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4話
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騎士試験に4回も落ち続けた元婚約者ナドクの命令で、私も試験を合格するための鍛錬をさせられた。
その成果によって無事に騎士試験を合格できたけど、ナドクは現状を認めたくないようだ。
正面で騒ぎ出したナドクを眺めて苛立っているのか険しい表情を見せる騎士長ラギドとは違い、ヨシュアは冷静に説明する。
「お前は何も理解できていないようだな。ルミナはラギドのように岩を切り落とした。だから合格だ」
いや、これはヨシュアも怒っているわね。
挨拶時の陽気そうな雰囲気と違う発言に対して、それでもナドクは退かない。
「それはルミナの順番が最後だったからです! 受験者達が岩を攻撃したことで脆くなり、そこをルミナが運よく両断しただけのこと!」
「ほう。そこまで言うのなら、この直した岩を切ってみろ」
ヨシュアは何かを思いついたように笑顔を浮かべ、岩に手を当てて指示を出す。
魔力を籠めたことで元に戻っているから、両断した後がなく硬そうな大岩だ。
その大岩を両断なんてナドクには不可能で、怪訝としながら。
「……何故ですか?」
「とにかく全力で切ってみろ。岩を両断できればお前も合格だ」
「合格……岩は直ったのですから、無理に決まっています!」
断言したナドクを眺め、ヨシュアは楽しそうに私を手招きする。
「それならルミナ。ナドクを黙らせるため、もう一度この岩を両断して欲しい」
「わかりました」
そう言って完全に直っている大岩に向かって私は剣を振るい、再び綺麗に両断する。
完全に直った岩を再び切り落としたのだから、ナドクは同じ理由で文句は言えないでしょう。
「こ、これはヨシュア様が表面だけ直し、両断しやすくしただけです!」
「驚いたな。まだ認めないのか……切れという指示に対し、無理に決まっていると言ったのはお前自身だろう」
「もう一度やっても構いませんよ。今度はナドク様が岩を切り落とせばいいだけです」
見苦しいナドクはもはやどうでもいいけど、他の試験を受けている人達の邪魔になるからさっさと終わらせたい。
「くっ……」
「無駄な時間だったな。さて、次の試験は場所を移動する」
私の提案に対して何も言い返せないのかナドクは黙り込み、試験は魔法の測定に移る。
魔力を測定するため広場から、城内の外れにある横長な建物の中へと移動した。
建物の中は騎士の訓練場なのか的や壁があり、ここで得意な魔法を扱う試験となる。
魔法の威力が見て欲しいなら壁に攻撃して、正確さを見るためなら小さい的に当てればいい。
それ以外にも騎士として使える魔法があるのなら説明の後に披露して構わないようで、さっきと同じ順番で受験者達が魔法を披露していく。
その中でもナドクの魔法は明らかに他の受験者と比べて劣っていたけど、心が不安定になっているからね。
私が合格したことは相当ショックだったみたいで、合格したけど私も魔法を扱う必要があった。
あまり目立つ必要もないので炎の球を出して的に当てると驚かれたけど、飛ぶ火球が速かったからかな。
魔力の試験が終わると隣の建物へ移動することとなり、私の隣にヨシュアがやって来る。
「お疲れ様。次の試験は騎士長との模擬戦で俺かラギドのどちらと戦うか選べるけど、君は見学でいい」
「……そうですか」
私としては騎士長と模擬戦をしたかったけど、ダメなのだろうか?
「加減できなくなると怪我をさせる可能性があるからな。回復魔法を使える人は備えているが、事故は避けたい」
「なるほど。わかりました」
じっと眺めたことで戦ってみたいオーラでも感じ取ったのか、ヨシュアが理由を教えてくれた。
納得した私は頷くと、まだ気になることがあるらしい。
「もしナドクが「ルミナと決闘したい」とか言い出したら許可を出す。遠慮なく元婚約者を叩き潰しせばいい」
どうやらヨシュアは、ナドクがこれから起こす行動を推測したようだ。
四大公爵の許可が出たけど、ナドクはそこまですると思われているのか。
それより私とナドクの関係を知っていることに驚いてしまうと、ヨシュアは微笑み。
「騎士候補者が婚約破棄したのなら調べるさ。まさか試験を受けるとは思わなかった」
「それなら……私が騎士試験を受けた理由も、知られているということですね」
他の人と比べて、私は騎士になりたいのではなく騎士試験を合格したいだけ。
その後は騎士として活躍することで、ナドクの心を更に折るつもりでいる。
他にも家族が喜ぶとか一応の理由はあるけれど、そんな理由で騎士になっていいのだろうか?
