ビフレフトと虹色の剣

塩爺

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第六章 強敵

そいつの名はケルベロス

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この事態が収拾した三日後、今回の王族救出の功にて冒険者十五名に褒美を取らせるとギルドに連絡があった。

普段なら断るテムジンだが、ギルド長にギルドの名前が上がるからとお願いされしぶしぶ納得した。

王城の謁見の間で片ひざ座りのまましばらく待たされた後、
おもむろに扉が開き、威厳をたたえた王様が冒険者の正面に座った。

お付きの者が今回の功績と褒賞目録を読み上げると、ギルド長は片ひざ座りのまま前に進み出て、それを受け取った。
王はただ一言、大儀であったと言うと謁見の間から退出した。

これで開放される、結城は少しホッとしたのも束の間。
お付きの者は、第三王子カイン様と第一王女サーヤ様が直接お礼を賜れるのでそのまま待つように告げた。

サーヤ姫、この国の老若男女 子供から酔っ払いまで誰に聞いても彼女の事を悪く言う人間はいない。
聡明で美しく、誰にでも優しい非の打ち所がない人間だ。

カイン王子の「面を上げよ」の声に我に返った結城は二人の姿を見た!
予感はしていた、妹の彩綾とサーヤ姫。
しかし、サーヤ姫を見て、予感は確信に変わった!
サーヤ姫はこの世界の彩綾だ‼︎

この日、深夜になっても眠れなかった!
眠らずに考えた。
彩綾はあの状況でどうやって生き残こったんだろうか?
もしかして今は病院のベッドの中にいるのか?
まだ死ぬことを考えているのか?

自分に出来る事は何かあるのか!
考えろ、考えろ!考えろ‼︎

人間追い詰められると、ろくな答えは出ない。
結城の出した答えは、元居た世界と異世界、二つの世界を知っていなければ理解できない答えだった。

サーヤ姫を蔑める!
なぜ?
元いた世界と異世界、お互いにプラスとマイナスの関係!
片方が幸せだと、もう片方は不幸になる
そう考えるとサーヤ姫が幸せだから彩綾が不幸になった!

この時の結城の顔を誰かが見たらとても嫌な顔をしていただろう。
次の日の夕方まで部屋に居た結城は日が沈むのを待って、目立たない格好に着替えて酒場に向かった。

結城が酒場でやる事はただ一つ、サーヤ姫の悪い噂を流す!

先日の王族の馬車襲撃からそんなに時が経っていないせいか、まだ、この件の噂話しをする者も多く、話題にしやすかった。

結城は一人で呑んでいる酔っ払いのテーブルに近づき、一杯おごるふりで隣に座った。
結城は、なんでもない世間話しでもするかの様に、
「こないだの襲撃、王族の方々が無事で良かったですね。」と切り出した。

酔っ払いの男は陽気な顔で、
「ああ、本当に良かった!」
「俺は、実はサーヤ姫のファンなんだ、彼女が無事でなによりだ!」

笑顔で答える男に、結城は少し間を置き
こう切り出した。

「でも?どうして無事だったんでしょうね?」
あからさまに怪訝そうな顔で男は結城の顔を見る。
構わず結城は一枚の紙をポケットから取り出すと男の前に置いた。

この紙はあの時撮った写真をパソコンで絵風に加工した物だ、異世界に飛ばされたのが仕事帰りだった為、カバンの中に
一式入っていた、まさかここで役立つとは思わなかった。

道に停車する馬車、そのまわりを笑顔で取り囲む異国の兵。
王族を守るべき騎士団の姿は無い。

酔っ払いの男はその紙切れをじっと見つめて黙り込んでしまった。

一週間後、王都である噂が流れた。
第三王子カインと第一王女サーヤはオリエンタリアと繋がっている!と

騎士団の中にもこの噂を無視できない者達が多くいた。
護衛隊の責任者の部下たちだ、唯一命を落とした責任者。
王族を守れきれないと悟り、自ら命をたったのだが、王族と敵が繋がっていたのなら話しは別だ。
正に犬死!部下たちにしてみれば到底見過ごせない。

そんな時だ、冒険者たちに緊急の招集命令がかかった。
ギルドに行くと大勢いる冒険者たちが依頼書の前で騒いでいる。

今回の依頼は砂漠のオアシスに出現したケルベロスの討伐。
この世界のケルベロスは2頭の大型獣で普段は数頭の家族単位で生活している。
攻撃的なモンスターではあるが、そんなに危険ではない。

そのモンスターに何故これだけ大勢の冒険者が騒いでいるかと言うと、数日前、別の依頼でオアシス方面に行っていた冒険者パーティーがケルベロスと遭遇。
一頭なので、素材目当てで戦闘を挑んだが全く歯が立たなかった。
このパーティーのランクは全員ゴールドランク!

