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4話

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 魔法学園の2年生になって、フルディ殿下は新しく入学した1年生の女生徒に声をかけるようになっていた。

 声をかけられて魅了されていた1年生の女生徒には、私が婚約者だと説明することで、フルディ殿下と関わらせなくして……下級生にも噂が広まる。

 クラスは成績順のようだから、最上位の私と、そこそこ優秀なフルディ殿下1番優秀なクラスだった。

 去年もそうだったけど、同じクラスなら監視しやすくていい。
 気にしすぎることもあって私は「嫉妬深く醜悪な令嬢」と、噂が更に酷くなってしまうけど、破滅するよりマシだ。

 この時点で……私は限界だったのかもしれない。

 魔法学園に通って――フルディ殿下が多くの女生徒と関わるようになると、お父様とお母様は焦るようになっていた。

「ミレイユ。なぜフルディ殿下の頼みを聞かない!?」

「本当よ。いくら成績が優秀でも、フルディ殿下に好かれる淑女にならなければ、貴方捨てられるわよ!」

 捨てられるのなら、その方がいい……とは言えない。

 今までは我慢していたけど、私の苦労を一切知ろうともしない発言に、堪えていた感情を抑えきれずになってしまい。

「……お父様とお母様は、フルディ殿下の頼んでくる内容を知っていますか? ドルーダ殿下に関することばかり、何かあるとは考えないのですか?」

 具体的に何も言えないのは、フルディ殿下が隠しているからだ。

 立場的に上だからこそ秘匿させて、もしバラしたら罰を与えると脅してくるし、フルディ殿下によって盲目的になっている女生徒達は、そもそも約束を破ることはない。

 多くの女生徒をはべらせているフルディ殿下が問題視されないのは、第二王子という立場と、私の評判が悪いせい。

 そうなるようにフルディ殿下が誘導している節もあって……私はそこまで理解できているも、何もできなかった。

 私の意見はどうでもいいのか、お父様とお母様は何も考えようとしていない。

 フルディ殿下の頼みを聞かない私が理解できないのは、フルディ殿下に心酔している妹のせいだ。

「お父様とお母様……あまりお姉様を責めないで。お姉様がフルディ殿下に相応しくないだけです」

 そう言ってフルディ殿下を想い、切なげな表情をしている妹のミラーナを見て、お父様とお母様が嬉しそうにしている。

 ここ最近……私の屋敷に来た時、フルディ殿下は私よりもミラーナを優先していることは知っている。

 妹のミラーナに忠告するも、私の発言は「愛に対する傷害」程度にしか思わないようで、完全にフルディ殿下の虜となっていた。

「ミラーナ、貴方はフルディ殿下が女生徒をはべらせていることを知らないから、そこまで好きでいられるのよ」

「それはお姉様に魅力がないだけです。王子が妾をとるのは普通のこと、受け入れて自分が一番愛されていると思うことができない辺り、お姉様はフルディ殿下に相応しくありませんね」

 婚約者の姉は相応しくないけど、自分はフルディ殿下の婚約者に相応しいと言わんばかりの様子で、ミラーナは私に勝ち誇っている。

 両親を味方にして、妹のミラーナは明らかに私からフルディ殿下を奪おうと目論んでいるけど……喜んで譲るわよ。

 今すぐに譲りたいけど――まだ早い。

 ミラーナが入学して、周囲がミレイユより妹のミラーナの方がお似合いだと認識するまで、我慢しよう。

 国を捨てて、1人で生きるための準備として、私は魔法と魔力を鍛えているけど……本当にそれだけでいいのか、私は悩むようになっていた。

 × × ×

 2年生になって2ケ月経った時、私は1人の男子生徒に校舎裏に呼び出されていた。

 黒髪が外にはねている長身の凛々しい美少年……私の評判は悪いから、何を言われてもおかしくはない。

 この男子生徒はクラスメイトでグーテノン侯爵家の三男、ラッセル・グーテノンだ。

 自衛のためとはいえ、私が女生徒を脅していることを、それとなく注意してくるのかもしれない。 

 そんなことを考えていると――ラッセルは、私に深く頭を下げて。

「俺の妹が、フルディ殿下と付き合っているとか言っていました……どうか許してください……」

 ラッセルと目が合った時、私とどこか似ていると思ったのは……ストレスで目が疲れていたからか。

 どうやらラッセルの妹は1年生のようで、フルディ殿下に声をかけられているみたいね。

「ラッセル様は悪くありません……気にしない方がいいですよ」

 どうやらクラスメイトのラッセルも、フルディ殿下の被害者らしい。
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