24 / 27
第1章 勘当旅編
23話 説得
しおりを挟む
ラディウスの射抜くような鋭い目つきでようやく怖いと認識したのか、体が震えだす。本当に私を消し飛ばすみたいだ。
どうすればいいのかわからずにラディウスを見ていると、テネルが小さく笑いを漏らして
とても小さな声で話しかけてくる。
『フフッ、シーラちゃん、ラディウスさんはシーラちゃんを攻撃できないと思います。
本当に消すつもりならさっきの1撃で終わってたはずですから』
「でも……」
『それに今だってそうですよー。
ラディウスさん、臨戦態勢には入っているみたいですが全然攻撃してこないじゃないですか』
「1撃で終わっちゃうからじゃないの?」
『それもあるでしょうねー』
「他にもあるの?」
だけどテネルは笑っているだけで教えてくれなかった。自分で考えろということなのだろうか。しかし全く思いつかない。
ただ、今の状況が危険なことには変わりない。
「どうしよう……」
『やめるように説得してみましょー。ちなみにワタシは黙っときますよ。
ワタシの一言で逆上させてもいけませんから』
「そ、そんな……」
私にラディウスを説得できるのだろうか。自信がない。でもやるしかない。
大きく息を吸い込むとラディウスに呼びかけた。
「ラディウス!」
『あ?』
「私ね、ラディウスと冒険できて楽しかった!」
『なんだよ。今さら命乞いか?』
ラディウスの問いをスルーして話し続ける。
答えてしまったら負けそうな気がするからだ。
「知らないことがたくさんあったし、おいしい物もたくさん食べた。
怖い思いもしたけど、いい勉強になったよ!」
『あっそう。そりゃよかったな』
「それでね――」
『何が言いたいんだ、お前』
遮られるように尋ねられて思わず固まってしまう。ラディウスからしたら不思議だろう。
だって私はラディウスの気を紛らわせようとしているだけなのだから。
「えっと、攻撃するのやめてくれないかなーって、あっ⁉」
うっかり本音が出てしまった。ラディウスは呆れたように目を細めたが、
次の瞬間、凄まじい鳴き声を上げる。あまりの大きさに思わず耳を塞いだ。
声がこだまし、遠くの木々から鳥が次々と飛び去っていく。
ラディウスはまた1歩踏み出して私に近づいた。
『ナメやがって!俺は本体に戻れればあとはどうでもよかったんだよ!』
「じゃあどうしてリル村で助けてくれたの?」
ヴァイスア大陸にはいたので時間はかかるが自力で帰れたはずだ。
それなのに、わざわざ洞窟まで助けに来てくれたのだ。
『そりゃあ自分で歩くよりお前に連れてってもらった方がラクだからだ!』
「じゃあ山に入ってからお願い口調になったのはどうして?」
『お願い口調……?』
ラディウスか眉をひそめる。
そう、山に入ると命令口調ではなくお願い口調になっていた。
嘘をついて、騙していて申し訳ないという気持ちがあったのではないか。
「うん。「しろ」じゃなくて「もらえるか」とか「してくれ」とか」
『それは……だな……』
今までの勢いはどこに行ったのか、ラディウスの目が泳ぎ始め声も小さくなっていって最後には黙り込んでしまった。
そんな様子を見ていると『ドラコニアメモリーズ』の一節が頭に思い浮かぶ。
――見た目こそ凶暴でしたが人を襲わない優しい性格の持ち主でした――
途端に体の震えが止まって焚き火に当たったようにジンワリと温かくなってきた。
「お話と一緒!やっぱりラディウスは優しいんだね!」
『なワケあるか!俺の話聞いてたか⁉』
「じゃあ私を消し飛ばしてみてよ」
『ち、ちょっと、シーラちゃん……』
すかさずテネルが口を挟んでくる。さすがに危ないと思ったみたいだ。
ラディウスは大きく口を開けると光を集めて弾を作り、私に狙いを定めた。
弾は私がすっぽり収まってしまうぐらい大きく口から放してしまえば終わるのに、どういうわけか消し去ってしまう。
少しの沈黙の後ラディウスは呟いた。
『……………………出来ん』
「ありがとうっ!ラディウス!」
『お前の為じゃねぇよ。ドラゴンにはたった1つだけ掟があるんだ。
「恩を仇で返すな」ってな。
お前が勘当されなきゃ俺はここに帰って来ることできなかった。
だから消すことはできねぇ』
『最初からそう言えばよかったじゃないですかー。
見ててヒヤヒヤしましたよ』
テネルが肩でピョンピョン跳ねる。
めちゃくちゃ心配させてしまったみたいだ。
『俺にもプライドがあるんだよ!それにとっとと帰るかと思ってたからな、
残るなんて予想外だったんだ!』
「なにそれ……心臓に悪いよ……」
テネルの言う通りだ。言ってくれれば怖い思いもしなくてよかったし、震えながら変な言い訳も言わずに済んだのに。
体から力が抜けてその場にヘナヘナと座り込んだ。
どうすればいいのかわからずにラディウスを見ていると、テネルが小さく笑いを漏らして
とても小さな声で話しかけてくる。
『フフッ、シーラちゃん、ラディウスさんはシーラちゃんを攻撃できないと思います。
本当に消すつもりならさっきの1撃で終わってたはずですから』
「でも……」
『それに今だってそうですよー。
ラディウスさん、臨戦態勢には入っているみたいですが全然攻撃してこないじゃないですか』
「1撃で終わっちゃうからじゃないの?」
『それもあるでしょうねー』
「他にもあるの?」
だけどテネルは笑っているだけで教えてくれなかった。自分で考えろということなのだろうか。しかし全く思いつかない。
