が耳に響いた。
自分は人間でなくなったのに懐かしい音が聞こえる。
全身の軋む音や消えていき金属ドリルや這い回るケーブルも引っ込んでいく。
自分から人間の部分が消えていく・・・
忌野の目から一筋の涙が流れ落ちた。
数日後。都内。
「仁志・・・この三日帰ってこない」
家の掃除しながらつぶやく杉浦。
夫の仁志はあの後、家に帰らずにそのまま次の任務に行った。そして帰ってこない。警備員もやるし殺し屋もやる。でも失敗すれば命を失う。
電話が鳴った。
「もしもし杉浦ですが」
電話に出る杉浦。
「水野警備の者です。杉浦仁志さんの奥さんですか?」
受付の男の声が聞こえる。
胸騒ぎが収まらない。不安が押し寄せる。
「はいそうです」
「仁志さんは亡くなられました。会社に来てください。説明します」
「わかりました」
一時間後。水野警備
応接室に通される杉浦。
中年の警備員はソファに促した。
「うちの主人はどういった仕事をしていたのですか?主人から聞いたのですが中国人を暗殺するという仕事だというのを聞いた」
話を切り出す杉浦。
「武器商人の中国人の暗殺です。情報不足でその中国人はマシンナイトだったようです」
「そうなの。主人から何かあったらこの内海という保安官を頼れと言われた。マシンナイトになるかならないかは君次第と言われた」
「その人は海保の特殊部隊SSTの隊員ですね。彼もマシンナイトです。適合者や志願者を募集している。覚悟が必要だ。敵は怪物だけでなく中国からもやってくる。時空の亀裂を操っている者がいる。マシンナイトになるということは「人間をやめる」のと一緒だ」
目を吊り上げる中年の警備員。
「芹沢部長。私は主人の敵討ちをしたい。中国の武器商人は中国からやってくる。なら地の果てまでも追いかけてコアをえぐる」
「仁志が見込んだだけの事はあるな」
「マシンナイトになりこの内海という隊員に会わせて。共同で作戦があるなら動きたい」
何か決心する杉浦。
できれば子供は産みたいし普通の暮らしがしたいがこの世界情勢ではそれは無理だ。なら生き残るにはマシンナイトに賭けるしかないだろう。
「わかった。マシンヘッドに会わせる。君は殺し屋だ。なら弾道を自由に曲げられる能力が必要だろう」
芹沢はうなづいた。
横浜基地。
内海は港湾施設沿いに立つ壁を眺めていた。
人質になっていた暗号通貨プログラマーは救出した。しかしプログラムが入ったジュラルミンケースは奪われた。その行方がわからない。
岸壁に這い上がってくる男の子。
内海は見下ろした。
その男の子は生気がなく肌は土気色。
「ジュラルミンケースは残念だったね」
エコーのかかった声の男の子。
「そう思うか。俺もそう思う」
内海は答えた。
それを官舎からのぞく西小路。
誰かに話しかけている様子が見えるがそこには内海以外誰もいない。
「いつもの幻覚か」
しれっと言うと西小路は部屋に引っ込む。
「敵はあれをスパイに売り渡すに違いない。敵はどこで合流するのか?」
内海はつぶやく。
「敵は山奥。山奥で廃村なら隠しやすい」
男の子はそう言うと消えていく。
「内海。あの鉄仮面が呼んでる」
飛鳥が呼んだ。
ミーティングルームに入る内海。
西小路の隣りに白瀬がいる。
「先ほどは助けてくれてありがとうございます。あのプログラムがないと起動ができません。僕だけでも作る事ができますが半年かかってしまいます」
白瀬はモニターに映す。
それは複雑な数式や数字の羅列の図形が並んでいる。
「それを取り返すのが仕事か」
内海がしれっと言う。
「スパイの話だと敵は五人で動いている。車も四台だ」
西小路は写真を出した。
「龍炒燐はロシアのスパイかマフィアでも売り飛ばすのか」
落合が首をかしげる。
「地図システムを作るからその専用車がいる。地図ソフトもだ」
飛鳥は地図を出した。
「車がいる。無線もだ。調達できるか?」
内海が聞いた。
「調達しよう」
無表情に言う西小路。
「ケースは誰が持っている?」
落合が聞いた。
「こいつが持っている」
西小路が写真を出した。
龍炒燐の写真を出す西小路。
「じゃあ腕を切断しても構わないな」
当然のように言う内海。
「龍炒燐はそいつらとどこで合流する?」
氷見が聞いた。
「奥多摩だろう。人通りが少なくて邪魔はされない」
推測する内海。
あの岸壁の男の子の言う事を信じたわけではないが予想しただけだ。
「敵は郊外で合流するそうだ。取引相手の工場がそこにあるからだろう」
西小路が地図を出した。
「でも都内ね。嫌な予感」
氷見がつぶやく。
「政府と東京証券所が何がなんでも手に入れろと言ってきている。犯人の生死は問わないそうだ」
西小路は冷静に言う。
「そんなにお金が大事か。なら遠慮なくやらしてもらう」
内海は強い口調で言う。
「ほしい物資は調達する。なんとしてでもケースを取り戻して来い」
西小路は冷たく言った。
水野警備。射撃場
マシンナイトとなった私は訓練が始まった。
本当に人間ではなくなり生身の部分がなくなり、性別も両性具有になり体形も男性的になり乳房がなくなりサイバネティックスーツに赤色の胸当てとショルダーパットに篭手になっている。でも小柄な体と顔は女だ。
射撃場で片腕を突き出した。すると思うだけでライフル銃の銃身に変形。標的もロックされる。射撃指揮装置が電子脳にあってそれもあり弾道計算が瞬時にされる。
野球の魔球をイメージすると弾道も曲がって計測される。
そして撃った。青色の光線が少しカーブして人形の頭を撃ちぬいた。初めてにしてはいいスタートだが敵はプロ。すぐにし止めるようでないと倒せない。
一時間後。ロビーに入る杉浦。
「忌野さん?」
珈琲を飲んでいるマシンナイトを見て声をかける杉浦。
顔を上げる忌野。
「君も変わったのだね。僕も大幅に変わった。この体は嫌いだ。だが怪物や時空の亀裂や敵と戦うには必要だ」
忌野は怒りをぶつけるように鉤爪で黒色の胸当てを引っかいた。何度も強く引っかいても深くへこむだけ。肌触りもゴムのようになり皮革みたいにシワシワになる。
「私の主人は死んだそうよ。ある中国人の武器商人を追っている。そいつもマシンナイトだそうよ」
杉浦は声を低める。
「いきなり大物は無理だ。小物の標的から順番に行くんだ」
注意する忌野。
「わかっている」
うなづく杉浦。
私も最初無理だったからホステスになりきって標的を店に連れてきていた。
「僕も訓練中だが補佐と支援はできる」
「補佐?」
「僕の役割は標的までの最短距離を計測して導く事。そして情報収集やハッキング、改ざんだ。どこに時空の亀裂があり出現するのかも計測するし、敵がどこにいてどこへ行くのかを計算して君を安全な距離から狙撃を支援する」
忌野は掌底からホログラム映像を出して標的までの距離、弾道計算、ルートを出して指でたどりながら説明する。
「なるほどね」
感心する杉浦。
「僕は警備船の任務で怪物を操る奴に襲われて下半身や片腕を失った。腹にあるのは量子集積装置で、このヘアバンドはデータバンクで髪の毛はすべてケーブルに変わった。首のコルセットは重要ケーブルを守るためにある保護装置だ」
忌野はヘアバンドや首のコルセットを外す。
絶句する杉浦。
首は金属の骨に変わり消化装置につながる配管パイプと大小のさまざまな太さのケーブルがつながっている。頭部には接続穴がある。腹部のコルセットを外すと円柱型の小型量子コンピュータがあった。他の臓器は端っこかその中を通っている。金属の背骨も見えた。重要な血管はすべて配管パイプとポンプになり、大小のケーブルが網目のように主要パイプや機器をつないでいる。
「人類は進化を遂げたと思っている。第二の進化だ」
コルセットをはめる忌野。
「戦いの場に人間やミュータントはいらないわ。マシンナイトで十分よ。地上の怪物を一掃できたら宇宙に出て時空の亀裂を探し出して閉じに行く」
何か決心する杉浦。
「内海も同じ事を言っていた。マシンヘッドは間もなく自分の世界に帰るらしい。後の始末を我々に押しつけてな」
「でもマシンナイトにするやり方は知っているわ。コアもどうやって生成するかもわかっている」
「ある程度、リサイクルしているし、製造もできる」
「マシンヘッドの技術を利用して宇宙船を建造して時空の亀裂を閉じに行ける」
「武器商人を暗殺したら私もそれに加わる」
「そうか。では簡単な標的から行こう」
映像を切り替える忌野。
「ホームレス?」
映像をのぞきこむ杉浦。
「人食いホームレス。多摩川の河川敷に住んでいる」
忌野はデータを出した。
「人食いなら話題になっているけど」
「喰っているのは同じホームレスだ。だから騒がない」
忌野が出現場所を出した。
場所は多摩川沿いでどの犠牲者もホームレスである。
「いずれはホームレス以外の人間やミュータントを食べ始めるわね。退治しないとね」
出現ポイントを眺める杉浦。
「情報と支援をお願いするわ。私は多摩川河川敷に行ってくる」
杉浦は言った。
二時間後。多摩川河川敷。
データリンクで繋がっているのか地図が出て地形図やどこにホームレスがいて人食いホームレスの住んでいる場所が示される。
「こちら杉浦。所定の位置に着いた」
杉浦は雑草が生え放題の河川敷に入った。人の背丈程の雑草で見通しが悪いがレーダーや忌野のナビで進んでいく。彼女は背中から四対の金属の触手を出して先端を銃身に変え、片腕を長剣に変えた。
「そのまま進めばホームレスの小屋がある」
忌野が指示を出す。
杉浦は葦をかきわけて中州が見える場所に着いた。川岸にバラック小屋がある。縁側で初老のホームレスは釣りをしていた。
ホームレスは振り向いた。鉤爪に変わり両目は赤色に輝く。
杉浦とホームレスは同時に動いた。ホームレスの速射パンチが繰り出される。彼女は間隙を縫うようにかわし、鋭い蹴りを入れる。
受身をとり体勢を立て直し、後ろ回し蹴り。
杉浦は受払い、掌底を弾き、ハイキック。
多摩川に落ちた。しかし這い上がってきて口から炎を吐いた。
ホームレスの周囲を駆け回り、片腕の剣で突き刺す。
ホームレスは身をかわして鉤爪で引っかく。
「ぐっ!!」
顔をしかめる杉浦。
胸や腹部にかけてえぐれた傷があったがすぐに塞がる。
「一〇時の方向から来る」
忌野の指示が聞こえた。
すんでの所でかわす杉浦。
ホームレスが草むらに隠れる。
気配が消えて位置を示す点が消える。
「二時の方向へ弾道を曲げろ」
指示を出す忌野。
目を半眼にすると杉浦は正面を向いたまま片腕を銃身に変えて何度も撃った。弾道は九〇度曲がって何かが草むらで倒れる音が聞こえた。彼女はその音のした方へ近づくとホームレスは頭と胸を撃たれて死んでいた。
会社のテレポート台に戻ってくる杉浦。その足で量子コンピュータ室に入る。円陣に組まれた金属殻に座る忌野。
忌野の胸当ては荒い呼吸の度に激しく上下してへこみ、腹部は何が這い回るように盛り上がる。
忌野は彼女に気づくとプラグを外した。
「現場も大変だけど支援やナビも大変ね」
推察して杉浦は忌野の胸に手を当てる。自分には体温はなくなり心音もない。忌野も著しく変わり心音も体温はない。
「この体は・・・嫌いだ・・・」
怒りをぶつける忌野。体内から激しい軋み音が聞こえ顔が激痛で歪む。
思わず抱きつく杉浦。
驚く忌野。
「私と一緒に暮らさない?」
杉浦はささやく。
「僕は化物になってしまった」
忌野はつぶやく。
「私も化物になった。なら化物同士なら支えられる」
笑みを浮かべる杉浦。
「わかった」
忌野は笑みを浮かべた。
次の日もやりやすい獲物から仕事をする事になっている。次は青梅市の山中に出没するブーメランという名前のクマの退治である。なぜブーメランなのかというとクマの頭にある模様がブーメランだからである。ただのクマではなく体長六メートルのクマの怪物で通常の銃弾は効かず、仲間のクマをかならず呼ぶ。クマ以外に猿も呼ぶ。これもただのニホンザルではなく怪物化している。体長三メートルで全身は岩のように硬い硬質化した皮膚に覆われ銃弾は効かない。別名「岩猿」というあだ名がついている。クマも岩猿も凶暴で人間やミュータントを食べる。
杉浦のジープは青梅市郊外の山道に入った。青梅市を出た時点でバリケードが築かれ、山に通じる道という道はすべて通行止めになっている。許可証を見せて許可を得て入っている。山道に入るとゴミは散らかり廃屋が何ヶ所にあるのが見えた。
廃屋集落の背後に山がある。その登山道の出入口である駐車場で止まる。
杉浦はナビシステムと武器システムを起動させてジープを降りた。
その時である。急に気配が生まれたのは。
山から降りてくるニホンザルの群れ。でもそれは普通の猿ではなくすべて岩猿だった。顔はニホンザルなのに体は岩のような硬質化した皮膚に覆われ、体長は三メートル。手足は鉤爪が生えている。
杉浦は日本刀を二本抜いた。日本刀の刀自身が青くぼんやり輝く。
彼女の電子脳にターゲットの位置や脅威度が示される。
「じゃあ行くよ。杉浦志乃の鬼退治!!」
杉浦は遠巻きににじり寄り岩猿の群れも彼女も同時に動いた。
杉浦は腕や足を斬りおとしながら駆け抜け、新体操選手のように舞いながら群れの中を駆け抜けた。
「切れ味は抜群ね」
着地して振り向く杉浦。彼女の足元にはたくさんの岩猿の死体が転がっていた。
「十二時の方向からクマの群れ接近」
忌野の声が注意する。
三十頭のクマの群れが襲いかかった。
杉浦は身を伏せた。せつなジープからビームマシンガンや飛び出し連射。接近してきたクマの魔物は胸や頭部を青い光線が貫通してもんどりうって倒れた。
杉浦はジープに乗り込み未舗装の道を入っていく。クマの群れや岩猿の群れをビームマシンガンを連射しながら走行。しばらくすると広場に着いた。
頭部にブーメラン型の模様のつけた巨大クマがいた。群れのボスであるクマだ。そして隣りには岩猿のボスがいる。ボスザルは体長四メートルで筋骨隆々の体格をしていた。
一本目の日本刀をジープのそばに突き刺し、杉浦は二本目の日本刀を持ち構える。
ボスザルと杉浦は遠巻きににじり寄ると同時に駆け出した。
杉浦はスライディングすると持っていた日本刀でなぎ払った。
下を向くボスザル。
跳ね起きる杉浦。彼女は日本刀で背中からボスザルを刺した。
口から血を吐くボスザル。腹部から下半身にかけて切り裂かれ、胸まで日本刀の刃先が突き出ていた。目を剥いて倒れるボスザル。
続いてはボスクマが進み出た。
遠巻きににじり寄る杉浦とボスクマ。二人同時に動いた。杉浦は日本刀をなぎ払う。しかし、丸太のような腕で受け払うクマ。鉤爪で何度も引っかいた。
「ぐあっ!!」
杉浦は地面にたたきつけられた。胸や腹部にえぐれ引っかかれた傷が口を開け、青色の潤滑油がしたたり落ちる。
本当に自分は化物になったわね。
杉浦は舌打ちした。傷口はすぐにふさがっていく。
クマが飛びかかりその太い足で踏みつけた。
すんでのところで転がりながらかわす杉浦。跳ね起きて片腕を銃身に変えて連射。
クマは飛び退きながらかわした。地を蹴り木を蹴り、体を丸めた。ボールのように弾みながら跳ね回る。
杉浦は駆け回りながら跳ね回るクマの体当たりをかわした。
ボーリング球のように体を丸めて転がり跳ね回るクマを撃つ杉浦。しかし青い光線はすべて弾かれる。
杉浦は二対の触手を出して木を登った。
体当たりしながら木をなぎ倒すクマ。
木から木へ飛び移る杉浦。
クマは体勢を立て直して走った。
杉浦に飛びかかり、取っ組み合い地面にもつれながら落ちた。クマは彼女の腕に噛み付き、引きちぎった。とっさに杉浦は持っていた日本刀をクマの口に突き入れた。
クマは目を剥きあおむけに倒れた。
息を整える杉浦。鋭い痛みが走りのけぞる。すると金属の芽や合成ゴムの組織の芽が出て腕の骨が形成され腕や手の形になった。
「クマとサルの駆除は完了だ」
冷静な忌野の声が聞こえた。
「この後はどうするの?」
杉浦は聞いた。
「あとは猟友会とハンターがやってきて後始末をする。君とジープを転送する」
忌野は言った。
倉庫に入ってくる部長の芹沢ともう一人の男性。
「化物になったじゃないか?」
その男性は忌野を見るなり笑う。
「西小路。普段なら横浜基地にいるのになぜいる?」
目を吊り上げる忌野。
「内海や自衛隊の奴らに指示や指揮できる司令部員がほしいから来た」
冷たく言い放つ西小路。
「マシンヘッドに言わせるともっとすんなり出来ないといけないようです」
しゃらっと言う芹沢。
「もっと化物になれって事だ」
西小路は悪魔のような笑みを浮かべる。
「貴様・・・」
忌野は片腕を長剣に変えた。
「サノスさん」
西小路は指をパチッと鳴らす。
部屋に入ってくるマシンヘッド。
忌野が動いた。
サノスは剣の連続突きをかわすと掌底を弾いた。
忌野は彼から離れた壁にたたきつけられた。
サノスは駆け出し近づき持っていた短剣を忌野の胸に突き刺した。
「ぐうぅぅ・・・」
忌野はその腕をつかみのけぞる。
「もっと役に立て。融合が足りてない。もっとすんなり行くはずだ」
サノスは悪魔のような笑みを浮かべ機械のムカデを出した。傷口から入り込みムカデはケーブルやパイプに噛み付いた。
短剣を引き抜くサノス。
忌野はのけぞり、身をよじり、鉤爪で胸当てを引っかく。
ギシギシ・・!!メキメキ!!
