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序章
白い箱 前編
しおりを挟む箱、箱、箱……
箱。これを指定された場所に埋めるのが、わたしの仕事。
箱。最初こそ戸惑ったけど、もう慣れたものだ。
箱。埋めさえすれば、衣食住には困らないし、気の許せる仕事仲間もいる。
箱。おかげで充実した日々を過ごせている。
箱。やり甲斐すら感じてきたし、天職なのかもしれない。
箱……残り4つ。
軽い物から運んでいたから、残すは重い物ばかり。
さて、どれから埋めようか?
よし、今日はこれにしよう。
なら、明日はこれにしよう。
では、最後はこれにしよう。
そして最後に残したのは、特別な箱。
ちょうど胸に収まるくらいの寸法で、これだけ唯一、リボンが施されていた。
これを埋めれば、ようやく終わる。いや……
――オワッテシマウ。
いざ持ち上げるとソレは、見た目に反してずっしりとした重さがあった。
ゴロッ……
ソレは箱の中で転がりまるで安定しない。
ゴロン……、ゴトッ…………
まさか生き物でも入っているのでは?
そう疑いを持ってしまうと、急に生々しい体温を感じた。
ゾッと悪寒に身がすくみ、思わず手を離してしまった。
「ぐしゃり」
耳を塞ぎたくなるような、水音混じりの嫌な音が、周囲に響き渡る。
地面に容赦なく叩きつけられたせいで、箱は歪んでしまっていた。
よく確認すると、その弾みで生じた隙間から、中を覗くことが出来るようだ。
他とは違う、異様な存在感を放つ、この箱の中身。
――気にならない筈はなかった。
わたしは一体何を埋めようとしていたのか。
果たして、今まで何を埋めていたのか。
何故……なんの疑問も抱かず、「箱」なんて埋めていたのか?
薄汚れたリボンを解き、凹んだ隙間に指を入り込ませ、箱をこじ開ける。
先ほどの、ぐしゃりとした音の正体を、一刻も早く確かめたかった。
――結論から言えば、中身に傷なんて一つもなかった。
箱から出てきたのは、一見何の変哲もない人形の、ある一部だった。
それも……等身大の人間と同じ大きさで出来ている。
もちろん血の気はない。
当然だ。作り物に決まっている。
だから先程の体温も錯覚だろう。
そう、分かっているのに……震えが止まらない。
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