幽縁ノ季楼守

儚方ノ堂

文字の大きさ
上 下
10 / 25
第一章 御伽の土地

薄桃色の青年と警報(2)

しおりを挟む
 
 ――そして今に至る。
「はっ、余裕そうだな。この状況、理解出来てるか?」
「……っ、あいにく。死……への感覚が、鈍い……んだ」
 浅い呼吸を繰り返しながら、次節取り込んだ僅かな空気を元に、なんとか言葉を繋ぐ。
「なんだと?」
 すると彼は訝しげな表情を作り、声のトーンを下げて吐き捨てるように呟いた。
 明らかに機嫌を悪くしたようで、殺意を剥き出しにしながら、さらに両手の力を強める。

 ――前言撤回だ。寝顔で人を判断してはいけない。
 儚さ? とんでもない。
 口悪馬鹿力男にそのような感想を抱いた自分の感性を疑う。
 いや、これは流石に……マズイ。締まる、締まってる……!!
 
 一筋の冷や汗が頬を流れると同時に、
『ピ――、ピンポンパンポ――――ん』
 それは先ほどの鐘の音とは比較にならないほどの存在感が放っていた。
 あまりに場違いな、ゆるい声が大音量で響き渡る。
 そう、警報音ではなく人力。人の声である。
『……聞こえてるかな? えー、えぇー。こちら緊急警報、緊急警報だよ』
 
 ――ん? この声……もとい緊張感の欠ける話し方。
 何処かで聞いたことがあるような……。
 
「……ッチ、逃げようなんて思うなよ。手は離してやる、疲れるから」
 そんなことを薄れゆく意識の淵で考えていると、突然首への圧力から解放された。
 急激に確保された気道から、一気に空気が入り、当然むせ込む。
「ゲホゲホっ……、そもそも逃げないし、逃す気、微塵もないだろ! 降りてくれっ」
「阿呆なのかお前。そこまで信用してないわ黙ってろ。口内に苔、生やすぞ」
 
 ……は、何だって、苔?
 すごい剣幕で、地味に嫌な脅迫をされてしまった。
 とは言え、拘束を目的とした馬乗りから一度解放され、今度はただの椅子として扱われる。
 口は悪いが、頼めば多少配慮してくる辺り、存外悪い奴ではないのかもしれない。

 それに俺としても、この男が真剣な表情で耳を傾けている、島内放送とやらの内容が気になる。
 

『――お待たせ。心の準備は出来てるかい? これが今把握してる最新情報と思ってね。……現在、土地のあらゆる境目に綻びが発生。それにより此岸しがんからの侵入者を確認。該当は喰い姫くいひめ華宿人かしゅくじん2体。各位は喰い姫に備え警戒体制。華宿人は市街地に侵入する可能性が高いから、各自自衛しながら、リンシュウの到着を待ってくれ。また避難を望む者はかさザクラへ。それと第一茶室にはトキノコがすでに向かったよ。シュンセイ、踏ん張って。それでは健闘を祈ってるよ、じゃあね!』
しおりを挟む

処理中です...