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第1章 勘当旅編

23話 説得

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 ラディウスの射抜くような鋭い目つきでようやく怖いと認識したのか、体が震えだす。本当に私を消し飛ばすみたいだ。
 どうすればいいのかわからずにラディウスを見ていると、テネルが小さく笑いを漏らして
とても小さな声で話しかけてくる。

 『フフッ、シーラちゃん、ラディウスさんはシーラちゃんを攻撃できないと思います。
本当に消すつもりならさっきの1撃で終わってたはずですから』

 「でも……」

 『それに今だってそうですよー。
ラディウスさん、臨戦態勢には入っているみたいですが全然攻撃してこないじゃないですか』

 「1撃で終わっちゃうからじゃないの?」

 『それもあるでしょうねー』

 「他にもあるの?」

 だけどテネルは笑っているだけで教えてくれなかった。自分で考えろということなのだろうか。しかし全く思いつかない。
 ただ、今の状況が危険なことには変わりない。

 「どうしよう……」

 『やめるように説得してみましょー。ちなみにワタシは黙っときますよ。
ワタシの一言で逆上させてもいけませんから』

 「そ、そんな……」

 私にラディウスを説得できるのだろうか。自信がない。でもやるしかない。
大きく息を吸い込むとラディウスに呼びかけた。

 「ラディウス!」

 『あ?』

 「私ね、ラディウスと冒険できて楽しかった!」

 『なんだよ。今さら命乞いか?』

 ラディウスの問いをスルーして話し続ける。
答えてしまったら負けそうな気がするからだ。

 「知らないことがたくさんあったし、おいしい物もたくさん食べた。
怖い思いもしたけど、いい勉強になったよ!」

 『あっそう。そりゃよかったな』

 「それでね――」

 『何が言いたいんだ、お前』

 遮られるように尋ねられて思わず固まってしまう。ラディウスからしたら不思議だろう。
だって私はラディウスの気を紛らわせようとしているだけなのだから。

 「えっと、攻撃するのやめてくれないかなーって、あっ⁉」

 うっかり本音が出てしまった。ラディウスは呆れたように目を細めたが、
次の瞬間、凄まじい鳴き声を上げる。あまりの大きさに思わず耳を塞いだ。
声がこだまし、遠くの木々から鳥が次々と飛び去っていく。
 ラディウスはまた1歩踏み出して私に近づいた。

 『ナメやがって!俺は本体に戻れればあとはどうでもよかったんだよ!』

 「じゃあどうしてリル村で助けてくれたの?」

 ヴァイスア大陸にはいたので時間はかかるが自力で帰れたはずだ。
それなのに、わざわざ洞窟まで助けに来てくれたのだ。

 『そりゃあ自分で歩くよりお前に連れてってもらった方がラクだからだ!』 

 「じゃあ山に入ってからお願い口調になったのはどうして?」

 『お願い口調……?』 

 ラディウスか眉をひそめる。
 そう、山に入ると命令口調ではなくお願い口調になっていた。
嘘をついて、騙していて申し訳ないという気持ちがあったのではないか。

 「うん。「しろ」じゃなくて「もらえるか」とか「してくれ」とか」 

 『それは……だな……』

 今までの勢いはどこに行ったのか、ラディウスの目が泳ぎ始め声も小さくなっていって最後には黙り込んでしまった。
 そんな様子を見ていると『ドラコニアメモリーズ』の一節が頭に思い浮かぶ。

 ――見た目こそ凶暴でしたが人を襲わない優しい性格の持ち主でした――

 途端に体の震えが止まって焚き火に当たったようにジンワリと温かくなってきた。

 「お話と一緒!やっぱりラディウスは優しいんだね!」

 『なワケあるか!俺の話聞いてたか⁉』

 「じゃあ私を消し飛ばしてみてよ」

 『ち、ちょっと、シーラちゃん……』

 すかさずテネルが口を挟んでくる。さすがに危ないと思ったみたいだ。
 ラディウスは大きく口を開けると光を集めて弾を作り、私に狙いを定めた。
弾は私がすっぽり収まってしまうぐらい大きく口から放してしまえば終わるのに、どういうわけか消し去ってしまう。
 少しの沈黙の後ラディウスは呟いた。

 『……………………出来ん』

 「ありがとうっ!ラディウス!」 

 『お前の為じゃねぇよ。ドラゴンにはたった1つだけ掟があるんだ。
「恩を仇で返すな」ってな。
  お前が勘当されなきゃ俺はここに帰って来ることできなかった。
だから消すことはできねぇ』

 『最初からそう言えばよかったじゃないですかー。
見ててヒヤヒヤしましたよ』

 テネルが肩でピョンピョン跳ねる。
めちゃくちゃ心配させてしまったみたいだ。 

 『俺にもプライドがあるんだよ!それにとっとと帰るかと思ってたからな、
残るなんて予想外だったんだ!』

 「なにそれ……心臓に悪いよ……」

 テネルの言う通りだ。言ってくれれば怖い思いもしなくてよかったし、震えながら変な言い訳も言わずに済んだのに。
 体から力が抜けてその場にヘナヘナと座り込んだ。
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