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ChapterⅡ 新たな闘い

第3話

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 ホテルってやつは、俺の『宿』の概念を覆した。
 どっちかというと、城に近い。
 いや、別に比較するものじゃない。
 問題は趣向に合うかだ。
 レストは自分をむりやり納得させて、ギアについて行った。

 部屋のドアはやたらと大きい。
 これなら大男こいつつかえることはないサイズだな、とレストが考えていると、ギアは慣れた手つきで四角い箱を手に取った。

「今、ルームサービス頼むな」
 どうやら朝食を運んでもらうらしい。

「おれも未だに慣れないんだ、こういうの」
 物珍しげに周囲を気にしているレストにそう言って、ピンクのソファを促す。

「ほとんどこの色だよ。客のことも考えろって言ってるんだけど、スポンサーだしな」
 笑い声が反響して窓を震わせている。

 この部屋は死角も侵入口も多い。どう考えても暗殺者おれには向かない部屋だ。

「メイカーだって、危険はあるんだろ?」
 それとなく、さっきの出来事をほのめかす。

「あぁ。あの黒服集団か。魂を狙ってたみたいだ。いきなり襲ってきて……でも、『D』のことを知ってるみたいだった」
「こっちは全然知らないけどな」

 運ばれてきた朝食は、上等な皿に載せられているだけで、いつもの宿屋のものとそう変わらなかった。

 パンを大口でかじりながらギアが言う。
「ものは相談なんだが……おれの仲間になってくれないか?」
 意外な提案に、レストは思わずフォークを持つ手を止めた。

「おれは戦いに向いてない。だからメイカーになったんだ」
 ギアは真剣な顔つきだ。

「こんなナリだから、誤解されることも多いが……あ、力には自信あるけどな。つまり、ボディガードになってほしいんだ。いや、仕事の邪魔はしない、さっきみたいに」

 さっき……のことを思い出したのか、ギアは笑う。

「いいよ」
「イヤならいいんだ。でも、『D』の名前は強みだし……えっ?」
「邪魔しないんだろ?」

「あ、あぁ。もちろん!」
 凶器にもなり得そうな逞しい腕が左右から伸びてきた。
 とっさに避ける。
 危ない危ない。
 ギアはハグ魔か……。

 即答は間違いだったか、と半分本気で考える。
 それに、俺は誰かと行動を共にしたことがない。

「大丈夫!絶対うまくいくって!」
 不安を拭うように、ギアの声が響く。
 俺も信じたい。
 絶対なものなどないけど。

「それに、一緒にいた方が魂の受け渡しもラクだしな!」
 ギアは、そう付け加えて豪快に笑った。
 確かにそうだ。
 レストも負けじと大声で笑ってみた。
 いや、ホントによく響く。
 それは、きっと、ホテル内に苦情の嵐を起こしたに違いない。



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