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第 1 章 異世界転生 編
会社員、異世界に飛ばされる。
しおりを挟む『‼︎』
途中で拾った棒を振り回しながら俺は全力で叫ぶ。
「来るな! 来るなーーー!」
たまたま振り抜いた棒がモンスターの体に当たるが、まったく怯まない。
「グルルルー、ギャウ!」
巨大なネコ?型モンスターは俺を、捕まえたネズミを以て遊ぶように周りをうろつきながらたまに前足で引っ掻く仕草をしている。
「やっと森を抜けられて助かったと思ったのに。」
俺は吐き捨てるように呟く、着ている服はぼろぼろで身体中血だらけの状態、このモンスターにやられた訳ではない、森を逃げ彷徨っているうちにこの様だ。
自分で言うのもなんだが俺はエリートと呼ばれる部類に属する会社員だった。
小中高と有名学校に通い、大学生の時の国体で剣道部の選手として全国制覇を成し遂げた。
大学を卒業した後は剣道部のOBの紹介で一流企業に就職、25才でチームリーダーを任される。
その会社の帰り道、冬の寒空の下、冷たい雨が体に纏わりつく、交差点の信号が青に代わり横断歩道を渡る俺の横を女の子が駆け抜ける。
「キーキーーー‼︎」
激しいブレーキ音がして信号無視のトラックが目の前に迫る。
無意識に体が反応して俺は一歩前に出る、女の子を抱え上げ優しく『トス』したところで俺はトラックに吹き飛ばされる。
俺の体は地面に激しく叩きつけられ意識が遠退く中、座り込んで泣いている女の子が見えた。
「・・・よかった!」
女の子の無事を確認し俺は目を閉じる、常に全力を目指して走り続けた俺の人生の終わり方としては上々の仕上がりだ。
『エリート会社員、生命をかけて女の子を救う!』
今日のネットニュースで報道され、SNSでバズるかも知れないな。
女の子が泣きながら立ち上がり俺の側までくると座り込んでなにかを言っている。
何を言っているのかはわからない。
「ーーーーー。」
左手に暖かさを感じる、女の子が俺の手を握り何かを手渡した。
「ーーーーー。」
俺の現世での意識はここで終わる。
☆
目を覚ますと俺は森の中にいた。
俺は生きているのか?
体のあちこちを確認するように見回す。
トラックに跳ね飛ばされた時の怪我はなく、それどころか服すら破れていない。
しかし、まとわりつくような湿気でむせ返るようだ、顔から汗が噴き出る。
俺は額の汗を拭いながら周りの景色を見回す。
「此処は何処なんだ?」
この高い気温と湿気、熱帯地方のどこかの森の中か?
植物の知識はほとんどない、森の木々を見ても此処が森としか俺には分からない。
スマートフォンを取り出すも、やはり圏外。
現代社会のテクノロジーも電波が無ければ役に立たない。
この場に留まっていても何も始まらない俺は目的も無く森を歩き出す。
数歩と歩かず此処が俺のいた世界と違うことを思い知る。
少なくとも俺のいた世界には人を襲う植物は存在しない。
人食い植物(肉食植物)?はツタ状の触手を地面に伸ばして、そのツタに触れた動物を絡み取りツボに引き込む。
ネペンテスと言う名前の食虫植物が俺のいた世界にあるがコイツはネペンテスのモンスター版という感じだ。
ツボの大きさはゆうに3メートルを超える。
そのツタにうっかり触れた俺は今まさにツボの中に引き込まれようとしている。
「こんな訳もわからない所で、訳もわからない死に方出来るか⁉︎」
必死に振り解こうとするが、もがけばもがくほどツタが絡まる。
そんな動きがまわりの捕食者を刺激したのか、俺を狙って蟻?が群がり人食い植物と戦いになった。
蟻と言っても50センチはある巨大なものだが、蟻はツタに噛みつき攻撃をする。
噛みつかれた箇所は溶けるように枯れる、蟻の唾液に強力な酸が含まれてるようだ。
俺は蟻に噛みつかれまいと必死に体をよじって蟻の牙をかわす。
それでも俺の服は酸がかかった箇所が溶けている。
人食い植物はツタを切られながら蟻をツボの中に次々に入れていった。
急にツタの力が弱くなる、蟻で満足したのか人食い植物は蟻でいっぱいになったツボの蓋を閉じて静かになる。
この隙にツタを振り解いた俺は急いでこの場から逃れるように駆け出す。
駆け出すと言っても鬱蒼とした森の中、思うように走れない。
何度も転びながら開けた場所を目指す。
すでに俺の服はぼろぼろで破けた所から血が滲む、それがいっそうモンスターを引き寄せる。
必要に追いかけて来る蟻たちを振り払いながら俺は何か使える物がないかポケットの中を探る。
ズボンの左のポケットに入れた手の指先に何かが触れる、それを取り出すと入れた覚えのない飴玉がひとつ出てきた。
俺の最後の瞬間、手に触れた感触はこの飴を彼女が手渡してくれたのか。
その飴をポケットにしまう、今はまだこの飴を舐める時ではない、生き残ることが先決なのだ。
今、使える物はこれしかない、俺はスマートフォンをポケットから取り出すと音量を最大にして音楽を流し傍に投げる。
蟻たちは音に釣られてスマートフォンに向かって行く。
俺はこの隙に木の影に隠れ蟻たちをやり過ごせればと気配を消す。
スマートフォンは蟻たちによって直ぐに壊されてしまう、音のしないスマートフォンに興味がなくなったのか蟻たちはいなくなった。
蟻は匂いや視覚ではなく音や振動で獲物を見つけているようだ。
俺はゆっくり音を立てないように歩き出す、森をどのくらい彷徨ったのだろう?
目線の先に木々の密集度が少ないく光が差し込みすこし明るくなった所を見つけた。
やっと、森を抜けられる。
そう思った時、ネコ型モンスターに襲われた。
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