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十二
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「……きろ、……とう、……佐藤!」
なんか言われてるような……と目を開ける前に、身体を揺すぶられ、枕にしていた腕がズレて頭が机にゴンとぶつかった。
「うおっ!?悪いっ!大丈夫か!?」
僕は、ごぉーんという鈍い余波を感じながら頭をのっそり上げる。額をさすりながら「あぁ小谷か」と思ったままに口から出す。
「大丈夫か?珍しく授業中寝っぱなしだったし……。」
小谷は心配そうに覗き込む。
寝てしまっていたのか。なんだか昨日から異様に眠たいんだよなと思いながら僕は「大丈夫」とだけ答える。
どうやら今は授業が終わって放課後らしい。
僕の高校は昼休み後の五限、六限、七限の授業は選択制で、クラス関係なく好きな授業を選べるようになっている。五限と六限までは必ずどれかの授業を受けなければならないが、七限目は取らなくてもいいため、早い人は六限目で帰宅する。ただ、成績の関係から一年と二年は七限まで取る人が多く、僕と小谷も七限を取っているのだ。
小谷は僕の様子を確認して大丈夫そうだと判断したのか「さてと、部活に行くとしますか」と言って、伸びをする。
小谷とは中学の時に仲良くなった。出席番号が前後で、入学式とか健康診断の待ち時間とか全校集会で体育館に行くとかにちょくちょく話していたら、いつの間にか同じ高校へ行くほどの友達になっていた。
「あんた今日用事ある?」
急に後ろから声がして、寝起きの僕はびっくりしながらもバッと振り返る。僕の背後にいたのは、昼休みに柊さんと一緒にいた男子だった。
「ん?佐藤の友達?」と小谷に聞かれ、「ええっと……」と濁す僕に対して彼は「あぁ」と頷く。
あれ、そうだったっけ?僕は彼の名前すら知らないんだけど……。
「こいつ、借りていい?」
彼は友達であるはずの僕はスルーして、小谷に尋ねる。
「おー、俺はこれから部活だし。一緒に帰るのか?」
「あぁ。」
僕たち、一緒に帰るんだ。約束してたっけなぁ。
小谷はにこにこと人懐っこい笑顔で「そっかー」と言って、痒かったのか首をかくような仕草をした。
「じゃあ俺行くわ。またな、佐藤。」
「あぁ、うん。また明日。」
小谷がいなくなり、2人になる。
「行くぞ。用事は無いよな?」
「用事は無いけど、どこに?それと僕たちいつ友達になったんだっけ?」
「必要なことは歩きながら話す。人がいると面倒だから。」
そう言って彼は教室から出て行く。僕は渋々彼のあとを追った。
空は水色からオレンジ色へと移り変わっていく。下校する生徒たちはその空の下、流れるように歩いている。彼も無言でスタスタと僕の斜め前を歩く。
なんとなく彼に着いていってはいるけど、一体どこへ行くのだろう。この道は僕の家へと続く道ではあるけれど、彼が僕の家を知っているわけないし……。
「あんた、二日続けて鬼の世界に行ったんだって?」
人が少なくなると彼は唐突に口を開いた。
「なんでそれを……。」
「透様から聞いた。普通の人間は一日二日ならともかくあっちの世界にいるだけで負荷がかかるから、今日もあんたが行くようなら対策を考えないといけないってさ。でもあの人はこの時間こっちにいられないから代わりに俺があんたを見とけって頼まれた。」
これでいい?と彼はダルそうに答えた。
「異様に眠いのも鬼の世界に行ったのが関係してるのかな?」
彼は「そうだろうね」と軽く頷く。
「前例が無いからこのままいくと今後、何が起こるか全く想定できない。けど、分からないなら分からないなりにやれることはあるからそこまで怖がらなくていい。……って透様が。」
「そっか。ありがとう。」
柊さんもそう思ってくれてるのかもしれないけれど、今のは多分彼の言葉なのだろう。
「なんで透様って呼んでるの?」
「俺が世話係で、立場が下だから。あの人は様なんか付けなくていいって言うけど。」
彼のツンとした空気が不意に柔らかくなった。そして「優しい人なんだ」と彼は優しく呟く。
僕には素っ気ない彼だけど、柊さんのことを大事に思っているのが感じられた。
「仲が良いんだね」と僕が言うと、彼は「いや……」と首を振る。
「あの人と俺は昔からずっと一緒にいるだけ。ただそれだけでそういうのじゃない。俺たちは、そういうのからは外れてる。」
仲が良いを否定した彼と柊さんのことは何も知らないけれど、それだけと彼が言ったことが僕には羨ましく思えた。ずっと一緒にいるなんてなかなかできることじゃない奇跡のようなものだと僕は知っているから。
「君の名前を教えてくれないかな?僕は佐藤唯人。」
「干鰯谷 宗次郎。あんたのことは大体調べさせてもらったから知ってる。」
彼は自己紹介ついでに僕のプライバシーを侵害したと自供した。
なるほど。ということは……。
「例えば、僕の家とかも……。」
「好物からほくろの数まで質問があればあんたよりも答えられるかもな。」
迷いなく彼の進む道は確かにそうだと言っていた。家はともかく、昼休みからの短時間で好物やほくろはどうやって調べたのだろう。怖い。
「ほくろは冗談だけど。」
無言の僕に察したのか彼は冗談のトーンじゃないトーンでそう言った。
「あんまり安心できないな……。」
こういう人って本当にいるんだな。気を付けよう。
そう思い、僕は彼から少し距離を取る。物理的にも精神的にも。
前から車が走ってきて、彼が右に僕は左にそれぞれ避ける。
僕たちの間を車が通り過ぎた時、彼の「まてっ!」と焦った声が聞こえた、ような気がした。
なんか言われてるような……と目を開ける前に、身体を揺すぶられ、枕にしていた腕がズレて頭が机にゴンとぶつかった。
「うおっ!?悪いっ!大丈夫か!?」
僕は、ごぉーんという鈍い余波を感じながら頭をのっそり上げる。額をさすりながら「あぁ小谷か」と思ったままに口から出す。
「大丈夫か?珍しく授業中寝っぱなしだったし……。」
小谷は心配そうに覗き込む。
寝てしまっていたのか。なんだか昨日から異様に眠たいんだよなと思いながら僕は「大丈夫」とだけ答える。
どうやら今は授業が終わって放課後らしい。
僕の高校は昼休み後の五限、六限、七限の授業は選択制で、クラス関係なく好きな授業を選べるようになっている。五限と六限までは必ずどれかの授業を受けなければならないが、七限目は取らなくてもいいため、早い人は六限目で帰宅する。ただ、成績の関係から一年と二年は七限まで取る人が多く、僕と小谷も七限を取っているのだ。
小谷は僕の様子を確認して大丈夫そうだと判断したのか「さてと、部活に行くとしますか」と言って、伸びをする。
小谷とは中学の時に仲良くなった。出席番号が前後で、入学式とか健康診断の待ち時間とか全校集会で体育館に行くとかにちょくちょく話していたら、いつの間にか同じ高校へ行くほどの友達になっていた。
「あんた今日用事ある?」
急に後ろから声がして、寝起きの僕はびっくりしながらもバッと振り返る。僕の背後にいたのは、昼休みに柊さんと一緒にいた男子だった。
「ん?佐藤の友達?」と小谷に聞かれ、「ええっと……」と濁す僕に対して彼は「あぁ」と頷く。
あれ、そうだったっけ?僕は彼の名前すら知らないんだけど……。
「こいつ、借りていい?」
彼は友達であるはずの僕はスルーして、小谷に尋ねる。
「おー、俺はこれから部活だし。一緒に帰るのか?」
「あぁ。」
僕たち、一緒に帰るんだ。約束してたっけなぁ。
小谷はにこにこと人懐っこい笑顔で「そっかー」と言って、痒かったのか首をかくような仕草をした。
「じゃあ俺行くわ。またな、佐藤。」
「あぁ、うん。また明日。」
小谷がいなくなり、2人になる。
「行くぞ。用事は無いよな?」
「用事は無いけど、どこに?それと僕たちいつ友達になったんだっけ?」
「必要なことは歩きながら話す。人がいると面倒だから。」
そう言って彼は教室から出て行く。僕は渋々彼のあとを追った。
空は水色からオレンジ色へと移り変わっていく。下校する生徒たちはその空の下、流れるように歩いている。彼も無言でスタスタと僕の斜め前を歩く。
なんとなく彼に着いていってはいるけど、一体どこへ行くのだろう。この道は僕の家へと続く道ではあるけれど、彼が僕の家を知っているわけないし……。
「あんた、二日続けて鬼の世界に行ったんだって?」
人が少なくなると彼は唐突に口を開いた。
「なんでそれを……。」
「透様から聞いた。普通の人間は一日二日ならともかくあっちの世界にいるだけで負荷がかかるから、今日もあんたが行くようなら対策を考えないといけないってさ。でもあの人はこの時間こっちにいられないから代わりに俺があんたを見とけって頼まれた。」
これでいい?と彼はダルそうに答えた。
「異様に眠いのも鬼の世界に行ったのが関係してるのかな?」
彼は「そうだろうね」と軽く頷く。
「前例が無いからこのままいくと今後、何が起こるか全く想定できない。けど、分からないなら分からないなりにやれることはあるからそこまで怖がらなくていい。……って透様が。」
「そっか。ありがとう。」
柊さんもそう思ってくれてるのかもしれないけれど、今のは多分彼の言葉なのだろう。
「なんで透様って呼んでるの?」
「俺が世話係で、立場が下だから。あの人は様なんか付けなくていいって言うけど。」
彼のツンとした空気が不意に柔らかくなった。そして「優しい人なんだ」と彼は優しく呟く。
僕には素っ気ない彼だけど、柊さんのことを大事に思っているのが感じられた。
「仲が良いんだね」と僕が言うと、彼は「いや……」と首を振る。
「あの人と俺は昔からずっと一緒にいるだけ。ただそれだけでそういうのじゃない。俺たちは、そういうのからは外れてる。」
仲が良いを否定した彼と柊さんのことは何も知らないけれど、それだけと彼が言ったことが僕には羨ましく思えた。ずっと一緒にいるなんてなかなかできることじゃない奇跡のようなものだと僕は知っているから。
「君の名前を教えてくれないかな?僕は佐藤唯人。」
「干鰯谷 宗次郎。あんたのことは大体調べさせてもらったから知ってる。」
彼は自己紹介ついでに僕のプライバシーを侵害したと自供した。
なるほど。ということは……。
「例えば、僕の家とかも……。」
「好物からほくろの数まで質問があればあんたよりも答えられるかもな。」
迷いなく彼の進む道は確かにそうだと言っていた。家はともかく、昼休みからの短時間で好物やほくろはどうやって調べたのだろう。怖い。
「ほくろは冗談だけど。」
無言の僕に察したのか彼は冗談のトーンじゃないトーンでそう言った。
「あんまり安心できないな……。」
こういう人って本当にいるんだな。気を付けよう。
そう思い、僕は彼から少し距離を取る。物理的にも精神的にも。
前から車が走ってきて、彼が右に僕は左にそれぞれ避ける。
僕たちの間を車が通り過ぎた時、彼の「まてっ!」と焦った声が聞こえた、ような気がした。
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