忌野は顔を歪め、胸当てやコルセットを外そうともがいた。それはなんともいえない違和感だった。腹部ではケーブルが網目のようにもっと広がり、神経ケーブルや配管パイプも木の根のように広がるのがわかる。
サノスは苦しみもがく忌野の腹部コルセットを外した。
「よく見るんだ。人間は捨てるんだ。誇りがそこにはあるんだ」
サノスは見下ろし言い聞かせる。
「ぐあああぁ!!」
忌野は蠢くケーブルをつかんだ。しかし円筒形の量子集積装置にしっかり根付き取れない。それどころか腹部プレートが伸びて装置と一体化していく。胸当てや腹部プレートは身をよじるたびにシワシワになり何かが這い回るように盛り上がる。
「我々にもその役目の奴はいる。私達のいた世界はそういう進化をしなければ生き残れなかった。おまえ達は移動性の時空の亀裂からやってくる脅威に備えての番犬になる。それを指揮する司令船がいるんだ。我々も利用したい時は好きな時にやってきて借りる」
サノスはもがきのけぞる忌野を見ながら笑みを浮かべる。
無表情の菱小路。
時計を見る芹沢。
メキメキ!!ギギギ・・・
首のコルセットを取ろうともがく忌野。しかしコルセットは一体化して取れない。
「おまえも杉浦も合格だ」
サノスは笑みを浮かべてくだんのムカデを回収して退室していく。
忌野は軋み音を立てて歪む胸当てや胴体を引っかいた。引っかいてもシワシワになりゴムのようにへこむ。
「まだ終らないか」
芹沢は他人事のように見下ろす。
「ご飯をおごるよ」
西小路は誘う。
「そうしよう」
芹沢と西小路は退室した。
その頃。基地の駐車場。
二トントラックの荷台で飛鳥は地図ソフトをダウンロードして地図を入力する。はじめ大雑把だった地図が鉄道路線図や道路、市道、首都高や路地や地名が入力される。
茶色のワゴンと白色の車にライフル銃や手榴弾が入ったケースを入れる内海、氷見、落合の三人。
赤毛の女性が近づいた。
「誰?」
怪訝な顔の氷見。
「西小路から派遣された浅田。内閣情報調査室のエージェント」
ガムをかみながら名乗る赤毛の女。
「じゃあこのナビゲーター車を運転して」
飛鳥は二トントラックを指さした。
「龍炒燐はゴラーエフというスパイと取引して都内で受け取る予定よ。これが車のナンバーと顔写真」
浅田は二トントラックの荷台に乗り込み、写真や車種、ナンバーを入力した。
「こいつらはどんな連中だ?」
内海が荷台をのぞく。
荷台から出てくる浅見。
「ロシアマフィアになっているけどスパイね。ゴラーエフと龍炒燐以外の四人はミュータントと人間」
浅田が答えた。
「ロシアも暗号通貨がほしいの?」
氷見が割り込む。
「日本の技術は精密で正確で優秀。それにビットコインをプログラムできるプログラマーが日本人ならほしがるわね」
浅田はロシアマフィアのメンバー写真を渡した。
落合達がのぞきこむ。
「人間とミュータントから片付けましょ」
氷見は当然のように言った。
次の日は都内にいるターゲットの暗殺である。今日はサポートなしである。
杉浦は腕に腕輪を装着した。光学迷彩装置を起動させ周囲の風景に溶け込む。彼女はビルの屋上から飛び降りた。走行する電車の屋根に着地してナビを起動する。腕時計から映像が飛び出し周辺地図が出て標的が示される。
杉浦は片腕を銃身に変えた。
電車の速度と位置、標的の位置を入力すると最適な発射場所が示される。
杉浦は銃口を高層ビルに向けた。彼女は一〇階の五列目の窓に向かって撃った。青い光線は途中で弾道が曲がり、標的に命中した。
標的が倒れたのを映像の監視カメラで確認する杉浦。彼女は駅のホームの屋根に飛び移った。
同時刻。新宿
新宿の大ガードの交差点に三台の車が停車する。
「内海。ターゲットがいる」
ナビゲーターの飛鳥が地図を送信した。地図にロシアマフィアの車列が曲がり角の交差点に止まっている。
電車が高架橋を轟音と立てて通過する。
「敵に動きがある。ここで撃つ気だ」
飛鳥が驚きの声を上げる。
龍炒燐とロシア人達は武器を手に車を出てアサルトライフルで内海と浅田、氷見が乗る車に向けて連射。
太ったロシア人はバズーカーを発射。
浅田は車を飛び出した。
ドゴオーン!!
火柱が上がり車が吹き飛ぶ。
「撃て!!」
内海は駆け寄り機関砲で黒塗りの車を撃つ。
運転席にいたロシア人がもんどりうって倒れる。
助手席にいたロシア人はショットガンを連射する。
ジグザグに走りながら間隙を縫うようによけて片腕の長剣で突き刺した。
目を剥いて倒れるロシア人。
「劉が逃げるぞ」
二トントラックを運転しながら指示を出す飛鳥。彼のトラックは路地に入った。
龍炒燐は車列を縫うように走った。
氷見、落合、浅田が追いかける。
内海に飛びかかるロシア人。
もつれ合いながら道路に転がる二人。
内海は片腕の剣で胸を突き刺した。
もんどりうって馬乗りのロシア人は倒れた。
龍炒燐は歩道に飛び込み、機関砲を連射。
浅田は別のトラックの陰に飛び込む。
氷見達は間隙を縫うようにかわす。
内海は車列の屋根を駆け抜け、劉炒燐に飛び蹴り。
龍炒燐はひっくり返った。
内海は片腕の剣で劉炒燐の機関砲だった腕を斬りおとす。
駆け寄る氷見達。
「こいつケースを持ってない」
浅田が気づいた。
二トントラックが止まった。
「ロシアマフィアが一人足りない。取り逃がしたそいつが持っている」
運転席から飛鳥が顔を出した。せつな龍炒燐は青い光に包まれどこかに転送された。
忌野は呼吸の度にへこむ胸当てが嫌でも目に入った。わき腹と腹部中心線に沿ってに接続穴が並ぶ。すっかり皮膚のようになじんでいる。身をよじるたびに深いシワが入り、引っかいてもシワシワになりながら元に戻る。
「マシンヘッドめ・・・」
怒りをぶつける忌野。
部屋に入ってくる杉浦。
「もっと僕はあいつらに化物にされた」
忌野は憎しげに言う。
杉浦は忌野に抱きついた。
「一緒に仕事をやりましょ」
杉浦はキスをする。
忌野は彼女を抱き寄せ、ストレッチャーに押し倒した。
翌日。ミーティングルーム。
部屋に入ってくる芹沢。
杉浦と忌野は振り向いた。
「杉浦。君の夫を殺した武器商人が入国している。名前は李陳念。国内にある中国企業の工場にいる」
芹沢が地図と写真を出した。
「奥多摩?」
杉浦が聞き返す。
「中国企業の工場がこの廃村にある。李陳念はここの社長だ。李陳念の暗殺と彼が持っている暗号通貨の記念コインを取り戻す事」
芹沢は記念コインの写真を見せた。
「暗号通貨って最近はNHKの深読みという番組でもやっていたわね。それはビットコイン?」
身を乗り出す杉浦。
最近話題になっている仮想通貨で日本政府もその通貨に大乗り気でいる。そして日本だけでなくスイスやエクアドルが自国の通貨を暗号通貨にしている。
「暗号通貨は政府の意向や企業に管理されない資産ですね。七〇年前。終戦直後、政府は預金封鎖を行った」
冷静に切り出す忌野。
腕を組む芹沢。
杉浦はタブレットPCで預金封鎖に関連する物を出した。
終戦直後。政府は財政難、インフレを押さえるために決断した。しかし国民生活はさらに困窮して混乱したため効果がなかった。本当の狙いは財産税の課税と国民の資産の把握だった。暗号通貨は国に管理されにくい資産という事になる。ビットコインが人気なのは政府や中央銀行の支配されない事なのだ。しかしビットコインは二一〇〇万枚と枚数が決められ半減期がすぎている。今だと1コインを換金するのに四五分だったが今では三日かかっている。
「政府が暗号通貨に着手するのはブロックチェーンだろ。あれは複雑なプログラムだからハッキングはできない」
声を低める忌野。
「そういう事になる」
つぶやく芹沢。
「ディズニーもブロックチェーンプログラムを導入しているのね」
タブレットPCを見せる杉浦。
それはディズニーがブロックチェーンプログラムを使って作ったホームページである。
「スパイやハッカーが侵入できないようにするためでもある」
忌野はうなづく。
「だから政府も乗り遅れないように自国の通貨を暗号通貨にするんだ。もうじき給料の支払いは暗号通貨になるだろう」
芹沢は推測する。
「そうなったらおもしろいかも。商店街でも暗号通貨で買い物ができるし、銀行に行かなくてもATMで引き落としができるわね」
笑みを浮かべる杉浦。
世の中便利になったものだ。
「君は李陳念の記念コインを奪う事。奥多摩にかつて檜村という廃村があったがそこを中国人が買い取って工場を造った。山をへだてて西棟と東棟に別れている。君は西棟にいる李陳念をやる」
芹沢は指揮棒を出してモニターの地図を指さした。
「東棟は?」
杉浦が聞いた。
「特殊部隊が別の敵を追って東棟にやってくるそうだ。李陳念をやったらすぐ帰れ」
芹沢は語気を強める。
「わかった」
杉浦はうなづいた。
一時間後。奥多摩の廃村。
さびれた山道に転送されるジープ。
杉浦はエンジンを始動させて走り出す。カーナビが起動して最短ルートを示す。しばらく行くとトンネルに入った。トンネルに人影が見えて止まるジープ。
それはぎこちない動きで近づいてくる。一人ではなく多数である。生気がなく土気色で手にはチェーンソーやナタやスコップを持ち目はうつろだった。ゾンビ達は彼女を見るなら駆け出した。
杉浦は武器モードスイッチを入れた。ジープからバルカン砲が二基飛び出し連射。
青い光線が次々とゾンビ達を貫通した。
杉浦はアクセル全開で走った。
ゾンビを跳ね飛ばし、連射しながらトンネルを飛び出した。
その頃。東棟
東棟の監視塔に接近する浅田、内海、氷見、飛鳥、落合。
「左に五人。右に四人」
落合が報告する。
内海、氷見、落合、飛鳥は四対の触手を背中から出して片腕を機関砲に変えて撃つ。正確に監視塔やそれをつなぐ通路にいた監視兵の頭や胸を撃ち地面に落ちていった。
内海達は高い壁を駆け上り内部に入った。とたんに内側の壁内部にある機銃や機関砲座が火を噴く。内側の壁の屋上から監視兵達がサブマシンガンを連射
四対の触手と片腕の機関砲で連射しながら走った。弾丸の雨を駆け抜けながら正確に機関砲で監視兵達の頭や胸を撃ち抜く。
「本当にここは工場なの?」
氷見は柱の影に隠れる。
「これは敵の基地だな。工場とは名ばかりで民兵がいる」
内海は推測した。
ここの工場がある場所は山奥の廃村で誰も来ないし怪物も出没。だから気づかれる事もなく基地を造れた。なら破壊するしかない。
内海達は機関砲を連射しながら壁をよじ登り壁の屋上にいた監視兵を撃つ。壁の内部に入ると工場が見えた。
さっきの壁から飛び降りてきたのは体長七メートルの巨人だった。
西棟。
ジープは機関砲を連射しながら門をぶち破り、監視兵を跳ねながらバリケードに衝突。
四人の監視兵がジープに近づいた。せつな青い光線が次々に命中して倒れた。
監視塔から飛び降りる杉浦。
足元には監視塔にいた監視員が三人倒れている。いずれも胸や頭に穴が開いていた。
杉浦はショットガンとアサルトライフルをジープから出して工場内部に入った。
ベルトコンベヤーや作業台にいた作業員達はサブマシンガンやライフル銃を抜いた。
杉浦は一〇対の触手を背中から出して先端を銃身に変えて走りながら連射。片腕の銃身でバルコニーにいた作業員や監視員を撃っていく。いろんな部品やホコリが舞いながら杉浦は管理室に飛び込む。
作業場は多数の作業員達が倒れていた。
その時である。急に気配が生まれたと同時に斧が背中に食い込んだ。
振り向き部屋から飛び出る杉浦。
斧を持った仮面の大男が立っていた。身長は三メートル位ある。
杉浦は片腕の銃身で撃つ。しかし男はもとともせずに近づく。
杉浦は日本刀を抜いた。刀身は青く輝く。
杉浦と男の斧と日本刀が何度も交差してなぎ払い、弾かれる。
「杉浦。ここは電波妨害がひどい。そいつの弱点は頭だ」
忌野の声が聞こえた。
「わかった」
答える杉浦。
なるほど。だから地図が映らなかったり声が聞こえなかったりしたのか納得できた。
男が動いた。斧をなぎ払う。
杉浦はかわすと背中に回りこみ、飛び移り、日本刀を頭部に突き刺した。
男は目を剥いて倒れた。
管理室の部屋にドアがある。
杉浦はドアを開けてトンネルに入った。
水野警備。
量子コンピュータ室にサノスは入った。
量子コンピュータが体育館程のスペースに並んでいた。その中央のイスに座る忌野がいた。理容室にあるようなイスに忌野は腹部やわき腹、背中から細いケーブルが十数本も伸び、円陣に組まれた集積装置に繋がっている。
「やっと私達に追いついた」
サノスはのぞきこんだ。
憎しげににらむ忌野。
「私達はおまえみたいなのがほしかったんだ。どこにでもハッキングできて侵入できるハッカーを。でもその時ではないからね」
サノスは笑みを浮かべる。
忌野はケーブルを外すと片腕を長剣にかけてなぎ払う。
サノスは顔色を変えずに片腕だけでその剣を受払いパンチや蹴りをかわした。
サノスは忌野の首をつかみ上げ部屋から飛び出した。倉庫に入ってコンテナに入る。そこにはサノスと同じようなマシンヘッドがいてコンテナ内部は見た事もない異質な機械が山積みになっている。