「さっきラギドが言ってたけど、名誉目当ての受験者ばかりだから構わないよ」
「えっ?」
「むしろ騎士になったらルミナは活躍するつもりでいるだろう? そうでないと、岩を両断して実力を示さない」
心を見透かしたように、いいえ反応から見透かしてヨシュアが優しく話してくれる。
「最初は合格したいだけでいい。そこからどうするのか導くのは俺達の役目、やる気がある子は大歓迎だ」
「は、はいっ! 頑張ります!」
イケメンの笑顔でやる気を貰い、私は両手を握りしめる。
騎士になったら何をするのかすらわかっていないけど、それも含めてヨシュアは把握していそう。
この人が騎士長の団員なら安心できて、私は実技試験の決闘場に向かっていた。
◇◆◇
私達は、最後の試験である実技試験をする建物の中に到着する。
そこにはコロシアムのような円形のリングがあり、この上で騎士長のどちらかと戦うようだ。
受験者達が複数の列になって並ぶと、ラギドが試験内容を説明する。
「実技試験の順番は先ほどと同じです。これから私かヨシュアのどちらかを選び、決闘することで力を把握します。何か質問はありますか?」
「合格者であるルミナと決闘させてください!」
やる気に満ちたナドクの声が、決闘場に響く。
まさか本当にヨシュアの言った通り、ナドクが私に決闘を申し込むとはね。
ナドクの質問というか提案に対して、ラギドは呆れているようだ。
「まったく……ナドクはどうして、騎士長の私達が決闘相手なのか理解していないようですね」
「どういう意味ですか?」
「加減することで怪我なく受験者の実力を見るためです。ルミナと決闘したいのなら、死んでも構わない誓約書にサインして貰います」
「なるほど。それなら俺はサインして構わない!」
「そこまでルミナの合格を認めたくありませんか……ルミナはどうですか?」
「私も構いません」
事前にヨシュアから聞いていたから、冷静に返答できる。
癖なのか自身を落ち着かせる時は眼鏡に触れているラギドは、ため息を吐きながら周囲を眺めた。
「他にルミナと決闘したい人は――いないようですね。それでは最終試験をはじめます」
試験の際に命の保証をしないという誓約書にサインすることを、他の受験者達はしたくないようだ。
そして実技試験がはじまったけど、誓約書を用意するからナドクと私の決闘は最後になるらしい。
これで私は決闘でナドクを殺害しても問題なくなったけど、そこまでする気はない。
受け取った誓約書に名前を記入すると、同じように記入したナドクが叫ぶ。
「俺がお前に負けるわけがない! この場で葬ってやろう!!」
心を折ろうとしている私とは違い、ナドクは全力で私を亡き者にしたいようだ。
その成果によって無事に騎士試験を合格できたけど、ナドクは現状を認めたくないようだ。
正面で騒ぎ出したナドクを眺めて苛立っているのか険しい表情を見せる騎士長ラギドとは違い、ヨシュアは冷静に説明する。
「お前は何も理解できていないようだな。ルミナはラギドのように岩を切り落とした。だから合格だ」
いや、これはヨシュアも怒っているわね。
挨拶時の陽気そうな雰囲気と違う発言に対して、それでもナドクは退かない。
「それはルミナの順番が最後だったからです! 受験者達が岩を攻撃したことで脆くなり、そこをルミナが運よく両断しただけのこと!」
「ほう。そこまで言うのなら、この直した岩を切ってみろ」
ヨシュアは何かを思いついたように笑顔を浮かべ、岩に手を当てて指示を出す。
魔力を籠めたことで元に戻っているから、両断した後がなく硬そうな大岩だ。
その大岩を両断なんてナドクには不可能で、怪訝としながら。
「……何故ですか?」
「とにかく全力で切ってみろ。岩を両断できればお前も合格だ」
「合格……岩は直ったのですから、無理に決まっています!」
断言したナドクを眺め、ヨシュアは楽しそうに私を手招きする。
「それならルミナ。ナドクを黙らせるため、もう一度この岩を両断して欲しい」
「わかりました」
そう言って完全に直っている大岩に向かって私は剣を振るい、再び綺麗に両断する。
完全に直った岩を再び切り落としたのだから、ナドクは同じ理由で文句は言えないでしょう。
「こ、これはヨシュア様が表面だけ直し、両断しやすくしただけです!」
「驚いたな。まだ認めないのか……切れという指示に対し、無理に決まっていると言ったのはお前自身だろう」
「もう一度やっても構いませんよ。今度はナドク様が岩を切り落とせばいいだけです」
見苦しいナドクはもはやどうでもいいけど、他の試験を受けている人達の邪魔になるからさっさと終わらせたい。
「くっ……」
「無駄な時間だったな。さて、次の試験は場所を移動する」
私の提案に対して何も言い返せないのかナドクは黙り込み、試験は魔法の測定に移る。
魔力を測定するため広場から、城内の外れにある横長な建物の中へと移動した。
建物の中は騎士の訓練場なのか的や壁があり、ここで得意な魔法を扱う試験となる。
魔法の威力が見て欲しいなら壁に攻撃して、正確さを見るためなら小さい的に当てればいい。
それ以外にも騎士として使える魔法があるのなら説明の後に披露して構わないようで、さっきと同じ順番で受験者達が魔法を披露していく。
その中でもナドクの魔法は明らかに他の受験者と比べて劣っていたけど、心が不安定になっているからね。
私が合格したことは相当ショックだったみたいで、合格したけど私も魔法を扱う必要があった。
あまり目立つ必要もないので炎の球を出して的に当てると驚かれたけど、飛ぶ火球が速かったからかな。
魔力の試験が終わると隣の建物へ移動することとなり、私の隣にヨシュアがやって来る。
「お疲れ様。次の試験は騎士長との模擬戦で俺かラギドのどちらと戦うか選べるけど、君は見学でいい」
「……そうですか」
私としては騎士長と模擬戦をしたかったけど、ダメなのだろうか?
