21 / 54
本編
(22)メリオス伯爵邸
しおりを挟む最近、なんだか忙しい気がします。
二週間前、新しいドレスを作るために部屋に布があふれました。
布の選定で三日ほどかかった気がします。
デザインの大まかな決定で二日。着ることになる私は何も主張することはありませんでしたが、お母様とお姉様がひたすら言いたい放題でいつになく長引きました。
それがやっと終わったと思ったら宝石商と彫金師が来て、またお母様とお姉さまが言いたい放題。
何も言えないままの私に、ロエルが美味しいお菓子を持ってきてくれました。
ドレスの件がやっと落ち着いて、ほっとしたのも束の間。今度はグロイン侯爵邸の内装について相談したいと管理人さんがやってきて。
これに関してはお母様は無関心でしたが、お姉様はさらに言いたい放題。
その三日後から壁紙やカーテンのサンプルを持った商人が入れ替わり立ち替わりやってきて、その全てをお姉様がダメ出しをして追い返す日々が続いています。
……でも、そこまでダメでしょうか?
「エレナ。妥協はダメよ。小さなことでも、気になり始めたらどんどん大きくなるのよ。それに商人の怠慢も許すべきではないわ。彼らに甘い顔をしたら、すぐにつけあがるだけだから」
「でも、提案していただいたカーテンはとてもきれいでしたよ」
「きれいではあったわね。でも、エレナはあの緑色はあまり好きではないでしょう?」
……なぜバレてしまったのでしょう。
カーテンの中で、小さな模様の一部に使われているだけの緑色。
その色が確かに苦手な色でした。嫌いではないのです。あと少し青かったらいいのに、と思っただけなのに。
顔に出ていたのでしょうか。
「あら、気付いていなかったの? あなたは色の好き嫌いははっきりしているわよ。ずっとお母様が選んだドレスを着ていたけれど、好みの色の時だけ、とても表情が明るくなっていたから」
「……そう、だったのですか?」
「それなのに、好きでもない色のドレスをずっと着ているんだもの。見ていて腹が立つのよね」
もしかして、ドレスのことでお母様と意見を衝突させていたのは、私のことを考えてくれていたのでしょうか。
「あの成り上がりは地位とお金だけは持っているんだから、早く自分の好みのものを揃えればいいのよ。そのイヤリングも、全然似合っていないわよ。好きでもないのになぜつけているの?」
でもこれは、お母様からいただいた誕生日のプレゼントですから……。
そう言おうとしましたが、お姉さまの顔を見てやめました。
今日のお姉様はいつもより機嫌が良くないようです。
こういう時に楯突くのは、妹として絶対にやってはいけないことですよね!
「そ、それより、アルチーナ姉様は新しいドレスは作らないのですか?」
無理矢理な話題転換として、でもずっと不思議に思っていたことを口にしました。
最近、商人たちを呼んでいたのは、私のドレスを作るためでしたが、商人が持ってきた布の中から、お母様も自分用のものを選んでいました。
なのに、珍しくお姉様は何も選びませんでした。
「お姉様がお好きそうな色がたくさんありましたのに」
「あなたの部屋に、まだたくさん上質のものがあるからいらないわ。すぐに着れるものがあるのに、仕上がるまで待ちたくないし」
「そ、そうですか」
いかにも面倒そうに、目を逸らされてしまいました。……やはり、アルチーナ姉様はご機嫌が良くないようです。
久しぶりに、クローバーを探しに行くことになるかもしれません。
今日は天気がいいから、たくさん見つかりそうですね。
そんなことを考えていたら、廊下が騒がしくなりました。
「お、お嬢様っ!」
ノックなしで入ってきたのは、ネイラでした。
飛び込んできてすぐに扉を閉めましたが、閉めるときにバタン!と大きな音がしてお姉様が嫌そうに眉をひそめます。
お姉様のご機嫌を気にしつつ、息を切らせているネイラの顔色が悪いことにも驚きました。
「どうしたの?」
「お嬢様っ! 大変でございますっ!」
「ネイラ、うるさいわよ。それにエレナのことは奥様と呼ぶのだったでしょう?」
「は、そうでした。お嬢様……奥様……いいえ、もうそんなことは今はどうでもよろしゅうございますっ! 大変でございますっ!」
「もうっ! 大きな声を出さないでっ!」
ネイラが慌てれば慌てるほど、アルチーナ姉様のご機嫌がどんどん悪くなっています。
私はさり気なく二人の間に割り込みました。
2
お気に入りに追加
1,509
あなたにおすすめの小説
幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。
完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。
なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。
普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。
それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。
そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する
cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。
18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。
帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。
泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。
戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。
奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。
セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。
そしてその将兵は‥‥。
※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※頑張って更新します。
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる