上 下
692 / 898

ー未知ー185

しおりを挟む
「そう……後は、雄ちゃんのそういうところがダメなところなのよ……。そう、はっきりしないところがね」
「確かに、そこは望にも言われたことがありますけど……」
「『けど……』の後は? 何か言いたそうなんだけど? そこで言葉を止めるっていうことは、まだ何か私に言いたいことがあるんじゃないの? 本当、そういうところ、雄ちゃんなのよねぇ。何事にもはっきりしないところがね」

 本当に美里は雄介の性格をしっかりと把握しているように思える。やはり、そこは雄介の兄弟だからなのだろう。それに、俺より長く一緒にいたのだから、本当に雄介の性格をしっかりと知っているということでもある。

 だけど、雄介は医者になってからも、俺と約束したのだから、少なくとも優柔不断なところは大分治ってきたはずなのだが。

 それでも美里の前では、兄弟だからなのか、その部分は未だに隠せないのかもしれない。

「じゃあ、小さい頃と今とでは、そのところが違うっていうことを教えてくれないかしら?」

 そう、雄介は美里に問われる。

 確かに美里の言う通り、それを証明してもらいたいところだからなのか、俺も雄介のその答えが気になってしまい、横の視線から雄介の顔を見上げるのだ。

 雄介はその美里からの質問に、俯き加減で少し考えた後、急に何だか自信に満ち溢れたような表情をし、美里の方へと視線を向けて、

「そこはですね……医者になってからの俺は、全くもって優柔不断なところには無縁ですし、患者さんが亡くなった時だって、悲しいと思っても涙することはないのですから……」

 そう堂々と言う雄介。

 そう言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。

 医者という職業上、俺との話し合いの時にも、優柔不断は禁物だと雄介には伝えている。その一瞬の迷いが患者の死に関わるからだ。そして患者の死を前にした時に、雄介は一度も涙を見せたことはなかったのかもしれない。それに雄介は、そういった意味では一番過酷な小児科医になったのだから。

 小児科医というのは、子供が沢山いるところなのだから、少なくともそういった小さな命も誕生するところでもあり、当然小さな命の死だって経験するところでもある。

 それに気付いた俺は、美里に向かい、

「美里さん……雄介はもう十分、その優しい性格を克服していると思いますよ。だって、小児科医ってそういうもんじゃないですか?」

 それだけで美里に伝わるのか? というのは分からないが、俺は俺で美里にそう伝えるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...