「我々は地球にいるマシンヘッドを連れて時空の亀裂からやってくる邪神の軍勢を蹴散らしに行く。でもそれはまだ先なんだ。いずれやってくる。別の時空の宇宙で総攻撃になるだろう。おまえは指揮官になるのだ」
サノスは忌野を放した。
もう一人のマシンヘッドは嫌がる忌野をストレッチャーにくくりつける。
「やめろ!!」
忌野は暴れた。
サノスともう一人の男は箱から部品を取り出し、片腕の短剣で突き刺しえぐるとその部品を躊躇する事なく入れていった。
「わああぁぁ!!」
その頃。東棟
巨人が動いた。
氷見と内海が飛び退いた。
巨人の蹴りをかわす落合と飛鳥。
落合と飛鳥は片腕の機関砲を連射。
巨人が飛び退いた。
氷見の片腕が放射器に変形。炎を発射。
巨人は落ちていた壁の破片で防いだ。
内海は片腕の機関砲を連射。
巨人は壁を投げると地を蹴り壁を蹴り腕を振り下ろした。
内海は飛び退いた。
巨人のパンチが地面にめりこんだ。
「こいつスキがない。センサーで感知している」
落合が気づく。
「なら四方向から行くぞ」
内海は合図を出した。
巨人と四人が同時に動いた。
内海と氷見の機関砲を連射。
落合と飛鳥は片腕を長剣に変えてなぎ払う。
巨人はそこにあった壁の破片で光線を防ぎ、そこにあった鉄骨で長剣を弾いた。
パンチや蹴りを繰り出す巨人。
内海達はすんでの所でかわした。
内海は駆け出しスライディング。彼は片腕の機関砲を連射。
巨人が飛び退いた。せつな。落合と飛鳥は長剣で胸や腹部をなぎ払い、氷見は放射器で炎を発射。片足を焼いた。
よろける巨人。口から血を噴き出す。
内海はジャンプして腕や背中を踏み台にして片腕の長剣で頭部に振り下ろした。
巨人はもんどりうって地響きをたててあおむけに倒れた。
内海達は工場内部に入った。いくつかの部屋を駆け抜けると広大な部屋に出た。そこは使われておらず倉庫になっている。
「あなたは?」
氷見がコンテナの影から周囲を伺っていた女に声をかけた。
「私は杉浦志乃。水野警備に勤めていて忌野と同棲している」
杉浦は振り向いた。
「結婚しているよね。旦那さんは?」
氷見が聞いた。
「夫は武器商人の李陳念にやられて死んだ。だから私は敵討ちにマシンナイトになり、同じ化物になったから忌野と同棲している」
当然のように言う杉浦。
「それもありか」
納得する飛鳥。
「俺達は龍炒燐を追っている。あいつに奪われた暗号通貨のプログラムを取り返しにきている」
内海は口を開く。
「私は李陳念が持っている暗号通貨の記念コインよ。目的は一緒ね」
杉浦が答える。
「誰か来る」
落合が注意した。
ドアが開いて黒塗りの車が入ってきた。
向かいのドアから装甲車が入ってきた。多数の民兵をともなって入ってくる。
車から降りてくる李陳念と劉炒燐。
「目的の物は?」
李陳念が口を開いた。
「ここだ」
龍炒燐はジュラルミンケースを出して中味を見せる。
「これがプログラムか」
のぞきこんで驚く李陳念。
「君は?」
「私は記念コインだ」
李陳念は青のジュラルミンケースを開けて十二個の記念コインを見せる。
「暗号通貨の記念コインか」
「ただの記念コインじゃない。コンピュータウイルス入りだ。ブロックチェーンを破壊できる」
李陳念は笑みを浮かべた。
「これなら世界経済は大混乱よ」
龍炒燐と李陳念は笑みを浮かべた。
ロシア人マフィアの一人が機関砲をコンテナ群に向けた。せつな、コンテナの間から青い光線が五人のロシア人の頭を貫通。
山積みのパレットが崩れ、その背後から青い炎がそこにいた民兵達を焼いた。
何かがきりもみ状態で飛んできて劉炒燐と李陳念が持っていた二つのジュラルミンケースをつかみ飛び去りコンテナの屋上に降り立った。
「本物だね」
氷見はハンドモニターで押し当て確認する。
落合は青い光に包まれ転送された。
「おのれ・・・殺す!!」
龍炒燐は目を吊り上げる。
「李陳念。よくも旦那を殺したね」
杉浦は顔を朱に染めた。
「あの殺し屋か。あれなら心臓を取って食べた。心臓はおいしかった」
李陳念は悪魔のような笑みを浮かべ鉤爪に変えた。
龍炒燐と李陳念は互いに顔を見合わせると互いの腕を取り背中から金属の芽や触手が伸びてくっついて合体した。
そこに角が五本。背中からも角を四本生え、紫色の体色の巨人がいた。
巨人が動いた。
杉浦達は飛び退いた。そこにあった山積みの木箱が巨人のパンチで散らばり、蹴りでコンテナが散らばった。
巨人はテレポートしながら速射パンチを繰り出した。
内海、飛鳥、氷見は受身を取った。三人は散らばったパレットに突っ込む。
巨人は口から炎を吐いた。
杉浦は走りながら片腕の銃身を撃つ。
巨人は片腕を盾に変形させて防いだ。彼は両腕をバルカン砲に変形させて連射。
内海達は間隙を縫うように駆け抜け、機関砲を連射。しかしテレポートしながらかわしてハイキック。
杉浦は蹴られ地面にたたきつけられた。
巨人はテレポートして彼女に近づく。丸太のような腕を振り上げた。せつな黄金色の光線が体を連続で貫いた。
内海達が振り向く。
天井の鉄骨からコウモリのようにぶる下がりながらビームバズーカーを撃つ落合がいた。
よろける巨人。
内海と飛鳥の機関砲が巨人の両足を何度も貫いた。
両目から紫色の光線をなぎ払うように発射。
落合は身を伏せた。すんでの所で光線が通過した。
氷見は片腕を機関砲に変形して発射。レーザーで切断するように巨人の片腕を切断した。
杉浦は飛び退くと銃身を連射した。青い光線は弾道が曲がり巨人の頭部に次々と命中。
飛鳥と内海がジャンプした。飛鳥の長剣は袈裟懸けに斬り、内海は首を切断した。
巨人は吼えて閃光とともに爆発した。木端微塵に吹き飛び、肉片の一つが龍炒燐と李陳念であった。
李陳念は首と左胴体があるのに右側がなく龍炒燐は右側がなかった。
内海は龍炒燐のコアを杉浦は李陳念のコアをもぎ取った。
「任務は終了だ。ここを焼くぞ」
内海はジュラルミンケースにコアを入れる。
「そうね」
杉浦はリュックにコアを入れてうなづく。
落合と飛鳥は瓦礫から黒色の箱を出した。中味は爆弾だった。
工場の正門から出てくる内海達。
背後で火柱が上がり、同心円状に爆風が広がり爆発が連続で響いた。
水野警備
倉庫のコンテナから這い出てくるケーブルだけらけのものがあった。大小のケーブルがのったくり、排水溝が詰まるような音がのどから聞こえ、顔を上げた。
「やあ忌野。すっかり化物になったね」
芹沢はのぞきこむ。
シワシワだらけの物を見下ろす芹沢。
メキメキ・・・ミシミシ・・・
忌野は鉤爪で腹部や胸当てを何度も引っかく。いくら引っかいてもゴムのようにへこみ傷がつかない。忌野は鋭い痛みにのけぞり転がる。胸当てや胴体、背中は何かが這い回るかのように盛り上がり、激しく歪む。胸当てや胴体が歪みへこむのが嫌でも目に入る。
背中の金属の背骨がメタリックに輝き、わき腹と腹部に接続穴は増えていた。体や手足から出ていたケーブルは収納されていく。
「鉄の前掛けだ。鉄のかっぽうぎともいうべきか。用意してある」
芹沢は胸当てを押した。それは何ともいえない感触で皮革を触っているよう。ゴムのようにへこみシワシワになる。胸当てにも大きめの接続穴が五個あった。
「サノスさん。これを好きなように使ってください」
芹沢は他人事のように言う。
「ご協力感謝する」
サノスと芹沢は握手をした。
その頃。横浜基地。
ミーティングルームに杉浦、内海、氷見、飛鳥、落合が入ってくる。
西小路が白瀬と黒服の男女と一緒に入ってくる。
杉浦と内海はジュラルミンケースを出して中味を出した。
黒服の男女は中味を確認するとうなづく。
「回収ありがとうございます」
笑みを浮かべる白瀬。
「その記念コインはウイルスが入っているみたいだけど」
杉浦は腕を組んだ。
「無害化は可能で書き換えできます」
白瀬は当然のように答える。
「ならいいわ」
しれっと言う杉浦。
「プログラムは本物で僕が造った物です」
白瀬は頭を下げる。
「これが龍炒燐と李陳念のコア」
杉浦はリュックから出し、氷見はケースから出した。
黒服の男女は黒色のケースに入れた。
白瀬と黒服の男女はうなづくと退室した。
「給料とボーナスは暗号通貨で支払われる。換金も可能だ。次の任務まで解散」
西小路は無表情のまま口を開く。
「第二の通貨だしな。世の中はますます便利になるな」
内海はしれっと言った。
数日後。
私と忌野は簡単な結婚式を挙げた。参列者は内海達だけ。彼らだけではなくマシンナイト達だけで済ませた。新居は火星の基地だ。
火星や月にはマシンナイトのコロニーがあり、移動性の時空の亀裂を追いかけるために基地を造り、出発するための宇宙船を建造している。メンバーはマシンナイトばかりで人間やミュータントはいない。
杉浦は量子集積所に入った。
円陣に組まれた量子コンピュータの真ん中のイスに忌野が座っている。
ここにはあるゆる情報が集まり、通信や位置情報が常に入る。忌野は睡眠以外はここにいる。
「ダーリン」
杉浦は忌野に抱きつきキスをした。
「僕は時々、マシンヘッドに強制的に連れて行かれる。連れていかれる場所は地獄だ」
イスから離れる忌野。とたんに体内から軋み音が聞こえた。
「そうなのね。私達も地上にある時空の亀裂を封印して化物も退治したら宇宙にある時空の亀裂を封じるために出発する」
杉浦は不安を口にする。
自分達は内海達と一緒にマシンナイトに適合する適合者を見つけて仲間にしている。その人数は一億。予定通りに集まればここを離れて時空の亀裂の向こうにある世界に赴く事になる。そうなると二度と帰れない。だから身寄りのない者やすでに死んだ事になっている者を集めている。
口座をのぞく杉浦。
毎月、暗号通貨で給料は振り込まれている。
でも仲間や彼とならどこにでも行ける。同じ化物同士だ。集合意識下でデータリンクでつながっている。
「僕は君がいてくれてうれしいよ」
忌野は杉浦を抱き寄せキスをする。すると軋み音は消えて歪みも消える。
「ハネムーンはどこにする?」
杉浦は聞いた。
「地獄でなければいい」
「月の裏側に行きましょ」
「そうだな。そこにしよう」
お姫様抱っこする忌野。
「そうしましょ」
うなづく杉浦。
二人は部屋を出て行った。
敵は不審船、テロリスト、海賊だけではない。大型船の暴動の鎮圧から邦人の救出、テロ制圧、怪物兵の退治と多岐にわたる。相手にするテロリストや海賊も人間や普通のミュータントではなく怪物化していたり、そのテロリストが変身して怪物に変身したりする。普通の海上保安官では対処できないから自分達特殊部隊SSTがやるのだ。任務の中には時空の亀裂を発見して塞ぐのもあるからだ。
「内海隊長」
隣りにいる女性が呼んだ。
「何?」
内海は顔を上げた。
「呼びかけに反応しない不審船にもうすぐ上陸します」
女性の隊員は揺れるヘリの窓からのぞく。
「そうか」
うなづく内海と呼ばれる女。
でも自分は女でも男でもない。両性具有で男だが男性的な体格で白色サイバネティックスーツに覆われている。胸当ては青色。戦う時はこれが鋼鉄化して鎧のようになる。
本来なら重武装だが「マシンナイト」には必要ない。自分達自身が武器庫だからだ。怪物化したテロリストや民兵、海賊を鎮圧するには人間では対処できずミュータントでも苦戦するからである。怪物は「時空の亀裂」からやってくる。それと戦うには人間やミュータントである事をやめなければいけない。技術提供は「マシンヘッド」という異世界から来たエイリアンである。彼ら自身も金属生命体で怪物と戦う力を人類に提供した。それは自分達も人間やミュータントをやめて金属生命体になるという事なのだ。
自衛隊の特殊部隊や駆けつけ警護、中東に派遣される部隊、海賊対処部隊の隊員は「マシンナイト」がほとんどである。自衛隊だけじゃなく他国の軍隊も沿岸警備隊の隊員の特殊部隊はそうなっている。
「マシンナイト」になると心臓は光輝くコアに変わり、生身の部分がなくなりほぼ機械になる。自分達は戦う力を与えられて怪物共と戦っていた。
さっき話しかけてきたのは氷見御世。炎でなんでも焼き尽くす。不老ではないが不死身でどんな傷を負っても死ぬ事がなく起き上がる。そしてミュータントだった時から幽霊が見えて話しかけたりできる。
三人目は飛鳥道宏。同じ「マシンナイト」でも乗り物や兵器と融合するタイプで彼は巡視船と融合。変身もできて地上ではその武器で攻撃する。
四人目は落合雪次。同じ乗り物でも海保の航空機と融合。陸でも空でも攻撃できる。
窓からのぞく内海。
大型タンカーが見えた。石油をどこかで降ろしたのかスピードが速い。
海保のヘリコプターは低空で接近。内海達は身を乗り出し、上空で飛び降りた。
四人は大型タンカーの甲板に着地した。
船橋から飛び出す四足歩行の生物。動物ではない。頭は体のわりに大きく目はギョロっとしていて顔がカッパに似ている。体色は黄土色で口には牙が生えている。全長は4メートル。見た目からあだ名は「カッパもどき」である。カッパと違うのは甲羅がないだけでカッパのような顔からである。
ギィィィ!!
