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二十四
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「今日から事が解決するまで俺と帰ってもらうことになったので。」
どうぞよろしくと干鰯谷くんは恭しくお辞儀をした。
「こ、こちらこそ。」
いつもの……いや、そこまで彼と関わっている訳では無いけれど……。干鰯谷くんの急な態度の違いに驚きつつ、よろしくお願いしますと僕は慌ててお辞儀を返す。
「じゃ、今日は遠回りになるけどこっちに行くから。」
スンといつもの調子に戻った干鰯谷くんに僕はほっとした。あのまま堅い雰囲気で毎日帰ることになるのはちょっと疲れてしまいそうだったから。
柏那さんからの提案で、僕と干鰯谷くんは放課後は一緒に過ごすことになった。
僕が鬼の世界へ行かない為の対策の一つとして、今日はいつもとは違う道を歩いている。どうして僕があちらの世界へ行ってしまうのか、少しでも分かるようにと色々試していくそうだ。
干鰯谷くんは僕の少しだけ前を歩いていく。 少し道を変えるだけで知らない場所へ来たようなそんな不思議な感覚を感じながら僕は歩いた。
「明日と明後日暇ならうち来る?」
干鰯谷くんと目が合ったと思ったら急にそう言われて僕は「へ?」と気の抜けた返事をした。
干鰯谷くんは僕の歩調に合わせて隣に並ぶ。
「土日休みだし。分かんないことだらけでしょ?今の状況整理したいかと思って。」
「なるほど。」
「ゆっくり休みたいとか一人で考えたいとかならそれでいいし、予定あるならもちろんそっち優先で。というか予定あるなら詳細教えて。夕方の対応考えないと。」
「予定はないから大丈夫。色々聞きたいこともあるし干鰯谷くんがいいなら行ってみたいけど、急なのに平気なの?」
「全然平気。親とは別で暮らしてるし遠慮なく。なんなら口に合うか分かんないけど昼食も用意するよ。いる?」
「干鰯谷くんが作るの?」
「そうだけど。」
「料理出来るんだ。すごい。」
「簡単なものだけだから期待しないで。で、どうすんの?来るなら俺は柏那さんと違って責任ないから聞かれたらなんでも答えるよ。」
「なら、お言葉に甘えようかな。」
「じゃ、詳細は後でメッセージ送っとく。」
「うん。……わっ!」
干鰯谷くんは急に僕の腕を引っ張った。
「そこ進むと鬼の世界。」
「え?」
「見えはしないのか。」
干鰯谷くんはこっち歩いてと僕を誘導する。どうやら鬼の世界へ通じる空間?が今歩いていた場所にあったみたいだ。
「干鰯谷くんも柊さんと同じように出口が見えるんだね。」
「変な力を持つ人間なら割と見えるよ。」
こっちからだと入口かと気付いたけれど干鰯谷くんは特に触れなかった。
「そっか。干鰯谷くんも点と点の距離を操る力を持ってるんだっけ。すごい力だって柊さんから聞いたよ。」
干鰯谷くんはふっと息を零して微かに笑う。
「それを言うのはあの人だけだから。俺のは全然約立たず。それこそ変なのが見えるくらいしか使いようないかもね。しかも鬼の世界は特殊でそれ関係に遭遇する率がそもそも低いし……あ。」
「ん?」
「いや。……なんか嫌いものとかある?明日の昼食の参考に。」
干鰯谷くんの「あ」は明日のお昼のことじゃなくて他のなにかに気づいたようなそんな「あ」だったように感じたけれど、僕はとりあえず「すごく辛いものじゃなければ基本なんでも大丈夫」と答えた。
干鰯谷くんはわかったと頷いて、それからは考え込むように黙ってしまったので、ただ僕たちは家まで歩いた。
「あ、着いた。」
今日は鬼の世界に行かずに済んだのかな?
