婚約者の王子が危険すぎるから、奪おうと目論んでいた妹に譲ります

77話 フルディ視点

　魔獣人と化したフルディは地下の戦闘訓練場に連行され、目の前には虚ろな目をしたミラーナが居る。

　そしてアイレスはフルディの肩を叩き……首輪に向かって命令を出していた。

「フルディ、その女をミレイユだと認識して殺害しろ……そうすれば、お前のミレイユに対する敵意が更に強まることとなるだろう」

「俺が、ミラーナを……」

　アイレスの命令は絶対――魔道具の力によって、目の前に居るミラーナをミレイユだと考えてしまう。

　最初の目的は攫うはずだったのに、いつの間にか殺害に変わっていることも、今のフルディは気付けない。

　アイレスが近くで命令を出したことにより、拒絶できないフルディがミラーナに右腕を伸ばそうとした瞬間。

「フルディ様……どうして私が、こんな目に合わなければならないの……」

　自我を取り戻したミラーナが、フルディを睨みながら呟き、身体が崩れて消失していく。

　そこにあったのは敵意で――フルディはアイレスの発言を思い返していた。

　身体を維持する魔力がなければ消失する……アイレスが急かしていた理由は理解して、ミラーナの姿はどこにもない。

　ミラーナの死を受けて……正気を取り戻したフルディは、アイレスを睨み。

「あっ……ああああああっっ！！」

「フルディ！？　止ま――」

　アイレスがを止まるよう命じる前に、フルディの右腕がアイレスの肩を貫く。

　身体を抉られながら、アイレスは苦痛に悶えた表情を浮かべて。

「がっ……ああああああっっ！？」

「アイレス様！？」

「首輪の制御を最大にしろ！　ぐぅっ……すぐに外へ出し、ミレイユの元へ行け！！」

　即死は免れるも重傷で、回復用の魔道具を使っても治りが遅い。

　――ミラーナは最期、フルディに対して敵意を向けていた。

　ドルーダが与えた異性に嫌われる呪いは、溺愛している者には通じないのだろうと、アイレスから聞いている。

　ミラーナがフルディを愛さなくなったショック。

　今まで一緒に居たミラーナが消滅したショック。

　それによってアイレスの洗脳を解き――殺意のままに動くも、貫いたことで冷静になってしまう。

　冷静になったことで首輪の力が効くようになり、フルディが動けなくなる中……腕から抜け出し血を吹き出しているアイレスは、楽しげに笑って。

「はははははっ！　フルディはこの俺よりも遥かに強い！　これならトールズ魔道具店も終わりだ！！」

　一撃で仕留めることができず、フルディは再びアイレスの洗脳を受けることとなる。

　そして――唯一慕ってくれた異性を失った魔獣人フルディは、ミラーナの元へと向かっていた。