カッパもどきが吼えた。金属がこすれすような耳障りな吼え声だ。それがあと二体やってくる。
内海、氷見、落合は片腕を機関砲に変え、もう片方を長剣に変える。
飛鳥はそこにあった鉄骨をつかむ。ビル建設に使うような太い鉄骨だ。
一匹目のカッパもどきが飛びかかる。
飛鳥は鉄骨でぶん殴った。
コンテナに激突するカッパもどき。
二匹目のカッパもどきは鉤爪を振り下ろし、三匹目は飛びかかる。
内海達はその間隙を縫うようにかわすと足元を駆け抜けた。
内海と氷見はカッパもどきの背中に飛び乗り、駆け上がると頭部を機関砲弾で撃ち抜く。青い光線が貫き、倒れた。
飛鳥は鉄骨を突き入れる。カッパもどきは再びコンテナに激突。
落合は鉄骨に飛び乗りジャンプして機関砲を連射。カッパもどきの頭部を撃ち抜いた。
飛鳥は鉄骨を捨てた。
四人は船橋から船内に入った。するとそこに船員がいた。しかし歩き方は機械的で皮膚は土気色で生気がない。
船員は四人を見るなり飛びかかる。
内海の回し蹴り。
船員は壁にたたきつけられたがそれでも起き上がって走ってくる。
片腕を火炎放射器に変形させる氷見。激しい炎が噴き出し船員は焼かれ、黒こげになる。
船内には船員達がいたが、内海達を見るなり壁や天井を這い回りながら走ってくる。
内海、氷見、落合、飛鳥は片腕を長剣に変えて、背中から二対の金属の連接式の触手を出してその先端を槍に変えて駆け出す。
氷見はスライディングしながら片腕の機関砲を連射。
両腕の長剣で内海は船員を袈裟懸けに斬り、なぎ払いなら駆け抜ける。
落合は体操選手が舞うように二対の長剣と二対の斧でなぎ払っていく。
飛鳥は斧でなぎ払い、片腕の機関砲で連射。
しばらくすると銃声と吼え声はやみ四人の足元には百人位の船員の死体が転がっていた。
落合は手首からケーブルを出してプラグを接続した。タンカーのコンピュータに接続してエンジンシステムに侵入してスクリューを逆回転させる。しばらくするとスピードが落ちて舵が動いて右旋回した。
「船倉やタンクは空っぽね。人為的に何も積まないで日本に入港するようにセットさせている」
氷見はデータベースにアクセスして航路を分析する。
「おもしろい事をやる連中だ」
飛鳥はつぶやく。
「タンクと船倉を見に行くぞ」
内海は船橋を出て行く。
ブリッジから船内に入る四人。
普通なら石油なり水なり入れて帰ってくるが空っぽである。通路にもいないし、機関室もエンジンルームもいない。
その時である空になったタンクから急に気配が生まれたのは。
這い回っていたのはムカデである。鎧のような外骨格に覆われ、全長二十メートルの大ムカデである。ムカデは四人を見ると襲ってきた。
内海達は片腕を機関砲に変えて撃つが青い光線はすべて弾かれた。
ムカデの体当たり。
内海とムカデはいくつもの部屋を壊しながら壁にたたきつけられる。自分の体内の金属骨格が潰れる音が聞こえたがすぐに骨が復元していく。
体が受けたダメージや損傷はすべて痛みや苦しみとなって電子脳を刺激する。
内海は口から青い潤滑油を吐き捨てると拳で何度も殴った。
ムカデの牙が折れて、兜のような頭部の外殻にヒビが入った。よろけるムカデ。
ムカデのしっぽを大きく振りかぶった。
すんでのところでかわす内海。すぐ上をしっぽが空を切った。
ムカデは口を開けて飛びかかる。
内海は片腕をバズーカー砲に変えて撃った。青い太い光線がムカデの口の中を貫いた。
駆けつけてくる三人。
ムカデの死骸が転がっている。
胸を押さえている内海がいた。
「もうすぐ回復する」
顔を歪ませる内海。
体内から金属が軋む音が聞こえて傷口がふさがりコアと周辺部の損傷が治っていく。
「こちら第三チーム。不審船は制圧した」
氷見は小型無線ごしに報告した。
都内の公園。
エプロン姿の女はスーパーの袋を持ったまま噴水に近づいた。
公園の噴水には家族連れや観光客がおり、噴水の前にあるベンチに初老の男が座り、新聞を読んでいた。
「太田明弘さん?」
「え?」
顔を上げる初老の男。
「太田明弘さんですか?」
エプロン姿の女は近づく。
「なんでしょうか?」
太田明弘と呼ばれた初老の男が立ち上がった。せつな拳銃で女は躊躇する事なく引き金を引いた。
銃声とともにもんどりうって倒れる太田。
悲鳴を上げて逃げ出す観光客や家族連れ。
エプロン姿の女は倒れた太田の頭に向かって銃を撃つとそそくさと立ち去る。女は公園から出ると近づいてきた黒のバンに飛び乗り去っていく。
「杉浦志乃。合格だ」
覆面の男は口を開いた。
「それはよかった」
震える手をなんとか押さえながら杉浦は深呼吸をする。
私は杉浦志乃。普通の主婦をやりながら殺し屋を始めた。勧めたのは自分の夫の仁志。夫が勤めるのは水野警備という名前の民間軍事会社である。そこで欠員が出て急きょ、女性のホステス役で出る必要があったので自分が出勤したのだ。初めはホステスとして男性客と同行出勤でターゲットを連れてくる事から始まり、満員電車や満員バスに乗り込んで標的に近づき、目的のものをバックに入れる事までやった。それが出来たら、次は標的を殺害する事。初仕事が標的にとって不利な証言をして証人の暗殺であった。それは成功した。
「マシンヘッドは気まぐれだ。自衛隊や兵士、特殊部隊を喜んで改造する。民間軍事会社にも来たんだ」
覆面を取る男。
「仁志。あなたはこれからどうするの?」
杉浦は聞いた。
「僕は会社から指示で中国人をやる。人間やミュータントは殺害できるがマシンナイトだとコアをえぐらないといけない」
仁志は運転しながら答える。
「怪物とも戦わないといけないのね。私もマシンナイトになってもいいけど」
杉浦が誘うように言う。
「君と結婚して二年だが君は変わっている」
仁志はあきれる。
「普通の主婦でもこのご時勢じゃあ料理じゃなくて銃を持つかマシンナイトになるしか給料が出ないからね」
冷静に答える杉浦。
「わかった。何かあったら内海という海上保安庁SST隊員に会え。そうすればマシンヘッドと会える。マシンナイトになるかならないかは君次第だ」
名刺を渡す仁志。
杉浦は仁志にキスすると名刺を受け取った。
その頃。横浜保安署。
ここには第三管区横浜保安署がある。十年前までは赤レンガパーク公園や大桟橋、山下公園は観光客や家族連れでにぎわっていたが時空の亀裂がナミブ砂漠に現われてから怪物が現われるようになり港湾施設、海岸沿いは十五メートルの壁で覆われている。怪物が現われ、それを追ってきたエイリアンが現われ国連組織「ナイツ」を創設した。直訳すると騎士団になる。それにより特殊部隊SSTは再編されチームメンバーはマシンナイトになり普通の保安官はいない。特殊救難隊もあったが要救助者が怪物化したりテロリストが偽装している事が多く、逆にやられてしまう事が多くなり解散。代わりに特警隊を置いて輸送船やタンカー以外は入れなくなった。SSTも数ヶ所に置かれていたが今や十五チームまである。それは自衛隊も同じで専門部隊が二〇チームまである。日々、駆けつけ警護や離島防衛についている。怪物は中国大陸方面からやってくる事がわかっている。自分達はその方面からやってくる海賊や不審船、民兵を排除するのが仕事だ。
ミーティングルームに入る内海達。
部屋に入ってくる幹部保安官。
「出た。鉄仮面」
氷見がささやく。
無表情な顔で近づくくだんの幹部保安官。
「仕事だ。大型コンテナ船が東シナ海でテロリストに乗っ取られて日本に向かっている」
幹部保安官は資料を渡した。
「西小路。あそこの担当は第十一管区だろう。俺達になぜ回す?」
内海は顔を上げた。
「離島防衛で手が回らないからうちに回ってきた。日本にとっても重要な物があってね」
西小路は抑揚のない声で切り出す。
「重要な物?」
氷見が聞いた。
「暗号通貨プログラムとそのプログラマーがその船に乗り込んでいる。政府が肝いりの政策で日本円を暗号通貨にするそうだ」
西小路はジュラルミンケースの写真とプログラマーの写真を出した。
「邦人救出に行けばいいのだろう」
声を低める内海。
「私の話は以上だ。オスプレイを自衛隊から借りてきた。それに乗ってもらう。行け」
西小路は冷たく言い放つ。
内海達は不満そうな顔で出て行った。
ヘリポートからオスプレイが飛び立つ。
「暗号通貨って池上彰がしゃべっていた仮想通貨の事か?」
内海が口を開いた。
「そうだね。仮想通貨は世界中が自国の通貨をそれに切り替えようとしている。日本もいよいよ乗り出したと言える」
それを言ったのは落合である。
「そんなにすごいのか?」
飛鳥が聞いた。
「暗号通貨の肝はプログラムにあると言っていい」
落合が自信ありげに言う。
「そうなの」
感心する氷見。
「かつてビル・ゲイツは一九九四年に言った。今ある銀行機能はなくなると。さすがマイクロソフトを作っただけの事はある。どの銀行も土日祝は休みで二十四時間営業じゃない。それに土日祝は手数料が取られる。政府や企業、日銀に左右されない通貨。それが電子通貨だ」
落合はタブレットPCに暗号通貨の画面を出して説明した。
「よく知ってではないか」
感心する飛鳥。
「僕のいとこが証券会社に勤めていて暗号通貨を扱っているからよく聞いている」
落合は画面を切り替えた。
「ビットコインだ」
内海や飛鳥、氷見が声をそろえる。
「暗号通貨の原形となる論文を書いたのは日本人が二十年前に書いたとなっているけどよくわかっていない。その論文を見たビットコインを作ったプログラマーはその論文を元に作った。SF映画みたいな話だったけど結局ビットコインは有名になった」
落合はタブレットPCに中年の日本人の写真を出して説明した。
「確かビットコインを扱ったマウントゴックスの代表者は横領で逮捕されて刑務所よね。マウントゴックスは破産申請中で破産した」
氷見があっと思い出す。
「よくニュースを見ているな」
しれっと言う飛鳥。
「そういえば池上彰がTVで仮想通貨の事をしゃべっていた」
内海はあっと思い出す。
一〇年前だからたまたま見た番組で池上彰氏が説明していた。その時は興味なくて途中まで見てバラエティ番組を見ていた。
「私もその番組を見たよ。近い将来、従来の貨幣に変わる暗号通貨で近いうちに革命が起きるかもって」
氷見が携帯の画像を切り替え、ビットコインやアマゾンコインの画像を見せる。
「そんなに進んでいるの?」
飛鳥と内海が聞き返す。
「金融庁や国会で法整備を進めているし近いうちに巣鴨や商店街でも気軽に暗号通貨で買い物ができるようになる」
当然のように言う落合。
「暗号通貨は千五百~二千種類あると言われている。仮想通貨と暗号通貨はちがうの。仮想通貨はコピーや改ざんも可能。暗号通貨はプログラムが複雑すぎてコピーもハッキングも不可能。セキリュティは万全。だから金融庁や政府も法整備をしている」
落合が図面を書いて説明した。
「でもそれをハッキングできるハッカーが現われた。だから紙幣は紙くず寸前になり世界経済は混乱した。混乱を収めるために自国の通貨を暗号通貨に切り替えたの。造っている最中に研究所が襲われのかもな。新聞でもその関連研究所が襲われたとあるから本当かもな」
落合は新聞記事を出した。
「暗号通貨を盗むって不可能では?」
内海は首を振った。
タブレットPCからホログラム映像が飛び出す。そこにはビットコインの映像が飛び出し、幾何学的な模様のプログラムが展開する。それが三重の螺旋のように連なる。
「なくなったのは三三三枚目のコインでそこの情報がごっそりなくなってる。普通なら取引ができないはずだ」
内海が指をさす。
「迂回経路的なプログラムが組み込まれていてそれでかろうじて動いているみたい。普通なら暗号通貨を盗むなんて不可能よ」
氷見は指摘する。
「なんで?」
飛鳥が聞いた。
「ブロックチェーンプログラムによって鎖状につながっているからなんだ。ビットコインはあらかじめ二一〇〇万枚と決まっている。それらは取引する事によって情報が蓄積される。途中のコインを取り出すには前後の情報が必要でね」
落合がタブレットPCを渡した。
飛鳥と内海、氷見は接続プラグを手首から出して自分のタブレットPCに差込んで資料を読んだ。
「すべての暗号を解かないと読めないし、解くには広大なスペースとマシンと電気代が必要なんだ」
落合はタブレットPCを操作する。
「まず経済を安定させたい政府は自国の通貨を暗号通貨にするために研究所のプログラマーを呼んだ。しかしそれをよく思わない勢力が邪魔してきた」
落合は映像を切り替えて他の暗号通貨のプログラムを出した。
「どれも途中のコイン情報がない。盗まれた暗号通貨は迂回回路でつなげてある」
氷見は推測しながらプログラムをのぞく。
「本当のプログラムは人質のプログラマーにあり、そいつが盗んだ暗号通貨の情報を持っている。それを組み込んで世界経済を安定させる暗号通貨を始動させる」
落合は西小路からもらった資料を出す
「天才だ」
内海と飛鳥が感心する。
「天才だけどビットコインは最高のプログラマーが何人も携わって造られている」
落合はビットコインの記念コインを出す。
「ビットコインをプログラムしたプログラマーは何人かいてビットコインが有名になる前から携わっている者もいる」
落合は口を開いた。
「ビットコインを扱っていたマウントゴックスの代表が横領で逮捕されたのが有名だけどそれ以前のビットコインは売れてなかった。
ビットコインの論文を書いたのは勅使河原稔という日本人と言われているけど彼は論文を書いただけにすぎない。ビットコインを造った当初は世間から相手にされなかった。初めは0・二円だった」
内海は映像を切り替えて説明する。
「それを有名にしたのは営業マン達の涙ぐましい努力のおかげ。二〇一〇年にある男が一万ビットコインを買った。それは数年後八億円で売れた。1コイン0・二円だったのが最高十四万円まで跳ね上がった。その理由が中国人が外貨対策に爆買いしたからもあるし彼らのコイン好きもあるから有名になった」
落合が部屋内を歩きながら説明した。
「プログラマーが持っているあのケースにあんな膨大な情報量を詰め込むのは無理ね。マシンヘッドの技術が入っているわね」
気づいたことを言う氷見。
