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2話

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 妹のミラーナに譲ろうと決意して――私は、フルディ殿下と婚約者になった頃を思い返す。

 フルディ殿下は私の魔法を見て、両親に頼んで婚約者に決めたらしい。

 最初は優しかったけど、それが魔道具を使って自分の兄ドルーダ殿下を失墜させるためだと知る。

 婚約者と決まって数週間後のフルディ殿下の提案を……私は忘れることができない。

「ミレイユ……兄上が居ない今、この箱を兄上の部屋に置いてきてくれないか? ミレイユは俺の婚約者だから、城で行動していても不自然ではない」

 私はドルーダ殿下の部屋に入れる鍵と、謎の箱をフルディ殿下から受け取って。

「その箱の中身は……なんですか?」

 私は箱の中身がなんなのか、尋ねながらも察することができていた。

 爆弾の魔道具――感じ取れる火や風の魔力から間違いないと断言できるけど、どうしてこれを自分の兄の部屋に置くのか、当時の私には解らない。

 何か理由があるのではないかと、私はフルディ殿下に尋ねると。

「そうだな……兄上には数日前に助けられたから、そのお礼だ。箱は絶対に開けないようにしてくれ」

 明らかに今思いついたと言わんばかりの反応だけど、私は箱の中身を知らないフリをして話を聞いている。

 もしバレたとしても、私を犯人とすればいいだけ。

 これはフルディ殿下にとって安全な暗殺命令……婚約したばかりだから、私が何を言っても城の人は聞く耳を持ってくれないでしょう。

 サプライズだからと、今は見張りも居ないからと、フルディ殿下が頼み込んでくる。

「兄上と俺が仲良くなるために力を貸してくれ……成功したら、俺はミレイユのことをもっと好きになれそうだ」

 そう言って柔らかな微笑みを浮かべて――私はようやく、フルディ殿下を危険な存在だと認識することができていた。

 ――自分の兄を殺すために、婚約者の私を利用する。

 今まで私に愛を囁いていたのも、ただ洗脳するだけの行動にしか見えなくなって……この時、私は部屋の鍵を魔力で変形させることによって、入れなかったと回避することに成功していた。

 それからもフルディ殿下は似たようなことを何度か私を利用して行うも、私は何度も偶然を装うことで失敗する。

 痺れを切らしたフルディ殿下は……私に信じられないことを言い出していた。

「ミレイユ……兄上と付き合ってみないか?」

「えっ?」

 いきなりドルーダ殿下と恋人になるよう言い出したフルディ殿下に、私は恐怖を覚えるしかない。

 唖然としていると、フルディ殿下は真剣な表情で語り始める。

「どうも兄上と会話をしていると、ミレイユを愛してしまうかもしれないと言われてな……俺としては辛いが、兄上を敵に回したくない。どうだろうか?」

 いや、どうだろうかって……どう考えても、私を迫らせてドルーダ殿下を失墜させたいだけだ。

 最近は作戦も雑で、私が対処して直接忠告したこともあるけど……どうやら、それが原因らしい。

 協力してくれない私を排除して、兄のドルーダ殿下も消す。

 このままだと破滅の末路しかなくて……私は抗う。

「お断りします。私はフルディ殿下の婚約者ですから」

 私の返答を聞いて、フルディ殿下は一瞬だけ不快そうな表情を浮かべたかと思えば。

「……そうか。それでも兄上を気にかけていて欲しい。ミレイユが好きなのは間違いないのだから」

 どう考えても間違いで、フルディ殿下はとにかく私を利用してドルーダ殿下を失墜させたいようだ。

 私が婚約を破棄することができないから、こうなるとフルディ殿下を改心させる以外にない。

 あの時はそんなことを決意していたけど――魔法学園に入学してから、フルディ殿下の行動は更に酷くなっていた。
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