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第 4 章  竜族の里  編

奥義

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戦場に兵士達の勝鬨が上がる中、子ドラゴンは俺の近くに降りてきて、そこから尻尾を振りながら嬉しそうに俺の横までやってくる。

上空で飛んでいた時はそうでもなかったが横に来ると子ドラゴンの大きさに驚く、3メートルはある子ドラゴンは俺の顔を大きな舌で舐めると、『ポォー!』と、ひと鳴きした。

母ドラゴンを守って戦った俺を父親だとでも思っているのか?

俺の後に着いてきて離れようとしない。

子ドラゴンを呼ぶにも名前が必要、俺は鳴き声から『ポー』と名付ける。

最初は『ポゥ?』と首を傾げていた子ドラゴンも『ポー』という名前を気に入ってくれたようで、尻尾を『ドスドス』と地面に叩きつけて喜ぶ。

リュオ、カイト、俺、俺達3人のパーティーにポーという新たな仲間が加わった。



        ☆



俺はリュカクとの戦いで自分の非力さを嫌というほど実感させられた。

幾ら剣が凄くても所詮は持ち手の実力次第、この世界には技というものは存在するが奥義などという都合が良いものはなく。

結局は装備者の技量に左右される。

より速く、鋭く、正確に毎日、毎日繰り返す。

その繰り返しが自分を強くする。

「・・・・💢」

「今、考え事をしてるのだから、そこの2人!静かにしなさい!」

「だって、だってライス~。」

「ポーがリュオの肉、盗った~!」

「ポォ、ポ!ポ、ポ、ポォー!」

「リュオもポーも喧嘩しない!

リュオとポー、この2人は何かとゆうと張り合おうとする。

特に食事の時の場所取り合戦は熾烈を極め、何度料理をダメにしたことか。

喧嘩の理由は至って単純、リュオとポー、どちらが俺の横に座るかというだけのこと。

それを毎日争っている。

うんざりすることもあるが、この2人のドタバタに俺は随分助けられている。

角を折られて以来、ずっと元気のなかったリュオが最近よく笑うようになった。

ポーといるだけで一時、現実を忘れられる。

しかし、俺には逃げることは許されない。

戦いからは逃れられないら。

俺もある程度は強くなった、この辺りのモンスターに負けることもない、カイトやリュオ、ポーの頑張りで眠れぬ夜を過ごすことも少なくなった。

しかし、夢から醒めれば戦いが待っている、戦いをやめれば死が待っている。

俺は戦いをやめない、今日も剣を振るう。

そんな日々の中、俺達はとある村で信じられないものを目撃する。

一家を襲う巨獣、その前に立ちはだかるのは普通の少年。

手に持つのはただの棒、俺は異世界に初めてきた時のことを思い出す。

恐怖で体が震えて、棒切れを振り回すだけの弱い自分。

人間なのだから当然なのだろうが、その少年は違う、自分より数倍の大きさの巨獣を相手に落ち着き払っている。

いくら威嚇しても怯えない少年に痺れを切らした巨獣が少年に襲いかかる。

襲いかかったはずだった。

少年と巨獣が一瞬交わったと思ったら巨獣がバラバラになる。

少年は何もしていない、いや、何もしていないように俺には見えた。

リュカクの攻撃も見切れるようになってきた俺でも全く見えなかった。

カイトをはじめリュオもポーも呆気に取られている。

『奥義』?

俺の頭にその言葉が飛び交う。

技というには余りにも現実離れした光景が今、俺達の前で繰り広げられた。

俺は気がつくと少年に剣での勝負を挑んでいた。

自分が歳上だとか、相手が少年だとか、
まったく関係なく対等の立場で、否、挑戦者のつもりで少年にお願いしていた。

「怪我をしても知らないよ。」

少年はそう言ってこちらを向くと手に持った棒を一振りした。

子供を相手に何をムキになっているんだと、止めるカイトを押しきって俺は剣を抜く。

俺は全力の一撃を放つ、この異世界に来てからいままで繰り返し行ってきた全てをかけて。

魔剣とも呼べる程の竜剣から放たれた、斬撃唐竹!

手加減などしていない、手加減などできる相手ではないことは俺が一番わかっている。

巨獣が一瞬でバラバラになった理由を知りたい、中途半端な攻撃ではあの技は出ないだろう。

ならば全力で臨むまで!

分厚い見えない壁を叩いたよう、俺の剣撃は少年に届く前に止められた。

少年は棒を正面に構えたまま、棒を振る素振りさえ見せない。

見えない壁? 魔術の類? 魔法?この異世界に来てからそんなものには出会わなかった。

それが突然こんなところで遭遇する偶然など俺は信じない。

何か仕掛けがあるはずだ、俺は剣撃の角度を変えながら攻撃を放つ。

少年の技の範囲を確認する為だ。

9撃のことごとくが止められる、壁?の範囲は少年の正面に縦2メートル、横3.5メートルの範囲。

少年の背後にもあるかもしれない。

壁?にあたった俺の剣の感覚から俺は壁の正体を高速の剣尖と推測した。

俺の剣に伝わる幾十もの重い衝撃、それが一撃ごとに俺の剣を止める。

俺は少年の攻撃を待たずして足下に剣を置き片膝を付き負けを認めた上で教えをこう。

この男の技を俺が今、会得できるとは思わないが、何かヒントが得られるかもしれない。

俺は少年をあえて自分と同等と考えて師匠と呼ぶ、もしかしたら俺と同じく転生者かもしれない。

だとしたら見た目の年齢は関係ない。

転生者としたらチートスキルを持っていても不思議はないのか?

今、考えることはそこではない、技の正体。

師匠は俺の剣筋をムダだらけだと言う。

その言葉にいままで繰り返し行ってきたことが否定された気分になる。

しかし、俺の剣撃が通用しないのも又、事実で俺は何も言い返せない。

師匠は続けて言う、剣を最短コースに通せば今の倍は速くなると。

最短コース?

俺には何を言っているのかさっぱりわからない、いままでも鋭く、正確に剣を振ってきたつもりだ。

師匠はどう説明したものかと、しばらく考えていたかと思うと、手に持った棒切れを俺の目の前に構えた。

そして俺にも視えるようにゆっくりと棒撃を放つ・・・・?

ゆっくり放たれた攻撃はスローモーションのコマ送りのようにほんの数コマで俺の目の前に迫る。

攻撃の最初は見えているのに、途中が見えない、そこだけ抜け落ちているかのように。

空間転移?

俺の頭にSFやアニメでお馴染みの言葉が浮かんでくる。

そう思わざる事態が俺の目の前で起きている、俺は頭を地面に擦り付けて師匠にお願いしていた。

26年間生きてきて初めての土下座をすることになんの躊躇いも起きなかった、それどころか気分がいい。

その日からの修行は単純なもの朝から晩までただ剣を振り続ける。

俺はただ信じて振り続けた、そんな時、王都からの知らせがカイトに届く。

リュカクが竜族の里で待っていると!





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