「通常なら家まで入って扉を閉めれば安全なはず。」
まだ油断しないでと干鰯谷くんは言う。
僕は頷き、玄関の門を開けて家に帰ろうとした。
が。
「やっぱり。」
干鰯谷くんの声に「なにが?」と聞こうとした時にはもう僕は鬼の世界にいた。
どうぞよろしくと干鰯谷くんは恭しくお辞儀をした。
「こ、こちらこそ。」
いつもの……いや、そこまで彼と関わっている訳では無いけれど……。干鰯谷くんの急な態度の違いに驚きつつ、よろしくお願いしますと僕は慌ててお辞儀を返す。
「じゃ、今日は遠回りになるけどこっちに行くから。」
スンといつもの調子に戻った干鰯谷くんに僕はほっとした。あのまま堅い雰囲気で毎日帰ることになるのはちょっと疲れてしまいそうだったから。
柏那さんからの提案で、僕と干鰯谷くんは放課後は一緒に過ごすことになった。
僕が鬼の世界へ行かない為の対策の一つとして、今日はいつもとは違う道を歩いている。どうして僕があちらの世界へ行ってしまうのか、少しでも分かるようにと色々試していくそうだ。
干鰯谷くんは僕の少しだけ前を歩いていく。 少し道を変えるだけで知らない場所へ来たようなそんな不思議な感覚を感じながら僕は歩いた。
「明日と明後日暇ならうち来る?」
干鰯谷くんと目が合ったと思ったら急にそう言われて僕は「へ?」と気の抜けた返事をした。
干鰯谷くんは僕の歩調に合わせて隣に並ぶ。
「土日休みだし。分かんないことだらけでしょ?今の状況整理したいかと思って。」
「なるほど。」
「ゆっくり休みたいとか一人で考えたいとかならそれでいいし、予定あるならもちろんそっち優先で。というか予定あるなら詳細教えて。夕方の対応考えないと。」
「予定はないから大丈夫。色々聞きたいこともあるし干鰯谷くんがいいなら行ってみたいけど、急なのに平気なの?」
「全然平気。親とは別で暮らしてるし遠慮なく。なんなら口に合うか分かんないけど昼食も用意するよ。いる?」
「干鰯谷くんが作るの?」
「そうだけど。」
「料理出来るんだ。すごい。」
「簡単なものだけだから期待しないで。で、どうすんの?来るなら俺は柏那さんと違って責任ないから聞かれたらなんでも答えるよ。」
「なら、お言葉に甘えようかな。」
「じゃ、詳細は後でメッセージ送っとく。」
「うん。……わっ!」
干鰯谷くんは急に僕の腕を引っ張った。
「そこ進むと鬼の世界。」
「え?」
「見えはしないのか。」
干鰯谷くんはこっち歩いてと僕を誘導する。どうやら鬼の世界へ通じる空間?が今歩いていた場所にあったみたいだ。
「干鰯谷くんも柊さんと同じように出口が見えるんだね。」
「変な力を持つ人間なら割と見えるよ。」
こっちからだと入口かと気付いたけれど干鰯谷くんは特に触れなかった。
「そっか。干鰯谷くんも点と点の距離を操る力を持ってるんだっけ。すごい力だって柊さんから聞いたよ。」
干鰯谷くんはふっと息を零して微かに笑う。
「それを言うのはあの人だけだから。俺のは全然約立たず。それこそ変なのが見えるくらいしか使いようないかもね。しかも鬼の世界は特殊でそれ関係に遭遇する率がそもそも低いし……あ。」
「ん?」
「いや。……なんか嫌いものとかある?明日の昼食の参考に。」
干鰯谷くんの「あ」は明日のお昼のことじゃなくて他のなにかに気づいたようなそんな「あ」だったように感じたけれど、僕はとりあえず「すごく辛いものじゃなければ基本なんでも大丈夫」と答えた。
干鰯谷くんはわかったと頷いて、それからは考え込むように黙ってしまったので、ただ僕たちは家まで歩いた。
「あ、着いた。」
今日は鬼の世界に行かずに済んだのかな?
「通常なら家まで入って扉を閉めれば安全なはず。」
まだ油断しないでと干鰯谷くんは言う。
僕は頷き、玄関の門を開けて家に帰ろうとした。
が。
「やっぱり。」
干鰯谷くんの声に「なにが?」と聞こうとした時にはもう僕は鬼の世界にいた。
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