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54話

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 私はラッセルの笑顔を見て、内心かなり嬉しくなっている。

 そしてラッセルは、私をじっと眺めてから。

「トールズ魔道具店の日常が好きか……ミレイユ、ありがとう」

「えっ?」

「正直、話を聞いて……ミレイユは帰るのではないかと、不安になってしまった」

 私がマルーア家に戻れるかどうかと聞いて、ラッセルの中で貴族の生活とトールズ魔道具店の生活と比べたのかもしれない。

 そう推測していると、ラッセルが私をじっと眺めて。

「俺もミレイユと一緒に魔道具店を経営していきたい。これからも協力してくれ」

「……むしろ私の方こそ、ここに居てもいいの?」

 今回の件で、ラッセルには迷惑をかけてしまった。

 お礼を言われているけど、これからも何かが起こるかもしれない。

 そう考えてしまうけど、ラッセルは即答してくれる。

「当然だ。むしろ信じられるのはミレイユだけだから、居なくなると困ってしまうな」

「そ、そう……わかったわ!」

 つい返事の声が大きくなってしまうけど、私は心に靄ができてしまう。

 ラッセルは「一緒に居たい」とは言わず、魔道具店の経営と言っていた。

 それはきっと……私がフルディにされた仕打ちから、もう異性を信じていないと思われているのかもしれない。

 そう考えてしまうのは、ラッセルの気遣いが嬉しくて、実際そう思っているからでしょう。

 こうしてラッセルと一緒に居るのは楽しいけど、どうしても元婚約者フルディのことを思い出してしまう。

 あの女性を利用することしか考えていない最低の婚約者の記憶が、まるで呪いのよう。

 利用されてきた年月の長さのせいか……私は吹っ切ることができず、ラッセルを異性として見れない。

 ラッセルとずっと一緒に居たいとは思っているけど、それはあくまで店の店長と店員での関係。

 それ以上になろうとは思えないけど、現状維持でも構わないと思っている。

 私はそう思っているけど――ラッセルがどう思っているのかは、気になっていた。
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