「たぶんあのケースはメモリーになっていて、実際に取引されている十二種類の暗号通貨が入っていた。仮想通貨と暗号通貨の違いは仮想通貨は楽天やアマゾンといった通販サイトや企業がそこで使えるコインを作ったりしているけどハッキングされたり、改ざんされたり、消失もありうる。暗号通貨は複雑なブロックチェーンプログラムにより管理され枚数も決まっていて、取引されるとみんなに情報がシェアされる。それが鎖のように繋がっていて十分ごとに情報が更新される」
落合は映像を切り替えて暗号通貨の取引サイトを出した。
「すごいな・・・」
どよめく内海達。
どんどん古い情報が更新されていく。
「各ブロックの前にさっき取引した情報が圧縮されて管理される。元要約した短いデータを「ハッシュ取引」という。だから過去のブロックを改ざんは大変なの。そこには計算を早く解いた人がいてつなげる「マイニング」作業する人がいる。それは中国人がやっている。そこは体育館よりも広い場所でマシンが山積みでマシンコストや電気代も安く、人件費も安く済むからね」
落合は説明した。
「それに今では金融庁も国会でも法整備を進めている。今では東京三菱銀行やスイスでも導入しているし、証券会社も金融商品として扱っている」
レイモンドが映像を切り替え、新聞記事を出した。
「時代は変わったな」
感心する内海達。
「その中でビットコインは商品を交換できて現金化もできる」
たたみかけるアンナ。
「ビットコインのプログラマー達はその中でも最高レベルの腕を持っている。例えばスパイ映画のジェームズ・ボンドやM16やモサドのスパイが侵入しようとしても不可能なのはその膨大な情報量のせいだしセキュリティは万全だったけどハッキングされて破られた。だからマシンヘッドの力を借りていると思うね。うわさでは第二の通貨の計画が国連総会ではあってそれは出口戦略も考えて設計されている」
落合ははっきり指摘した。
「間もなく本機は当該域に到達します」
機内アナウンスが入り、席を立つ四人。
オスプレイは低空で侵入し、後部ハッチが開いた。
身を乗り出す内海達。彼らは飛び降り甲板に着地した。
五人の黒マスクをしている男達が振り向いた。せつな、内海と落合の背中の触手の刃と両腕の剣が心臓を貫いた。
コンテナから降りてくる氷見と飛鳥。
「右舷にいたテロリストは始末した」
報告する氷見。
船橋に入る内海達。
船内に暗褐色の物体がいた。その人型の物体には顔がなく信号ランプが一つついているだけだ。その手にはライフル銃を持っている。
内海達は左腕を機関砲。右腕を長剣に変えて銃弾をかわし、壁や天井を蹴り走りながら撃ち、舞いながら袈裟懸けに斬っていく。
走りながら船橋から上甲板に入る四人。
普通のタンカーならタンクが並ぶがかなり改造されているのか吹き抜けになっている。何かの機器類が並んでいた。
バルコニーから飛び降り内海は背中の触手の銃身と片腕の機関砲を交互に撃つ。
そこにいたテロリスト達は頭を穿たれ次々倒れていく。
天井を這い回るオオトカゲを撃ち落とす落合と飛鳥。
タンクから飛び出すカッパもどき。大きさは小ぶりだがそれでも二メートルある。
片腕の放射器で焼く氷見。
通路に土気色の顔の少女がいる。
笑みを浮かべる氷見。
彼女は死んでいる。俗に言う幽霊であるが自分にしか見えない。
少女は通路の奥を指さした。
「内海隊長。私は人質を探しに行きます」
氷見は名乗り出る。
「頼んだ」
内海は手榴弾を出した。
「そこの格納庫にテロリストのボスがいるのね」
納得する氷見。彼女はバルコニーにジャンプして船室に入った。
内海はシャッターに手榴弾を貼り付け、スイッチを入れた。倉庫と倉庫を仕切るシャッターが吹き飛び格納庫が現われる。
部屋に複数の男がいた。髪は銀髪の白い肌の男がいた。白人ではなくアルビノだろう。
銀髪の男以外は黒髪だった。日本人ではなく中国人だ。
「やあ内海君。ひさしぶりだね」
流暢な日本語で声をかける銀髪の男。
「劉炒燐。船と融合したんだ」
冷静に言う内海。
感覚的にマシンナイト同士は相手が何と融合しているのかわかる。
「本当は駆逐艦と融合したかったんだが余り物の海警船になった。残念だな」
龍炒燐はおどけながら言う。
「探しても見つからない所に放り込んだ」
龍炒燐はニヤリと笑う。
「おい、行くぞ」
龍炒燐は二人の部下に指示を出す。
部下達が動いた。
落合と飛鳥は二人のパンチや蹴りを受け払った。
龍炒燐は片方の腕を機関砲に変えると連射した。銃弾ではなく赤い光線である。
内海は彼の周囲を駆け回りながらかわすと片腕の長剣でなぎ払った。龍炒燐の機関砲に変形している腕を切り落とす。
龍炒燐は内海の首をつかみ上げ、片腕の長剣で胸を突き刺した。
「ぐあぁぁ・・・」
内海はのけぞり彼の腕をつかむ。
龍炒燐は剣をえぐる。
内海の傷口から青い潤滑油が機械油と一緒に噴き出し、部品やケーブルが飛び出る。
「苦しいだろ。痛いだろ。俺たちはコアをえぐられない限り死なないんだ」
怒りをぶつける龍炒燐。
内海はのけぞり身をよじり目を剥いた。
意識は遠のいていかない。機械になってしまったらコアを取られない限り死ぬ事はない。
内海は背中から一〇対の触手で龍炒燐の体を貫いた。
「ぐわあぁ!!」
龍炒燐は声を上げのけぞり内海を放した。
内海に蹴り飛ばされる龍炒燐。
龍炒燐の二人の部下は胸に穴が開き倒れていた。
落合と飛鳥の体は傷だらけ。深い傷口からプラグやケーブル、部品が飛び出ているがそれも体内に引っ込んでいく。
「人質を探すぞ」
三人は格納庫を飛び出した。
氷見は船首側の通路を進む氷見。
土系色の顔の少女が機械室を指さした。
氷見は機械室に入ると男二人が足や腕に噛みつき、その肉を食べていた。手足の持ち主はドラム缶に入れられている。すでに生気がなく身動きしない。絶命しているようだ。
二人の男の両目は赤色で皮膚は生気がない。
氷見は両腕を放射器に変形させた。
部屋に隠れていた河童もどきや怪物兵が飛びかかった。
ゴオオォ!!
激しい炎が両腕から噴き出し、それは青い炎に変わり、塵と化した。
氷見はタンクを開けた。そこに溺れている男がいた。彼女は手を伸ばし、男の腕をつかみ上げタンクから出した。
「助かった・・・」
若い男は座り込んだ。
氷見は男の腕や首や足の襟や袖をめくって傷がないか確認する。
「僕は噛まれてません」
戸惑う若い男。
「暗号通貨プログラマーはあんた?」
氷見が聞いた。
「はい。僕です。白瀬勉です」
名前を名乗る若い男。
「プログラムは?」
氷見は聞いた。
白瀬は奥歯に引っ掛けていた袋を出すと鍵を出し、金庫のタッチパネルを操作して鍵穴に差し込む。金庫の扉が開いてジュラルミンケースを出した。
部屋に飛び込んでくる内海達。
「人質は溺れる寸前で助け出した。怪物に噛まれていない」
氷見はハンドモニターを見せた。
どこかで爆発音が聞こえた。
「あいつらがやってくる」
舌打ちする内海。
「脱出口ならあそこにある」
白瀬は天井を指さした。
甲板に出てくる内海達。
接近してくるオスプレイ。
「おかしい。パイロットがいない」
落合が気づいた。オスプレイの操縦席の窓に赤い光が二つ灯った。機体から四対の鎖が飛び出し着地してバルカン砲が火を噴く。
白瀬を抱えて甲板を走る氷見。
内海と飛鳥は片腕をバズーカーに変形させて発射。青色の光線がオスプレイの機体を貫通。爆発して海へ落ちた。
氷見が振り向いた。
スライディングする龍炒燐。彼はジュラルミンケースをつかんで海に飛び込む。
低空で侵入してきたジェットエンジンタイプのオスプレイのハシゴをつかみ飛び去った。
「方向はこのまま行くと東京だ」
落合が飛び去った方向を見上げる。
タンカーに接近する漁船軍団。
漁船には漁師や乗員がいない。
落合は緑色の蛍光に包まれてDHC-8型双発の輸送機に変身した。四対の鎖でつかんで内海達は飛び去る。
「こちら西小路」
機内無線が入る。
「こちら内海」
「沖ノ鳥島沖で水野警備の警備船が襲われている。救助要請だ」
「了解」
日本近海。沖ノ鳥島沖
大型船に体当たりするクジラ。それはただのクジラではない。全長一〇〇メートル。体全体を鎧のような殻に覆われているという怪物だった。
大型船の76ミリ砲が火を噴く。
しかしクジラはものともせずに吼えた。
水面に上がってくる大蛇やサメの群れ。
船体側面と船尾の二〇ミリ機関砲や四〇ミリ機関砲が火を噴く。
サメの体を次々穿った。
船首砲で鎌首をもたげて出てきた大蛇の頭部を撃ち抜く。
船内の警備兵は忙しく行き交う。
無線室で若い男は無線や電波を傍受している。若い男はタッチパネルを操作して電波がどこから出ているのか探る。電波をたどればこの怪物達を操る奴がいる。
ドオーン!!
船内が大きく揺れた。
「捕まえた」
若い男は近い海域から出ている電波をたどりコンピュータウイルスを送信した。
ドドーン!!ヴァン!!
船内が再び大きく揺れて床にたたきつけられる若い男。ドアが開いて廊下に転がる。
ドドド!!ドドーン!!
爆風に吹き飛ばされ壁にたたきつけられる若い男。
何がなんだかわからないが化物の群れが去っていくのが見えたが一緒に乗り込んでいた乗員達は海に浮かんで身じろぎしない。自分も鋭い痛みを感じて身を起こすと下半身がなくなり片腕がなくなっていた。
どうやら自分はここで死ぬようだ。
若い男は大きく裂けた腹部を見てぐったりとなる。でもどこかで航空機の飛翔音が聞こえた。
甲板に着地する四人の男女。
「警備船の救助要請があったが怪物は去った後か」
周囲を見回す男。
「電波が出ていて電波を出していた主は怪物の群れに電波が遅れなくてミサイル攻撃して帰ったようね」
女は海を見下ろす。
二人の男も船室に入り、生きている者がいないか確認している。
「内海・・・?」
気が遠くなりそうな意識で若い男は声をかけた。
「忌野京介(いまわのきょうすけ)じゃないか。海保のSST部隊から外れて潜入捜査官として情報部隊に入っているというのを聞いたんだ」
内海は破顔して近づきしゃがんだ。
「民間軍事会社との調査で怪物を操る連中を追っていた」
忌野は笑みを浮かべる。
「俺達はマシンナイトになって怪物共を退治している。怪物を送り込む連中やどこかに現われる移動性の「時空の亀裂」を追っている。しかしハッキングや情報収集する隊員がなかなかいなくてね」
内海は真剣な顔になる。
「内海、氷見、落合、飛鳥と一緒ならやろう。だが民間軍事会社にいるから共同作戦も取るし時には意見がちがって対立もありうるだろう」
笑みを消える忌野。
「落合は人質だった人物を基地に送るために基地に戻った」
内海は周囲を見回す。
内海に近づく黒色のサイバネティックスーツの男。白肌でスキンヘッド。満州人の辮髪のようにケーブル束をポニーテールのように束ねているからマシンヘッドである。彼ら自身も金属生命体でここへは怪物の群れと時空の亀裂を追ってやってきている。怪物や時空の亀裂の対処法を教えるのと同時にマシンナイトにして戦い方を教えている。彼らも戦い方を教えて技術力を提供しては他の異世界へ渡り歩くという生活をしているという。だから悪い連中でもないが、彼らは同時に心臓や動物の肉をつまみ喰いして帰る。
「忌野。おまえはこのままにすれば死ぬだろうし、病院につれて行ってもいいが死ぬ。内臓もなくなっているし、下半身や片腕はどこかに吹き飛んで見当たらない」
内海は真剣な顔になる。
「どっちにしても地獄か。やれ」
腹を決める忌野。
どのみちこのままだと自分は死ぬのはわかっている。ならマシンナイトになって怪物を送り込む奴らを追う。そいつらだけでなく中国民兵を送りこむ連中も追い返したい。自分のハッカーとしての経験やコンピュータウイルスの製造、量子コンピュータだって論理的に操作可能にできる。
「では遠慮なく」
マシンヘッドはケースから光輝くコアと周辺装置を出すと、片腕で心臓をもぎとり、胸にコアを入れた。せつな恐ろしい笑い声や無数の声が脳裏に入ってきて体内組織があっという間に機械に変わっていく。なんとも言えない違和感だった。
「ぐああぁぁ!!」
焼きゴテで押し付けられるような痛みやナイフでえぐられるような激痛が襲ってきて、ケーブルが生え、青白い光が自分を包む。
光の中で激痛が走り、体から金属のウロコが生え、胴体がひどく軋み音をたてて歪み、防弾アーマーに変わり、ショルダーパットや腹部やわき腹も金属プレートが生えた。足は金属のプレートに覆われ、片腕が金属の連接式の触手に変わり手は鉤爪に。耳は無線内臓の金属の耳宛に背中から一〇対の金属の触手が生えた。でも下半身や片腕はない。金属の鎧は再び分解してウロコとなって体内に引き込まれ、白色のサイバネティックスーツの胴体と腕に変わっていた。
「下半身と内臓も造ってくれるそうよ」
氷見がのぞきこむ。
「それはよかった。また仕事ができる」
忌野は笑みを浮かべた。
オスプレイが五人を回収して船から離れる。
「どこに向かっている?」
忌野が聞いた。
「おまえがいる民間軍事会社。そこにも仲間のマシンヘッドがいて情報収集やハッカーとして役に立つ体をくれるそうだ」
飛鳥は声を低める。
「情報収集して指揮する者は必要だ」
落合が視線をうつす。
「わかった」
忌野はうなづいた。
オスプレイは水野警備のヘリポートに着地する。内海によって忌野を医務室に運ぶ。
忌野は周囲を見回した。そこには工具や部品がならび医務室とは呼べない部屋だ。
構わないさ。怪物の送った奴や時空の亀裂がどこに現われて、敵を探れれば。以前からマシンナイトには興味があったのだから。
「消化装置や重要な臓器はあるな。ならこの小型の量子集積装置を入れよう」
中年の博士は小型のドラム缶のような装置を見せた。それは円柱型で高さ五十センチ。直径四十センチありケーブルやパイプ、配線が出ている。その隣りが臀部から下の両足だろう。両足は金属プロテクターに覆われている。その隣りに胸まで覆うコルセットや胸当てがある。胸当ては厚さが十センチあり、何やら配線やケーブルが見え、片腕もある。
どうやら自分は人間ではなくなったようだ。
忌野はため息をついた。
量子集積装置が腹部に接続され両足や片腕、コルセットや胸当て、首にもコルセットがはめられ、頭部にはヘアバンドがはめられた。
せつな頭をハンマーでたたかれたような痛みが走り、のけぞった。呼吸が荒くなり胸が激しく上下した。
「ぐああああ!!」
バキバキ!!メキメキ!!
