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6話 カルス視点

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 エバンドが一部の領民に婚約破棄を伝えると告げて、数時間が経っている。

 たった数時間で――ルジャス領は大騒ぎになっていた。

 屋敷に「早急にパトリシア様を戻せ」と抗議する領民も現われ、今日は抑えることができている。

 ここ最近やってきた優れた領民達はパトリシアの凄さに惹かれたから来た者も多いらしく、もし居なければこの領地を離れるとまで言っていた。

 これはまだ婚約破棄をした初日で、規模が小さいから抑えることができただけ。
 明日以降も姿がなければ、どうなるか解らない。

 カルスは戻ってきたエバンドと共に昼食をとるも、朝食の時よりも遥かに気が滅入っていた。

「これから起こる損失に関しては、婚約者のミュリナ様に助けて貰うしかありません」

「そう、だな……もうミュリナとの婚約の誓約書は書いているから、それでしばらくは大丈夫だろう」
 
 侯爵令嬢ミュリナは、子爵令嬢パトリシアが婚約者なのを知りながらも、利益のためにカルスと婚約した。
 
 新たに婚約してでも手に入れたくなるぐらい、ルジャス領は魅力的で……それは昨日までの話だ。

「領民の技術力は上がっているも、それはパトリシアという支柱があったから……それは、昼までの抗議でよくわかった」

「はい……恐ろしいのは、明日以降です」

 まだパトリシアとの婚約破棄をしてから半日も経っていないのに、ここまでの騒ぎとなっている。
 もし今日エバンスに報告しなかった場合、明日どうなっていたか……それを考えると恐怖するしかない。  

「父上と母上が帰ってくるのは夕方になるが……どうにかできないか?」

「無理ですね。まだパトリシア様の協力無しで作業を始めているも、恐らく作業を終えてから更に不満が出るはずです」

 今までは問題なくできていたことが、パトリシアが居ないことによりできなくなる不安。

 エバンドは断言しながら、説明を続ける。
 
「パトリシア様は一目見ただけで異変や改善方法を把握し、即座に行動していました……他の人からは簡単にやっていると思ったはずです」

 それでも――それはパトリシアだからこそできたこと。

 今まではずっとパトリシアが何かしているも、今日からパトリシアは居ない。
 そして作業が上手くいかなくなり……領民達は「パトリシア様はどうした」と更に騒ぎ始める。

 そして婚約破棄を知り――それから何が起こるのか、カルスは最悪の事態を想像していた。

 今までのことが巧くいかなくなり、それは自信の喪失に繋がって……これからルジャス領が衰退していくのは間違いない。

「早急に手を打つ必要がある……どうすれば……」

 カルスは必死に考えるも、どうすればいいのか思いつかないでいると。

「それなら……パトリシア様を連れ戻すしかありません」

 エバンドの言う通りで――カルスはパトリシアを連れ戻すしかないと、決意していた。
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