「加減できなくなると怪我をさせる可能性があるからな。回復魔法を使える人は備えているが、事故は避けたい」
「なるほど。わかりました」
じっと眺めたことで戦ってみたいオーラでも感じ取ったのか、ヨシュアが理由を教えてくれた。
納得した私は頷くと、まだ気になることがあるらしい。
「もしナドクが「ルミナと決闘したい」とか言い出したら許可を出す。遠慮なく元婚約者を叩き潰しせばいい」
どうやらヨシュアは、ナドクがこれから起こす行動を推測したようだ。
四大公爵の許可が出たけど、ナドクはそこまですると思われているのか。
それより私とナドクの関係を知っていることに驚いてしまうと、ヨシュアは微笑み。
「騎士候補者が婚約破棄したのなら調べるさ。まさか試験を受けるとは思わなかった」
「それなら……私が騎士試験を受けた理由も、知られているということですね」
他の人と比べて、私は騎士になりたいのではなく騎士試験を合格したいだけ。
その後は騎士として活躍することで、ナドクの心を更に折るつもりでいる。
他にも家族が喜ぶとか一応の理由はあるけれど、そんな理由で騎士になっていいのだろうか?
「さっきラギドが言ってたけど、名誉目当ての受験者ばかりだから構わないよ」
「えっ?」
「むしろ騎士になったらルミナは活躍するつもりでいるだろう? そうでないと、岩を両断して実力を示さない」
心を見透かしたように、いいえ反応から見透かしてヨシュアが優しく話してくれる。
「最初は合格したいだけでいい。そこからどうするのか導くのは俺達の役目、やる気がある子は大歓迎だ」
「は、はいっ! 頑張ります!」
イケメンの笑顔でやる気を貰い、私は両手を握りしめる。
騎士になったら何をするのかすらわかっていないけど、それも含めてヨシュアは把握していそう。
この人が騎士長の団員なら安心できて、私は実技試験の決闘場に向かっていた。
◇◆◇
私達は、最後の試験である実技試験をする建物の中に到着する。
そこにはコロシアムのような円形のリングがあり、この上で騎士長のどちらかと戦うようだ。
受験者達が複数の列になって並ぶと、ラギドが試験内容を説明する。
「実技試験の順番は先ほどと同じです。これから私かヨシュアのどちらかを選び、決闘することで力を把握します。何か質問はありますか?」
「合格者であるルミナと決闘させてください!」
やる気に満ちたナドクの声が、決闘場に響く。
まさか本当にヨシュアの言った通り、ナドクが私に決闘を申し込むとはね。
ナドクの質問というか提案に対して、ラギドは呆れているようだ。
「まったく……ナドクはどうして、騎士長の私達が決闘相手なのか理解していないようですね」
「どういう意味ですか?」
「加減することで怪我なく受験者の実力を見るためです。ルミナと決闘したいのなら、死んでも構わない誓約書にサインして貰います」
「なるほど。それなら俺はサインして構わない!」
「そこまでルミナの合格を認めたくありませんか……ルミナはどうですか?」
「私も構いません」
事前にヨシュアから聞いていたから、冷静に返答できる。
癖なのか自身を落ち着かせる時は眼鏡に触れているラギドは、ため息を吐きながら周囲を眺めた。
「他にルミナと決闘したい人は――いないようですね。それでは最終試験をはじめます」
試験の際に命の保証をしないという誓約書にサインすることを、他の受験者達はしたくないようだ。
そして実技試験がはじまったけど、誓約書を用意するからナドクと私の決闘は最後になるらしい。
これで私は決闘でナドクを殺害しても問題なくなったけど、そこまでする気はない。
受け取った誓約書に名前を記入すると、同じように記入したナドクが叫ぶ。
「俺がお前に負けるわけがない! この場で葬ってやろう!!」
心を折ろうとしている私とは違い、ナドクは全力で私を亡き者にしたいようだ。
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