腹部から胸まで深く断ち割れ、ケーブルや配管がその傷口の下で激しくのたくるのが見えた。傷口は軋み音をたてて歪み、胸当てが硬質化する。でもそれは体をよじりのけぞる度にシワシワになった。
新しい腕は膨らみ連接式の金属の触手に変わり手は鉤爪に変わる。
この体・・・嫌だ・・よけいに・・
忌野は身をよじりのけぞる。
電子脳の脳裏にレーダーや赤外線センサーや亜空間センサーがくわわり、装備している武器にビーム銃、銃剣、バリア発生装置がプログラムされている。
どんどん自分の体が変わっていく。
耳障りな軋み音とともに胸や腹部、わき腹、背中、ひざ、掌底が断ち割れ、割れ目から金属ドリルが飛び出した。
「ぐうぅぅ!!」
ズン!と突き上げるような音や何かが引っかき回すように体が激しく盛り上がりへこむ。
目を剥く忌野。
ギギギギ!!ビシビシィ!
金属の背骨から連接式の金属の触手が一〇対飛び出し先端は掃除機の先端のように変形して周囲をまさぐるように這い回る。
金属の背骨が激しく軋み歪むのが嫌でもわかる。心臓音が耳に響いた。
自分は人間でなくなったのに懐かしい音が聞こえる。
全身の軋む音や消えていき金属ドリルや這い回るケーブルも引っ込んでいく。
自分から人間の部分が消えていく・・・
忌野の目から一筋の涙が流れ落ちた。
数日後。都内。
「仁志・・・この三日帰ってこない」
家の掃除しながらつぶやく杉浦。
夫の仁志はあの後、家に帰らずにそのまま次の任務に行った。そして帰ってこない。警備員もやるし殺し屋もやる。でも失敗すれば命を失う。
電話が鳴った。
「もしもし杉浦ですが」
電話に出る杉浦。
「水野警備の者です。杉浦仁志さんの奥さんですか?」
受付の男の声が聞こえる。
胸騒ぎが収まらない。不安が押し寄せる。
「はいそうです」
「仁志さんは亡くなられました。会社に来てください。説明します」
「わかりました」
一時間後。水野警備
応接室に通される杉浦。
中年の警備員はソファに促した。
「うちの主人はどういった仕事をしていたのですか?主人から聞いたのですが中国人を暗殺するという仕事だというのを聞いた」
話を切り出す杉浦。
「武器商人の中国人の暗殺です。情報不足でその中国人はマシンナイトだったようです」
「そうなの。主人から何かあったらこの内海という保安官を頼れと言われた。マシンナイトになるかならないかは君次第と言われた」
「その人は海保の特殊部隊SSTの隊員ですね。彼もマシンナイトです。適合者や志願者を募集している。覚悟が必要だ。敵は怪物だけでなく中国からもやってくる。時空の亀裂を操っている者がいる。マシンナイトになるということは「人間をやめる」のと一緒だ」
目を吊り上げる中年の警備員。
「芹沢部長。私は主人の敵討ちをしたい。中国の武器商人は中国からやってくる。なら地の果てまでも追いかけてコアをえぐる」
「仁志が見込んだだけの事はあるな」
「マシンナイトになりこの内海という隊員に会わせて。共同で作戦があるなら動きたい」
何か決心する杉浦。
できれば子供は産みたいし普通の暮らしがしたいがこの世界情勢ではそれは無理だ。なら生き残るにはマシンナイトに賭けるしかないだろう。
「わかった。マシンヘッドに会わせる。君は殺し屋だ。なら弾道を自由に曲げられる能力が必要だろう」
芹沢はうなづいた。
横浜基地。
内海は港湾施設沿いに立つ壁を眺めていた。
人質になっていた暗号通貨プログラマーは救出した。しかしプログラムが入ったジュラルミンケースは奪われた。その行方がわからない。
岸壁に這い上がってくる男の子。
内海は見下ろした。
その男の子は生気がなく肌は土気色。
「ジュラルミンケースは残念だったね」
エコーのかかった声の男の子。
「そう思うか。俺もそう思う」
内海は答えた。
それを官舎からのぞく西小路。
誰かに話しかけている様子が見えるがそこには内海以外誰もいない。
「いつもの幻覚か」
しれっと言うと西小路は部屋に引っ込む。
「敵はあれをスパイに売り渡すに違いない。敵はどこで合流するのか?」
内海はつぶやく。
「敵は山奥。山奥で廃村なら隠しやすい」
男の子はそう言うと消えていく。
「内海。あの鉄仮面が呼んでる」
飛鳥が呼んだ。
ミーティングルームに入る内海。
西小路の隣りに白瀬がいる。
「先ほどは助けてくれてありがとうございます。あのプログラムがないと起動ができません。僕だけでも作る事ができますが半年かかってしまいます」
白瀬はモニターに映す。
それは複雑な数式や数字の羅列の図形が並んでいる。
「それを取り返すのが仕事か」
内海がしれっと言う。
「スパイの話だと敵は五人で動いている。車も四台だ」
西小路は写真を出した。
「龍炒燐はロシアのスパイかマフィアでも売り飛ばすのか」
落合が首をかしげる。
「地図システムを作るからその専用車がいる。地図ソフトもだ」
飛鳥は地図を出した。
「車がいる。無線もだ。調達できるか?」
内海が聞いた。
「調達しよう」
無表情に言う西小路。
「ケースは誰が持っている?」
落合が聞いた。
「こいつが持っている」
西小路が写真を出した。
龍炒燐の写真を出す西小路。
「じゃあ腕を切断しても構わないな」
当然のように言う内海。
「龍炒燐はそいつらとどこで合流する?」
氷見が聞いた。
「奥多摩だろう。人通りが少なくて邪魔はされない」
推測する内海。
あの岸壁の男の子の言う事を信じたわけではないが予想しただけだ。
「敵は郊外で合流するそうだ。取引相手の工場がそこにあるからだろう」
西小路が地図を出した。
「でも都内ね。嫌な予感」
氷見がつぶやく。
「政府と東京証券所が何がなんでも手に入れろと言ってきている。犯人の生死は問わないそうだ」
西小路は冷静に言う。
「そんなにお金が大事か。なら遠慮なくやらしてもらう」
内海は強い口調で言う。
「ほしい物資は調達する。なんとしてでもケースを取り戻して来い」
西小路は冷たく言った。
水野警備。射撃場
マシンナイトとなった私は訓練が始まった。
本当に人間ではなくなり生身の部分がなくなり、性別も両性具有になり体形も男性的になり乳房がなくなりサイバネティックスーツに赤色の胸当てとショルダーパットに篭手になっている。でも小柄な体と顔は女だ。
射撃場で片腕を突き出した。すると思うだけでライフル銃の銃身に変形。標的もロックされる。射撃指揮装置が電子脳にあってそれもあり弾道計算が瞬時にされる。
野球の魔球をイメージすると弾道も曲がって計測される。
そして撃った。青色の光線が少しカーブして人形の頭を撃ちぬいた。初めてにしてはいいスタートだが敵はプロ。すぐにし止めるようでないと倒せない。
一時間後。ロビーに入る杉浦。
「忌野さん?」
珈琲を飲んでいるマシンナイトを見て声をかける杉浦。
顔を上げる忌野。
「君も変わったのだね。僕も大幅に変わった。この体は嫌いだ。だが怪物や時空の亀裂や敵と戦うには必要だ」
忌野は怒りをぶつけるように鉤爪で黒色の胸当てを引っかいた。何度も強く引っかいても深くへこむだけ。肌触りもゴムのようになり皮革みたいにシワシワになる。
「私の主人は死んだそうよ。ある中国人の武器商人を追っている。そいつもマシンナイトだそうよ」
杉浦は声を低める。
「いきなり大物は無理だ。小物の標的から順番に行くんだ」
注意する忌野。
「わかっている」
うなづく杉浦。
私も最初無理だったからホステスになりきって標的を店に連れてきていた。
「僕も訓練中だが補佐と支援はできる」
「補佐?」
「僕の役割は標的までの最短距離を計測して導く事。そして情報収集やハッキング、改ざんだ。どこに時空の亀裂があり出現するのかも計測するし、敵がどこにいてどこへ行くのかを計算して君を安全な距離から狙撃を支援する」
忌野は掌底からホログラム映像を出して標的までの距離、弾道計算、ルートを出して指でたどりながら説明する。
「なるほどね」
感心する杉浦。
「僕は警備船の任務で怪物を操る奴に襲われて下半身や片腕を失った。腹にあるのは量子集積装置で、このヘアバンドはデータバンクで髪の毛はすべてケーブルに変わった。首のコルセットは重要ケーブルを守るためにある保護装置だ」
忌野はヘアバンドや首のコルセットを外す。
絶句する杉浦。
首は金属の骨に変わり消化装置につながる配管パイプと大小のさまざまな太さのケーブルがつながっている。頭部には接続穴がある。腹部のコルセットを外すと円柱型の小型量子コンピュータがあった。他の臓器は端っこかその中を通っている。金属の背骨も見えた。重要な血管はすべて配管パイプとポンプになり、大小のケーブルが網目のように主要パイプや機器をつないでいる。
「人類は進化を遂げたと思っている。第二の進化だ」
コルセットをはめる忌野。
「戦いの場に人間やミュータントはいらないわ。マシンナイトで十分よ。地上の怪物を一掃できたら宇宙に出て時空の亀裂を探し出して閉じに行く」
何か決心する杉浦。
「内海も同じ事を言っていた。マシンヘッドは間もなく自分の世界に帰るらしい。後の始末を我々に押しつけてな」
「でもマシンナイトにするやり方は知っているわ。コアもどうやって生成するかもわかっている」
「ある程度、リサイクルしているし、製造もできる」
「マシンヘッドの技術を利用して宇宙船を建造して時空の亀裂を閉じに行ける」
「武器商人を暗殺したら私もそれに加わる」
「そうか。では簡単な標的から行こう」
映像を切り替える忌野。
「ホームレス?」
映像をのぞきこむ杉浦。
「人食いホームレス。多摩川の河川敷に住んでいる」
忌野はデータを出した。
「人食いなら話題になっているけど」
「喰っているのは同じホームレスだ。だから騒がない」
忌野が出現場所を出した。
場所は多摩川沿いでどの犠牲者もホームレスである。
「いずれはホームレス以外の人間やミュータントを食べ始めるわね。退治しないとね」
出現ポイントを眺める杉浦。
「情報と支援をお願いするわ。私は多摩川河川敷に行ってくる」
杉浦は言った。
二時間後。多摩川河川敷。
データリンクで繋がっているのか地図が出て地形図やどこにホームレスがいて人食いホームレスの住んでいる場所が示される。
「こちら杉浦。所定の位置に着いた」
杉浦は雑草が生え放題の河川敷に入った。人の背丈程の雑草で見通しが悪いがレーダーや忌野のナビで進んでいく。彼女は背中から四対の金属の触手を出して先端を銃身に変え、片腕を長剣に変えた。
「そのまま進めばホームレスの小屋がある」
忌野が指示を出す。
杉浦は葦をかきわけて中州が見える場所に着いた。川岸にバラック小屋がある。縁側で初老のホームレスは釣りをしていた。
ホームレスは振り向いた。鉤爪に変わり両目は赤色に輝く。
杉浦とホームレスは同時に動いた。ホームレスの速射パンチが繰り出される。彼女は間隙を縫うようにかわし、鋭い蹴りを入れる。
受身をとり体勢を立て直し、後ろ回し蹴り。
杉浦は受払い、掌底を弾き、ハイキック。
多摩川に落ちた。しかし這い上がってきて口から炎を吐いた。
ホームレスの周囲を駆け回り、片腕の剣で突き刺す。
ホームレスは身をかわして鉤爪で引っかく。
「ぐっ!!」
顔をしかめる杉浦。
胸や腹部にかけてえぐれた傷があったがすぐに塞がる。
「一〇時の方向から来る」
忌野の指示が聞こえた。
すんでの所でかわす杉浦。
ホームレスが草むらに隠れる。
気配が消えて位置を示す点が消える。
「二時の方向へ弾道を曲げろ」
指示を出す忌野。
目を半眼にすると杉浦は正面を向いたまま片腕を銃身に変えて何度も撃った。弾道は九〇度曲がって何かが草むらで倒れる音が聞こえた。彼女はその音のした方へ近づくとホームレスは頭と胸を撃たれて死んでいた。
会社のテレポート台に戻ってくる杉浦。その足で量子コンピュータ室に入る。円陣に組まれた金属殻に座る忌野。
忌野の胸当ては荒い呼吸の度に激しく上下してへこみ、腹部は何が這い回るように盛り上がる。
忌野は彼女に気づくとプラグを外した。
「現場も大変だけど支援やナビも大変ね」
推察して杉浦は忌野の胸に手を当てる。自分には体温はなくなり心音もない。忌野も著しく変わり心音も体温はない。
「この体は・・・嫌いだ・・・」
怒りをぶつける忌野。体内から激しい軋み音が聞こえ顔が激痛で歪む。
思わず抱きつく杉浦。
驚く忌野。
「私と一緒に暮らさない?」
杉浦はささやく。
「僕は化物になってしまった」
忌野はつぶやく。
「私も化物になった。なら化物同士なら支えられる」
笑みを浮かべる杉浦。
「わかった」
忌野は笑みを浮かべた。
次の日もやりやすい獲物から仕事をする事になっている。次は青梅市の山中に出没するブーメランという名前のクマの退治である。なぜブーメランなのかというとクマの頭にある模様がブーメランだからである。ただのクマではなく体長六メートルのクマの怪物で通常の銃弾は効かず、仲間のクマをかならず呼ぶ。クマ以外に猿も呼ぶ。これもただのニホンザルではなく怪物化している。体長三メートルで全身は岩のように硬い硬質化した皮膚に覆われ銃弾は効かない。別名「岩猿」というあだ名がついている。クマも岩猿も凶暴で人間やミュータントを食べる。
杉浦のジープは青梅市郊外の山道に入った。青梅市を出た時点でバリケードが築かれ、山に通じる道という道はすべて通行止めになっている。許可証を見せて許可を得て入っている。山道に入るとゴミは散らかり廃屋が何ヶ所にあるのが見えた。
廃屋集落の背後に山がある。その登山道の出入口である駐車場で止まる。
杉浦はナビシステムと武器システムを起動させてジープを降りた。
その時である。急に気配が生まれたのは。
山から降りてくるニホンザルの群れ。でもそれは普通の猿ではなくすべて岩猿だった。顔はニホンザルなのに体は岩のような硬質化した皮膚に覆われ、体長は三メートル。手足は鉤爪が生えている。
杉浦は日本刀を二本抜いた。日本刀の刀自身が青くぼんやり輝く。
彼女の電子脳にターゲットの位置や脅威度が示される。
「じゃあ行くよ。杉浦志乃の鬼退治!!」
杉浦は遠巻きににじり寄り岩猿の群れも彼女も同時に動いた。
杉浦は腕や足を斬りおとしながら駆け抜け、新体操選手のように舞いながら群れの中を駆け抜けた。
「切れ味は抜群ね」
着地して振り向く杉浦。彼女の足元にはたくさんの岩猿の死体が転がっていた。
「十二時の方向からクマの群れ接近」
忌野の声が注意する。
三十頭のクマの群れが襲いかかった。
杉浦は身を伏せた。せつなジープからビームマシンガンや飛び出し連射。接近してきたクマの魔物は胸や頭部を青い光線が貫通してもんどりうって倒れた。
杉浦はジープに乗り込み未舗装の道を入っていく。クマの群れや岩猿の群れをビームマシンガンを連射しながら走行。しばらくすると広場に着いた。
頭部にブーメラン型の模様のつけた巨大クマがいた。群れのボスであるクマだ。そして隣りには岩猿のボスがいる。ボスザルは体長四メートルで筋骨隆々の体格をしていた。
一本目の日本刀をジープのそばに突き刺し、杉浦は二本目の日本刀を持ち構える。
ボスザルと杉浦は遠巻きににじり寄ると同時に駆け出した。
杉浦はスライディングすると持っていた日本刀でなぎ払った。
下を向くボスザル。
跳ね起きる杉浦。彼女は日本刀で背中からボスザルを刺した。
口から血を吐くボスザル。腹部から下半身にかけて切り裂かれ、胸まで日本刀の刃先が突き出ていた。目を剥いて倒れるボスザル。
続いてはボスクマが進み出た。
遠巻きににじり寄る杉浦とボスクマ。二人同時に動いた。杉浦は日本刀をなぎ払う。しかし、丸太のような腕で受け払うクマ。鉤爪で何度も引っかいた。
「ぐあっ!!」
杉浦は地面にたたきつけられた。胸や腹部にえぐれ引っかかれた傷が口を開け、青色の潤滑油がしたたり落ちる。
本当に自分は化物になったわね。
杉浦は舌打ちした。傷口はすぐにふさがっていく。
クマが飛びかかりその太い足で踏みつけた。
すんでのところで転がりながらかわす杉浦。跳ね起きて片腕を銃身に変えて連射。
クマは飛び退きながらかわした。地を蹴り木を蹴り、体を丸めた。ボールのように弾みながら跳ね回る。
杉浦は駆け回りながら跳ね回るクマの体当たりをかわした。
ボーリング球のように体を丸めて転がり跳ね回るクマを撃つ杉浦。しかし青い光線はすべて弾かれる。
杉浦は二対の触手を出して木を登った。
体当たりしながら木をなぎ倒すクマ。
木から木へ飛び移る杉浦。
クマは体勢を立て直して走った。
杉浦に飛びかかり、取っ組み合い地面にもつれながら落ちた。クマは彼女の腕に噛み付き、引きちぎった。とっさに杉浦は持っていた日本刀をクマの口に突き入れた。
クマは目を剥きあおむけに倒れた。
息を整える杉浦。鋭い痛みが走りのけぞる。すると金属の芽や合成ゴムの組織の芽が出て腕の骨が形成され腕や手の形になった。
「クマとサルの駆除は完了だ」
冷静な忌野の声が聞こえた。
「この後はどうするの?」
杉浦は聞いた。
「あとは猟友会とハンターがやってきて後始末をする。君とジープを転送する」
忌野は言った。
倉庫に入ってくる部長の芹沢ともう一人の男性。
「化物になったじゃないか?」
その男性は忌野を見るなり笑う。
「西小路。普段なら横浜基地にいるのになぜいる?」
目を吊り上げる忌野。
「内海や自衛隊の奴らに指示や指揮できる司令部員がほしいから来た」
冷たく言い放つ西小路。
「マシンヘッドに言わせるともっとすんなり出来ないといけないようです」
しゃらっと言う芹沢。
「もっと化物になれって事だ」
西小路は悪魔のような笑みを浮かべる。
「貴様・・・」
忌野は片腕を長剣に変えた。
「サノスさん」
西小路は指をパチッと鳴らす。
部屋に入ってくるマシンヘッド。
忌野が動いた。
サノスは剣の連続突きをかわすと掌底を弾いた。
忌野は彼から離れた壁にたたきつけられた。
サノスは駆け出し近づき持っていた短剣を忌野の胸に突き刺した。
「ぐうぅぅ・・・」
忌野はその腕をつかみのけぞる。
「もっと役に立て。融合が足りてない。もっとすんなり行くはずだ」
サノスは悪魔のような笑みを浮かべ機械のムカデを出した。傷口から入り込みムカデはケーブルやパイプに噛み付いた。
短剣を引き抜くサノス。
忌野はのけぞり、身をよじり、鉤爪で胸当てを引っかく。
ギシギシ・・!!メキメキ!!
忌野は顔を歪め、胸当てやコルセットを外そうともがいた。それはなんともいえない違和感だった。腹部ではケーブルが網目のようにもっと広がり、神経ケーブルや配管パイプも木の根のように広がるのがわかる。
サノスは苦しみもがく忌野の腹部コルセットを外した。
「よく見るんだ。人間は捨てるんだ。誇りがそこにはあるんだ」
サノスは見下ろし言い聞かせる。
「ぐあああぁ!!」
忌野は蠢くケーブルをつかんだ。しかし円筒形の量子集積装置にしっかり根付き取れない。それどころか腹部プレートが伸びて装置と一体化していく。胸当てや腹部プレートは身をよじるたびにシワシワになり何かが這い回るように盛り上がる。
「我々にもその役目の奴はいる。私達のいた世界はそういう進化をしなければ生き残れなかった。おまえ達は移動性の時空の亀裂からやってくる脅威に備えての番犬になる。それを指揮する司令船がいるんだ。我々も利用したい時は好きな時にやってきて借りる」
サノスはもがきのけぞる忌野を見ながら笑みを浮かべる。
無表情の菱小路。
時計を見る芹沢。
メキメキ!!ギギギ・・・
首のコルセットを取ろうともがく忌野。しかしコルセットは一体化して取れない。
「おまえも杉浦も合格だ」
サノスは笑みを浮かべてくだんのムカデを回収して退室していく。
忌野は軋み音を立てて歪む胸当てや胴体を引っかいた。引っかいてもシワシワになりゴムのようにへこむ。
「まだ終らないか」
芹沢は他人事のように見下ろす。
「ご飯をおごるよ」
西小路は誘う。
「そうしよう」
芹沢と西小路は退室した。
その頃。基地の駐車場。
二トントラックの荷台で飛鳥は地図ソフトをダウンロードして地図を入力する。はじめ大雑把だった地図が鉄道路線図や道路、市道、首都高や路地や地名が入力される。
茶色のワゴンと白色の車にライフル銃や手榴弾が入ったケースを入れる内海、氷見、落合の三人。
赤毛の女性が近づいた。
「誰?」
怪訝な顔の氷見。
「西小路から派遣された浅田。内閣情報調査室のエージェント」
ガムをかみながら名乗る赤毛の女。
「じゃあこのナビゲーター車を運転して」
飛鳥は二トントラックを指さした。
「龍炒燐はゴラーエフというスパイと取引して都内で受け取る予定よ。これが車のナンバーと顔写真」
浅田は二トントラックの荷台に乗り込み、写真や車種、ナンバーを入力した。
「こいつらはどんな連中だ?」
内海が荷台をのぞく。
荷台から出てくる浅見。
「ロシアマフィアになっているけどスパイね。ゴラーエフと龍炒燐以外の四人はミュータントと人間」
浅田が答えた。
「ロシアも暗号通貨がほしいの?」
氷見が割り込む。
「日本の技術は精密で正確で優秀。それにビットコインをプログラムできるプログラマーが日本人ならほしがるわね」
浅田はロシアマフィアのメンバー写真を渡した。
落合達がのぞきこむ。
「人間とミュータントから片付けましょ」
氷見は当然のように言った。
次の日は都内にいるターゲットの暗殺である。今日はサポートなしである。
杉浦は腕に腕輪を装着した。光学迷彩装置を起動させ周囲の風景に溶け込む。彼女はビルの屋上から飛び降りた。走行する電車の屋根に着地してナビを起動する。腕時計から映像が飛び出し周辺地図が出て標的が示される。
杉浦は片腕を銃身に変えた。
電車の速度と位置、標的の位置を入力すると最適な発射場所が示される。
杉浦は銃口を高層ビルに向けた。彼女は一〇階の五列目の窓に向かって撃った。青い光線は途中で弾道が曲がり、標的に命中した。
標的が倒れたのを映像の監視カメラで確認する杉浦。彼女は駅のホームの屋根に飛び移った。
同時刻。新宿
新宿の大ガードの交差点に三台の車が停車する。
「内海。ターゲットがいる」
ナビゲーターの飛鳥が地図を送信した。地図にロシアマフィアの車列が曲がり角の交差点に止まっている。
電車が高架橋を轟音と立てて通過する。
「敵に動きがある。ここで撃つ気だ」
飛鳥が驚きの声を上げる。
龍炒燐とロシア人達は武器を手に車を出てアサルトライフルで内海と浅田、氷見が乗る車に向けて連射。
太ったロシア人はバズーカーを発射。
浅田は車を飛び出した。
ドゴオーン!!
火柱が上がり車が吹き飛ぶ。
「撃て!!」
内海は駆け寄り機関砲で黒塗りの車を撃つ。
運転席にいたロシア人がもんどりうって倒れる。
助手席にいたロシア人はショットガンを連射する。
ジグザグに走りながら間隙を縫うようによけて片腕の長剣で突き刺した。
目を剥いて倒れるロシア人。
「劉が逃げるぞ」
二トントラックを運転しながら指示を出す飛鳥。彼のトラックは路地に入った。
龍炒燐は車列を縫うように走った。
氷見、落合、浅田が追いかける。
内海に飛びかかるロシア人。
もつれ合いながら道路に転がる二人。
内海は片腕の剣で胸を突き刺した。
もんどりうって馬乗りのロシア人は倒れた。
龍炒燐は歩道に飛び込み、機関砲を連射。
浅田は別のトラックの陰に飛び込む。
氷見達は間隙を縫うようにかわす。
内海は車列の屋根を駆け抜け、劉炒燐に飛び蹴り。
龍炒燐はひっくり返った。
内海は片腕の剣で劉炒燐の機関砲だった腕を斬りおとす。
駆け寄る氷見達。
「こいつケースを持ってない」
浅田が気づいた。
二トントラックが止まった。
「ロシアマフィアが一人足りない。取り逃がしたそいつが持っている」
運転席から飛鳥が顔を出した。せつな龍炒燐は青い光に包まれどこかに転送された。
忌野は呼吸の度にへこむ胸当てが嫌でも目に入った。わき腹と腹部中心線に沿ってに接続穴が並ぶ。すっかり皮膚のようになじんでいる。身をよじるたびに深いシワが入り、引っかいてもシワシワになりながら元に戻る。
「マシンヘッドめ・・・」
怒りをぶつける忌野。
部屋に入ってくる杉浦。
「もっと僕はあいつらに化物にされた」
忌野は憎しげに言う。
杉浦は忌野に抱きついた。
「一緒に仕事をやりましょ」
杉浦はキスをする。
忌野は彼女を抱き寄せ、ストレッチャーに押し倒した。
翌日。ミーティングルーム。
部屋に入ってくる芹沢。
杉浦と忌野は振り向いた。
「杉浦。君の夫を殺した武器商人が入国している。名前は李陳念。国内にある中国企業の工場にいる」
芹沢が地図と写真を出した。
「奥多摩?」
杉浦が聞き返す。
「中国企業の工場がこの廃村にある。李陳念はここの社長だ。李陳念の暗殺と彼が持っている暗号通貨の記念コインを取り戻す事」
芹沢は記念コインの写真を見せた。
「暗号通貨って最近はNHKの深読みという番組でもやっていたわね。それはビットコイン?」
身を乗り出す杉浦。
最近話題になっている仮想通貨で日本政府もその通貨に大乗り気でいる。そして日本だけでなくスイスやエクアドルが自国の通貨を暗号通貨にしている。
「暗号通貨は政府の意向や企業に管理されない資産ですね。七〇年前。終戦直後、政府は預金封鎖を行った」
冷静に切り出す忌野。
腕を組む芹沢。
杉浦はタブレットPCで預金封鎖に関連する物を出した。
終戦直後。政府は財政難、インフレを押さえるために決断した。しかし国民生活はさらに困窮して混乱したため効果がなかった。本当の狙いは財産税の課税と国民の資産の把握だった。暗号通貨は国に管理されにくい資産という事になる。ビットコインが人気なのは政府や中央銀行の支配されない事なのだ。しかしビットコインは二一〇〇万枚と枚数が決められ半減期がすぎている。今だと1コインを換金するのに四五分だったが今では三日かかっている。
「政府が暗号通貨に着手するのはブロックチェーンだろ。あれは複雑なプログラムだからハッキングはできない」
声を低める忌野。
「そういう事になる」
つぶやく芹沢。
「ディズニーもブロックチェーンプログラムを導入しているのね」
タブレットPCを見せる杉浦。
それはディズニーがブロックチェーンプログラムを使って作ったホームページである。
「スパイやハッカーが侵入できないようにするためでもある」
忌野はうなづく。
「だから政府も乗り遅れないように自国の通貨を暗号通貨にするんだ。もうじき給料の支払いは暗号通貨になるだろう」
芹沢は推測する。
「そうなったらおもしろいかも。商店街でも暗号通貨で買い物ができるし、銀行に行かなくてもATMで引き落としができるわね」
笑みを浮かべる杉浦。
世の中便利になったものだ。
「君は李陳念の記念コインを奪う事。奥多摩にかつて檜村という廃村があったがそこを中国人が買い取って工場を造った。山をへだてて西棟と東棟に別れている。君は西棟にいる李陳念をやる」
芹沢は指揮棒を出してモニターの地図を指さした。
「東棟は?」
杉浦が聞いた。
「特殊部隊が別の敵を追って東棟にやってくるそうだ。李陳念をやったらすぐ帰れ」
芹沢は語気を強める。
「わかった」
杉浦はうなづいた。
一時間後。奥多摩の廃村。
さびれた山道に転送されるジープ。
杉浦はエンジンを始動させて走り出す。カーナビが起動して最短ルートを示す。しばらく行くとトンネルに入った。トンネルに人影が見えて止まるジープ。
それはぎこちない動きで近づいてくる。一人ではなく多数である。生気がなく土気色で手にはチェーンソーやナタやスコップを持ち目はうつろだった。ゾンビ達は彼女を見るなら駆け出した。
杉浦は武器モードスイッチを入れた。ジープからバルカン砲が二基飛び出し連射。
青い光線が次々とゾンビ達を貫通した。
杉浦はアクセル全開で走った。
ゾンビを跳ね飛ばし、連射しながらトンネルを飛び出した。
その頃。東棟