それがこの騒ぎの理由である。
オアシスの一つぐらい、ほっとけばいいかと言うと、そうもいかない、このオアシスは南の国サンドミラと王都ザフラスマインの間に広がる砂漠の中に点在するオアシスの一つで重要な交易路になっており、このオアシスが使用できないと大きく迂回しなければならなくなる。
現実的ではなく、なによりオアシスの住人が心配だ。

この依頼は商人組合長からの依頼で最優先事項だ!

今、王都にいる上位ランクの冒険者パーティーは全てこの依頼に参加した。

王都から五日、オアシスに着いた冒険者たちが見た物は、およそケルベロスとは思えない巨獣の姿だった。
結城も冒険者として生きていくと決めた日から、いろんな文献を読んでモンスターの知識はつけた。
しかし、このケルベロスはその文献の何処にも載っていないものだった。

身体は普通の倍の大きさで、尻尾は二本
なによりの違いは頭が三つ有る事だ。
黒一色のケルベロスに対してところどころに赤色の斑が入っている。

作戦上、このモンスターの呼称をケルベロスキングと定めた。

ギルドリーダーは冒険者パーティーを二隊に分け、一隊を戦闘に、もう一隊を住民の救出、避難に当たらせることに決め
作戦を開始した。

テムジンのパーティーは救出担当になり結城もそれに従った、担当地区に向かう途中の街並みに結城は、ある疑念が湧いてきた、あれ程の巨獣が暴れまわったにしては街が綺麗すぎる。

何故?住人達も街の防衛の為、ケルベロスキングを攻撃しているだろう。
反撃を受けてもおかしくない、それがほぼ無傷とは、ケルベロスキングの目的が結城には解らなかった。
しかし、今は任務の最中、モンスターがケルベロスキング一匹だけとは限らない
結城は任務に集中する為、頭を振り避難所とされる大きな建物を目指した。

結城達が到着した避難所は頑丈な石造りの三階建の建物、これなら住人も大丈夫だろう、テムジン達は住人の安全を確認すると、戦闘班に合流する為、来た道を引き返した。

ケルベロスキングとの戦闘は正に死闘となっていた。
上位ランク数パーティーで同時に攻撃を仕掛けているが、そのことごとくがケルベロスキングの赤斑の体毛に阻まれ届かない。
対してケルベロスキングの攻撃はこちら
の防御魔法や盾を貫通して、被害を与えてくる。

こちらの被害は甚大だ、戦闘班の三分の一が戦闘不能と化し回復が間に合っていなかった。
しかし、ここでも結城は不思議な違和感を感じた、ケルベロスキングはこちらが攻撃すると反撃するが、それ以上攻撃してこない。
そのまま攻撃すればこちらはあっという間に壊滅するだろうに。
何かを待っている?

そんな時だった。
王都よりの急報がもたらされたのは!
今から三日前、王都とアクアリーネの国境付近でオリエンタリアの兵、およそ千五百人を確認!
騎士団が防衛線を張っていますが、どこまで保つかわからないとの事。

冒険者は全員、至急王都に引き返せよとの事。
以上!王よりの厳命である!
そう言うと伝令の兵士は気を失った。

ケルベロスキングをこのまま放置して置くのも危険だが王都が心配だ。
ギルドリーダーは、命令に逆らうが監視役を数名残して、王都に引き返した。
ここで、ギルド長とギルドリーダーの違いに触れておこう。

ギルド長は冒険者ギルドのトップで会社でいえば社長にあたり、公式行事や他国の冒険者ギルドとの交渉にあたるのが主な役割で。
ギルドリーダーは言わば現場監督、各依頼はそれぞれの冒険者パーティーに任せているが、今回の様な合同任務の時などの指揮 決定権を持ち各パーティーの調整が役割だ。

そのギルドリーダーの決定だ。
各冒険者パーティーは速やかに王都に向かった。
しかし、来た時よりだいぶ人数が減ってしまった。
重症者は当然だが、軽症でも帰りの行程を考えると連れて行けない。
不眠不休の行程になる、来た時、総勢二百五十六名の冒険者が今や五十二名だ。

不眠不休で帰ったとして、王都まで約二日。
国境付近からの距離を考えると、もう戦闘が始まっている頃だろう、騎士団の戦力がどのくらいあるか結城には解らないが、相当な被害がでている可能性が高い
ギルドリーダーを先頭に馬を飛ばした。

結城は帰りの道のりでずっと考えていた
なぜ?このタイミングでオリエンタリアは攻めてきたのか?
上位ランクの冒険者がほとんどいなくなるこのタイミングで!

王族の馬車への襲撃事件でアクアリーネ側に疑念を持ってはいたが、まさか!ザフラスマインにもオリエンタリアと繋がる裏切り者がいるとは!
其奴は誰だ?依頼者の商人組合長?
しかし、これだけの事が彼に出来るか?
その上の人物が関係している?
まさか本当に王族の誰かが関係しているかもしれない。

仮定の話しはどうでもいい結城にとってはサーヤ姫がどうなったのか?
それだけが気になった。
遥か彼方から王都から立ち登る煙が見えた‼︎




















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