ただ、今の状況が危険なことには変わりない。
「どうしよう……」
『やめるように説得してみましょー。ちなみにワタシは黙っときますよ。
ワタシの一言で逆上させてもいけませんから』
「そ、そんな……」
私にラディウスを説得できるのだろうか。自信がない。でもやるしかない。
大きく息を吸い込むとラディウスに呼びかけた。
「ラディウス!」
『あ?』
「私ね、ラディウスと冒険できて楽しかった!」
『なんだよ。今さら命乞いか?』
ラディウスの問いをスルーして話し続ける。
答えてしまったら負けそうな気がするからだ。
「知らないことがたくさんあったし、おいしい物もたくさん食べた。
怖い思いもしたけど、いい勉強になったよ!」
『あっそう。そりゃよかったな』
「それでね――」
『何が言いたいんだ、お前』
遮られるように尋ねられて思わず固まってしまう。ラディウスからしたら不思議だろう。
だって私はラディウスの気を紛らわせようとしているだけなのだから。
「えっと、攻撃するのやめてくれないかなーって、あっ⁉」
うっかり本音が出てしまった。ラディウスは呆れたように目を細めたが、
次の瞬間、凄まじい鳴き声を上げる。あまりの大きさに思わず耳を塞いだ。
声がこだまし、遠くの木々から鳥が次々と飛び去っていく。
ラディウスはまた1歩踏み出して私に近づいた。
『ナメやがって!俺は本体に戻れればあとはどうでもよかったんだよ!』
「じゃあどうしてリル村で助けてくれたの?」
ヴァイスア大陸にはいたので時間はかかるが自力で帰れたはずだ。
それなのに、わざわざ洞窟まで助けに来てくれたのだ。
『そりゃあ自分で歩くよりお前に連れてってもらった方がラクだからだ!』
「じゃあ山に入ってからお願い口調になったのはどうして?」
『お願い口調……?』
ラディウスか眉をひそめる。
そう、山に入ると命令口調ではなくお願い口調になっていた。
嘘をついて、騙していて申し訳ないという気持ちがあったのではないか。
「うん。「しろ」じゃなくて「もらえるか」とか「してくれ」とか」
『それは……だな……』
今までの勢いはどこに行ったのか、ラディウスの目が泳ぎ始め声も小さくなっていって最後には黙り込んでしまった。
そんな様子を見ていると『ドラコニアメモリーズ』の一節が頭に思い浮かぶ。
――見た目こそ凶暴でしたが人を襲わない優しい性格の持ち主でした――
途端に体の震えが止まって焚き火に当たったようにジンワリと温かくなってきた。
「お話と一緒!やっぱりラディウスは優しいんだね!」
『なワケあるか!俺の話聞いてたか⁉』
「じゃあ私を消し飛ばしてみてよ」
『ち、ちょっと、シーラちゃん……』
すかさずテネルが口を挟んでくる。さすがに危ないと思ったみたいだ。
ラディウスは大きく口を開けると光を集めて弾を作り、私に狙いを定めた。
弾は私がすっぽり収まってしまうぐらい大きく口から放してしまえば終わるのに、どういうわけか消し去ってしまう。
少しの沈黙の後ラディウスは呟いた。
『……………………出来ん』
「ありがとうっ!ラディウス!」
『お前の為じゃねぇよ。ドラゴンにはたった1つだけ掟があるんだ。
「恩を仇で返すな」ってな。
お前が勘当されなきゃ俺はここに帰って来ることできなかった。
だから消すことはできねぇ』
『最初からそう言えばよかったじゃないですかー。
見ててヒヤヒヤしましたよ』
テネルが肩でピョンピョン跳ねる。
めちゃくちゃ心配させてしまったみたいだ。
『俺にもプライドがあるんだよ!それにとっとと帰るかと思ってたからな、
残るなんて予想外だったんだ!』
「なにそれ……心臓に悪いよ……」
テネルの言う通りだ。言ってくれれば怖い思いもしなくてよかったし、震えながら変な言い訳も言わずに済んだのに。
体から力が抜けてその場にヘナヘナと座り込んだ。
2
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」
学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。
家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。
しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。
これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。
「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」
王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。
どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。
こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。
一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。
なろう・カクヨムにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる