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ChapterⅢ 冥界

第4話

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 王宮の門の前は、この間とは様子が変わっていた。
 何やら騒然としている。

 お構いなしに、クイーンは風を操って大門を開くと、片っ端から門番や衛兵を吹き飛ばして塀に寄せて行く。

「ほら、行くんでしょ」
 ギアはただ笑って付いて行くだけだ。
 念のため、武器は持たせておいた。
 さぞ、似合ってることだろう。

 俺は先に王宮に忍び込み、真っすぐ、玉座の間に向かっていた。
 王はいつもそこにいるとゼフィアは言っていたから。

 二つある扉のやや小さめの方を選び、音もなく滑り込む。
 入った先はちょうど玉座の後ろ側で、室内が一望できた。

 玉座の周囲を生気のない人間たちが忙しなく行き来している。
 坐する姿は、俺の父王よりもひと回り以上は大きい。
 身体の動きからすると、どうやら食事中のようだ。

 玉座で食事とは変わった趣向だと思ったが、おそらくメニューは例の物か。
 激しい嫌悪感。
 侮蔑の目で標的ターゲットを見据えた。
 だが、状況としては好都合。

 ふいに、外の廊下が騒がしくなった。
 外の侵入者を知らせる伝令だろう。

 素早く王座の背後に回る。 
 そして、指輪を剣に変えながら一気に横に振り払った。
 気づく間も与えなかっただろう。
 おそらく痛みも。



 足早に王宮内を駆ける。
 ゼフィアの姿を探すが見当たらない。

 もう依頼人ではないとはいえ、報告だけはしておきたかった。
 いずれ彼女も目の当たりにするだろうけど。

 すれ違う兵士たちに気づかれないよう、彼女の部屋まで来た。
 ピタリと堅く閉ざされた扉は、あの日の拒絶を思わせる。

 軽くノックすると、数センチだけ扉が開いた。
 その隙間から女性の警戒するような視線が向けられる。
 ゼフィアの侍女だ。

「あ、あなたは……」
 ゼフィアから何か聞いているのか、侍女は驚いた瞳でレストを見る。
 ほとんど知っているのだとしたら、さぞ意外に思うだろう。
 彼がここにいることに。

 ふいに、廊下の角の方から話し声が聞こえてくる。
 侍女は彼を部屋に招き入れた。

 部屋の中はアイボリーで統一されている。
 シンプルな調度品にはどれも落ち着いた品があり、彼女らしい。
 だが、肝心の部屋の主は見えなかった。

「ゼフィア様は……ゼフィア様は……」
 何かを伝えたいようだが、侍女は怯え狼狽うろたえるばかりで二の句を継げない。

 泣き崩れる彼女を何とかなだめて聞き出す。
「ゼフィアはどうしたんだ、教えてくれ」

 苦しげな浅い呼吸の合間に、侍女は言った。
「ゼフィア様は……、王の暗殺をご自分で……ですが、力を奪われ……ここを追われました……」

 なぜ、そんなことに。
 なぜ……彼女は。

 探さなければ。
 出ようとする彼を侍女が引き止める。

「ゼフィア様は……あなた様を想っておいでです。
 もし、救いたいのであれば……必要なものがあります……」

「必要な物とは?」

 彼女は言い淀む。顔は蒼白だが、呼吸困難のせいではなさそうだ。

「頼む、言ってくれ。それは何なんだ」
 レストはもどかしくも祈るような気持ちで次の言葉を待った。



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