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第 3 章  王都 防衛  編

代償

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俺の剣はリュカクに一太刀入れただけでヒビが入り使い物にならなくなった。

トルン村に向かうのは代わりの剣を見つけてからだ。

普通の剣ではリュカクどころか『竜徒』にすら勝てないだろう。

王都には沢山の武具店や工房があったが俺の剣は見つからない。

俺の要望はただ一つ、竜族のリュカクを切れる剣。

王都の武具店をまわっている時、面白い話しを聞いた、ドラゴンを切る剣の噂だ。

あくまで噂でしかないが王都から北の山脈の中の鉱山、そのひとつに工房を構える一族。

代々受け継がれた鍛冶師の技でドラゴンの鱗を切り裂く剣を作り出すと言う。

そんな過酷な場所に工房を構えるなんてその一族、人間なのか?

人間でなくてもかまわない、俺の望む剣が手にはいれば!

北の山脈までの距離は遠い、王都で出来うる限りの用意をしよう、幸い死にかける前より体の調子は良い。

全身から精気が溢れるよう。

背中に背負える限りの食料が入ったリュックを背負い、腰にはあり合わせの剣を携えて俺とリュオは王都を出た。

草原を通り、渓谷を抜け山脈に入る。

途中に立ち寄った村は『竜徒』の噂でもちきりで武具店は大忙し、戦に備えて品切れ状態だ。

食料を多めに用意していて良かった、どこの村もよそ者に売る食料は無いと断られた。




       ☆




何日目の夜を迎えた時だろう。

森の一画から放たれる異様な妖気に俺は目を覚ます。

その妖気は森の洞窟から放たれたもの、リュオの血で復活した俺は妖気みたいな自然現象に敏感になっている。

いままでの俺だったらこの妖気に素通りしていただろう。

洞窟の奥にゆくほど妖気は強くなる、その終点、ひときわ広くなった場所。

激しい鳴き声と共に何者かが戦っている。

片方は『竜徒』、3名の『竜徒』が洞窟の奥のモンスターを襲っている。

モンスターと言ってもただのモンスターではない、モンスターの頂点と言われるドラゴン種だ。

竜を神と崇める『竜徒』、それが何故ドラゴンを襲っているのか?

俺は王都で兵士に聞いた話しを思い出す。

『竜徒』が神と崇めるのは竜族だけで、
ドラゴンは他のモンスターと同じ扱い、
しかもドラゴンの素材には特別な力が宿るとして、『竜徒』は好んでドラゴンを狩るとの事。


『竜徒』は狩ったドラゴンの素材で武具を作る。

それが『竜徒』の強さの秘密である。

しかし、モンスターの頂点と言われるレッドドラゴン。

たかだか3人の『竜徒』に遅れをとることなどあり得ない。

このレッドドラゴンは一箇所から動かずに『竜徒』の攻撃を受けている。

このドラゴンは何かを守っている?

ドラゴンの守る(者)はドラゴンの子供!

小さな子供を守る為、動きが不自由なこの狭い洞窟でレッドドラゴンの母親は戦っている!

気がついた時には俺の剣は『竜徒』を切っていた。

斬りつけていたという表現が正しい、
剣を交えた後、俺は弾かれて洞窟の壁に叩きつけられる。

痛みは感じない、否、痛みを怒りが上回っている。

俺は立ち上がり剣を握り直して『竜徒』を見る。

そして俺は挑みかかる、今の俺では敵わないとしても。

その時、俺がいない事に気づいたリュオが俺を追って洞窟に入ってきた。

俺と『竜徒』の戦いを見て尻尾を逆立てて怒るリュオ。

リュオの存在に『竜徒』は戦いを止めて逃げていく。

情け無いことに、またリュオに助けられた。

俺は剣を納めてドラゴンに近づく、『竜徒』どもの攻撃を受け続けた母ドラゴンは絶命していた。

それでも子ドラゴンは生きようと必死に母ドラゴンの元に行く。

ドラゴンの素材は一級品の武具の材料になる、ここでドラゴンの素材が手に入れば俺にとっては大収穫だろう。

それでも、俺は母ドラゴンをこれ以上傷付ける事は出来なかった。

俺とリュオは静かに洞窟を出る、後は子ドラゴンの運に任せよう。

縁があればまた何処かで会うことがあるかもしれない。




       ☆





異世界にも雪は降るのか、山脈に入ると一気に景色が変わる。

一面の銀世界、極寒の気温、その中を俺とリュオは一歩、一歩、進む。

吹雪の中、何処にあるかもわからない工房を目指して彷徨い歩く。

不可能に思えるこの行動に俺の迷いはない!

見つからなければ確実な死が待っているだけだ、リュカクに八つ裂きにされるも雪山で凍死するのも同じ事。

手がかりがあるとすれば工房から立ち昇る煙、俺とリュオは雪を掘り吹雪の収まるのを待つ。

持ってきた食料の大半をリュオに与えてしまった。

溶かした雪を口に含んで空腹を紛らわす。

俺の戦う理由、人としての温もりを感じられる存在『リュオ』。

俺はいつの間にか眠ってしまった。

辺りの声で目を覚ます、外でリュオが騒いでいる音だ。

「ライスーー!、煙が見えるーー!」

「⁉︎」

俺は飛び起きると外に出た。

「こんな所にあったのか‼︎」

山の中腹、吹雪の当たらない場所の岩盤に掘られた工房から煙がもうもうと立ち上っていた。

俺とリュオは工房の入り口をくぐる。

中から出てきたのは人とは思えぬごつい男!

人でなくてもかまわない、俺は本題を切り出す。

男は俺の存在など無視するかのように話し出す。

「素材が『ざわつく』から出てみれば人間のガキだったか?」

男はぶっきらぼうに俺とリュオを炉と金床が一つ有るだけの殺風景な部屋に通す。

男は俺とリュオを無視して金床の前に座ると『ドラゴンの素材は頑固でいけねえ』と熱した金属を叩く。

男は(まだ、いたのか)と言いたげに俺を一瞥すると、また話しだす。

昨日からやけに『こいつ』がざわつきやがる。

そう言って取り出した金属に俺は見覚えがある。

紅く輝く光沢、洞窟で会ったレッドドラゴンの素材!

どういった経緯でここに?

親ドラゴンの居なくなった洞窟を冒険者が訪れたのか?

子ドラゴンはどうなった?

男は俺の感情などお構い無しに金槌を振るっている。

静寂の闇に金属を叩く音と火花の華がいつまでも続いていた・・・・・

五日目の朝、男に起こされた俺は外に出る。

「出来損ないだが、今のお前には丁度いいだろう」と、

巨大な岩盤を前に渡された剣は刀身を赤黒く輝かせた剣!

俺は剣を受け取ると何も言わずに一振りする、これならば、この剣ならば戦える。

俺とリュオは工房を後にした。










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