ただの黒歴史

鹿又杏奈\( ᐛ )/

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単話完結集

『恋愛相談』

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「『恋』って何?」

基本的に他人の話には興味がなく、自身の記憶にも残らないような言葉をその場しのぎで紡ぐ私は何故か友人らの恋愛相談の相手として重宝されてきた。きっと学生という短くも恋の錯覚に陥りやすい多感な時期に巻き起こる『好き』という感情は人に話し、共感して欲しいと言った彼らの願いが私の返答と相性が良かったのだろう。
そんな私が先程の言葉を投げつけられたのは木曜4限前の休み時間、化学の授業が始まる直前に普段からよくつるんでいる後ろの席の澪川からだった。

「『こい』ってどの『こい』?」
澪川と言えば人に対して好きや嫌いといった感情で区別することの無い人であり、恋愛への興味なんて指の先に程にも無いタイプだ。なにより1年ほど前に相手からのゴリ押しで1度同級生の男子と交際したあとは自身に恋愛は向いていなかったと3ヶ月手前でふり、三次元に興味が無いのかもしれないと言い出していたのだ。
こい…こい……ああ、きっと校舎横の人工池で誰が餌をやっているのかは知らないが今日も元気に泳いでいる魚の鯉の話だろうか?学名:Cyprinus carpioというコイ科に分類される魚の一種で、比較的流れが緩やかな川や池、沼、湖、用水路などにも広く生息する大型の淡水魚の方の鯉。(Wikipediaより)
うん、そうだ。そうに決まっている。

「杏奈とかがいつも話している恋愛の方の『恋』だよ。」
嘘も動揺も無い瞳で淡々と告げる様子に私は頭を抱えたくなる。現実逃避しようにも魚の鯉ではなく恋愛の恋なのだと本人が断言しているのだからどうしようもないではないか…
まさか、誰か抜け駆けでもしたのか?
まあ恋なんてそれ以外ないよねー、なんて軽く流していると先生が教室にやってきたことで会話は終わる。
今日は先生の配るプリントの穴埋め問題を教科書を使って埋めていくといった演習らしいが、今は炎色反応の問題をといている場合ではない。だってあの恋愛に無関心な癖に無自覚ですぐに人をたらしこんでくる澪川が恋に興味を示しているのだ。これこそ恋の化学反応だろ!
しかしあの澪川が恋に興味を持つとは私の考えた適当な計画通りに動いてしまう澪川の素直さを心配すると同時に自分の腹黒さが嫌になる。さすがに澪川がここまでストレートに聞いてくると想定していなかったため今すぐに協力者である都斗に相談したいのに澪川を挟んで2個後ろの席にいるためそれも出来ない。暇を持て余した教師がルンルンと教室内を歩き回ることでこっそりスマホで連絡する手段もとれないし
あーもう、このもやもやをどうしたらいいんだよ…

遡ること数週間、私が少し席を外した間に相変わらず男子共に囲まれている澪川を離れた場所から眺めていると私の元に1人の男子がやってきた。
「最近さ、澪川さんが男子に囲まれているのを見るとモヤモヤするんだ」
彼は澪川にとって唯一の元カレであり、先程言ったようにほんとうに少しだけ芽生えかけていた澪川の恋心奥深くまで封じ込めてしまう原因となった通草だ。ついでに言うと付き合った日にも別れた日にもそれぞれ2人からテンションの違った報告を貰い複雑な心境になったことは秘密である。そんな言葉に通草はふられてから別の女子とも交際し、今も浮いた話をいくつか流れてくる状態でどうしたのだと軽くあしらう。
だってそうだろう?すぐそばで友人が病んでいく様子と別れた後も数ヶ月対人関係を拒絶するような壁を作り閉じこもる様を見ていれば門前払いもいい所なのだ。

が、それでへこたれる男だったらどれほど良かったことか。持ち前のコミュ力を武器に休み時間、修学旅行と澪川が一人でいるのをを見つければすぐに駆け寄り話しかけ、着実に仲を深めていた。そして仲のいい友人ポジションを獲得していた。
「僕、やっぱり澪川さんのこと好きだと思う…」
そんなことを言い出す頃には澪川が今までや他の人と交流する様子とよう違う通草に戸惑うレベルに距離が縮まっていた。
これは警戒レベルレッドの通草の暴走だ。下手すればまた澪川が病んで心を閉ざしてしまう。あの暗黒時代の恐ろしさは体験した人にしか分からないだろう。今度はそうなる前にどうにかしなくては…

そんなことを考えているうちに通草に私の彼氏の存在と都斗の彼女の存在がバレた。というよりグループ交際なので前々から疑われてはいたのだがやっと教えただけなのだが、片思いに苦しむ通草に対して二人で惚気続けるだけの地獄に招待してしまったお詫びとして私は1つの作戦を当てる。
『イチャイチャの中に置くことで澪川を恋愛脳にさせようー(棒)』
見ての通り適当な作戦だがこれにはいくつもの利点がある。まずは恋愛とは一線を引いてしまっている澪川が恋愛とはどういうものなのかを考えるよう刷り込むことに加え通草が私の周りに居ることで拗ねる可愛い彼氏とのイチャつきをサポートして貰えると共に一人だけクラスが離れて寂しがってる(相当拗ねてもいる)都斗の彼女も他の人との交流を監視できたりと澪川を除き全員が幸せになるのがこの作戦なのだ。えっ、澪川は大切な友達じゃなかったのかって?だって澪川がチョロいから通草に付け込まれてこうなっているんだよ!これを気に白黒つけてあげれば通草の暴走も収まるんじゃないんですかー(棒)
そんな作戦を裏で進めているなんて知らないみんなと共に六人のチャットグループを作ったのが今週の火曜日、会話の隅々に彼氏との惚気や都斗から惚気られた話を入れてみたり目の前でイチャついて見たりと日中も恋愛を意識させつつさり気なく通草と澪川を二人きりにすることも忘れない。そして帰宅後もグループで電話を提案して自爆し合うリア充を見せつけつつ通草と澪川が互いに相手が居ない悲しいもの同士の印象を植え付ける。こうして男女三三の状況を当たり前の日常へとすり替えていった結果が「『恋』って何?」といった質問に繋がったのである。

授業を終え各々昼休みを過ごしていく。そして迎えた決戦の五から七限の課題研究の時間に澪川を問い詰めていく。
「四限に言ってた『恋』についてなんだけど、急にどうしたの?」
何でもない会話の中でしれっと話題をふればまたしても焦った様子もなく返答がやってくる。
「いや、単純に杏ちゃんとか鈴ちゃんとかが最近イチャイチャだから気になっただけだよ。私には無い感情だからねー。」
鈴ちゃんとは都斗の彼女の事だが澪川は私の作戦通りの罠にハマっていたらしい。でもここで問題なのはやはり澪川が恋愛感情は無いと言い切ってしまったところだろうか…。まあ今日のところは澪川が恋愛に興味を持っただけでも儲けもんとでも考えておこう。
「で、『恋』って何?」
しかし改めて『恋』とはなにかを問われるとなんと答えるのが正解か分からない。恋、恋とは何なんだ?周囲の人達にも尋ねて見るが哲学としか返答が来ず難航してしまう。一体恋とは何なのか、『愛』とはどう違うのか、結局結論が出ないまま土曜日を迎えている。
答えのでない現状に私はこの問題を心の奥深くに埋めることを決めたのであった。
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