東棟の監視塔に接近する浅田、内海、氷見、飛鳥、落合。
「左に五人。右に四人」
落合が報告する。
内海、氷見、落合、飛鳥は四対の触手を背中から出して片腕を機関砲に変えて撃つ。正確に監視塔やそれをつなぐ通路にいた監視兵の頭や胸を撃ち地面に落ちていった。
内海達は高い壁を駆け上り内部に入った。とたんに内側の壁内部にある機銃や機関砲座が火を噴く。内側の壁の屋上から監視兵達がサブマシンガンを連射
四対の触手と片腕の機関砲で連射しながら走った。弾丸の雨を駆け抜けながら正確に機関砲で監視兵達の頭や胸を撃ち抜く。
「本当にここは工場なの?」
氷見は柱の影に隠れる。
「これは敵の基地だな。工場とは名ばかりで民兵がいる」
内海は推測した。
ここの工場がある場所は山奥の廃村で誰も来ないし怪物も出没。だから気づかれる事もなく基地を造れた。なら破壊するしかない。
内海達は機関砲を連射しながら壁をよじ登り壁の屋上にいた監視兵を撃つ。壁の内部に入ると工場が見えた。
さっきの壁から飛び降りてきたのは体長七メートルの巨人だった。
西棟。
ジープは機関砲を連射しながら門をぶち破り、監視兵を跳ねながらバリケードに衝突。
四人の監視兵がジープに近づいた。せつな青い光線が次々に命中して倒れた。
監視塔から飛び降りる杉浦。
足元には監視塔にいた監視員が三人倒れている。いずれも胸や頭に穴が開いていた。
杉浦はショットガンとアサルトライフルをジープから出して工場内部に入った。
ベルトコンベヤーや作業台にいた作業員達はサブマシンガンやライフル銃を抜いた。
杉浦は一〇対の触手を背中から出して先端を銃身に変えて走りながら連射。片腕の銃身でバルコニーにいた作業員や監視員を撃っていく。いろんな部品やホコリが舞いながら杉浦は管理室に飛び込む。
作業場は多数の作業員達が倒れていた。
その時である。急に気配が生まれたと同時に斧が背中に食い込んだ。
振り向き部屋から飛び出る杉浦。
斧を持った仮面の大男が立っていた。身長は三メートル位ある。
杉浦は片腕の銃身で撃つ。しかし男はもとともせずに近づく。
杉浦は日本刀を抜いた。刀身は青く輝く。
杉浦と男の斧と日本刀が何度も交差してなぎ払い、弾かれる。
「杉浦。ここは電波妨害がひどい。そいつの弱点は頭だ」
忌野の声が聞こえた。
「わかった」
答える杉浦。
なるほど。だから地図が映らなかったり声が聞こえなかったりしたのか納得できた。
男が動いた。斧をなぎ払う。
杉浦はかわすと背中に回りこみ、飛び移り、日本刀を頭部に突き刺した。
男は目を剥いて倒れた。
管理室の部屋にドアがある。
杉浦はドアを開けてトンネルに入った。
水野警備。
量子コンピュータ室にサノスは入った。
量子コンピュータが体育館程のスペースに並んでいた。その中央のイスに座る忌野がいた。理容室にあるようなイスに忌野は腹部やわき腹、背中から細いケーブルが十数本も伸び、円陣に組まれた集積装置に繋がっている。
「やっと私達に追いついた」
サノスはのぞきこんだ。
憎しげににらむ忌野。
「私達はおまえみたいなのがほしかったんだ。どこにでもハッキングできて侵入できるハッカーを。でもその時ではないからね」
サノスは笑みを浮かべる。
忌野はケーブルを外すと片腕を長剣にかけてなぎ払う。
サノスは顔色を変えずに片腕だけでその剣を受払いパンチや蹴りをかわした。
サノスは忌野の首をつかみ上げ部屋から飛び出した。倉庫に入ってコンテナに入る。そこにはサノスと同じようなマシンヘッドがいてコンテナ内部は見た事もない異質な機械が山積みになっている。
「我々は地球にいるマシンヘッドを連れて時空の亀裂からやってくる邪神の軍勢を蹴散らしに行く。でもそれはまだ先なんだ。いずれやってくる。別の時空の宇宙で総攻撃になるだろう。おまえは指揮官になるのだ」
サノスは忌野を放した。
もう一人のマシンヘッドは嫌がる忌野をストレッチャーにくくりつける。
「やめろ!!」
忌野は暴れた。
サノスともう一人の男は箱から部品を取り出し、片腕の短剣で突き刺しえぐるとその部品を躊躇する事なく入れていった。
「わああぁぁ!!」
その頃。東棟
巨人が動いた。
氷見と内海が飛び退いた。
巨人の蹴りをかわす落合と飛鳥。
落合と飛鳥は片腕の機関砲を連射。
巨人が飛び退いた。
氷見の片腕が放射器に変形。炎を発射。
巨人は落ちていた壁の破片で防いだ。
内海は片腕の機関砲を連射。
巨人は壁を投げると地を蹴り壁を蹴り腕を振り下ろした。
内海は飛び退いた。
巨人のパンチが地面にめりこんだ。
「こいつスキがない。センサーで感知している」
落合が気づく。
「なら四方向から行くぞ」
内海は合図を出した。
巨人と四人が同時に動いた。
内海と氷見の機関砲を連射。
落合と飛鳥は片腕を長剣に変えてなぎ払う。
巨人はそこにあった壁の破片で光線を防ぎ、そこにあった鉄骨で長剣を弾いた。
パンチや蹴りを繰り出す巨人。
内海達はすんでの所でかわした。
内海は駆け出しスライディング。彼は片腕の機関砲を連射。
巨人が飛び退いた。せつな。落合と飛鳥は長剣で胸や腹部をなぎ払い、氷見は放射器で炎を発射。片足を焼いた。
よろける巨人。口から血を噴き出す。
内海はジャンプして腕や背中を踏み台にして片腕の長剣で頭部に振り下ろした。
巨人はもんどりうって地響きをたててあおむけに倒れた。
内海達は工場内部に入った。いくつかの部屋を駆け抜けると広大な部屋に出た。そこは使われておらず倉庫になっている。
「あなたは?」
氷見がコンテナの影から周囲を伺っていた女に声をかけた。
「私は杉浦志乃。水野警備に勤めていて忌野と同棲している」
杉浦は振り向いた。
「結婚しているよね。旦那さんは?」
氷見が聞いた。
「夫は武器商人の李陳念にやられて死んだ。だから私は敵討ちにマシンナイトになり、同じ化物になったから忌野と同棲している」
当然のように言う杉浦。
「それもありか」
納得する飛鳥。
「俺達は龍炒燐を追っている。あいつに奪われた暗号通貨のプログラムを取り返しにきている」
内海は口を開く。
「私は李陳念が持っている暗号通貨の記念コインよ。目的は一緒ね」
杉浦が答える。
「誰か来る」
落合が注意した。
ドアが開いて黒塗りの車が入ってきた。
向かいのドアから装甲車が入ってきた。多数の民兵をともなって入ってくる。
車から降りてくる李陳念と劉炒燐。
「目的の物は?」
李陳念が口を開いた。
「ここだ」
龍炒燐はジュラルミンケースを出して中味を見せる。
「これがプログラムか」
のぞきこんで驚く李陳念。
「君は?」
「私は記念コインだ」
李陳念は青のジュラルミンケースを開けて十二個の記念コインを見せる。
「暗号通貨の記念コインか」
「ただの記念コインじゃない。コンピュータウイルス入りだ。ブロックチェーンを破壊できる」
李陳念は笑みを浮かべた。
「これなら世界経済は大混乱よ」
龍炒燐と李陳念は笑みを浮かべた。
ロシア人マフィアの一人が機関砲をコンテナ群に向けた。せつな、コンテナの間から青い光線が五人のロシア人の頭を貫通。
山積みのパレットが崩れ、その背後から青い炎がそこにいた民兵達を焼いた。
何かがきりもみ状態で飛んできて劉炒燐と李陳念が持っていた二つのジュラルミンケースをつかみ飛び去りコンテナの屋上に降り立った。
「本物だね」
氷見はハンドモニターで押し当て確認する。
落合は青い光に包まれ転送された。
「おのれ・・・殺す!!」
龍炒燐は目を吊り上げる。
「李陳念。よくも旦那を殺したね」
杉浦は顔を朱に染めた。
「あの殺し屋か。あれなら心臓を取って食べた。心臓はおいしかった」
李陳念は悪魔のような笑みを浮かべ鉤爪に変えた。
龍炒燐と李陳念は互いに顔を見合わせると互いの腕を取り背中から金属の芽や触手が伸びてくっついて合体した。
そこに角が五本。背中からも角を四本生え、紫色の体色の巨人がいた。
巨人が動いた。
杉浦達は飛び退いた。そこにあった山積みの木箱が巨人のパンチで散らばり、蹴りでコンテナが散らばった。
巨人はテレポートしながら速射パンチを繰り出した。
内海、飛鳥、氷見は受身を取った。三人は散らばったパレットに突っ込む。
巨人は口から炎を吐いた。
杉浦は走りながら片腕の銃身を撃つ。
巨人は片腕を盾に変形させて防いだ。彼は両腕をバルカン砲に変形させて連射。
内海達は間隙を縫うように駆け抜け、機関砲を連射。しかしテレポートしながらかわしてハイキック。
杉浦は蹴られ地面にたたきつけられた。
巨人はテレポートして彼女に近づく。丸太のような腕を振り上げた。せつな黄金色の光線が体を連続で貫いた。
内海達が振り向く。
天井の鉄骨からコウモリのようにぶる下がりながらビームバズーカーを撃つ落合がいた。
よろける巨人。
内海と飛鳥の機関砲が巨人の両足を何度も貫いた。
両目から紫色の光線をなぎ払うように発射。
落合は身を伏せた。すんでの所で光線が通過した。
氷見は片腕を機関砲に変形して発射。レーザーで切断するように巨人の片腕を切断した。
杉浦は飛び退くと銃身を連射した。青い光線は弾道が曲がり巨人の頭部に次々と命中。
飛鳥と内海がジャンプした。飛鳥の長剣は袈裟懸けに斬り、内海は首を切断した。
巨人は吼えて閃光とともに爆発した。木端微塵に吹き飛び、肉片の一つが龍炒燐と李陳念であった。
李陳念は首と左胴体があるのに右側がなく龍炒燐は右側がなかった。
内海は龍炒燐のコアを杉浦は李陳念のコアをもぎ取った。
「任務は終了だ。ここを焼くぞ」
内海はジュラルミンケースにコアを入れる。
「そうね」
杉浦はリュックにコアを入れてうなづく。
落合と飛鳥は瓦礫から黒色の箱を出した。中味は爆弾だった。
工場の正門から出てくる内海達。
背後で火柱が上がり、同心円状に爆風が広がり爆発が連続で響いた。
水野警備
倉庫のコンテナから這い出てくるケーブルだけらけのものがあった。大小のケーブルがのったくり、排水溝が詰まるような音がのどから聞こえ、顔を上げた。
「やあ忌野。すっかり化物になったね」
芹沢はのぞきこむ。
シワシワだらけの物を見下ろす芹沢。
メキメキ・・・ミシミシ・・・
忌野は鉤爪で腹部や胸当てを何度も引っかく。いくら引っかいてもゴムのようにへこみ傷がつかない。忌野は鋭い痛みにのけぞり転がる。胸当てや胴体、背中は何かが這い回るかのように盛り上がり、激しく歪む。胸当てや胴体が歪みへこむのが嫌でも目に入る。
背中の金属の背骨がメタリックに輝き、わき腹と腹部に接続穴は増えていた。体や手足から出ていたケーブルは収納されていく。
「鉄の前掛けだ。鉄のかっぽうぎともいうべきか。用意してある」
芹沢は胸当てを押した。それは何ともいえない感触で皮革を触っているよう。ゴムのようにへこみシワシワになる。胸当てにも大きめの接続穴が五個あった。
「サノスさん。これを好きなように使ってください」
芹沢は他人事のように言う。
「ご協力感謝する」
サノスと芹沢は握手をした。
その頃。横浜基地。
ミーティングルームに杉浦、内海、氷見、飛鳥、落合が入ってくる。
西小路が白瀬と黒服の男女と一緒に入ってくる。
杉浦と内海はジュラルミンケースを出して中味を出した。
黒服の男女は中味を確認するとうなづく。
「回収ありがとうございます」
笑みを浮かべる白瀬。
「その記念コインはウイルスが入っているみたいだけど」
杉浦は腕を組んだ。
「無害化は可能で書き換えできます」
白瀬は当然のように答える。
「ならいいわ」
しれっと言う杉浦。
「プログラムは本物で僕が造った物です」
白瀬は頭を下げる。
「これが龍炒燐と李陳念のコア」
杉浦はリュックから出し、氷見はケースから出した。
黒服の男女は黒色のケースに入れた。
白瀬と黒服の男女はうなづくと退室した。
「給料とボーナスは暗号通貨で支払われる。換金も可能だ。次の任務まで解散」
西小路は無表情のまま口を開く。
「第二の通貨だしな。世の中はますます便利になるな」
内海はしれっと言った。
数日後。
私と忌野は簡単な結婚式を挙げた。参列者は内海達だけ。彼らだけではなくマシンナイト達だけで済ませた。新居は火星の基地だ。
火星や月にはマシンナイトのコロニーがあり、移動性の時空の亀裂を追いかけるために基地を造り、出発するための宇宙船を建造している。メンバーはマシンナイトばかりで人間やミュータントはいない。
杉浦は量子集積所に入った。
円陣に組まれた量子コンピュータの真ん中のイスに忌野が座っている。
ここにはあるゆる情報が集まり、通信や位置情報が常に入る。忌野は睡眠以外はここにいる。
「ダーリン」
杉浦は忌野に抱きつきキスをした。
「僕は時々、マシンヘッドに強制的に連れて行かれる。連れていかれる場所は地獄だ」
イスから離れる忌野。とたんに体内から軋み音が聞こえた。
「そうなのね。私達も地上にある時空の亀裂を封印して化物も退治したら宇宙にある時空の亀裂を封じるために出発する」
杉浦は不安を口にする。
自分達は内海達と一緒にマシンナイトに適合する適合者を見つけて仲間にしている。その人数は一億。予定通りに集まればここを離れて時空の亀裂の向こうにある世界に赴く事になる。そうなると二度と帰れない。だから身寄りのない者やすでに死んだ事になっている者を集めている。
口座をのぞく杉浦。
毎月、暗号通貨で給料は振り込まれている。
でも仲間や彼とならどこにでも行ける。同じ化物同士だ。集合意識下でデータリンクでつながっている。
「僕は君がいてくれてうれしいよ」
忌野は杉浦を抱き寄せキスをする。すると軋み音は消えて歪みも消える。
「ハネムーンはどこにする?」
杉浦は聞いた。
「地獄でなければいい」
「月の裏側に行きましょ」
「そうだな。そこにしよう」
お姫様抱っこする忌野。
「そうしましょ」
うなづく杉浦。
二人は部屋を出て行った。
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